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70 家族が出来ました

★追放聖女の勝ち上がりライフ 10月11日書籍発売決定★

連休前のせいか、もうすでにゲットした方がいるようですね。ありがとうございます。

「お初にお目にかかります。この度、カイラット家に迎えていただく事になりました。シーナ・カイラットです」


 とうとうわたしの養子先が決まりました。良い人代表、カイラット卿が、わたしの新しいお義父様になりました。パチパチー。


 サンドお爺ちゃんも最後まで食い下がったようですが、権力社交力武力を総合評価して、カイラット卿に軍配が上がった模様。

 悔し泣きに泣くお爺ちゃんを慰めるの、大変だったけど。「ワシはシーナちゃんにお爺ちゃんと呼ばれたかったんじゃー」と泣くお爺ちゃんに、「いや、サンドお爺ちゃんって、普段から呼んでるじゃん」って、思わず突っ込んじゃったよ。今後もお爺ちゃん呼びは続ける事で、何とか納得してくれた。それで良いのか。良いみたいですね。


 そんなこんなで、本日は王都にあるカイラット邸にお邪魔しております。義理の娘になりましたが、わたしの住まいは防犯上、王宮のままで、身分だけはカイラット家の次女になりました。


 初めましてとは言っても、お会いするのが本当に初めてなのはお二人だけ。カイラット卿は勿論、その奥様のキラナ様、嫡男のリオン様は顔馴染み。カイラット街の戦いから復興までの間、ずっとカイラット家でお世話になっていたからね。特に奥様のキラナ様とは、お手紙を交わすぐらい、仲良しになった。おっとり優しく上品で、カイラット卿に負けないぐらいの感激屋さんだ。夫婦って似てくるって、ほんとだよね。


 嫡男のリオンさんは、カイラット卿似の温和なお兄さんだ。いつも笑っているみたいに目が優しく細められていて、ほんわかしているんだけど、カイラット街戦の時は警備隊の先陣を切って戦う猛者で、復興の時も誰よりも働いていた人だ。こんな人が次の領主様だったら、みんな安心だよね。

 わたしがカイラット戦でほんのちょっとお手伝いをした事を、いつまでも大袈裟に讃えてくるのだけは、勘弁して欲しいけど。


 さて、初めましての人は、次男のジョルドさんだ。面差しはお兄さんのリオンさんに似ているんだけど、その目つきの鋭さが、他のカイラットファミリーにはないものだな。ジョルドさんはわたしを上から下まで眺め、不機嫌そうに仰った。


「……君がシーナか。輿入れの間までとはいえ、カイラット家の名を穢すような真似は許さんぞ」


 その言葉が終わるか終わらないかの瞬間に、カイラット卿とリオンさんの拳が、ジョルドさんを吹っ飛ばしていた。

 わぁ。凄い音を立てて本棚にぶち当たって、上から降ってきた本が、ボカボカジョルドさん目掛けて落ちていくー。コントみたーい。


 ポカンとその光景に見惚れていたわたしの前に、スッと立つ広い背中。


「……どういう事だ、カイラット」


 氷の王子モード、ジンさん降臨。地を這うような低い声が、お腹に響きます。ザ・不機嫌。王宮を出るのは久しぶりなわたしを心配して、わざわざ着いて来ましたよ。心配性です。


 その隣には、一歩引いてはいるけどキリが、既に抜刀して立っています。今日も絶好調にボーボーのほのおの剣。キリさーん、剣をしまいなさい。お部屋が燃えちゃうよ。


 殴られて顔が腫れ上がり、重たい本にボコボコにされて瘤だらけになったジョルドさんは、カイラット卿とリオンさんに引き摺られて、現在、正座で反省中。キラナ様もカイラット卿の横でプンスカ怒っている。「ジョルド、お尻ペンペンしますからねっ!」と怒っているキラナさん。可愛らしいお母さんだなぁ。


「申し訳ありません、ジンクレット殿下、シーナ様。ジョルド!我が街の、国の恩人に対し、お前は何と言う事をっ!」


 怒りでプルプルしているカイラット卿と、静かに激怒し笑顔が消えているリオンさん。怖いです。


 怒られているジョルドさんは、そっぽを向いて不貞腐れている。反省の色なしだ。

 しかしボコボコに腫れた顔では、お話も出来ないし、何よりわたしがジョルドさんの顔を忘れそうだ。さっきも一瞬しか見てないしね。

 そう思って瞬時にジョルドさんを回復してあげた。ボコボコ顔が逆再生の様に元に戻って行きます。そうそう、こんな顔だった。


「な、無詠唱?」


 目をかっ開いて、驚くジョルドさん。いや、カイラット卿やリオンさんから、何も聞いていないのかね。カイラット街でも、わたしはずっと無詠唱でしたよ。


「聖女?本物の?」


「聖女は辞めました。これからは貴方の義妹になります。よろしくお願いします」


 未だにカイラット街では、わたしの事を聖女と呼ぶ人が多い。特にアラン殿下や重症だった兵士達を一気に治した所を目撃した人にはその傾向が強く、わたしが聖女と呼ばれるのを嫌がっているのを知って、隠れ聖女信仰が出来ているらしい。別にバレても罰しないけど、わたしの顔をした女神像の作成は禁止したい。わたしっぽい顔の、凄く慈悲深い表情の女神像が、ザイン商会カイラット支店で販売中との情報をキャッチしてますよ。偶像崇拝禁止。そして、ナジル商会長は、後でお呼び出し案件です。


「ほ、本物の聖女……」


 呆然としていたジョルドさんだったが、みるみる情けない顔になり、そしてその場に平伏した。


「も、申し訳ありませんっ!」


 ジョルドさんが初対面なのは、彼がカイラット街襲撃の時、別の国に留学に行っていたからだ。襲撃の事を聞いて、すぐに帰国しようとしたが、あと数ヶ月で卒業だったし、襲撃もすぐに収束し、復興にも街の皆が協力してくれたため、卒業まで帰らなくて良いとなったらしい。


 ジョルドさんは無事、学園を卒業する事が出来たのだが。卒業パーティーであり得ない事が起こったそうだ。留学先の国の第2王子が同級生にいたらしいのだが、あろう事か、その卒業パーティーの最中、婚約者である侯爵家の令嬢に婚約破棄を突きつけたらしい。

 破棄の理由は、王子と同じ生徒会に所属する、平民の特待生の女生徒を虐めたという事だった。その女生徒は癒しの力が強く、教会で認められた聖女でもあったらしい。第2王子が会長を務め、側近が補佐を務める生徒会メンバーのマスコット的存在で、特に王子とはかなり親密な仲で、卒業パーティー以前から、生徒達の間でかなり噂になっていたのだとか。侯爵家の令嬢は、女生徒に王子と親しくしないよう、注意していたようだが、それを王子は虐めと言って責めたそうだ。いや、浮気しといて何言ってんだ、その王子。


 勿論、卒業パーティーは即中止。王子と侯爵令嬢の婚約は王子の不貞により破棄。王子の個人資産と将来下賜される予定だった財産を慰謝料として侯爵家に支払い、王子は謹慎。その処遇については検討中。有力なのは予定よりも早く王籍から抜いて爵位を授け、どこぞの辺境の地へ追い払う線なのだとか。


 生徒会メンバーも女子生徒にかまけて婚約者を蔑ろにしていたため軒並み婚約破棄された。嫡男は後継から外され、結婚後婿養子予定だった者も卒業間際で行き先が無くなり、ニート決定。皆、家で厄介者の居候扱いらしい。


 これにより、いくつかの貴族家の力関係が変わり、王家の求心力が揺らいでしまう事態を招き、国中がピリピリしていたとか。


 ちなみに、件の女生徒は、「そんなつもりはなかった」と逃げ出そうとしたが、学生の身で複数の男子生徒と関係を持ち破滅させた悪女と噂されるようになった。彼女の実家は裕福な商家だったらしいが、娘の悪評が元で商会は潰れ、多額の借金を背負い、娘を借金のカタに変態と名高い貴族に売り飛ばしたらしい。


 ちなみに、元婚約者のご令嬢は、特に王子に制裁などはしていない。王命の婚約を勝手に破った王子に対し、周りが当然の動きをしただけだ。婚約者を蔑ろにして、政略結婚が成り立つ筈がない。ましてや王子という身分でそんな事が許されれば、貴族達からの信頼がなくなり、国自体も立ち行かなくなるだろう。


「その女生徒は、聖女として大した成果もないのに他の生徒を馬鹿にするような態度をとっていました。それを王子ともあろう方が、あんな女を王子妃に据えようなどと、馬鹿な事を…」


 留学の最後にそんな出来事があって、消沈して自国に帰って来たら、ダイド王国の元聖女が王子妃になるために我が家の養女になると聞き。家族は聖女を絶賛しているが、王子妃となるための箔をつける為に、聖女の成果を誇張しているのだと思ったのだとか。だから自分だけでも、義妹に厳しく当たろうと思ったそうで。


「それは……。折角頑張って卒業したのに、卒業パーティーがそんな事で中止って、酷いねぇ」


 留学先の学園は、卒業条件が厳しくて、入学出来ても卒業まで辿り着けるのは3割ほどと聞いている。広く門戸を開き、途中でビシバシ落としていくそうな。そんな学園の成績優秀者の一人に名を連ね、晴れがましい気持ちで卒業を迎えたジョルドさんにしてみたら、大事な門出を汚された様に思えるだろう。共に学んだ友人との別れ、新しい出会いへの不安もあるが、未来に希望を持って、誇らしい気持ちでパーティーに参加していた若者達に対し、なんたる仕打ち。可哀想過ぎる。


「まぁまぁ。ジンさん。誤解も解けた様だから、怒らないであげてよ」


 聖魔法一発で、わたしの実力を認めてくれたジョルドさんは素直に謝っているし。失言の一つや二つ、許してあげようよ。


「むぅ……シーナちゃんが、そう言うなら……」


 不満げなジンさんも、ボーボーほのおを出しているキリも、わたしの言葉で怒りを引っ込めてくれたのだけど。


「そんなわけにはいきませんっ!我が家にシーナ様をお迎えするハレの日に、こんな馬鹿な事を仕出かすなどと、許し難い!」


 カイラット卿とリオンさんは、ギリリッとジョルドさんを睨みつけ、なかなか怒りを解いてくれません。困ったなー。


「もしもあの時、シーナ様がいらっしゃらなければ、領民達は魔物に蹂躙されていたでしょう。我らが今生きてここにいるのは、シーナ様のお陰です。その恩を、なんと心得ているのかっ!」


 こんな感じで怒っていらっしゃるカイラット卿に、それでは、と提案する事にした。


「じゃあ、ジョルドさんには、わたしが選んだ罰を与えさせて下さい」


 ニッコニコでそう言ったら、カイラット卿は不思議な顔をしていた。


「シーナ様が選んだ、罰ですか?」


「はい。失礼な事を言われたのはわたしなので、罰はわたしが決めます」


 カイラット卿やリオンさんが決めたら、物凄く重たい罰になりそうだしねぇ。


「シーナ様がそれをお望みならば……。ですが、厳しい罰を下すと、お約束下さい。そうでなければ、陛下に合わす顔がございません」


「大丈夫!凄い罰ですよ!」


 そう言って、キラナさんを振り返る。


「キラナさーん。お尻ペンペン、いつもより倍量でお願いします」


 ハラハラした顔で成り行きを見守っていたキラナさんだったけど、わたしの意図に気づいてハッとした後、力強く頷いた。その目には感謝の色があります。


「お任せくださいっ!」


 両手をワキワキさせて、キラナさんがジョルドさんに厳しい顔で近づく。


「さあ、ジョルド!お尻を出しなさいっ!」


「は、母上?本気ですか?わ、わたしはもう18ですよ?お、お尻ペンペンなんてっ……」


 引き攣った顔で後ずさるジョルドさんに、キラナさんが母親の怖い顔を向ける。


「18でも28でも関係ありません!何の確証もなく、シーナ様を貶める様な事をして!お前もその第2王子と同じ事をしているのですよっ!」


 ええ。某王国の王弟殿下も、思い込みで突っ走り、大変重い罰を与えられましたよ。


「この程度の罰で済む事を、シーナ様に感謝なさい。いずれは王子妃という方に対する不敬。本来なら投獄されても文句は言えないのですからっ」


 キラナさんがジョルドさんの首根っこを捕まえる。涙目で助けを求めてコチラをチラチラ見ているジョルドさんに手を振って、わたしたちはお部屋から退出した。流石に罰を与える現場は見ませんよ。見たくないし。


 実害は然程無いけど、大変ダメージの大きい罰を与えてみました。思春期なんて既に通り過ぎた立派な大人の18歳に、あの罰は堪えるよね。

 

 カイラット卿も微妙な顔だったけど、お尻を押さえて納得されていたので、なかなか良い考えだったと思うよ。

 


 



☆☆2022年10月11日。追放聖女の勝ち上がりライフ 書籍発売です☆☆

コンビニプリント書下ろしSS 先行発売中です。

ぜひお手に取ってみてください。

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11/7 コミック発売! 追放聖女の勝ち上がりライフ②

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追放聖女の勝ち上がりライフ2


ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 疑われた理由が笑えました。 [気になる点] 良かったな、ペンペンで。 報相連は大丈夫よー。 男衆に任せたら、竹刀で二人がかりでペンペンされてたかもよ? [一言] 丁度明日からしばら…
[一言] いい年した男にお尻ペンペン…メンタルに大ダメージを与える、大変素晴らしい罰だと思います。 どこぞの殿下のお仕置きもコレでよかったんじゃないですかね? 甥っ子の前でやられたら、情けねー事この上…
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