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33 ザイン商会

 王都を走る馬車の中。非常に気まずい沈黙が続いております。


 一応ね、わたしに向ける視線が冷たくてもさ、一応、護衛をしてくれるというのだから、礼儀は尽くすべきだと思ったんだよ。だからラミスさんにはちゃんとご挨拶したよ?本日はお世話になります、よろしくお願いしますってね。

 

 それで返ってきた答えが「急なことでしたので、至らない点もあると思いますが、ご容赦ください(いきなり護衛とか言われて迷惑なんですけど、この忙しい時に)」だった。イラッとした顔を隠しきれてなかったよ。ちなみに( )内はわたしの想像だけど。


 王城を出て、馬車の窓から見える景色にわたしはワクワクしっ放しだった。キリとあれはなんのお店かな?あれ可愛い!と大はしゃぎしてた。だって、初めて来た時は素通りだったし、ようやく!念願の!お買い物&観光なんだよ?多少舞い上がっても許して欲しい。


 しかしラミスさんはよっぽど面倒臭いのか、わたしの質問にも「あー?なんの店ですかね?」「ちょっと平民の行くような所は興味ないので…」とつまらなそうに言うのみ。


 楽しいショッピングのつもりだったので、完全に水を差された気分。時々鼻で笑ったり、これみよがしなため息をついたり…。全然楽しくなーい。いらん、こんな護衛。精神的な護衛がわたしの精神を削ってどうするんだ!

 わたしに対する態度で、キリの警戒レベルも一気に跳ね上がる。キリは表面には出しませんよ。うちの子、出来る子なので。ちゃんと貼りつけたような笑みを浮かべてました。


 王様からラミスさんへは、わたしたちのことは王妃様の遠縁の貴族家のもので、王都から離れた領地から初めて出て来たと説明されているはず。王都の案内も仕事なのに感じ悪いなぁ、この人。さて、どうしよう。素直に帰れって言っても聞いてくれなさそう。


 そして行きの馬車の中。わたしはラミスさんをどうやって排除するかを考え沈黙、キリは張り付いた笑みのまま沈黙、ラミスさんは明らかに面倒臭そうでイラついて沈黙というギスギスした空間になってしまった。これみよがしなため息、やめてよー。


 わたしは暫く考えていたが、キリに耳打ちして行き先を変えることにした。最初は侍女さん達オススメの服屋さんに行くつもりだったのに、クソー。


「ザイン商会にお願いします」


 キリが御者さんに行き先を告げる。それを聞いたラミスさんが、馬鹿にしたような目を一瞬こちらに向けた。田舎の貴族の娘が王都一の商会でお買い物ですか、お上りさんねぇという声が聞こえた気がした。被害妄想か。


 馬車がザイン商会に着いた。他のお店に比べて大きな建物。入口も上品かつ高級感が漂っている。一見さんお断り感が満載。生まれも育ちも根っから庶民のわたしは、思わず尻込みしてしまった。初めて来たんだもん。入っていいのかなぁ。


「大丈夫ですよ、シーナ様。私も何度かこの商会を利用したことがありますので。それほど緊張なさることはありません」


 ラミスさんが丁寧だが、馬鹿にしたように言う。貧乏人が背伸びして高級店に行こうとするからこうなるのよと言いたげだ。


「シーナ様。わたくしが…」


 キリが建物を見上げてポカンとしているわたしの代わりに、ドアを開けようと手を伸ばす。しかしその手が届く前に、静かにドアが開いた。


「いらっしゃいませ、ラミス様、シーナ様。お待ちしておりました」


 ピシッと高級そうな服を着た店員さんが、ドアを開け深々とお辞儀をしてくれた。


「ご来店をいただき、光栄にごさいます。すぐに会長も参ります」


 ラミスさんは店員さんとも顔見知りなのか堂々としたもので、わたしとキリは彼女の後を静かに付いていく。

 広めの応接室に通され、しばし待たされた後、商会長がやってきた。


「お待たせしました。わたくしが商会長のナジル・ザインでございます」


 30代前半ぐらいの、穏やかな雰囲気のお兄さんが、ニコニコと微笑みながら挨拶してくれた。初めまして、ザインおじいちゃんの長男さん。


「本日は王妃様のご紹介とか…。我が商会をご利用いただき、ありがとうございます」


 ナジルさんが伝令魔法でお願いした通りの設定で口裏を合わせてくれる。馬車の中で頑張ってお手紙書いた甲斐がありました。字がガタガタにならなくて良かった。


「いいえ!一度こちらでお買い物するのが夢だったんです!」


 わたしは両手を胸の前で組み、わざとらしく感激したように話す。本当はもうちょっとチープなお店が好みです。


「ラミス様もご無沙汰しておりました。また御来店いただきありがとうございます」


「いいえ、本日はよろしくお願いしますね。あまり王都に慣れていない方たちなので」


 ラミスさんはため息をつきながら、やれやれといった表情。はいはい、田舎者の相手は大変なんですよね、お疲れ様です。


「本日はごゆっくりお買い物いただけますよう、当商会でも専門の案内人をご用意いたしました。よろしければ、王都の観光や他の商会にもご案内させましょう。我が商会で取扱いのないものもいくつかございますので」


 ナジルさんが側に控えていた女性に合図をする。ニコニコ笑顔が可愛い店員さんが、ペコリと頭を下げた。


「ローナと申します。本日はよろしくお願いします」


「シーナ様とお年も近いため、お役に立つかと思います」


 微笑んだまま、ナジルさんがラミスさんに向き直った。


「ガードック様は大変お忙しいことと存じますので、もし宜しければ、シーナ様のご案内は当商会でお引き受けいたしましょう」


 表面的には親切そうに、内心は田舎者のお守りは大変ですね感を出しながら、ナジルさんは意味ありげにラミスさんに目配せする。途端に、ラミスさんが満面の笑みを浮かべた。


「あら!ナジル会長からご紹介いただける方なら、私などより王都に詳しい方なのでしょうね」


「ガードック様に比べれば未熟でございますが、ご満足いただけますよう精一杯務めさせて頂きます」


「まあ、ありがたいわ。シーナ様、申し訳ありません。私この後仕事に戻らなければなりませんので」


 ラミスさんが表面的には申し訳なさそうに、しかし嬉しさは隠しきれずにそう言った。あらー。


「まぁ、お忙しいところ申し訳ありません。どうぞお仕事にお戻りになって」


 わたしが申し訳なさそうに言うと、ラミスさんは挨拶もそこそこザイン商会を後にした。うむ。ご苦労。


「っはー。やっと帰った!」


 ソファにダラリと行儀悪くもたれていると、テーブルに山盛りフルーツの皿や、宝石のような小さな焼き菓子を乗せた皿、香り良いお茶が出される。うん、美味しそう。

 お行儀はキリにメッされたのですぐにシャキッとしましたよ。


「大変でしたね」


 クスクス笑いながら、ナジルさんがそう言って慰めてくれた。


「伝令魔法で案内人を上手く帰したいからお芝居をお願いしますと言われて驚きましたよ。父から聞いていた通り、突飛なことを思い付かれる」


「初対面にも関わらず、無茶なお願いをして申し訳ありません」


 わたしは深々と頭を下げて謝った。ナジルさんとは、伝令魔法では何度か取引のことでやりとりしているとはいえ、さすがに無茶振りだったと思います。反省。


「とんでもないです。カイラット街には私の弟一家と大事な従業員がいるのです。カイラット街の恩人のお役に立てたのなら光栄ですよ。それにわたしもお芝居を楽しませていただきました」


 茶目っ気タップリにウィンクするナジル会長。年上だがなんだか可愛いな。

 初めて会うナジル会長は、ザインおじいちゃんにはあまり似てなかった。お母さん似なのかな。柔らかな顔立ちの優しそうな人だ。


 ザインおじいちゃんはナジル会長のことを、まだまだ尻は青いが後数年したらワシみたいに大商人になるぞい!と自慢してた。早くいいお嫁さん来ないかのーと心配もしてたけど。まだ独身&彼女なしなんだって。


「ガードック様、帰ったら怒られるでしょうねぇ。戻ってくるかもしれませんから、早めに店を移動した方がよろしいですよ。ローナに案内させますので、王都の観光を楽しんでいらして下さい」


「え?でも、ザイン商会でもお買い物…」


 さ、さすがにここまでお世話になっておいて、何も買わないのは気が引けます。


「シーナ様はもう少し気楽な店の方がお好きでしょう?お城の侍女さん達オススメのお店にも行きたいでしょうし。ウチでのお買い物は、ジンクレット殿下(お財布)が帰っていらしたら一緒にいらして下さい」


 ナジル会長の笑顔が黒いー。王族をお財布って言いきってる!そして庶民なわたしがバレているし、なんで侍女さん達オススメのお店を知ってるの?

 なんたる情報通。ラミスさんよりよっぽど諜報向きだよ、ナジル会長。


「シーナ様!今日は沢山楽しいところにご案内しますね!」


 ローナさんがきゅっとわたしの両手を握ってニコニコ言ってくれます。実は彼女とは顔見知り。ローナさんはカイラット街のザイン商会で働いていたのを、おじいちゃんが気に入って王都に引っ張って来ちゃった人。明るくて可愛くてバイタリティに溢れ、仕事も出来てセンスもいい!今日の案内人にピッタリ!

 カイラット街でわたしやキリともすぐに仲良くなった。だって凄い頼りになる可愛いお姉さんなんだもん、大好き。


 そう思っているのはわたしやキリだけじゃなさそうだわー。ナジル会長のローナさんを見る目が、なんとなく、ねぇ。


「ローナさん。王都で素敵な出会いはありました?」


 カイラット街で恋バナもしたので、ローナさんにワザと聞いてみる。あの時は恋人、ナイナイって言ってたけど…。


「まだこっちに来たばかりで仕事を覚えるので精一杯ですもの。王都の他のお店にも、ようやく顔が繋げるようになったばかりだし!今は仕事よ!恋はまだまだ!」


「そーなんだー」


 チラッと見るとナジル会長はあからさまにガッカリしていた。全く意識されてないもんね。頑張れ。

 わたしと目があってニヤリと笑うところをみると、諦める様子はないみたい。時間の問題か。


 お買い物も楽しみだけど、恋が進展するかも楽しみ。

 わーい!今日は根掘り葉掘り聞いちゃうぞー!









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― 新着の感想 ―
[一言] 陛下、発想は良かったけど人選が最低だった。諜報部自体の質が低いとは思いたくないが、その可能性もありそう。 どこの国でも短所があるってことかな。 王族と婚姻しなくてもどうにかなるような気がし…
[一言] どんなに田舎の下民だろうが諜報員ならどんな人間か把握してないのは戦力外でしょ(笑)
2022/01/23 22:16 退会済み
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