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90 決闘だ! 2

投稿が遅れてすみません。

 艶やかにバリーさんの剣を断ったキリは、その辺に落ちていた枝を拾い上げた。

 ちょうどキリの愛剣ぐらいの長さで。えー。まさか。


「私はこれでお相手いたします」


 キリが枝を片手に、ヒュンヒュンしならせながらそういうと、アルフォス殿下が激高した。


「お前、私をバカにしているのか?」


「いいえ? 私はこちらで戦います。殿下に有利なのですから、お怒りになる必要はないのでは?」


 いくら怒鳴られても、キリは全く相手にしない。アルフォス殿下が、憎々し気にキリを睨みつける。


「……女だからと言って、見逃してもらえるなどと思うなよ!」


 いや。手加減してもらっているのは貴方の方ですよ、アルフォス殿下。刃をつぶした剣でも、キリだったら大けがさせる可能性があるから、その枝を選んだんだと思うよ。

 王族だからって、見逃してもらえると思うなよー。キリのあの目は本気だからな。


 ついついっとジンさんの袖をひき、コソッと話しかける。


「ジンさん、骨折ぐらいなら、すぐに治せばバレないよね?」


「それぐらいは、剣の鍛錬中なら良くあるな」


 ジンさんが頷くのに、ほっと息を吐く。


「良かった。どんな怪我でも、骨折だったと誤魔化せば、大丈夫だねっ!」


 圧倒的にハンデをつけた状態とは言え、これからキリと打ち合うんだもん。瀕死の重傷だと凄い痛みがあると思うし、骨折してましたよー、と誤魔化して回復魔法をかけたら、バレないよね。結局は治すわけだし。


「さすがに腕や脚を斬り飛ばしたら誤魔化せないから、そこはキリに加減してもらわなくちゃ……」


 いや、さすがに木の枝で斬り飛ばす事は無いか、いや、キリだしなぁと。事後のフォローをシミュレートしていたら、バリーさんがデレデレ顔を引き締めて、近づいて来た。


「シーナ様、骨折レベルでも大問題です。相手は王族ですよ?」


「えぇー。決闘だって言ったのはあっちだよ? 怪我する覚悟ぐらい、しているでしょう」


「弱いと思っている女性相手に本気で剣を抜く輩が、そんな覚悟しているわけないですよ。いくら国に見放されている王子だって、魔物にヤラれた名誉の戦死と、他国の侍女にヤラれた無駄死じゃあ、天と地ほど扱いが違います」


「ええー。そんなの知ったこっちゃないし」


「サイード殿下に確実に怒られますよ」


「ソレハシンチョウニタイショシナクテハイケマセンネ」


 今のサイード殿下(魔王)を煩わせるなんて、丸腰でマフィアに挑むようなもんだわ。


 仕方なく、私はキリにイヤーカフで指示を出す。


「キリ。サイード殿下を怒らせない程度に留めてね」


 我ながらフワッとした指示だと思ったけど、キリはやっぱり出来る子なんですよ。


「心得ております、怪我はさせません」


 キリの言葉に、わたしとバリーさんはほっとしました。ジンさんはいい手合わせが見れると思っていたのにと、ちょっと不満そう。脳筋め。


 キリは懐から何かを取り出して、枝に塗り付ける。あれ? あれは前にキリと買い物した時に買った口紅かな? 貝殻の入れ物に入った、可愛いやつ。ローナさんとキリとわたしの三人、お揃いで買ったものだ。中身が無くなったら、お店に持っていけば補充できるようになっている、エコな商品だ。


「ふっ」


 ジンさんがキリが枝に口紅を塗っているのを見て、笑いを漏らす。


 キリとアルフォス殿下が、向き合った。どうやら側近たちではなく、アルフォス殿下本人が戦う様だ。


「それでは両者、準備はいいか? はじめっ」


 ジンさんの声に、アルフォス殿下が大きく剣を振りかぶって踏み込んできた。身体がぶれる事もなく、無駄な動きもない。思っていたよりは、強そうではあるけど。

 剣術は素人なわたしが見てもわかるぐらい、教科書通りの綺麗な動き。学生同士の試合なら、勝てるかもしれない。


 わたしの目には、キリが消えたように見えた。


「えっ」


 踏み込んでいったアルフォス殿下も、突然いなくなったキリに、戸惑いの声を上げた。


「それまでっ!」


 ジンさんが声を上げる。


「勝者、キリ」


 ジンさんの言葉に、わぁっとマリタ王国の兵たちの歓声が上がる。え? もう終わったの? 

 キリは、アルフォス殿下の後方に立っていた。あれ、あの位置って……。

 

「……っ! どういうことだ、ジンクレット殿下! 身内びいきするつもりか?」


 顔を真っ赤にしたアルフォス殿下が、ジンさんに喰って掛かる。


「身内びいき? 何のことだ」


「身内びいきだろう! 一合も打ち合わないうちに、あの侍女が勝者などとっ!」


 ジンさんは悪い顔で、にやりと口角を上げる。


「色男。首筋に紅がついているぞ」


「はぁ? 何を言って……」


 アルフォス殿下がジンさんの言葉で自分の首に触れ、その手ついた口紅に、愕然としている。


「俺にはアルフォス殿下の剣を躱したキリさんが、すれ違い様に殿下の頸動脈を切って、返り血を浴びない位置まで移動したように見えたが?」


 うん。わたしも、あのアルフォス殿下との距離の取り方は、キリが魔物を倒すとき、返り血を浴びない様に動くのと同じだと思いました。グラス森では散々見た光景です。着替えもないのに返り血を浴びたら、洗濯が大変だったんだもん。そりゃあ、返り血を浴びないための回避行動に、磨きがかかるよね。


「……そん、な、俺が、負けた?」


 むしろ勝てると思っていた方が凄いよ。キリだよ? 相手はキリなんだよ?


「つ、次は、俺が相手だ!」


 どうやらジンさん同様、キリの動きが()()()()()()()()()騎士団長の息子が、青い顔でキリの前に立つ。見えていたのに挑むのか。無謀じゃないか? 負けっぱなしでは引き下がれないのかもしれないけど。


 そんな騎士団長の息子君は、両腕、両足の腱の位置に口紅をベッタリ付けて、力なく地面に突っ伏する結果に。アルフォス殿下同様、一瞬の間に勝負はついていましたよ。


 魔術師団長の息子君もねぇ。一応、キリの前に立ったんだけどさ。

 詠唱しようと口を開いた途端、その口に真横に一本の口紅の線が。でも、痛みも衝撃も与えず、とてもマイルドな勝利でした。

 うん、そうだね。詠唱させない様に口を狙って切り裂くのは、魔術師相手にとてもいい戦法だと思うのだけど。魔術師団長の息子君、呆然自失だよ。容赦ないな。さすがキリ。


 物足りなそうな顔で、枝をヒュンヒュンさせて周囲を見渡すキリ。あれほど熱狂していた兵たちが、全員そっぽを向いて気づかないふりをしている。そうか、応援はするけど戦いたくはないんだね。大事な討伐前に、心を折られるのは、誰だって嫌だもんねぇ。


「よし、それでは俺が相手を……」


 ジンさんが適当な枝を手に、キリの前に立つ。キリがパアッと顔を輝かせた。うん、ようやく手ごたえのある相手が来たぞ! って顔をしていますね。可愛いけど。キリ、貴女も脳筋なのね。


 兵士たちは先ほどの素知らぬ顔はどこへやら。熱気を取り戻し、やんやの喝采を上げている。うむ、見ごたえのある試合になりそうですな。あ、どっちが勝つかの賭け事が始まっている。おお、ジンさんとキリ、予想ではどっちもいい勝負。バリーさんは清々しいぐらい、キリ一択だよ。忠誠心はどこにいったんだ。わたしはどっちに賭けようかなー。


「……ほぉ。随分と盛り上がっているな」


 賭けに参加するための小銭をポケットから取り出そうとしたら、背後から冷ややかな声が聞こえました。アラ、キキオボエノアルコエダワー。

 あれだけ騒いでいた兵士たちが、騒いでいたのを先生に見つかった学生みたいに、一瞬で静まり返ったよ。


「命がけの大討伐を前に、士気が高い事はいい事だ。だが……」


 腕組みをして、わたしたちを睥睨するサイード殿下(魔王)。笑顔ですが、この役立たずのゴミどもめ、とその目が語っております。


「可愛い義妹よ。兵たちから預かる荷物についての聞き取りは終わったのかな?」


「……モウチョットデオワリマスー。スグニオワラセマスー」


「そうしてくれるか。出発は目前だ。漏れのないようにな」


 うんうんと優しく頷くサイード殿下(魔王)。良かった、仕事を殆ど終わらせておいて。

 

「可愛い愚弟よ。お前にはヤイラ神国との調整を頼んだはずだが。どうしてここにいる?」


「あ、いや。俺は、その。シーナちゃんに何か危険が迫っているような気がして」


「お前のその勘は信頼しないでもないがな。それでどうして、楽しそうにキリ殿と手合わせをすることになるんだ? 危険が回避されたら、早急に仕事に戻るべきだと、赤子でもわかるよな?」


「う……」


 理路整然とサイード殿下(魔王)に言い返されて、ジンさんはぐっと言葉に詰まった。そこは言い訳をするんじゃなくて、一、二もなく、土下座一択だよ、ジンさん。


 サイード殿下(魔王)は、へたり込んでいるアルフォス殿下たちを一瞥し、冷笑を浮かべる。


「随分と、ガドー王国の方たちと()()()()()ようだな。そこは、まぁ、褒めてやろう」


 そういえば。格の違いを見せつけてやれと、サイード殿下(魔王)は明言はせずとも、暗に仰っていました。

 魔剣の所有者(キリ)の実力を見せつけてやったので、もう二度と剣をよこせなんて言ってこないと思いますよ、ガドー王国側は。


 サイード殿下(魔王)の覇気に当てられて、アルフォス殿下たちがプルプル震えている。ただでさえ、勝てると思った決闘でコテンパンにヤラれて、心が折られた後に見るサイード殿下(魔王)。トラウマ必至ですよ。そろそろ保護者の元に帰してあげた方がいいんじゃないかなぁ。

 ついでにわたしも、キリと一緒に帰りたいなぁなんて。……甘い考えでした。


「ジンクレット。バリー。シーナちゃん。キリ殿。あとで俺の執務室まで来なさい」


 笑顔のサイード殿下(魔王)に、お呼び出しをくらい。もちろん、誰一人として、見逃してもらえるはずも無く、身に染みる様なお説教を、4人揃ってゲットしました。物凄く、怖かった。

 


 





 

 


 


 

 


 







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― 新着の感想 ―
[一言] バカ殿下たち、キリさんに「俺のものになれ」とか「惚れました」とか絡んできそう バカは死んでも治らないから
[一言] 魔王様<義兄>のお説教は怖いかもしれないけど、 お姉様<義姉>のお小言はもっと怖いぞ!気をつけよう!
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