94 各国の状況
お待たせしてすみません。
定期投稿を目指したい。
さて。順調に進んでいるグラス森への行軍だが、ここで各国の状況はというと。
まずマリタ王国勢。士気も高く、やる気に満ち溢れている。サイード殿下が総大将、リュート殿下、ジンさんが補佐に付いて兵たちを纏めているため、指揮系統の乱れ無し。物資も満タン。行軍中は魔物除けの香のお陰で魔物が出ても効率よくフルボッコ。大変順調でございます。
次にナリス王国。大将はプライベートは残念だが仕事は出来るシャング伯爵の元、兵たちの統制もとれ、乱れは無し。偶に距離感ゼロで迫って来る感じが嫌だが、行軍に影響はなし。わたしの気力が地味にそがれるだけだ。
その次はヤイラ神国。王甥であり、戦う神官であるヤイラ・デイス様に率いられた神官兵たち。皆様、神職に就いているだけあって、行軍中も粛々としている。でも持ってる武器が一番えげつないんだよね、あの人たち。神の使いたちは、どんな戦い方するんだろう。こちらも何の問題もなし。
ええ。最後はガトー王国ですよ。
こちらは大将が一応、アルフォス・ガトー殿下。実質はシルド卿。兵の大半はシルド卿に心酔する、やや年齢層高めな方たち。その中に一部、アルフォス殿下の取り巻きの下位貴族の子弟たち。アルフォス殿下の腰ぎんちゃく的存在で、殿下の都落ちに連座した奴らだ。シルド卿の率いている兵たちはピシッとしているのだけど、腰ぎんちゃくたちはねぇ。やる気もないし、ビビッてへっぴり腰だし。逃げ出したいけど、隊から離れたら魔物と戦えないと分かっているから、それも出来ずに始終、弱音を吐いている感じ。
総合的に見て、アルフォス殿下以下腰ぎんちゃくたちが足手まといの、少々問題のある隊ですね。
各国の関係は、マリタ王国に好意的なのがナリス王国、ヤイラ神国。一応、友好国だから、ガトー王国とも付き合いはあるけど、対応は素っ気ない。協力体制ではあるけど、馴れ合いはしないぞという、面倒な感じですね。
わたしに至っては、兵士たちから睨まれるし、ちょっと接近しようものなら舌打ちされる。感じ悪っ。よっぽど、『平民の聖女』が嫌いなんだなぁ。わたし、聖女は辞めたし、もう平民じゃないの。お年寄りばかりだから、記憶をアップデートするのが難しいのかもしれない。
ガドー王国の態度は、わたしに対するような酷いものではないけれど、ナリス王国、ヤイラ神国に対しても概ね同じだ。協力体制をで結ばれた連合軍な筈なんですけど。
こんなツンツン具合でガトー王国は大丈夫かとサイード殿下に聞いてみたのだけど。『奴らはグラス森を死に場と考えている。そう望むなら精々利用するだけだ』と怖いお返事を頂きました。イヤ、ダレモシナセタクナインダヨ。コワイヨ、ケンリョクシャ。
なので。ナリス王国やヤイラ神国の兵たちとは、食事の時なども、お互いにわいわいと交流を図っているけれど、ガドー王国は自分たちで固まって携帯食を食べていらっしゃいます。
以前、食べた事があるけど。携帯食って美味しくないんだよね。固い乾パンと、ぼそぼそした干し肉。あれが毎食続いたあと、さぁ頑張れ討伐ですよって、酷いよね。やる気なんて出ないよ。
いや、ダイド王国に居た時は、もっとひどい食事事情だったけどさ。飽食日本の記憶が戻った後は、絶対に無理。
それなのに、ガドー王国の皆さんは、わたしが無遠慮に美味しい匂いをプンプンさせて料理していても、鋼の意思で携帯食を食べていらっしゃる。『戦場とはこういうものだ』と、言わずとも背中で語っていらっしゃいます。
ただし、アルフォス殿下以下腰ぎんちゃくたちは、仲間にして欲しそうにこっちを見ている。気づかないふりをするけどねっ。
それでも、ガドー王国も魔物除けの香や魔力剣は使っている。さすがにそこまで意地を張られても困るから、使ってもらった方がいいけどさ。それ提供したの、マリタ王国側なんだから、睨んでばかりいないで少しは態度を軟化させてくれてもいいんじゃない?
「シルド卿は、戦場で長く戦ってきただけあって、経験は豊富なのだが……。なんというか、昔気質な武人なのだ」
ジョルドお義兄さまが、わたしの馬車に馬で並走しながら話してくれたことによると。
シルド卿はガドー王国で英雄と呼ばれているが、若い兵からは敬遠されているらしい。戦場での経験が豊富であるがゆえに、昔ながらの戦い方に固執し、新しい戦法や、魔法などを取り入れる事が少ないのだという。効率を無視して、力業、根性、忍耐力で乗り切れという、時代錯誤な戦法なのだとか。
昭和の体育会系サラリーマンみたいなもんかしら。足で稼げ。残業喜んで。飲みにケーション最高。みたいな。若人には理解できないよねぇ。だからシルド卿の部下たちは、結構お爺ちゃん、いえ、経験豊富そうな人が多いんだな。
「昔気質でも、シルド卿は強いぞ。学園の討伐実習で何度か戦いぶりを見たが、現役の兵に劣らぬ強さだ。学園一の剣士である先輩も、シルド卿にはまるで歯が立たなかったからな」
その先輩にコテンパンにされていたジョルドお義兄さまも、もちろん勝てないそうです。どちらかというと、文官肌ですもんね、ジョルドお義兄さまは。
「これだけの人数がいるんだ。皆が仲良く、協力してというのも難しいだろう。シーナもあまり考えすぎるな。どうするかは、サイード殿下がお考えになるだろう」
ジョルドお義兄様に、子どもにする様にぽんぽんと頭を撫でられ、慰められたけど。
そのサイード殿下が怖いから、色々考えこんじゃう事になるんだよ?
◇◇◇
「国の命運が懸かった討伐を……。マリタ王国は何を考えているのか」
ガドー王国の陣営では、日に日に、不満の声が漏れつつあった。
ガドー王国の兵たちは、シルドに心酔する生粋の戦士ばかりである。シルドと共に戦場を駆け抜けてきた、強者。今回の討伐は、シルドから直々に、『国を守るために、最後の奉公としてその命を預けてくれんか』と頭を下げられ、感涙に咽びながら頷いた者たちばかりだ。
名目上、第3王子が総大将ではあるが。彼がお飾りでしかない事は分かり切った事だし、彼の命に従うような者は、シルドの部下にはいない。表面上は王族として丁寧に扱ってはいても、失態を犯した王子に向けられるのは冷めた視線ばかりだった。
そんな、いびつな形ながらも参加した各国が協力体制をとる大討伐隊。
彼らの死に場所となるべき栄誉あるその舞台は、歴戦の戦士である彼らにとっては全てが軟派に感じることばかりだった。
若い兵士が多い大討伐隊だけあって、兵士たちがどこか浮ついていて軽々しく。
討伐の筆頭であるマリタ王国に至っては、遠征という自覚がないのか、やたらと荷物が少なかった。
これほどの規模の討伐であれば、マリタ王国が準備している3倍の準備が必要である筈なのに、討伐を舐め切っているとしか思えないような軽装ばかりだ。
確かに、マリタ王国が準備した魔道具や魔物除けの香は、兵士の力量を底上げする有用なものばかりであるが。それすら、長く兵士として務めるものにしてみれば、道具に頼りすぎているように見えた。
どれほど良い武器や防具を身に着けていたとしても、結局、最後に頼りになるのは己の身体であることを、熟練の兵であるほど、経験上、理解しているものだ。
極めつけは、討伐隊に女性が加わっている事だった。
戦場に女など。規律を乱す最たる原因だと、ガトー王国の者たちは思っていた。
しかも、連れて行くのはマリタ王国の第4王子の婚約者。平民出身の聖女であり、マリタ王国で多くの功績をあげているらしいが、そんなものマリタ王国側が作り上げた虚構だろう。マリタ王国の第4王子といえば、魔物狂いと呼ばれ、王族としての資質も問われている。そんなどうしようもない王子が選んだ女が、本物の聖女なわけがない。
なによりも、今のガドー王国の者たちにとって、『平民の聖女』は毒婦と同義だ。その当事者である国を乱した王子が、今回の討伐隊に参加している事も、兵たちが『平民の聖女』に対して深い嫌悪感を持つことに拍車をかけていた。
マリタ王国の陣営でちょこまかと動き回る『平民の聖女』と、それに付き従う、やたらと立派な魔力剣を持った女従者を垣間見ては、ガドー王国の者たちは侮蔑の表情を浮かべていた。
マリタ王国の王族たちだけでなく、ナリス王国やヤイラ神国の重鎮たちまで、『平民の聖女』をちやほやと囲んでいるのも許しがたいものだった。
シルドが兵たちに『マリタ王国側に干渉するな』と厳命していなければ、気の短い兵などは、『戦場を遊び場と勘違いするな』と、手が出ていたかもしれない。
国の為に、死を覚悟してこの討伐に臨んだというのに。
ガドー王国の兵士たちの間で、静かに不満や鬱憤が溜まりつつあった。
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