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69 別れの日

ナリス王国編、本編最終話です。残り間話一話で、ナリス王国編、終了です。


可愛いカナン殿下の本性。

アレよりは100倍マシです。ご安心ください。

「大変、お世話になりました」


 カナン殿下が丁寧にそう言ってくれる。久しぶりに帰れるとあって、嬉しそうだ。やっぱり、お父さんやお母さんに早く会いたいんだよね。治った足も見せたいし、リハビリも頑張ったから、今では跳んだり走ったりと自由自在。伝令魔法で、お父さんと馬に乗る約束もしたらしいから。そりゃぁ楽しみでしょう。


 でもわたしは寂しい。可愛い癒しが帰っちゃうー。収納魔法持ちのカナン殿下の侍従さんに、美味しいご飯のお土産をたんと持たせた。サンドお爺ちゃん特製の回復薬とか、薬湯とか、寒い時用の毛布とかお洋服とかも。もうね、気分は息子を大学進学で初めて一人暮らしさせるお母さんよ。あれもこれも持たせなきゃって。


「シーナ様。沢山のお土産、ありがとうございます」


 キラキラの癒しスマイル。可愛い。あああ。いくら友好国とはいっても、そんなに頻繁には会えない。下手したら次会うのは何年後とか。その頃にはこの子ども特有のふくふくほっぺはシュッとしているかもしれない。それに、声とかも低くなっちゃってぇ。うわぁん。成長は嬉しいけど、寂しいぃ。


「カナン殿下ぁ。お手紙書きますね」


「僕も!お返事を沢山書きます!」


 カナン殿下の両手を握って、別れを惜しみまくっていたら、次々とナリス王国の皆さんに挨拶される。涙もろい護衛さんとか、すっかり顔見知りの侍女さんや侍従さん達。もちろん、筆頭魔術師たる、あの人も。


「いやぁ。すっかりお世話になりました」


 肥えたよね。アダムさん。明らかに体重が2倍ぐらいになっているよね。どちらかというと、痩せ型だったのに、ぽっちゃりを超えた物に変化してるよね。ザロスが美味しいからって、食べ過ぎだって、わたし言ったよね。


「はっはっは。国に帰ったら驚かれそうです。食が細いと言われた私が、このような体型になるとは」


 お腹を揺らして笑うアダムさん。食が細いなんてうーそーだー。厨房に入り浸って困るって、ナリト料理長から苦情が出てたもん。荷物におにぎりを詰めているのも見たぞ。どれだけザロス好きなんだよ。

 カナン殿下の治った足以上に、実は太ったアダムさんの方がインパクトがデカいのではないだろうか。ナリス国王夫妻の感激が薄れたら、全部アダムさんのせいだからね。


「シーナちゃん……」


 ロルフ王弟殿下も、勿論一緒にお帰りですよ。そもそも、カナン殿下のお迎えにいらっしゃったんでしたよね。数日間という短い滞在期間なのに、なかなか濃い出来事が立て続けに起こったせいか、もっと長くいたように感じるよ。今日は控えめな色気。何故かシュンとしていらっしゃいます。


「また、君に会いに来てもいいだろうか?」


「え?何しに?」


 ロルフ殿下の言葉に、疑問が間髪を容れずに口から出ていた。何の用事がございますのでしょうか。もう謝罪とか言い訳とかは一杯聞いたし、後始末はカナン殿下がやってくれたでしょ?会う必要なんてナイナイ。

 それに、ロルフ殿下は国に帰れば、陛下よりキツーイお仕置きが待っているという噂だ。カナン殿下が無邪気に報告してくれたのだが、それはもう、怒ってらっしゃるらしいですよ。カナン殿下は「僕は叔父上の味方はしません!ちゃんと謝ってください」って断言してたから、思う存分怒られるがよい。


 真面目な話、ロルフ殿下は王籍を離れる事になるそうだ。元々、臣下に下る予定らしかったが、それが早まったのだとか。しかも、賜る爵位もだいぶ下がることになりそうだと。本人は、気にしていないようだけど。


「私自身、まだ君に償っていない」


「そんなのいらないし。カナン殿下に後始末をしてもらったんでしょー。必要ありませんよ」


 小学2年生にフォローされたという事実を、人生に刻めばいいと思うの。やーい。かっこ悪い。

 いや、カナン殿下が格好いいということか。可愛いのに格好いいとは、うちのキリのようだ。


「こんな事を言えた立場ではないと、重々承知をしているのだが。君と、また会いたいのだ」


「え。やだ」


 なんでわたしが色気過多なナルシストにまた会わねばならんのだ。もう用事もないし、義理もない。陛下がちゃんと、婚約者候補云々の話は、正式に、きっぱり、確実に、ナリス王国に断ってくれたって言ってたもん。

 それから、えへへー。ジンさんとの婚約話も進めてくれるってさ。

 

 嬉しくなって傍らのジンさんを見上げれば。おお、どうした。なぜそんな、氷の王子モードなのだ。


()()婚約者に、何の用だ。ロルフ・ナリス。()()婚約者はお前と会う理由などない。迷惑だ」


 そう何度も俺の俺の言わないでよ。照れるじゃないかー。婚約者だけどもさ。えへへ。


「用はなくとも、会える間柄になりたいと思っている」


「え。やだ」


 また間髪を容れずに断ってしまった。これってあれでしょ?勝手に家に上がり込んでくる、近所のお喋り好きなおばちゃん。用事がないのに昨日も話したようなこと、話しにくるヤツ。前世の母・ヨネ子もおしゃべり好きだったから、おばちゃんとよく飽きもせずに色々話してたわー。でもわたし、ヨネ子と違って、そんなに社交的じゃないのよ。早々に話題が尽きると思うの。


「シーナちゃん……」


 ロルフ殿下が何かを言い掛けていたが、ジンさんがずずいっと前に出て、わたしの視界を遮ってしまった。


「……君の求めがあれば、すぐにでも駆け参じる。君の為なら、命を懸けても構わないということは、覚えていてくれ」


 わたしの命を餌にしようとした人と同一人物とは思えない台詞ですね。なんとなく少女漫画にでも出てきそうな台詞だが、少しもキュンとしなかった。ロルフ殿下だし。


「そんな事はないと思いますが。一応覚えておきますね」


 そう言ったら、なんだかホッとしたような顔してたよ。なんなんだろ。


 こうして、ちょっとザワザワした感触を残したまま、ナリス王国ご一行様は、帰国の途についた。

 カナン殿下が帰っちゃって寂しくて涙ぐむわたしの頭を、ジンさんがポンポンしてくれた。



◇◇◇



「あれはないと思います、いくら何でも」


 まだ8歳のカナンにダメ出しをされ、俺はがっくりとうなだれる。


 馬車よりも、馬に乗りたいと強請るカナンを俺の馬に一緒に乗せて数刻。カナンからの説教が続いている。


「まだ恋だとかは分からない僕でも、あれは駄目だと思います」


 聡明な次代の王で、将来、俺が仕える主人たるカナンは、容赦がない。女の子のように可愛らしい顔からは想像つかないぐらい辛辣だ。シーナちゃんには可愛い面しか見せていなかった様だが、カナンとて王族。シビアな面ももちろん持ち合わせている。


「あれだけの事を仕出かしておいて、誰が好意を持っているなどと思うでしょうか。シーナ様は恋愛面について疎い方ですが、あれは気づかれなくても仕方がない。好きな子をいじめるというレベルではありません。国家間の関係を揺るがしたのですよ?」


 いや、多分。あの場にいた者は、シーナちゃん以外、俺の言った意味に気付いているだろう。侍女殿からは冷たい殺気が迸っていたし、ジンクレットは隠しようもないぐらい不機嫌だった。それでも、俺は言わずにはいられなかったのだ。


「叔父上が、シーナ様とのご関係を、今までの様に軽い気持ちで考えていらっしゃるのならば、僕としても絶対に賛成できません。あの方は、僕の恩人で、ナリス王国にとっても救いの女神です。魔物避けの香や、ザロスが、どれほど我が国に恩恵をもたらすか、分かっているでしょう?そんな方を叔父上の遊び相手になどと、僕は許しません」


「カナン!違う!今までの相手とは、違うんだ!」


 今までの様な、浮ついた気持ちではない。将来を共にしたいと考えた相手など、初めての事だった。


「叔父上。それは今まで叔父上がお付き合いされた相手にも、失礼ですよ。マリア侍女長のご忠告、忘れたわけではありませんよね」


「ぐぅっ」


 マリタ王国の侍女長には、()()()()()()()、大変長々とこれまでの女性との付き合い方について説教をされていた。説教の間中、甥の俺を見る目が、どんどん冷ややかになっていくのを、生きた心地もしないで感じていた。格好いい叔父から、女にだらしないどうしようもないクズに見る目が変わっていたとしても、文句も言えなかった。8歳の子の前であんな話をしなくてもと思ったが、カナンが侍女長に自ら望んで同席したと知って、肝が冷える思いだった。


「『いつか貴方が軽んじていた恋愛が、かけがえのないものと気付いた時には手遅れですよ』というご忠告、当たっていましたね。本気で想った方には、相思相愛のお相手がいるし、叔父上の事はそもそも眼中にない」


 分かっている。分かってはいるが、諦めたくはないのだ。それに。


「彼女は、ナリス王国にも、莫大な益をもたらすだろう」


「そういう考えを持った時点で、ジンクレット殿下には一生勝てないと、思った方がいいです」


 カナンに間髪入れずにダメ出しをされて、俺は再び口を噤んだ。


「そんな頭で考えた理屈で言い訳せずに、自分の素直なお気持ちを言った方が、まだ可能性はあるんじゃないですか」


 カナンの鋭い指摘に、俺はうなだれた。


「好きなんだ」


「まぁ。無理だと思いますが」


「カナンっ。素直になれと言ったのは、お前じゃないか!」


「それとこれとは、別問題です。叔父上がやらかした時点で、シーナ様の印象は最悪ではありませんか。あの状態から、どうやって挽回できるのか。僕には思いつきません」


 それはそうだろう。俺自身も、どうやって挽回出来るかなんて分からない。


「だから、いつでも命を懸ける覚悟はできていると、伝えたんだ」


「重い」


「もう少し、優しく言えないのか、カナンっ」


「今回の叔父上のやらかしで、ナリス王国もかなりの損を被ったのです。叔父上に優しくする余裕が、今のところありません」


 ジロリと睨まれ、俺は再び口を噤んだ。


「さすがサイード王太子です。僕は今回の交渉で、彼に全く歯が立ちませんでした。ナリス王国とマリタ王国の国交を壊さぬラインで、ギリギリまで搾り取られました。大臣がこれまで食料の支援交渉で勝ち取った分の利益も見事、取り返されました。ですが、シーナ様のいるマリタ王国とこれまで同様の関係が持てることは大いに利のあることです。それで良しと思わなくては、やってられません。それもこれも、直前まで僕を蚊帳の外において、勝手に暴走した叔父上の責任ですからね。一言、僕に相談してくださればこんな事にはならなかったのに。シーナ様が、報連相の大事さを語っていらっしゃいましたが、僕はそれを今回ほど痛感したことはありません」


 ぐっと唇を噛みしめて悔しがるカナンへの申し訳なさで、俺は消えて無くなりたくなった。


「ロルフ・ナリス」


「はっ」


 カナンの声音が変わった事を感じて、俺は背筋を伸ばした。


「今後一切、自分勝手な諜報活動を禁じます。全て僕か父上へ報告をあげなさい。そもそも貴方には、諜報活動は性格的に向いていないのです。思い込みは激しいし、勝手に突っ走るし、自分を大事にしなさすぎる。自分を犠牲にして、国を守ろうだなんて思い上がるのは止めなさい」


「……」


「返事っ」


「はいっ!」


 厳しい声に、俺は思わず、新兵のように緊張して大声で返事をしていた。それを見たカナンが目元を緩め、笑う。


 馬上で揺れる小さな背中。

 それは、いつか見た、兄や兄の悪友の背中と同じぐらい、大きくて頼もしくて。憧れて追いかけていたあの背中の様で。

 ああ、カナンは。まだ幼いその肩に、しっかりとナリス王国を背負い、力強く歩いているのだと理解して。

 図体はデカくなり、年ばかり無駄に食って、女性に対しても不実で回り道ばかりしている自分の足りなさを痛感して。足りぬ己を恥じるだけでは、結局何も変わらないのだと。何をしたらいいのか、焦るようなもどかしいような、そんな思いにとらわれたけれど。

 いつか、この幼い王に仕えて、頼りになる臣下だと、一片でも思ってもらえたら。

 そうしたら、少しはマシになれたと、自分で自分を誇れるかもと、淡い期待を持ったのだ。




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ジンさんのガチムチ具合、キリの格好良さ、完璧です。

是非、お手に取ってごらんください。

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― 新着の感想 ―
カナン君、しっかり者だしかっこいい! これは国の未来は安泰ですね。
[気になる点] ラナコルツ達の処分はどうなったのですか?
[気になる点] 陛下、本当になんでこんなロルフなんて自意識過剰暴走短絡的ナルシストなんかに嫁にやろうとしたの???心の底から無能だとしか思えませんでした。王太子くん最高。年齢がもう少し上なら相手として…
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