表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/145

56 ナリス王国の回答

 ラナ嬢が退室した後、部屋の中には気まずい沈黙が降りていた。マリタ王国側の空気がどよんとしている。原因は勿論ラナ嬢だが、あれを連れてきたロルフ殿下にもマリタ王国ロイヤルファミリーの皆様から、冷たい視線が向けられている。


「何であれを連れてきたんだ、ロルフ。我が国への嫌がらせか?」


 サイード殿下が胡散臭い爽やかな笑顔でロルフ殿下に聞く。横に座るルーナお姐様は涼しい顔だが、静かな怒りオーラが出ている。怒れる美女、怖いぐらいに綺麗。


「私は御招待した覚えは無いけれど…。あら、誰か招待状を送ったの?」


 王妃様がクルリとマルタ王族ファミリーを見回す。皆さん、首を横に振って微笑んでいらっしゃいます。


「まぁそう。招待もなく他所の家(他国の王家)に入りたがるだなんて…。あの娘のお宅ではどういう躾をしているのかしら?ナリス王妃様に聞いてみなくてはね?」


 ガチギレした王妃様は我が家で一番怖いんだとアラン殿下が前に言ってたけど、こういう事かぁ。優しい口調とお顔だけど、棘が出まくっている言葉が刺さるね。


「ジンクレットの妃候補か。という事は、俺の義妹候補と言うことか?ふぅん、何もかも足りんようだな」


 率直なアラン殿下の感想に、横に座るハンナ様が優雅に頷く。


「シーナ様に対してあの様な仰い様…。マリタ王国を敵に回すおつもりなのかしら?」


 ハンナ様とは孤児院の件で、ハンナ様のお父様共々、大変仲良くさせていただいてます。もうね、ハンナさんって凄い色っぽいお姉さんなんだけど、可愛い物が大好きなんだって。なので、お人形にどハマりして、孤児院でのお針子指導だけでなく、お人形シリーズ化に一番熱心なのだ。センスも良いのでもうシリーズ化プロデュースは完全お任せでお願いしちゃっても大丈夫だろう。きっと双子の妹赤ちゃんが誕生するのもそう遠くは無いはず。


「シーナ様に扇子を投げつけるなんてっ!私、許せませんっ!」


 可憐なサリア様が、ワナワナと手を震わせ、涙目で怒っている。リュート殿下が可愛いなぁと言う目で見てるけど、激しく同感だ!癒し系だよね、サリア様。


 陛下は黙したまま無表情。ロルフ殿下を見る目は氷点下。

 陛下のこんな冷ややかな目、初めて見たよ。いつもの親戚のオッチャンみたいな親しみやすさはどこに行ったのー?


 わたしはラナ嬢のことよりも、実は別の事に気を取られていた。マリタ王族のお嫁さんと婚約者って、色んなタイプが揃ってるなーと。綺麗系王妃様、ルーナお姐様、色っぽいハンナ様、可憐なサリア様。


 一応、ジンさんの仮婚約者であるわたしも、このマリタ王国ファミリーにカウントされるのだが。

 わたしはどこ枠だろう?…まさかの、ロリ?嫌だ!毎日牛乳飲んで、とにかくロリ脱却せねばっ!!


「ど、どうした、シーナちゃん?急にグッタリして。疲れたのか?腹減ったのか?」


「自分の存在意義を考えてるの…」


 何とかしてロリ枠だけは回避したい。牛乳だけじゃダメだ。大きくなるために、サンドお爺ちゃんにまた薬湯のギリギリを攻めて貰おうっ!


「俺の妃はシーナちゃん以外はありえない。あんな女に、何を言われようと気にする必要はないっ!」


 ギュッとジンさんに抱き締められる。あんな女?あぁ、ラナ嬢ね。いや、アレはどうでも良いけど、ロリ枠がさぁ。


「シーナちゃんは気高く、可愛く、優しく、才能に溢れた、素晴らしい人だ。いつも前向きで、努力を怠らない。俺はシーナちゃんを心底尊敬しているし、眩しくて、焦がれている。あんな女の言葉で、落ち込む必要などない」


 ロリ枠にこだわっているうちに、ジンさんに何だか熱烈に慰められていた。いや、はず、恥ずかしい!急に何言い出すの、この人。こが、焦がれっ、てるって。


「違う、違う、ジンさんっ!あの人の言葉なんて全然気にして無いからっ!本当だからっ!違うからそれ以上はやめて、恥ずかしい!」


 ジンさんの口を両手で塞いで止める。皆から注目されているのも感じて恥ずかしい!即刻その甘い言葉を止めなさいっ!


「そうか?シーナちゃんが気にしていないのなら、俺はいい」


 モゴモゴ言いながら、ジンさんはアッサリと引いた。でも耳元で「本心だからな」と囁いてきやがった。殺す気か?


 真っ赤な顔のわたしを、皆、いつもの事だなって顔で見ている。見慣れましたか、そうですか。ロルフ殿下は引いているのか、強張った顔をしていた。お見苦しいものを見せてすいません。


「我が隊の一員の失礼な言動の数々、大変申し訳ない。私の立場上、なかなか断りにくい相手でな」


 ロルフ殿下が咳払いをしつつ目を伏せた。コルツ家はナリス王家を支える派閥の要なので、無碍には出来ないのだそう。ラナ嬢は本人申告では優秀らしいが、あの話の通じなさだと、例え優秀だったとしても、上司として苦労してるんだろうなぁ。


 前世の後輩に、高学歴、優秀、だけどビックリするぐらい話の通じない子がいた。仕事を教えても独自の解釈で教えたやり方に従わず、勿論結果は失敗。指導の仕方が悪いとわたしに責任をなすりつけようとして上司に怒られ、逆ギレして罵詈雑言を撒き散らして辞めて行った。

 そして次の日、怒りながら「どうしてこんなに優秀な私を引き留めないんですかっ!」と職場に乗り込んできた。わたしの横にいた同僚が「いや、勝手に辞めたのはお前やないかーい」と怪しい関西弁でボソッと呟き、運悪く聞こえたわたしがぶほっと鼻水を吹いたのは、いい思い出だ。


 あの後輩の場合は、引き留めるまでの義理も無かったから良かったけど。

 ナリス王家にとって、大事な支持派閥のご令嬢だもん。ロルフ殿下といえど、逆らえないよねと、わたしはあっさり納得していたんだけど…。


「そうか、断りにくい相手であったか…。それが、()()()()()()()()()


 陛下が表情を緩める。王妃様も柔らかく微笑む。

 あれ?なんだかお2人の態度が、急激に変わった。サイード殿下とルーナお姐様が、そんなお2人を見て、僅かに緊張している。

 陛下と王妃様はさっきまで、ロルフ殿下に対しての怒りを、分かりやすく示していた。でも今は、柔らかく微笑んでいるのに、どこか余所余所しく、ロルフ殿下を迎えた時の気安さは無くなっている。


「ロルフ殿下、カナン殿下。残りの滞在、ゆるりと過ごされよ。身体を労い、万全の準備をして、出立に備えるがいい。その為の助力は惜しまぬよ」


 陛下の言葉に、ロルフ殿下の顔が強張った。わたしですら感じたのだから、ロルフ殿下も気づいたのだろう。まるで見えない壁が、陛下と王妃様の周りをグルリと取り囲んだみたいだ。急速に、心が遠くなってしまったみたい。


 マリタ王国の面々は、陛下と王妃様の態度に戸惑っている。皆、嫌味を言ってたけど、半分はロルフ殿下に同情してたもの。ラナ嬢を、好きで連れてきた訳でも無いのだから。


 カナン殿下も、陛下と王妃様の態度の急変に顔色が悪くなっている。カナン殿下、8歳にしては周りの顔色とか読める子だもんね。

 

「サイード、ルーナ。ロルフ殿下とカナン殿下の歓待は其方らに一任する。不足なきよう、務めてくれ」


「はっ」


「はい」


 あれ?今までカナン殿下は、どちらかと言えばジンさんとわたしでお世話役をしてたんだけど。足の治療があるからね。そこにサンドお爺ちゃんや、リハビリ仲間のリュート殿下が加わったり。帰国したばかりで仕事が山積みの、お忙しいサイード殿下とルーナお姐様はあまり関わってなかった。シリウス殿下はチョロチョロしてたけど。


 チラリとジンさんを見てみれば、ジッとロルフ殿下を見ていた。冷ややかなその目にゾクリとする。わたしの視線に気付き、ニコッと笑みを向けてきたけど、なにか良からぬ事を考えているみたいだ。コルツ家を調べるために部屋を出たバリーさんがまだ戻ってないのも気になるし。


 ジンさんはわたしを守ろうと、時々暴走するからなぁ。バリーさんも好戦的だし、この主従は本当によく似てると思う。


 守ろうとしてくれるのはありがたいけど、わたしはジンさんが何をするのかも知りたいんだよ。安全な所で一人ぬくぬくと何も知らずにいるよりも、ジンさんと一緒に泥を被って汚れたい。いくらお人好しでもジンさんは王族だ。非情な判断もしなくちゃいけないこともある。そんな時に、わたしだけ何も知らされず蚊帳の外なんて絶対嫌だ。


 わたしはジンさんにニッコリ微笑み返してやった。絶対、吐かせてやる。ジンさんの顔が引き攣った。エスパージンさんが発動したようだ。逃さんぞ。


 ロルフ殿下に視線を戻せば、能面。大人の色気が迸っていたのに、完璧にオフですよ。取り出し自由なのか、色気って。


 なんだかちょいちょい、陛下とジンさんとロルフ殿下の間に、ビリビリとした雰囲気が漂うんだけど、なんなんだろう。


 色々な思惑が飛び交う中、陛下と王妃様の退室の時間となった。珍しくも、侍従さんから退室の合図があり、お部屋を出ていく。身内しかいない時は、陛下が気さくに「じゃ、解散なー」って言って、さっさと出て行くのに。カナン殿下がいる晩餐とかでも、そんなノリだったのに。


 マリタ王国最大の友好国ナリス王国。マリタ王国にとって身内同然の国。

 それが急に、陛下の態度が他の国に対するものと同じ、儀礼に則ったものになった。身内に見せる気安さは形を潜め、堅苦しいものに。マリタ王国がナリス王国と距離を置いたと誰でも推察出来るぐらい、あからさまに。


 ダイド王国や魔物の襲撃に対抗する為、今は各国が結束を固める大事な時なのに…。

 どうなっちゃうんだろう。漠然とした不安が、わたしの中に渦巻いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/7 コミック発売! 追放聖女の勝ち上がりライフ②

html>

★書籍版公式ページはこちら!!★
書籍、電子書籍共に8月10日発売!
★ヤングキングラムダにてコミカライズ好評連鎖中★

追放聖女の勝ち上がりライフ2


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言]  今更ですが、これはこうして、こうやるのが効率が良いからやってみて と言うのを、私の方が良いのですと言っって仕事をとどこうらせたアホを思い出しましたわ。。。  素直に一度、作業してから言うな…
[一言] ジンさんだとシーナちゃんの護りとしてして弱いって意味で呼んだロルフ殿下が、コレじゃあね…。情報漏洩もその国の下心込みとしたら、あまりに拙い。仮に下心無しだとしても、だったら公爵家のゴリ押しを…
[一言] お馬鹿令嬢に亡命者が罪人云々をナリス王家側がわざと吹き込み彼女に鞘当てさせてこちらの足元見てきた…のかな? 何故か知られてる罪人云々のくだりで仮想敵国と友好国だったはずのナリスとの裏の繋がり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ