88 魔力剣争奪戦
各国への魔力剣その他諸々の分配が終わりました。
マリタ王国以外の3国は、ギャーギャーと散々揉めておりましたが。なんとか各国、納得のいく分配が出来た様です。柔らかな笑顔でエグい攻めをするヤイラ神国の皆様に、ちょっぴり印象が変わりました。人は見かけによらないものなんだね。
各国に分配した魔力剣その他諸々は、今度は各国の討伐参加者達に分配されます。一応、今回の分配は討伐のために特別にお配りしているので、いくら良いものだからって、本国に送るのは禁止です。討伐が終わったら、お持ち帰りも許可するそうです。
各国の分配基準は様々ですが、やはり上位の者から分配されるのが必須で。そこからは身分の順、実力の順、になるのかな。
「いい剣をもらえた。前から興味があったんだ! まるで俺のために作られた様だ!」
こちらにうざいぐらいチラッチラッとアイコンタクトを送りながら、ナリス王国のシャング伯爵が魔力剣を試している。もちろんバングルとイヤーカフも装着済み。すぐに使いこなせていた。能力は高いんだよねぇ。
ちなみにわたしのイヤーカフは、ヤツからの連絡を制御できるようになっている。ジンさんとキリがそうした方がいいって勧めてくれたので。鑑定魔法さんが、珍しく真顔で制限の魔術陣を教えてくれました。1秒でも早く付与しなさいって。
「神の御業ですね。本当に素晴らしい……」
大剣タイプの魔力剣を抱きしめて、うっとりするヤイラ神国のデイズ様。寝台の中にまで剣を持ち込んで一緒に寝ていると、お付きの方が苦笑してました。防犯の為に、寝ている時も手の届く範囲に剣を置いているだけだと信じたい。
こんな風に、多少の懸念事項はあったが(他にも、兵同士の魔力剣争奪トーナメント開催とか)、滞り無く分配は終わったと思ったんだけど……。
「なぜ俺たちに剣を渡さないのだっ!」
そんな元気な声が、ガドー王国の兵たちの駐屯所から聞こえてきた。
たまたま、わたしとキリは、マリタ王国の兵たちの元に、輸送物資の事で相談に訪れていたのだけど。
わたしは無制限の収納魔法が使えるので、嵩張るものや重たいものは、預かるよーと、皆に声を掛けているのだが。皆、遠慮しててなかなか預けてくれないんだよねー。食料やらポーションやらはすでに沢山預かっているから、他にあったらって思ったんだけど。
あ、そういえば、陛下から秘蔵のワインを預かっていたんだった。チビチビ飲んでいるんだけど、今の最高の状態を保ちたいからって言われてさー。わたしの収納魔法、状態維持も出来るから、便利だよね。コレを持ったまま討伐に出発したら、陛下、泣いちゃうかも。忘れずに返さなきゃね。
それにしても、まだ揉めてるのかな? 魔剣を配って結構、時間が経っているよね。
マリタ王国の兵たちとともに、ひょっこりガドー王国の陣営を覗いてみれば。おやまぁ、怒っているの、ガドー王国のアルフォス殿下だよ。その周りには殿下と同じ年頃の男の人が3名。確か、アルフォス殿下と一緒に平民の聖女に入れあげて、婚約者をないがしろにして、島流しになった人たちですね。宰相の息子と騎士団長の息子と魔術師団長の息子だっけ? 乙女ゲームみたいなキャスティングだな。
「わたしたちはガドー王国の代表者だぞ? 魔力剣を1番に受け取る権利があるだろうがっ!」
対するのは、ガドー王国軍の実質的な代表者、シルド卿だ。
「……私はこの軍の指揮を王より命じられております。数に限りがある魔力剣を、効果的に配置するのが、討伐に有利と判断しました」
「だからなぜっ! 私たちに渡さないのだ!」
激昂する殿下に、シルド卿は揺らぎもせずにギロリと睨み返した。
「理由を申し上げても理解していただけないのなら、ご説明するまでもありませんな」
なるほど。実力のないお飾りの殿下たちに魔力剣その他アイテムを配るより、身分は低くても実力のある兵に割り振った方がいいと判断したわけですね。容赦ないな、シルド卿。アルフォス殿下に忖度する気、まったく無し。
シルド卿の周りの兵士も、冷ややかな目でアルフォス殿下たちを見ている。自国の兵たちにこんな目で見られるなんて。本当にやらかしたんですね、この人たち。
「お爺様、アルフォス殿下に対して不敬ですっ! 発言を撤回してください!」
栗毛の大男が、シルド卿に喰って掛かる。あー。この人がシルド卿のお孫さんかぁ。厳つい顔はどことなく似ているけど、シルド卿ほどの強面ではない。
「黙れ。貴様にお爺様など呼ばれる謂れはないわ」
鋭い一喝に、栗毛の大男は泣きそうな顔になった。おお。厳しいな。唯一の孫らしいのに、一切、情がない。
「……シルド卿、実の孫に、厳しすぎやしないか?」
アルフォス殿下がシルド卿を歯切れ悪く窘めるが、シルド卿は表情を緩める事はなかった。
「厳しすぎる? 逆です、殿下。唯一の孫だと甘やかしすぎたのです。貴族の本分を忘れ、色恋にうつつを抜かし、王家の威信を傷つけた。この馬鹿は、この地で死をもって贖わなくてはならぬほどの大罪を犯したのです」
吐き捨てるように言い切って、シルド卿は孫を睨みつけた。祖父の視線を受ける勇気がなかったのか、栗毛の大男は顔を上げる事はなかった。
「ここについてきた兵たちは、皆、国を守るために死ぬ覚悟でいるのです。一匹でも多くの魔物を屠るために、貴方たちにではなく、兵たちに魔力剣を与える。これは決定です」
シルド卿はそう言って、踵を返して去っていった。アルフォス殿下の護衛の兵と取り巻きたち以外は、殿下たちから離れていく。
本当にお飾りなんだなぁ、この人たち。人望がなさ過ぎて、ある意味、ガドー王国軍に指揮系統の乱れはなさそう。
だからといって、同情心は全く湧いてこない。だってさぁ。正式な婚約者をないがしろにして、別の女性に入れあげて、挙句に婚約破棄を突き付けたんだよ。自業自得じゃないか。そりゃ、人望をなくすよ。自国の王子がそんなことしでかしたら、何やってんだと思うよねぇ。
それに。信じて、支えていこうと思っていた相手に、すっぱり切り捨てられるって、結構キツイんだよ。わたしも前の婚約者にポイッと捨てられて、ショックで前世を思い出したもん。とっさにシーナの心の防御力が働いて、衝撃を和らげるために椎奈を思い出したんだよ、きっと。
願わくば、こんなやつらに蔑ろにされたご令嬢たちの心の傷が、いえるといいのだけど。
こんなクズと結婚しなくて良かったって思えるぐらいの良縁に恵まれてほしいよ。ほんと。
なぁんてことをぼんやりと考えていたら。
「おい、何を見ているんだ」
ギラギラとこちらを睨みつける、アルフォス殿下と目があいました。
あ。面倒な事に巻き込まれる予感。
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