エピローグ「きぼうのひかり」
夜。カーテンの隙間から差し込む月の光が、静かに部屋を満たしていた。
ノエルはベッドの上で私の隣に腰を下ろし、そっとお腹に手を添えると、まるで宝物に触れるようにそこへ耳を寄せた。
「……いま、動いた気がした」
低く囁く声が、くすぐったいほど優しい。
でもまだノエルに伝えてから、二ヶ月ほどしか経過していない。
私は思わず笑ってしまう。
「まだ早いわよ」
「わかってる。でも……こうして話しかけるの、幸せなんだ」
ノエルはほんの少し照れた顔で微笑む。
「ねえ、起きてる? パパだよ。 ……聞こえる?」
優しい声音なのに、どこか必死で――本気で。
こんなノエルを見るたびに、心がきゅっとなる。
ノエルはお腹に触れている手へと視線を落とし、何かを噛みしめるようにゆっくり言葉を続けた。
「……セレナ。俺、怖かったんだ。きみ失うことも、離れていくことも……全部」
「ノエル……」
「でも、こうして家族が増えるって思うと……あの頃の苦しかった気持ちでさえ、全部意味があったのかなって」
その横顔は切実で、優しくて……何より、私だけを見ている。
そっとノエルの髪に指を滑らせると、彼は驚いたように瞬きして、それから嬉しそうに微笑んだ。
そして私の指を取って、自分の頬へそっと押し当ててくる。
「セレナ。俺、本当にきみが好きで……どうしようもないくらい、大好きなんだよ」
その声音に耐えられず、私は彼の胸へそっと身を預けた。
「……私もよ。ノエルがいなきゃ、もうだめだわ」
ぎゅっと腕が回される。
まるで私を確かめるように、離したくないと言うように。
ノエルは少し身を離し、私のお腹に手を添えた。
「この子のことも、きみのことも……全部俺が守る。絶対、幸せにする」
ゆっくりとお腹にキスを落とし、
次に私の指先へ、
そしてそのまま、唇へ柔らかく触れてくる。
「……ねえ、セレナ。もう少し……くっついていい?」
その言い方があまりに愛おしくて、思わず笑ってしまう。
「もう十分くっついてるわよ」
「ん……でも、もっと。だめ?」
そんなの、だめなはずがない。
私は彼の首へ腕を回し、そっと引き寄せると――
ノエルは嬉しそうに息を吐き、さらに深く抱きしめてきた。
「……セレナ。きみが笑ってくれるなら、俺はどんな未来でも歩いていけるよ」
月明かりの中で、私たちは静かに寄り添い合う。
――ああ。
この人と出会えて、本当によかった。
月の光が、未来への道を照らすように部屋を満たしていた。
それはまるで――これから始まる新しい物語を照らす、希望の光のようだった。
全てを失ったはずのあの日。
それでも手を離さなかったから、いまの私たちがいる。
ノエルがそっと指を絡めてくる。
その温度に、胸の奥がきゅっとなる。
「セレナ。これからもずっと、隣にいて」
「ええ。どんな未来でも、あなたと一緒に」
二人で一歩ずつ進んできた道の、その先に――
もうすぐ、三人で歩く未来が待っている。
私は静かに目を閉じた。
幸せは、こんなにもあたたかい。
番外編もお楽しみに。
ブクマ&評価ありがとうございます。
とても励みになります!




