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おまけの間話 ロルフの過去1

★追放聖女の勝ち上がりライフ 10月11日書籍発売決定★


ナリス王国編が終わりだと言いながら、忘れていた間話です。なんと4話も続きます。ごめんなさい。

もうすぐ通算100話目なのに、ロルフ殿下の話になりそうです。記念の100話目が、ロルフ。

需要はあるのか。温かい目でお読みいただけると幸いです。


「親父はどんな人だった?」


 そんな問いを母に投げかけ、母の答えを聞いた俺は、その日以降、その問いを口にする事はなくなった。


 俺が物心ついた頃には、すでに母と二人暮らしだった。俺が生まれ育った街は、王都から馬で3日ぐらいの、なんの特色もない、平凡な街だった。平民の中でも貧乏人が住む下町の壊れかけた家に住み、母は近くの酒場の給仕の仕事と、家では針仕事を請け負って細々と俺を養っていた。俺は多分5歳になるかならないかで、近くの店の下っ端仕事や日銭を稼ぐ仕事を始めていたと思う。周りの子どもも似たような境遇だったので、特に疑問も持たずに走り回って働いていた。貰った金で食材や菓子を買い、母に持ち帰っては得意気な顔をしていたと思う。


 母は淡々とした女だった。一人息子の俺を特別に可愛がる事も嫌う事もなく、一人の人間として接していたと思う。嫌な客に絡まれても、金が無くても、そういう時もある、仕方ないと淡々と流していた。顔や姿も地味で目立たず、性格を表すような大人しいものだった。鏡に映る俺の顔とは似ても似つかなかったので、俺は親父似なのだろうと自然と悟っていた。


 そんな俺の生活が変わったのは、10歳になった時だった。国中で流行った病で、母が亡くなったのだ。栄養を摂り、温かくして休めば治る見込みの高い病だったが、貧乏寄りだった俺の家では不可能だった。母はすっと眠るように亡くなった。死ぬ時すら淡々としていて、母らしいとどこか呆然とした気持ちのまま見送った。


 母以外の身寄りがなかった俺の行き先は、孤児院しかなかった。下町には俺と同じく流行病で親を亡くした子どもたちが多く、その中でも身寄りのない子どもは一緒くたにして同じ孤児院にぶち込まれた。そしてそこは、母との貧乏生活が天国に思える程、過酷な場所だった。 


 子どもの数にしては少な過ぎる食糧、薄く汚い寝床、世話をするものもなく汚れ放題の子ども達、自分の力で動けぬ赤子など、ガリガリの瀕死の状態で放置されていた。隙間風が吹き込む窓や戸口、酷い所は壁に穴が空いている。いつから使っていないのか、暖炉には火の気がない。

 世話人として置かれていた婆さんは、足腰も弱く痩せ細ってプルプルと震える手で子どもの世話をしていて、はっきり言えば子どもの世話どころか、本人に介護が必要な状態だった。

 

 この現状を目の当たりにして、親を亡くし行き場もなく最後の拠り所として孤児院に来た筈の俺は、何だか色々突き抜けて、猛然と怒りが湧いてきた。


「おい!稼ぎに行くぞ!」


 俺と同じく孤児院に連れてこられた子どもたちに、俺は声をかけた。新参者として入ったばかりの俺たちの方が、まだ体力的にマシだろうと思ったからだ。


「か、稼ぐって、ロルフ!どうやるんだよ!」


 いつも俺に付いてくる一つ下のベインが、震えながら聞いてきた。孤児院の状況を目の当たりにして、自分もこうなるのかと怖くなったのだろう。


「いつもの通りだよ!8歳以下と女の子たちは、ここの掃除と赤ん坊の世話、それから子どもたちを綺麗にしてやってくれ。食糧と薪は俺たちが何とかする」


 俺は近所の子ども達の束ね役をしていたから、俺の言葉を聞いた奴らはすぐに反応した。グッタリと床に力無く座る子どもたちや赤ん坊に駆け寄り、手を差し伸べる。下町の子ども達はお互いに助け合って生きる事を当たり前としているし、皆汚れているのが普通だから、躊躇などない。


「ベイン。大きい子どもらを連れて商家を回れ!いつもの所だけじゃなく、出来るだけ新規の場所も回って、大袈裟に孤児院の状況を触れ回ってこい。最初に商人のまとめ役のロイス商会に行けよ!あそこは教会の炊き出しにも多めに寄付をするからな!」


「分かった!ロルフはどうするんだ?」


 ベインの問いに、俺はニヤッと笑った。親指で顔を指す。


「コイツを使うさ」



◇◇◇



「あらあら、ロルフ。まぁまぁ、久しぶりね。少し会わないうちに、大人びて増々素敵に…。あら、ごめんなさい。お母様がお亡くなりになったのよね…、大変だったわね」


 ある商会の裏口の戸を叩くと、女性が顔を出した。俺を見て一瞬嬉しそうにしたが、すぐに俺の不幸を思い出したのか、悲しげに顔を曇らせ、中に招き入れる。商会の女主人であるその女性は、手ずから茶を入れてくれて、繊細な作りの菓子を出してくれた。数人のメイドたちも女主人の傍に控えながら、チラチラとこちらを見て、顔を赤らめている。


「まぁ…孤児院に。なんて可哀想なの、ロルフ」


「僕は良いんです、雨風をしのげる場所さえあれば、後は外で働けばなんとか食べていけますから。でも、赤ん坊やまだ小さな子たちが全く世話されていなくて驚きました。あのままでは、死んでしまう」


 悲しげに涙を流すフリをする俺に、女主人はほろりと釣られて涙を流す。親を亡くしたばかりで辛いだろうに、他の子どもを気にかけて泣くだなんて、と同情してくれたようだ。メイドたちもうっとりこちらに見惚れて、ほぅっとため息をついていたが、俺の置かれた境遇に総じて同情的だ。


「ねえロルフ、何か私に出来る事はないかしら?私一人では無理でも、奥様方に声を掛ければ、皆で協力してあげられるわ。貴方は奥様方にも可愛がられているもの。きっとロルフが悲しんでいると聞いたら、力になってくれるはずよ」


 女主人にきゅっと手を握られた。俺は内心にやりと笑って、弱々し気に顔を上げる。俺の顔は随分と女性の気を惹く造作らしく、以前から小まめに繋ぎを付けていた商家の奥様方は、それはそれは親切にしてくださるのだ。


「でも…。皆様にご迷惑になりませんか?」


「私たちの暮らす街の孤児院の事ですもの。大丈夫よ、ロルフ。何でも言ってちょうだい」


 喜々と輝く奥様に、俺は遠慮なく欲しいものを告げた。


◇◇◇


「当面の薪と食料と、新しい毛布を確保したぞー!」

 

 俺達が箱一杯の食べ物と薪を孤児院に持ち帰ると、子どもたちの間からわぁっと歓声が上がった。


「さっすがローの兄貴っ!ほらな、ローの兄貴に任せておけば大丈夫だって言ったろ!」


 8歳以下のまとめ役のシュレンが、得意げに言い放つ。こいつが犬だったら、忙しなく尻尾がぶんぶん振られているんだろうなと思うぐらい、俺達に懐いて、絶対の信頼を置いている。


「シュレン、食料と毛布を分けろ。小っちゃいやつを優先しろよ」


「分かった!」


 きらっきらに顔を輝かせて、俺から箱を受取り、テキパキと食料を分配していくシュレン。俺たちがいない間に、孤児院の子たちを洗い、掃除もしたのか、出かける前に比べ、どこか小ざっぱりしていた。孤児院の子どもたちにも色々言い聞かせていたのか、物資の分配でもめる事もなく、粛々とシュレンの指示に従っている。


 後の事はシュレンに任せ、年長組の俺たちは早々に作戦会議を始めた。


「ベイン、商会はどうだ?」


「孤児院の事話したら、すげー驚いていた。ここって、街の大通りから外れているせいか、あまり目にはつかなかったみたいだ。まともに世話する大人がいないって言ったら、目ぇ丸くしてたぞ」


「食事は?」


「教会と協力して、店のあまりものとかで出してくれるってさ。色々な店に声を掛けるから、毎日でも大丈夫だって。ここの管理をしてる貴族は、当主が遠い領地にいるから親戚の家に管理を任せているらしいんだけど、その親戚の家の評判がすげぇ悪い。貴族だって威張り腐って、孤児院の金も使い込んでるっぽい。街でもすげぇ嫌われてる」


「そいつらの相手は後回しだ。俺らが訴えたところで握りつぶされるだろう。それより、食べ物を商会で継続的に出してもらっている事をバレない様にしないと。どんな難癖つけてくるか分からねぇ」


「その辺は大丈夫。教会に通えばそこで食事をもらえるように話をつけてきた。ロイス商会の旦那が、絶対ばれない様に気を付けてくれるって」


 ベインは得意げに鼻を擦った。コイツはこういう気の利いた事を先回りして考えてくれるから、助かる。

 ロイス商会の商会長は、元は貧しい家の出らしく、俺たちのような貧乏人に優しい。これまでも下町育ちの子どもを何人も商会で引き取り、一人前の商人に育て上げていた。俺も成人したら商会で働かないかと熱心に誘われている。


「分かった。そうだな、教会で文字を神官様から教えてもらえるって名目で通おう。そうしたら孤児院の子が通っても不自然じゃないだろ」


「そっか!いい考えだな。神官様も何か出来ないかって熱心に言ってくださっていたから、大丈夫だと思う。俺、もう一回ロイス商会と教会に行ってくる!」


「頼んだ」


 ベインが孤児院を元気に飛び出していく。他の子どもたちからも、他の店の反応や役人の動きなどを聞きこんで、とりあえず生きていけるだけの体制を整えられた。


「孤児院の子たちの状態はあんまりよくないわ」


 俺より3つ上の、女の子の最年長であるミシェルが暗い顔で報告する。しっかりしてて、ハッキリものを言う気の強さもあるが、小さい子や弱い子にはとても優しいヤツだ。それに、笑った顔がほわっとしていて、とても可愛い。


「この子、まだ赤ちゃんだと思っていたけど、もうすぐ2歳ですって。他の子たちが一生懸命もらい乳したりパン粥を食べさせていたけど、どんどん弱っているみたい」


 ミシェルの腕に抱かれているのは茶色の髪の男の子だ。名前はユース。まだ生まれたばかりの時に、臍の緒が付いたまま、孤児院の玄関に置き去りにされていたらしい。ユースは一言も喋らない。指をしゃぶり、どこかぼんやりと遠くを見ているだけで、2歳の子どもにしては大人しすぎる。腕も足も痛々しいぐらい細かった。


「食事は?食えるのか?」


「少しずつなら食べるわ。でもあんまり泣かないし、笑わないの。こんなに小さいのに…」


 涙目で震えるミシェルの肩に、俺はポンと手を置く。ミシェルは女の子のまとめ役だ。こいつが泣いたりすると、他の女の子たちや小さな子たちがつられてしまう。それは避けたい。


「食えるなら大丈夫だ。あんまり心配するな。沢山食べさせて、沢山、笑いかけてやれ。お前の笑顔は可愛いから、コイツも喜ぶさ」


 心の底からそう言うと、ミシェルは顔を赤らめた。恥ずかしそうに、小さくコクンと頷いた。顔を覗き込めば、赤くなった顔と潤んだ瞳が可愛かった。うん。大丈夫そうだな。


「よし。飯を食わせて、元気にしてから、ここの子どもたちに仕事を教えるぞ。こいつらが働けるようになったら、それだけ戦力が増える。そうすりゃ、俺達、無敵だ!」


 俺はぼんやりと宙を見ている子どもの頬を突っついた。

 絶対に死なせたりはしない。俺が、守って見せる。

☆☆2022年10月11日。追放聖女の勝ち上がりライフ 書籍発売です☆☆

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ぜひお手に取ってみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] あっのぅ…過去篇が先に、というか「古い展開として存在して」現在篇があとなら「他キャラのために貶められたのでは」もまあありそうなんですけども… 時間軸、逆じゃね?? いいんですけども。 どっ…
[気になる点] 内職がない世界観のはずなのに家で針仕事してる…
[良い点] 聖女と転生ネタはGoodです。 [気になる点] 間話やら幕間が多すぎませんか。話の続きが読みたいのにテンポが悪くてサムズダウンです。
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