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47 良い筋肉の使い道

明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

「うぅぅぅぅ、不味いぃ」


 サンドお爺ちゃん特製薬湯が不味すぎる。

 まず色からヤバいからね。緑のヘドロみたいなドロドロしたのが、茶道で使う茶碗ぐらいの大きさの入れ物になみなみと入っている。味はヘドロ。飲んだ事ないけど、きっとヘドロってこんな味がするに違いない。それを1日3回、食後に飲む。美味しいご飯の後にこれが待っていると思うと、食欲が凄い勢いで去っていく。

 

 試しに鑑定魔法さんに鑑定してもらったら、

【サンド老の薬湯 身体の成長を助ける。栄養価が非常に高くバランスが良い。忘れられない味】と出た。味の説明がおかしいよね。


 この薬湯が、わたしとカナン殿下の日課になった。カナン殿下の薬湯はわたしの薬湯とは配合が違うらしく、足のリハビリに合わせたものらしい。わたしのよりはライトなヘドロだったよ。

 カナン殿下と一緒に頑張って鼻つまんで飲むんだけど、つまんでた鼻を放すとすごい臭いなんだよ。水飲んでも後味がすごい主張をする。

 まだ8歳のカナン殿下が頑張っているのに、前世と合わせて40歳のわたしが頑張れないはずがない。お口直しの飴と焼き菓子を山程準備して、毎回頑張っているけど、心が折れそうになってきた。


「癒し、癒しが足りない」


「シーナちゃん、抱っこするか?」


「間に合ってます」


「間に合ってるって?誰に抱っこされてるんだ?!」


 ジンさんが絡んでくるのも鬱陶しく感じるぐらい薬湯に心が折られている。仮婚約以降はジンさん以外に抱っこはされていないのを知ってるくせに煩いなぁもう。


 最近ジンさんは何かしでかしたのか、陛下と王妃様に怒られたみたい。お兄さん達にはお酒を飲みながら揶揄われたようで、しばらく落ち込んでいた。侍女長さんに笑顔で怒られ、侍女さん達にもガミガミ言われ、バリーさんには頭を叩かれていた。キリにどうしたのか聞いたら、困った顔で微笑まれた。何やらかしたんだろう?


「ジンさん以外には抱っこされてないよ?」


 落ち込み気味のジンさんを放っておくと色々と面倒なので、仕方なく構ってあげる事にした。膝の上に座って頭をわしゃわしゃと撫でると、ぎゅうと抱きついてくる。


「シーナちゃん、俺ちゃんと我慢できるからなっ!皆、誤解しているんだ!俺はそんな不埒な男じゃないぞ!」


「ん?ジンさんはいつも優しいよ?何を誤解されたの?」


 ジンさんの顔を覗き込むと、顔を赤らめ、目を逸らした。

「うぅ、シーナちゃんの純真な目を見ることができない…ごめんなさい…」と、力なく呟いている。本当に何をやらかしたの?


 それよりも、わたしは本格的に癒しが欲しい。癒しといえば可愛いものか美味しいもの。可愛いものはカナン殿下がいるので(不敬)、美味しいもので癒されよう。


 わたしの目にジンさんの筋肉が盛り上がった腕が見えた。うん、よく鍛えられた良い腕だ。これは、あれに使えそうだね。

 

「ジンさん、手伝って」


 ニコリと笑ってお願いすれば、ジンさんは「任せろ!」と何でも言うことを聞いてくれる。ジンさんの手を繋ぎ、わたしは調理場に向かった。



◇◇◇



「カナン殿下」


 机に向かい、お勉強に集中していたカナン殿下が、ビックリした様に顔を上げた。


「シーナ様?」


 コテンと首を傾げるカナン殿下。ツルツルほっぺが相変わらず可愛ぇのぅ。オバチャン、君に会えて幸せだよぅ。


「ちょっと休憩しませんか。美味しいものをお持ちしました」


 美味しいものという一言に、カナン殿下の目がキラリンと光った。マリタ王国の滞在期間中で、カナン殿下はマリタ王国の食事の虜になってしまった。カナン殿下の侍従さん達に、嫌いな野菜も残さず食べるようになったと感謝されたよ。8歳にしては我儘も少ないカナン殿下も、苦い野菜は苦手らしい。たんとお食べ。


「な、なんだ。また食べ物か。食い意地の張った女だな」


 一緒にお勉強してたシリウス殿下が赤い顔でわたしに突っかかってきた。なんだ、君もいたのかね。可愛いカナン殿下しか見てなかったわたしは、ちょっと驚いてしまった。


「シリウス。シーナちゃんに失礼なことを言うな」


 ジンさんが怖い顔でシリウス殿下に凄んだ。手に持っているのがフワッフワのシフォンケーキなので怖さ半減だが。

 ジンさんがその筋肉を活かして泡立てたメレンゲのおかげで、フワフワですね。フワフワ。


「じゃあシリウス殿下はケーキ無しで」


「何でだ!いるに決まってるだろう!」


 何でだって、食い意地の張った女って馬鹿にしたからだよ。ジロリと睨んでやると、決まり悪そうに小さな声で謝ってきた。ふむ、素直さに免じて許してしんぜよう。


「シーナ様、これは何というお料理ですか?フワッフワで甘い匂いがする!」


「これはシフォンケーキといいます。こちらは何も混ぜていません。こっちは生地に紅茶を混ぜています」


 侍従さんがケーキを切り分けてくれた。さてさて、久しぶりのシフォンケーキのお味は…美味ーい!


「フワッフワ!フワッフワですシーナ様!美味しい!」


 お口は甘いシフォンケーキで幸せ。視界は可愛いカナン殿下のお姿で幸せ。ここは天国か?

 シリウス殿下も夢中でバクバク食べているが、可愛さはカナン殿下に敵わない。全く遠慮のない食べっぷりだが、喧嘩を売ってきたくせに、少しは遠慮しろと思う。


「美味い!こんなお菓子は初めてだ!」


 ジンさんがバクバクとケーキを食べる。一口がでかい。でも大丈夫、ジンさんの食べる量はちゃんと把握してるからね。


「ジンさん、沢山食べていいからね。料理人さん達にお願いして、一杯作ってもらってるから。みんなの今日のオヤツはシフォンケーキにしてもらったんだ」


 陛下や王妃様や殿下達の分も作ってもらっている。デザート担当の料理人さん達がすごい張り切ってたよ。


 ジンさんはジッとケーキを見てたけど、ニコリと笑った。


「俺の食べる分はシーナちゃんが作ったものだよな?」


「え?!なんで分かるの?」


 わたしは顔が赤くなるのを感じた。ジンさんが食べる分は料理人さん達にお願いして、わたしが直接作ったものを出してもらっている。いや、別に、特に意味はないんだけど。ただ、なんとなく、手料理を食べてもらいたいなぁって。思っただけで、ごにょごにょ。


「分かる。シーナちゃんが作ったものは一番美味い。いつもありがとう」


 ジンさんの唇が頬に触れた。うわぁぁぁぁ!


「じ、ジンさん!!ひ、人前っ!ダメっ!」


「逆に2人っきりの時にやると多方向から怒られる。2人きりの時は出来るだけ我慢するので、人前では許して欲しい」


 ジンさんに真顔で言われた。多方向ってどこ?人前の方が普通は怒られない?


「ジンクレット叔父上!な、なんてはしたない真似を!?」

 

 わたしに負けないぐらい赤い顔のシリウス殿下がギャアギャア喚く。

 いやぁぁぁあ!シリウス殿下に見られてたぁ!恥ずかしいぃ!カナン殿下は仲良しだね!と言わんばかりのニコニコ顔。侍従さん達は生温かい笑顔。死ねる。恥ずかしさで死ねる。


「シーナちゃん、真っ赤になって、可愛いな」


 ジンさんからチュッチュと頬に額に口付けられる。やめてぇ。


 恥ずかしすぎてグッタリするわたしを、いつもの様にジンさんが膝の上に乗せる。段々とジンさんのペースに巻き込まれるのが増えた様な。くそぅ、色気のあるジンさんは苦手だ。



◇◇◇


 〜〜シフォンケーキを作る前に〜〜


「牛乳ですか?」


 訝し気なバリーさんに、わたしは力強く頷く。


「正確には魔物なんだけどね」


 わたしとバリーさんの目の前にはコップに入った牛乳。前にグラス森で狩った魔物と同じ魔物から採れたものだ。


「バリーさんって鑑定できるんでしょ?やってみて」


「はぁ。俺が鑑定魔法持ちってのもご存知なんですね。シーナ様も鑑定魔法が使えるから当たり前か」


 一応秘密にしているので、他言無用だと言われた。鑑定魔法持ちだと知れると、他国の要人に警戒されるんだって。さもありなん。


「へぇ。随分栄養価が高いんですね。背を伸ばす効果ありって、あぁ…」


 そこでわたしを意味あり気に見るな。喧嘩売ってるのか。


「そのまま飲んでも良いんだけど、色々お料理に使えるの!ほら、バリーさんの好きなシチューにも使ってるよ!」


「えっ!そうなんですか?俄然、興味が湧きました」


 背の高さで苦労したことない奴には、牛乳の価値が分からないのだ。くそぅ。


「実は王都にね、この魔物の養殖をしている人がいるの。そこに投資したい!」


「は?」


 この養殖家さんに投資して、優先的に牛乳を卸して頂きたいのですよ。ちなみに、この養殖家さんの情報は、ザイン商会のナジルさんに教えてもらった。


 牛もどき、子どものうちから育てると、とても大人しい性格になるので育てやすいんだって。養殖家さんは牛もどきを食肉用として育てていたらしいんだけど、一部を酪農用にしてもらえるよう、ナジルさんに交渉して貰っている。

 母牛もどきから乳が取れることは知ってたけど、人が飲むとお腹を壊すので、使い途がなかったらしい。多分それ、飲み過ぎだね。


 牛乳があれば、チーズにヨーグルトにバター!いやー、夢が広がるよね!王都内で魔物を育てるなんてという偏見にも負けずに牛もどきを育てていた養殖家さん、ありがとう。どんどん増やしちゃってください。わたしも偏見と戦う!牛乳のために!


「お金はいっぱいあるし、キリも使って良いって言うから使いたい!ダメかなぁ?」


 わたしの言葉に、キリが優しく頷いてくれる。ありがとうキリ。ちゃんとキリの分は残してあるからね!


「はぁ。シーナ様とキリさんのお金なので何に遣おうと構いませんが。あぁ、投資となると相手方との利益分配が…、じゃあ契約は…、牛乳を使った商品の開発もあるわけだから…」


 バリーさんはブツブツと何か呟きながら考え込む。キリがメモをすちゃっ!と構えてバリーさんの言葉を拾って行く。


「うん!分かりました。大まかなやり方は決めましたので、後は相手方と交渉します。うーん、また忙しくなりそうですねぇ」


「ごめんね、バリーさん」


「いえいえ。シーナ様の再生魔法のお陰で、怪我で退役した兵士達が戻ってきまして、その内何人か内務で働きたいと希望を出してくれたんです。元兵士とはいえ、書類仕事の経験もあるので即戦力です!助かりますよ」


 サンドお爺ちゃん達が中心になって研究を続ける再生魔法チームは、怪我で退役した兵士達の中から希望する者に再生魔法を施している。

 そして再生魔法を受けた退役兵士達には時間を置いて数回、再び兵士として働くかの意思確認を行う事を、ジンさんが義務付けてくれた。中には、失った腕や脚が戻った高揚感で、勢いで兵士に戻ると言っちゃう人も居るみたい。後からやっぱり兵士として前線に戻るのは怖いと冷静になるそうだ。そう言う人が、内務に回るらしい。

 ジンさん、わたしの心配している事を解消出来る様に、考えてくれたんだ。やっぱりジンさんって優しくて頼りになるよね。


「じゃあキリさん。大まかな書類作りはやっちゃいましょうか?」


「はい!御指南おねがいします」


 最近バリーさんとキリはよく一緒にお仕事している。苦手だった書類仕事を、バリーさんに教えてもらっているみたい。キリとの会話の中にも、バリーさんの話題がよく出てくる様になった。頑張れバリーさん。巨乳好きでデリカシー無しのイメージを払拭するんだ!


 2人仲良く仕事をする姿を見て、わたしは心の中で密かに応援するのだった。








 



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[気になる点] 牛の養殖ってなんぞ? 養殖とは魚・貝・海藻などを、人工的に育てふやすこと。牛もどきを陸上で育てているなら、当てはまりませんね。 肉牛を育てているなら畜産家、乳牛なら酪農家、主に仔牛…
[一言] 艦艇魔法…強そうだなw
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