10 念願の現金収入!
「…それでは素材の買取をさせて頂きます」
おじ様の元気がないですが。どうしたのでしょうね。ちゃんと素材の買取をお願いしますね。
「こちらが買取総額になります」
ガチャリとテーブルに置かれた布袋。現金、現金。ようやく現物支給以外の報酬が!
わたしはいそいそ袋を覗き込んだ。金貨あるかな、金貨…あー、ない。くすん。なんか白い硬貨がいっぱい入ってた。あんまりお金にならなかったのかぁ。
目に見えてしゅんとなるわたしに、ジンさんが心配そうに声をかけてくれる。
「どうした、シーナちゃん?」
「金貨なかった…。お洋服、あんまり買えないかも」
「なにっ?」
ジンさんがギロリとおじ様を睨む。おじ様が慌てて手を振った。
「いえいえ、金貨ではなく白貨ですっ!白貨58枚入ってます!お洋服なら店ごと買えますよ!?」
「白貨?」
布袋を逆さにすると、白いコインがゴロゴロでてきた。おじ様がわぁっと声を上げる。
「シーナ様。そんな大金、ほいほい出さないでください!」
これ金貨よりいいものなの?誰か説明プリーズ。考えてみたら、わたし、10歳から貨幣に触れてないわ。この世界のお父さんとお母さんと暮らしてた頃は、銅貨握りしめてお遣いに行ったぐらいだもんね。ちなみに硬めのパン3個は銅貨1枚だったよ。
「シーナ様。金貨一枚で家族4人が一月食べていけるぐらいの額です。白貨は金貨100枚分の価値があります」
キリが遠慮がちに説明してくれる。んー、金貨一枚10万円ぐらい?ここ物価が安いからね。それの100倍で1千万円、それが58枚だから5億8000万円!宝くじかっ!?
わたしは慌てて布袋に白貨をしまう。あうー。こんなの持って歩けないよう。キリぃ、持ってて。
キリに預けようとしたら、涙目で固辞された。そうだよね、嫌だよね、5億なんて持てないよね。
「収納魔法でしまっておけばいい」
ジンさんがわたしの頭を撫でながら、優しく言ってくれた。そうか、収納魔法なら落とす心配ないよ。頭いいね、ジンさん。
しまう前に気づいた。白貨って普通のお店で使える?服屋さんで1千万円出してお釣りってあるの?
おじ様にそう言ったら、白貨を1枚金貨100枚と交換してくれた。よかった。
「素材の状態がキズがほとんどなく素晴らしい状態でしたからね。オークションにかけたらいったいどれほどの値がつくでしょうか、楽しみですっ!」
今回は滅多に出回らない上級クラスの魔物がほぼ無傷ともあって、おじ様の目はギラギラお金色に変わっていた。1等宝くじ並のお金を払っても平気なんだね、冒険者ギルドって。しかもどうやらちょっとサービスしてくれたみたい。
「ああ、そういえば素材の中に魔石がありませんでしたが、何か理由があるのでしょうか?」
「あ、魔石は自分で使うので売りません」
魔石は色々使い道があるからね。へへへー。
「ほう?例えばその耳飾りのような…?」
「そうですー。これはむぐっ」
説明しようとしたら、バリーさんに口を塞がれた。
「ビスト、そこはまだ触れないように」
バリーさんが突き放すように告げる。いや、何故に?わたしが作ったもんだぞ?わたしの好きにさせてよ。
キリがバリーさんの手を引き剥がすと、わたしの口をハンカチで拭ってくれた。聞いたことないぐらい冷たい声で、「シーナ様に触れないで下さい、穢れます」と切り捨てる。おおぅ。キリが怖い。さっきの発言が尾を引いているみたい。望み薄だね。バリーさんは珍しく硬直している。
キリは小声でわたしに「魔石を使った道具については、簡単に口外すべきではないかと」と忠告してくれた。そういえばキリが国宝級とか言ってたな。危ない、簡単に言っちゃダメなやつだった。
わたしはにっこり笑っておじ様の質問を聞こえないフリをした。おじ様は気まずそうに目を逸らした。王族に睨まれたくないもんね、分かるよー。
「専属冒険者になりたくなったらいつでも歓迎します」としつこく繰り返すおじ様に別れを告げ、私たちは冒険者ギルドを出た。さぁ、お買い物だっ!
キリと手を繋いでお店に駆け出そうとすると、ジンさんに呼び止められた。
「シーナちゃん、夕方には宿に戻って来てくれるよな?」
ジンさんの青い目が捨てられた子犬みたいにフルフルしていた。買い物について行くと言い張る彼を、女の子の買い物もあるからダメと断ったので不安なようだ。
王族に関わるのもう嫌だからなー。このまま逃げても良いかなーとか考えていたわたしの良心を抉りに来てるよ、その目は。はあっ、罪悪感。
まあでもジンさんは本当に他意なく接してくれていたようだし、冒険者ギルドではちゃんと助けてくれたし、悪い人ではないのだろう。
もう少し、せめて約束した要塞都市までは一緒に行くかぁ。その後のことはまたその時考えればいいし。
「うん、ジンさん。また後でね」
にっこり笑ってそう言えば、ジンさんはホッとしたように表情を緩めた。
◇◇◇
「大漁、大漁」
いっぱいお洋服買えたー。わたしとキリの2人分で大きな袋4つ分ぐらい。旅に必要な服もそうでない服も買っちゃった。金貨2枚分ぐらい。この世界では服はまあまあ贅沢品みたい。平民は年に一度新調するぐらいなんだって。だからキリはすごく遠慮してたけど、なに着せても可愛いんだもん、うちの子は。いっぱい買っちゃったよ。
それと調味料と調理道具を買い足し、魔石加工に使えそうな素材を買い、屋台でエール街の名物料理を買い食いして、綺麗な噴水広場やエール街の観光名所の花畑を観に行って、観光用のラバーという動物が牽く花いっぱいの馬車に乗ってと、エール街を満喫しました!キリが全部、街の人に名物とかオススメを聞き出してくれたんだよ。戦場しか知らないわたしを楽しませてくれようとしてるのが分かってすっごく嬉しかった!楽しかった!地図や本で読むのとは全然違う!
観光帰りで高揚してちょっと疲れて帰ってきたわたしたちを、ジンさんは宿の前で待っていた。まだ日の高いうちからソワソワ待っていたとはバリーさん談。おう、思いっきり楽しんでたよ、なんかごめんなさい。
「お帰り、シーナちゃん」
ジンさんにぎゅうと抱きしめられ、またまた抱っこで移動です。歩き疲れたから楽チンとかは思わん。降ろしなさい。
「良かった。ちゃんと帰ってきた」
しみじみと言うジンさんに、わたしは口を尖らせ抗議した。
「ちゃんとまた後でって言ったでしょ?」
信用ないなぁ。まあ、逃げようと思ってたけど。
「シーナちゃん、俺のこと怖がってたから。逃げられると思った。逃がさないけどな」
最後の一言こーわーいー。なんでそんな事言うの?わたしとあなた、20日前まで他人でしたよね?
「宿は3部屋取ってある。2人一部屋だからな。シーナちゃんは俺と同じ部屋な」
「ヤだ。キリと同じ部屋です」
「そんな即答しなくても。冗談だ…。分かってるよ」
ガックリ肩を落とす姿は全然冗談のように見えませんよ。油断も隙もない。わたしはキリと離れないからね。
夕食前に話したい事があると言われ、わたしとキリは部屋の1つに連れて行かれた。おじいちゃんとバリーさんが待っていた。おじいちゃんがまた果物くれたよ。わーい。
バリーさんはぎこちなくキリに笑いかけるが、キリの顔は能面のようだ。うん、キリの中でバリーさんの株は下がりっぱなしだからね。
それぞれが席につき、温かい紅茶のカップを渡された。渡してくれたのはバリーさん。手慣れてるなー。
お花の香りがする紅茶は、疲れた身体がホッとする味だった。ちょっとミルクとハチミツ入れても美味しいよね。
「シーナちゃんに聞きたいことがあるんだ」
紅茶を飲んでリラックスしていると、聞き辛そうに、ジンさんが話を切り出した。
みんなちょっと強張った顔をしている。なんでしょうか?
「君はダイド王国を追放された、元聖女なんだろうか?」
誤字脱字報告ありがとうございます。
大変助かります。
同時進行でもう一つ長編を書いています。
もし宜しければご覧ください。





