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39 頭の痛くなる話

「まあぁぁ!」


 箱を開けると、王妃様とサリア様が頬に手を当てて小さな悲鳴を上げた。


「可愛いわぁ!なんて可愛いのかしら!」


 可愛い物大好きな王妃様が、赤ちゃん用の着ぐるみを手にして悶えている。


「まぁ。小さい。お人形さんのベッドね!」


 サリア様が目をキラキラさせておままごとセットを並べていく。


 リュート殿下は完全に蚊帳の外。男子はあんまり興味ないよね、こういう物には。


「えっと?もしかしてお子様方に気に入ってもらえなかったのでしょうか?」


 赤ちゃんが着ぐるみを着たら泣き止まないとか?いや、赤ちゃんはまだ分からないよね。となると、お姉ちゃんのシャーロットちゃんが気に入らなかったのかな?


「いいえ!シャーロットは『お姉さんになったお祝い』に大喜びしています。プレゼントを頂く前は母親を取られたと泣いてばかりだったのですが、『もうお姉さんだから!』と人形とお揃いのドレスを着て、張り切って弟を可愛がっているんです!この人形も、ちょっと貸して欲しいとお願いしても聞いてもらえず、シャーロットがお昼寝している隙に持ち出したぐらいお気に入りです!寝ている時も中々手放さなくて大変だったんです!」


 ジョゼフさんが力一杯否定してくれました。お、おう、良かったです、気に入って頂けて。


「本当に素晴らしい品々です!それで、これをお作りになったのが、シーナ様だとお聞きしまして」


「まぁ!シーナちゃんが作ったの?」


 王妃様が驚いてわたしに聞くので、わたしは恐る恐る頷いた。何かダメでしたか?


「凄いわ、シーナちゃん!こんなに可愛い物を作れるなんて!」


「凄いわ、シーナ様!」


 キラキラな目で美女2人に見つめられると照れますよ。


「実は私ども、図々しくもお願いにあがりましたのは、こちらの品々を作らせていただいて、販売させて頂けないかと」


「販売?」


 販売って、どういうことでしょう。


「私どもの跡取りの誕生祝いに来ていただいたお客様から、頂いたオモチャや服への問い合わせが殺到いたしまして」


 タイロップ男爵曰く、お祝いにいらした知り合いの貴族様や商売上の取引のある商会の方々に、シャーロットちゃんが張り切ってお姉さんっぷりを見せてくれたのだとか。お人形さん相手にゴハンを作って食べさせたり、ベッドで寝かしつけたり。くぅ、想像するだけで可愛い。それに跡取り息子のアルト君も着ぐるみを着せていたところ、あのオモチャは、あの服はとお客様方から根掘り葉掘り聞かれたのだとか。うちの子、孫にも着せたい、遊ばせたいと大反響だったらしい。


 どうやら着ぐるみやままごとセットは、この国には今までなかったようで。是非うちの商会で取扱いさせて欲しいとのこと。タイロップ男爵家は商会を持っているんだって。


 わたしは別に構わないけどなーと思いながら王妃様に視線を向けると、可愛いとはしゃいでいた時とは全く違う表情を浮かべていた。


「タイロップ。シーナに関する事は全て陛下の許可が必要になる」


 王妃様の威厳の漂う声に、タイロップ男爵とジョゼフさんはハッと頭を下げた。


「勿論、陛下の御裁可に従います」


「うむ。だがこれらの素晴らしい品々を埋もれさせるには惜しい。妾も陛下に口添えいたそう」


「あ、有り難きことにございます!」


「但し、販売するにあたって、シーナについて他言は許さぬ。また、シーナに少しも損があってはならぬぞ。よいな」


「はっ!」


 ちなみに、私の身元は王妃様の遠縁の貴族家の娘となっています。この仮の身元のおかげで、私を害したら王妃様からメッされますよ、と牽制出来るそうです。


 結局、タイロップ家との話は王妃様が全部取り仕切ってくださいました。ありがとうございます。勿論異論はございません。素人の横好きの品々ですので、わたし一人だったらお好きにどうぞと言ってましたよ、多分。


 タイロップ男爵とジョゼフさんは、シャーロットちゃんがお昼寝から起きる前にと慌てて帰って行った。お爺ちゃんとお父さんの溺愛っぷりが伺えて、ホッコリしますね。


 タイロップ男爵たちが帰っていくのを見送っていたら、がっしりとリュート殿下につかまりました。


「よし、シーナ殿。陛下の元に行こうな。リュートお兄様が連れて行ってやろう」


 リュート殿下に腕をホールドされました。右腕の調子が良さそうで何よりですが、何故、陛下の元に?


「あらあら、シーナちゃんは自覚がないのね?」


 王妃様は楽しそう。どうしたんですか?


「まあまあ、シーナ様。私、美味しいお茶を淹れますわ。頑張りましょうね?」


 サリア様がさり気なく反対側の腕をホールド。ニッコリ微笑まれ、可愛いが何故か言葉が不穏!何を頑張れと?


「タイロップ商会か。マリアの娘の嫁ぎ先でしたね。悪い噂は聞いたことはないな」


「なかなか手堅く商売をしていると聞いているわね」


「確かワインや食料品を多く取り扱っていましたわ。子ども用品も取扱う余力があるか、兄と調べてみますわね」


 リュート殿下と王妃様とサリア様に陛下の元へ連行される間、3人はよく分からない相談を続けていた。

 キリに助けてと視線を送ったけど、気まずそうに目を逸らしたよ。仕方ないです、と小さく呟かれた。何が?


 そして陛下の前に連行され、事の次第を説明すると爆笑され、それからイイ笑顔のまま契約やら利権やら頭の痛くなる話に雪崩れ込んだ。

 わたしこういうお話は苦手。バリーさーん、早く帰ってきてー。



◇◇◇


 王妃オリヴィアの視点


 くつくつと笑いを洩らす陛下に、私は呆れた顔を向けた。


「笑い過ぎですよ、陛下」


「そういうな、オリヴィア。あの子が来てから面白いことばかり起こる」


 確かに。あの子と息子のジンクレットが出会ってまだ一季節といったところか。だというのにあの娘ときたら…。


「本当に、良い子。あの子のおかげで、良い事ばかりですわね」


 ここ数日で起こった騒動を思うと、ついつい頬が緩んでしまう。国を蝕む犯罪者を炙り出したかと思ったら、子ども用品を作り出し、またそれも巨万の富を生みそうだ。すでにタイロップ商会は職人やお針子を雇い、量産体制に入っている。貴族や富裕層の商人からの問い合わせも多いらしい。


「あの子ときたら、そんなにお金を貰っても使い切れないと泣き出したんですよ?サリアに慰められて、漸く落ち着いてましたけど」


 あの子の生み出した着ぐるみと玩具は、タイロップ商会が権利を買い取り、商会が専売契約権をマリタ王国に申請し、取得した。今後、似た商品を他の商会が売ろうと思ったら、タイロップ商会に使用料を支払わなくてはならない。

 その契約で得ることになった金額を見て、あの子は喜ぶどころか怯えて泣き出してしまったのだ。


「うん?魔物の香の時も、それなりの額を受け取ったであろう?」


 マリタ王国に来た直後、あの子とザイン商会は正式な契約を交わした。それからは定期的にあの子には遊んで暮らせる額が払われているはずだ。


「そうなんですけどね。あの子、一度買い物に行った以外、使わないんですよ。お金もそのまま収納魔法に入れているみたいで。出入りの商人を呼んであげようかと言ったら、王家御用達の商会なんて怖くて買えないって泣くのよ」


「ふむ。使うことが怖いか。慎重なのは良い事だが、使わんと経済が回らぬと教えてやるか」


「陛下!これ以上政務が滞っては困ります!」


 動き出そうとした陛下を、すかさず侍従と文官が止める。私も文官たちに涙目で睨まれて、大人しく書類に目を落とす。


 あの子が来るまで。

 マリタ王国はどこか暗く重い陰に包まれていた。

 増える魔物。右腕を失ったリュート。我を失い、自分を責め、家族から離れ魔物狩りに没頭するジンクレット。日に日に魔物に対する危機感は増し、王国全体が緊張感に満ちた。恐れのために人々は物資を買い溜め、一部では食糧が高騰し、貧しいものたちに行き渡らなくなり始めていた。備蓄の食糧を放出したとしても、一時凌ぎにしかならない。まだ魔物の影響の少ない友好国に食糧支援を打診していたが、友好国とて魔物の被害が増え始めており、良い結果は得られずにいた。


 それがまるで一陣の風のように。あの子が憂いを払ってしまった。

 ザロスの食用が広まり、飢饉の心配は去った。ザロスは種が落ちるだけでどんな場所でも育つ強靱な植物だ。パンの代わりに食べることもでき、ザロスに合わせた料理も増えている。あの子が作り出した調味料や料理法も瞬く間に王都に広がり、国中に広がろうとしている。食の不安が解消され、民達に笑顔が戻った。

 魔物避けの香で、魔物の襲撃に悩まされていた街や村は今、活気を取り戻しつつある。魔物に怯えずに夜寝ることが出来ることがどれほど凄いことか、あの子はわかっているのだろうか。


 あの子に構って仕事が滞っても、侍従や文官たちは我らに文句を言ってもあの子には優しい目を向ける。あの子のもたらすものの価値もあるが、いつもひたむきで楽しそうなあの子を見ていると、誰もがついつい頬が緩んでしまうのだ。


「本当に、得難き宝よ。さて、ジンクレットは手に入れる事が出来るのか?」


 陛下の楽しそうな言葉に、私は笑みを深める。

 窓の外を見て、時折、寂しそうな溜息をつくあの子の様子なら、それほど心配ないかと思っている。

 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 精米済み、強靭な生命力、旺盛な繁殖力というザロスの設定が飢餓脱出の伏線だったこと。
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