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37 そして事件は解決した

 あまりにラミスさんがうるさいので、ちょっと黙ってもらうため、魔術師さんに沈黙の魔法を掛けてもらう。アラン殿下が連れてきた衛士さんの中に、魔術師さんがいたんだよ。白い歯ピカリンの筋肉マッチョだよ。なぜその筋肉で魔術師なの?


 ラミスさんは声を奪われ、口をパクパクさせて真っ赤な顔で何か言ってる。魔法を掛けてて正解だね。この魔法を掛けるまで、ずっと「ピートは違う」とか、「ジンさんの妃になるサクセスストーリー」を語ってたよ。ラミスさんの語る「ジンクレット殿下」は実際のジンさんとはかけ離れてた。外観は一致してるんだけど、氷の王子とか、孤高の天才とか、誰のこと?やっぱり恋人じゃないのか。しかし、あのジンさんをよくこんなに美化できるなぁ。どこ見たらこんな人物像になるのさ。よく分からん。わたしから見たジンさんはガチムチヘタレライオンだし。


 さて、ラミスさんも静かになったところで、真犯人への尋問をしましょう。2時間サスペンスばりに証拠を突きつけてやりたいけど、証拠は鑑定魔法しかないので、尋問というよりは、後は捕縛と連行だな。崖の上での告白タイムは残念ながらありません。一番の見せ場なのに。


「そこの男、ピートといったか。ガードック、身元は?」


「はっ。昨年から情報部に所属しています。ライン村出身、実家は農家です。採用時の成績は非常に良く、今年からはラミスと同じ部署で働いております」


「ほう、平民出身で諜報部採用とは。よほど優秀なんだな」


 王宮で働くには採用試験があり、頭脳派を揃える諜報部は難関部署なのだとか。よっぽど優秀なんだね。

 でもさっきから鑑定魔法さんが、モジャモジャ髪の男の横に注意!身分詐称!ってデカデカと書いてあるなぁ。あ、それとこれは物証になるかしら。


「アラン殿下。あの人のズボンの右のポケットに隠しポケットがあって、そこに違法な薬草?えーっと、ベルナ草を乾燥させた物を入れてるよ」


「ベルナ草だと?衛兵!」


 途端に逃げ出そうとしたモジャモジャ髪の男に、衛兵達が飛び掛かる。呆気なく床に押し倒され、モジャモジャ髪の男は獣みたいな声を上げた。


「くそぉおおぉおお!離せぇ!」


 モジャモジャ髪の男の抵抗は何の意味もなかった。衛兵さん達は目当てのものをアッサリ見つけたからね。

 白い紙に包まれた薬草が5包。アラン殿下が一つ開けて中を確認する。


「間違いない。ベルナ草だ」


 アラン殿下が鬼の形相。

 鑑定魔法さん曰く、ベルナ草は所持も栽培も許されていない薬草なんだって。摂取すると気分が高揚し、疲れを感じなくなったり、幸福感が得られるけど中毒性があり、やがて身体をボロボロにする。前の世界の麻薬みたいなものかー。かなり昔には軍で回復薬として使われていたようだけど、廃人になる兵士が後を絶たず、禁止薬草になったようだ。


 他にもこんな禁止薬草があるわよ!と鑑定魔法さんの蘊蓄が始まりそうになったが、今はちょっと忙しいのでと断る。他の禁止薬草は知りたいけど、今はモジャモジャ髪の男の処遇についてだからね!


 アラン殿下に聞くと、この禁止薬草は、所持しているだけで終身犯罪奴隷落ち、売買してたら極刑だそうです。異世界は厳しいね。


「離してくれ!その薬草は、違うんだ!ら、ラミス先輩から預かってたんだ!俺は違う!違うんだぁ!」


 ラミスさんが目を見開いてモジャモジャ髪の男を見ている。信用していたみたいだからね。その分、裏切られたときの衝撃は大きいんだろうね。


「鑑定魔法持ちの前で、嘘ついても意味ないよ?」


 わたしはモジャモジャ髪の男の前にしゃがみ込んだ。気弱な表情を浮かべてアレコレ言い訳をする男に、視線を合わせる。


「ねえ、ピートさん。ああ、違った、()()()()()()ライアンだよね?従兄弟のピートは()()()()()()()?」


 モジャモジャ髪の男が絶句し、目を見開く。その顔に、驚愕と恐怖の色がありありと浮かぶ。


「な、なんで、なんで、なん」


「他にもあなたが手にかけた人、全部名前を挙げようか?」


 鑑定魔法さんがデカデカと被害者名を表示してますよ。「大陸一の大悪人!」とか、「史上稀にみるクズ!」とかのポップアップと共に。でも「指にササクレあり!」は要らない情報だと思うの。張り切ってるね、鑑定魔法さん。


「ば、化け物!化け物だぁ!」


「失礼な。大陸一の大悪人に言われたくない、心外」


 こんな可憐な美少女に対してなんてことを!


「シーナ殿、もうそれぐらいで」


 アラン殿下がわたしを引き離す。心配そうに覗き込まれたけど、別にヤツに何を言われたからってダメージはゼロですよ?


「衛兵、その男を連れて行け。そっちのラミスも取調べる。ガードック子爵、息子のルイも事情を聞きたいので同道せよ。暫くの間、諜報部は副長官の管轄下とする。他の者は仕事に戻っていい、但し、この部屋の中で見聞きした事を外部に漏らせば、国家反逆の意思ありとして厳しく処罰する、心せよ!」


 居並ぶ全員が引き攣った顔で頷く。ちなみに国家反逆罪は一族全て極刑だそうです。怖ー。前にカイラット街で令嬢たちに、ジンさんが国家反逆の疑いって言ってたけど、あれ止めてて良かったわー。令嬢の見当違いな嫉妬で一族が滅んだら大変だよ。


 部屋を連れ出されるラミスさんが、わたしを凄い形相で睨み付けていたのが印象的だった。わたし恩人なのに、何故睨まれるのか、解せぬ。



◇◇◇


 その後の取調べで、ピートことライアンの素性が分かった。鑑定魔法さんが教えてくれた通り、ライアンとピートは従兄弟同士だった。従兄弟だけあって外見は良く似てたみたい。ライアンの両親は彼が小さい頃に彼を置いて何処かへ行ってしまい、彼はピートの両親に育てられた。幼い頃から優秀だったピートに比べられ、ライアンの素行は段々と悪くなっていったらしい。

 ピートの両親が亡くなり、王城の登用試験に受かったピートは、同じく王都に仕事を探しに行くと言う従兄弟のライアンと共に、生まれ故郷であるレイン村を旅立った。昔からピートを妬み、憎んでいたライアンは、王都までの道のりの間にピートを殺し、ピートに成り代わって王城で働き始めたという。

 ライアンは最初、人生をやり直すつもりで、ピートとして普通に働くつもりだったという。しかし試験に受かったのはあくまでも優秀なピートであり、ライアンは諜報部で働く能力も足りず、すぐに落ちこぼれた。その上、真面目に生きたこともなく、金遣いも荒い彼が再び悪事に手を染めるのは時間の問題だった。


 ライアンは、あの偽騎士達だけでなく、他の犯罪組織や他国の組織とも繋がりがあったようで、だいぶ厳しく取り調べられている。違法薬草の販売もしていたから、極刑は確実らしいけどね。


 ラミスさんは取り調べの結果、ライアンとの関係は唯の同僚であり、組織との繋がり等はないと証明された。ただ、ラミスさんからライアンへ流れた機密情報も幾つかあり、その責任を取ってガードック子爵家の3人は諜報部の職を退くことになった。子爵家はそのまま存続を許されたので、寛大な処置らしいよ。

 

 イケおじのガードック子爵からは直接、丁重なお礼を頂いた。ガードック子爵家が存続を許されたのも、わたしがラミスさんの無罪を信じてくれたからだと仰ってましたが、わたしは別にラミスさんのことなんて全くこれっぽっちも信用はしてない。ただ罪は犯してないので、そう言っただけ。楽しい買い物に水を差された恨みは深い。嫌いだ、あんな奴。


 ラミスさんは、マリタ王国で一番厳しいといわれている修道院に行くことになった。修道院に入るということは、世俗から離れるということ。貴族籍から抜け、ただの修道女、身分は平民になるらしい。

 

 元々、学校の成績や採用試験の成績が良く諜報部に配属になったが、傲慢で人を見下す性格が災いして人間関係が上手くいかず、孤立していたようだ。ガードック子爵が縁談を進めようとしてもあの性格のせいでお断りされ、縁遠くなっていたみたい。確かに、この世界では22歳のラミスさんは、行き遅れと言われても仕方ない。この世界で女性は15〜17歳でお嫁に行くからね。

 わたしも婚活頑張らなきゃ。キリの相手も早く見つけなきゃね。

 

 この事件は勿論、陛下や王妃様の知る所になった。しかもわたしがあの後疲れて寝込んでしまったせいで、陛下と王妃様が心配してお仕事そっちのけでわたしの元にいるもんだから、仕事が滞った侍従さんや文官さん達がサンドお爺ちゃんに泣きつき、わたしの回復魔法の使用許可が出た。

 いきなり回復魔法を止めるんじゃなくて、体力をつけながら徐々に使用回数を減らしましょうという緩やかな方針になったのだ。

 回復魔法がないと起きていられる時間が極端に少なくなるので、本当に嬉しかったよ。わーい。

 まあ、頼りすぎるのは良くないので、体力づくりを頑張りますよ。


 




 







 







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― 新着の感想 ―
イケおじ子爵のその後の対応見るに、娘の育て方間違っただけでちゃんとした人だったね。 でも、爵位を守れたとはいえ元諜報部だと今後の扱いに困ると思う。国にとって重要な事知りすぎで国外に出せないから秘密裏に…
[一言] 自分もラミスみたいな人間だから、読んでていたたまれない…
[一言] 今更どうでもいい細かいことだけどベルナ草の使い道は薬効を見る限り所謂「戦闘薬」かと 恐怖心を抑えて戦闘に関する諸々の忌避感を軽減する麻薬
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