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52 シリーズ化は定番【前編】

「へぇー。シャーロットちゃんがねぇ」


 床上げをしてから数日。まだ外には出してもらえないが、部屋の中では自由に過ごせるようになった。良きかな。

 ジンさんも通常業務にバリーさんに引きずられて戻って行った。すぐ抜け出してくるし、朝昼晩の食事は一緒に取っている。寂しいなどと思う暇もない。


 さて、リハビリ代わりの活動許可は出たので、本日は刺繍のお稽古をしている。すっかり侍女さんたちも一緒に刺繍する流れだ。そしてお喋りの方に夢中になるのもお約束。井戸端会議って、お茶会とは違う楽しさがあるよね。すっかり王宮内の恋愛事情に詳しくなった今日この頃です。今一番ホットな話題はキリとバリーさんだ、ウフフ。


「そうなんです。侍女長様も困ってらして」


 苦笑する侍女さんズに、わたしも釣られて苦笑いを浮かべた。


 侍女長のマリアさんに、先頃、2人目のお孫さんが生まれ、出産祝いを贈ったところ、大騒ぎになったのは記憶に新しい。ふふふ、数字が怖いって思ったのは初めてだったよ。

 今回の噂話は、その侍女長さんの上のお孫さん、シャーロットちゃんの事だった。


 シャーロットちゃんは弟が生まれた当初、激しい赤ちゃん返りをしていて、それはもう大変だったのだとか。弟に嫉妬し泣き叫び、お母さんやお父さん、お爺ちゃんお婆ちゃんもオロオロするだけでどうしようもなかったらしい。ただ、わたしの贈った『お姉ちゃんになったお祝い』のプレゼントが、その状況を一変させたのだとか。

 

 シャーロットちゃんにはおままごと用の人形とお揃いのドレスなどを贈ったのだが、それがシャーロットちゃんのお姉さん熱に火を点けたらしい。それまで目の敵にしていた弟だったが、ままごとを通して母性?が目覚めたシャーロットちゃんは、今ではすっかり弟溺愛の立派なブラコンになり、隙あらば弟の世話を焼くらしい。

 

 そう聞いただけなら、なんだかほっこりする姉弟エピソードだが、見守る大人達は大変らしい。なんせシャーロットちゃんはまだ3歳。それが首も座っていない乳児を抱っこしようとするのだ。一度など、皆が目を離した隙に勝手に庭まで連れ出してしまい、ぷらんぷらんと乳児を振り回すシャーロットちゃんに、乳母が泡を吹いて倒れかけたのだとか。シャーロットちゃん、お転婆なんだね。


「シャーロットちゃんも悪意があってやっているわけではございませんから…。抱っこやお世話は、大人の見ている前なら問題ないのですが」


「そうだねー。シャーロットちゃんはお母さんが大好きだから、真似っこしたいのあるんだろうなぁ」


 おお、それなら…。ほらあれだよ。女の子のオモチャの定番。


「ね、今日は刺繍の時間を早めに切り上げて、手伝って欲しいことがあるんだけど…」


 声を顰めるわたしに、侍女さんズがノリノリで話を聞いてくれた。うん、このノリの良さ、大好きよ。


「「「それでは準備をしてきますっ」」」


 ちょっとした打ち合わせの後、侍女さんズは準備のために去って行った。走っているような速さなのに、華麗な動きの侍女さんズ。いつ見てもすごい。

 


◇◇◇



 さて今回作るのは、赤ちゃん人形だ。

 前回シャーロットちゃんに贈ったのは、女の子の人形だったので、その妹の設定にしてみようかな。

 型紙をざっと作り、前回集めた布の余った部分で赤ちゃん人形を作っていく。ハンドメイド三昧だった過去が唸るぜぃ。

 しかし、こう言うお人形さんは、キャラクターが増える運命にあるのだろうか。いつかパパとかママとか双子の赤ちゃんとかボーイフレンドとか増えるんだろうか。やばい、設定考えるの楽しいかもっ。

 お人形さんのシリーズ化を妄想しながら、手は身体強化をかけながらミシンの様にお人形さんを作っていく。

 いつも側に控えているキリは、何も言わなくてもわたしの型紙から生地を切り抜いたり、赤ちゃん人形の着ぐるみを縫ったりしている。ウチの子、気が利く子なんです。


「お裁縫の腕が上がったと、侍女長様に褒められました」


 はにかむ素直なキリが可愛い。わたしの趣味に付き合って、お裁縫ばかりさせているからねぇ。


 赤ちゃん人形は小さいのもあって、あっという間に縫い終わった。うむ、着ぐるみを着た人形って可愛いねぇ。目を大きめに作ったから、つぶらな瞳がカワユイ。


「シーナ様。材料はこちらでっ…!可愛い!うわぁ、早いっ!もう出来てるっ!」


「きゃーっ!着ぐるみを着ている!可愛い〜」


「まぁ、こちらの着ぐるみも着せてみましょうっ!」


 キャアキャアする侍女さんズが、赤ちゃん人形に群がり、キャッキャと着せ替えごっこを始める。

 わたしは侍女さんズが揃えてくれた材料で、赤ちゃんのお世話セットを作り始めた。

 まずはオムツ。こっちの主流は布オムツなので可愛らしいオムツカバー付き。人形用だが手を抜かず、ちゃんと人形につけられるものを作る。細かいところまで本物に似せる事が、マニアの心を擽るからね。

 スタイも作った。赤ちゃんのヨダレ防止用。人形はヨダレは垂らさないけど、やっぱりリアリティを出すには必須だ。

 そして抱っこ紐。ドレスのシャーロットちゃんが身に付けても良いように、可愛らしい布とフリルをふんだんに使う。赤ちゃん人形を抱っこ紐の中に入れ、わたし自身で装着して、人形が落ちない事を確認する。侍女さんズが何故か拍手をしてくれた。

 

「ううっ!クラッシックな乳母車を作りたいっ!」


「乳母車?」


 侍女さんズとキリが、なんだそれって顔をしている。


「赤ちゃんをお散歩させるときの必須アイテムだよー。こんな感じでー」


 サラサラと紙に乳母車のイラストを書いてみる。赤ちゃんを乗せる部分は籠製で、車輪や骨組みは木か金属加工だな。幼児が押すから軽い木材がいいかな。


 キリと侍女さんズが真剣な顔でイラストを覗き込んでいたが、うん、と頷き合った。


「私はリュート殿下とサリア様、それからバリー様にご連絡を」


「私は王妃様と侍女長様に!」


「タイロップ家に知らせを送ります」


「シーナ様。もう少し構造について、詳しく教えて下さい」


 見事な侍女さんズの連携に呆気に取られていると、最近、バリーさんに鍛えられていて書類仕事をバリバリこなしているキリに優しく促され、私は覚えている限りの乳母車の機能を書き込むことになった。


「シーナ様。今度はどんな儲け話です?」


 キリによってもう出せるものはないぐらい吐き出したわたしは、バリーさんのゲスい一言にも反応出来ずにいた。ううん、キリの尋問も怖いよぅ。

 

「これはまた、タイロップ商会が喜びそうな…」


 キリに手渡された乳母車設計図と、赤ちゃん人形を手に、ニンマリとバリーさんが笑う。黒い笑みだな。


「バリーさん。商品開発はやるけど契約とかはイヤー」


「ではこちらで素案をお作りしますので確認をお願いします。ご希望の金額はございますか?」


「見当も付かないよ」


「ふふ。これは人形用ですが本物の赤子にも使えそうですね。細かい仕様を変えて、2倍の収益を…」


 ブツブツ呟くバリーさんの目がお金になってる。その辺はいつも通り丸投げだ。キリはすかさずバリーさんの補佐に回っている。さっきの尋問といい、着々とバリーさん2号になりつつあるなぁ。


「おー、シーナちゃん。また何か作ったのか?」


「まぁぁぁぁ!シーナ様、新しい人形ですか?可愛いわぁ」


 リュート殿下とサリアさんがいらっしゃいました。タイロップ家との商売関連はリュート殿下が後ろ盾になっている。お世話かけます。

 武具関連は陛下、悪い人を捕まえたらアラン殿下、魔物避けの香や食料関連はジンさん、タイロップ家関連はリュート殿下。マリタ王家に万遍なくお世話になるわたし。ちなみにサイード殿下は統括責任者だ。次代の王として全部把握しなさいと、陛下に命じられたんだって。大変だねぇ。


「タイロップ家からすぐに細工職人を連れて行くと連絡があったぞ」


「行動が早い!」


「あそこの商会はシーナちゃんのお陰で売上が跳ね上がっているようだからな。今や子どもの玩具や衣服はタイロップ商会だと言われている」


 タイロップ商会はワインや食料品が主な取扱品だった様な。思い切った方向転換だなー。


「着ぐるみや人形服の注文が殺到しているが、なかなか針子が確保出来ずに品薄らしいぞ。針子は女性ばかりで、結婚し子が出来ると、仕事を辞めてしまうからな」


 ふぅん。こっちの世界でも似たような労働問題ってあるんだねー。







 




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