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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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魔術師の宝 5

『ったく。しょうがねえ。今回の件は不問とする。何より生徒達の安全が第一だからな。その謎の組織についてはこっちで調べておく』

「申し訳ありませんでした……」

『いいっての。まあ、魔獣爆弾の方では全く役に立たなかったらしいが、そのことについても全然問題ねえからよ』

「…………うざっ」

『おお~い?! 今なんか言ったかシエナ?!』

「こいつ、超うぜえわぁ~。パワハラで訴えようかな。って言いました」

『さっきより酷くなってね!?』

「はははははっ。ヴォルグ君。今度は面会室で会おう」

『ちょっ!? 何で俺捕まること前提!? てかこんなのじゃ捕まんねえよ!』


 ここはミスリル魔法学院の学院長室。そこには今、リールリッドとシエナが《シリウス》南方支部隊長のヴォルグと先日の事件について通信用魔道具で報告していた。


『学院長……。あんたは本当に相変わらずですね』

「そういう君も。まさか部下にすら馬鹿にされているとは。お笑いだな」

『ぐっ……! 一発ぶん殴りてえ……! だが事実ッ!』

「哀れですね」

『そう思うなら俺を敬え!』

「やです」

『だと思ったよ!! はぁ……。そんなんでマジで講師出来てんのか?』

「あぁ。立派にやってくれている。だからもうしばらく借りることにするよ」

『まぁ、それはいいんですがね。その代わりしっかり報告はいれろよ。わかったな?』

「は~い」

『返事は「はい」だろ! 講師だろ!?』


 まるでヴォルグが講師でシエナが生徒みたいな構図だったが、それが可笑しくてリールリッドはまた笑った。

 通信が切れ、二人だけとなった学院長室で、シエナはふと気になったことを聞いてみた。


「あのぅ、ちょっと気になったんですけど、学院長にとっての宝って何なんですか?」

「ん? 随分と唐突だね」

「あはは、ごめんなさい」


 シエナは笑いながら軽く謝罪する。リールリッドは考える間もなく質問に答えた。


「当然。このミスリル魔法学院に関する全てだ。生徒達は勿論、君達講師もね」

「それは──嘘ではないですよね?」


 シエナは失礼なことを聞いたわけではない。これから自分が働く職場の上司であるリールリッドの本質がどういうものなのかを問いただそうとしたのだった。

 それを悟ったリールリッドは悠然とした笑顔で返す。


「無論だとも」

「…………そうですか。安心しました」


 シエナは、リールリッドは嘘を吐いていないと判断し安堵する。

 そのシエナにリールリッドは質問し返す。


「ちなみに、君の宝は何なんだい?」

「私、ですか……? う~ん。やっぱり、《シリウス》の仲間、信念、誇りですかね。あとれーくん」

「ふむ。正解だな」

「でも、最近もう一つ増えましたかね」

「ふふっ。そうか。宝は多いに越したことはない。大切にしたまえ」

「はい。では失礼します」


 シエナはリールリッドに一礼し、学院長室を後にした。


~~~


「ん、くぅ~! ようやく復活ですね」


 キャサリンは自室で大きく体を伸ばしながらゆっくりと立ち上がった。


 トレジャーウォーズが終わり二日経った休日の夕方、キャサリンはようやく魔力と体力を完全回復させた。

 ちなみにグレイ達三人は昨日のうちに回復したらしく、どこかへと出掛けていたようである。


「あぁ……私の休日……」


 キャサリンは窓の外が紅くなっているのを眺めながら明日からまた授業が再開されるという現実に少々辟易していた。


「まあ、いいです。講師たるもの、これくらいでへこたれるわけにはいきませんから」


 だが、独り言を呟きながら自分を奮い立たせたキャサリンは服を着替えてから寮の一階へと降りていく。しかし、生徒達の姿はなく、何だか無性に寂しくなった。

 と、一人感傷的になっていると外から騒がしい声が聞こえてきた。


「そろそろキャシーちゃん起きたんじゃねえか?」

「そうね。呼んでくるわ」

「寝てても起こして来てくれ。嫌がっても無理矢理な」

「それされると一番キレるあんたが何を言ってんだか」


 その声はキャサリンのよく知る問題児達のものだった。


「キャシー先生~。って、なんだもう起きてるじゃないですか」

「エルシアさん。どうしたんですか?」


 扉から入ってきたエルシアはすぐ近くにいたキャサリンに気付いて、手招きをする。何事なのかわからないキャサリンはエルシアに言われるがまま着いていくと、外にはグレイとアシュラの姿もあった。

 見ると、何故か外にテーブルと椅子が設置されており、その椅子にはミュウがうつらうつらと船を漕ぎながら座っており、テーブルの上には色々な料理がところ狭しと置かれていた。


「ど、どうしたんですかこれ!?」

「どうした、って……。打ち上げの準備ですよ」


 グレイが串に肉や野菜を刺しながら答える。今、グレイ達が準備しているのはトレジャーウォーズの打ち上げのための料理であった。


「今回はMVPのミュウちゃんが主役なんですけど、キャシー先生も座って待っててください」

「もうエリーも座っててくれていいんだぜ? ほとんど役に立たないし」

「はぁ?! 私だってバーベキューで焼くことくらい出来るわよ!」

「言っとくけど、乗せたら終わりじゃないからな。ひっくり返したりしないといけないからな」

「わかってるわよ! 私どこまで料理オンチだと思われてるのよ!」


 アシュラは意外なことに料理が上手く、エルシアは逆に料理が苦手なのである。

 二人はいつもの通り口喧嘩している隣でグレイが思い出したかのようにキャサリンに一枚の封筒を渡した。


「どうもありがとうございました。これ、残りです」

「ふぇ?」


 グレイが何を言っているのかわからなかったが、取り合えずその茶色の薄い封筒を預かった。中身を確認しようとすると──


「あっ、やばっ」

「ちょっ! マジかエリー!? 焼くだけだっつってんだろ!? 何をトチ狂ったらそんなえげつないバーニングすんだよ!?」

「し、知らないわよっ!?」

「え、ええっ!? 何やってるんですかぁ!?」


 立ち上る火柱に気を取られ、キャサリンはその封筒を懐に収め、消火活動を開始した。


~~~


 途中ちょっとしたハプニングもあったが、ようやく打ち上げが始まった。


「んじゃ取り合えず。ミュウのMVPとお宝五個ゲットを祝して!」

「「かんぱ~い!」」

「かんぱい……です」


 ミュウは目の前に広がる様々な料理に目を輝かせ、三人もそれぞれ好き勝手に食べ始めている。そんな中、キャサリンは何か大切なことを忘れているような気がした。


「あっ、そうだ。そういやさっきようやく宝の中身が届いたんですよ」

「へ? ……あぁ、届いたんですか。中身は見てみたんですか?」

「いえ。今から皆でと思って。ほらグレイ。さっさと持ってきなさいよ」

「……俺、食ってる途中なん……いや、なんでもねぇッス」


 グレイは一瞬嫌そうな顔をしたが、エルシアに睨まれ大人しく寮へと戻って、例の届けられた荷物を持ってきた。


「どうも小さいのばっかりみたいだな」

「まあ、でかすぎると邪魔にしかならないかもしれないし、いいんじゃない?」

「使える物ならなんでもいいだろ」

「わくわく、です」


 テーブルに置かれた箱は五つ。それぞれに『Ⅰ』『Ⅴ』『Ⅶ』『ⅩⅢ』『ⅩⅩ』と書かれている。ちなみにグレイ達三人が見付けた物が『Ⅶ』である。


 そして番号順にそれぞれ開けてみると。


「指輪ね……」

「デザート、バイキング?」

「これは、リボンですか」

「なんだこれ? たしか……バングルつったか?」

「こっちは十字架のアクセサリーか。しかも二つ。『ⅩⅩ』だからか?」


 宝箱の中身の確認を終えた三人は、一度それらを箱に戻してキャサリンに手渡した。


「え? な、なんですか?」

「これ、キャシー先生にあげます」

「てか最初からそのつもりだったんだよ」

「日頃のお礼ってことで」


 ぽかん、と口を開けて驚くキャサリン。まさかこの問題児達がそんなことを考えてくれていたとは夢にも思っていなかった。

 思わず泣きそうになったキャサリンだったが、何とか堪え、それぞれに宝箱を返した。


「ありがとうございます。気持ちは本当に嬉しいです。でも、これは皆さんが、ミュウちゃんを含めた四人が勝ち取ったものです。だから、これは皆さんで使ってください。ちょうど人数分あるわけですから」


 キャサリンは、未だ感じていた気だるさなど吹き飛んだように明るくなり、笑顔を見せる。


「ん~。先生がそういうなら……。あっ、じゃあそのリボンだけは先生が使ってくださいね。それ、三人で見付けたやつなので」

「え? でも、これちょっと子供っぽすぎないですか……」

「ぴったりじゃないッスか」

「何か……?」

「い、いえ何も?!」


 キャサリンはグレイを睨み付けながらも、折角の好意なのだからと思ってそのリボンをエルシアに結んで貰った。


「うん。似合ってますよ。キャシー先生。可愛いですっ」

「子供──もとい大人っぽさが増したんじゃねえか?」

「よっ、流石ッス」


 男子二人の言葉が引っ掛かりはしたが、悪い気もしなかった。

 何がどうあれ、生徒から初めて貰ったプレゼントなのだから。


「大切にしますね、これ」


 その時のキャサリンの笑顔は、とても可愛らしいものだった。


~~~


「ところで気になったんですが、これどうしたんです?」


 バーベキュー以外にも沢山用意されていた料理も、既に半分以上食べ終わった頃、今更ながらキャサリンが尋ねてきた。


「結構な量ありましたけど、こんなのどこで買ったんですか? それにそのお金はどこから?」

「え? 何言ってるんですかキャシーちゃん。これ、キャシーちゃんのお金で買ったんスよ」

「…………………………え?」


 グレイが何の気なしに答えた言葉を聞き、キャサリンの思考は完全に、完膚なきまでフリーズした。


 そして、そのフリーズされた頭の中で、眠っていたせいで忘れていた記憶を思い出した。


 ──トレジャーウォーズが終わって学院に戻った時、キャサリンはフラフラの状態でリールリッドに会っていた。


「今日はすまなかったな。感謝するぞ、キャサリン先生」

「あ~、いえいえ……。大丈夫、です」

「そうかい? やはり日を改めるか」

「大丈夫、ですよ。本当に……」


 端から見れば全然大丈夫そうには見えなかったが、本人が言うのならと思い、リールリッドは話を続けた。


 内容は、今日あった件は内密にすること。キャサリンの魔獣撃退のための手当て、及び《プレミアム》がMVPを取ったことによるボーナスを明日寮に届けること。の二つだった。

 キャサリンは疲れた頭でそれを聞き、承諾した。


 そして次の日。キャサリンは自室で眠りこけていた。魔力をからにした反動である。そんな時、扉がノックされた。


「キャシー先生。何かお届け物らしいです」

「……ぁぁ。つくえにおいといて、ください」

「は~い。あっ、あと明日打ち上げしようかと思うんですけど、大丈夫そうですか?」

「たぶん、へいき、ですよぉ~」

「そうですか。良かったです」


 エルシアは茶色の厚い封筒を机に置く。キャサリンは半分夢の世界にいながらエルシアに話し掛ける。


「打ち上げ、ですかぁ。いいですねぇ~」

「はい。私達三人がお金出すだけなのでそこまで立派なものじゃないですけど」


 ここまで思い出したキャサリンのフリーズしていた思考が、ピキッと音を立てて割れた。

 この時のキャサリンはこの後、こう言ったのである。


「ならぁ、つくえにわたしのお金あるので、使っていいですよぉ~」

「え? いいんですか?」


 キャサリンがこの時考えていたのは机の中に入っている財布のことだった。中身はそれこそほとんど入ってはいなかったのだが、少しは足しになるだろう、と。


 しかし、エルシアは引き出しではなく、机の上に置かれていた封筒に目がいった。


「これですか?」

「そうですぅ」


 この時、自分は何故目を開かなかったのか。とキャサリンは盛大に後悔することになる。


「うわっ、すご……。え、えと。何枚持っていったらいいですか?」

「ふぇ? …………ぜんぶ?」

「ええっ!? だ、大丈夫なんですかっ!?」

「だいじょうぶ、ですよぉ。アテはありますからぁ」


 そのアテというのが、正しく今エルシアが持っている封筒の中身のことだったのだが、キャサリンは致命的なまでに気付かない。


「これならすごい豪勢な打ち上げになりますね。ありがとうございます。早速買い出し行ってきます!」

「いってらっしゃいです……」


 ──それが、事の顛末である。

 キャサリンは、よく物事を考えないで行動、言動したりする癖があり、そのくせその後で後悔したりする。

 そして、今回のは極めつけだった。


 キャサリンは急いで懐にしまった封筒を取り出し中身を確認する。すると、紙のお金数枚、コイン数枚しか残っていなかった。

 よく見ると、紙のお金のうちの一枚は金ではなく、白い紙だった。


 その紙は、密書などに使われる紙、つまり宝の地図で使われた紙と同じものだった。


 キャサリンは未だフリーズした思考のまま、その紙に魔力を流し込む。そして、文字が浮かび上がった。それはつまり、キャサリンに向けての手紙であることを示していた。


『今回の件、誠にご苦労だった。ボーナスも含めて、色も付けておいた。では、存分に休養を取ってくれたまえ。リールリッド』


 それは、キャサリンには死刑宣告を通知する手紙に見えた。


「………………ぅ」

「「「う?」」」


 様子のおかしいキャサリンの顔を覗き込む三人は、キャサリンの呟きを復唱する。


 俯くキャサリンだったが、次の瞬間、椅子を蹴飛ばすように立ち上がった。


「うぅぅわああああああああああんっ!!?」

「「「何故いきなり号泣っ!!?」」」


 ボーナス、特別手当て、共に消失。返品しようにも腹の中。今月の給料はこの前の一件で無くなっている。貯金はギリギリ。しかも今回悪いのは全て自分。一から十まで全ての責任がキャサリンにあった。


 なので、キャサリンは泣きわめくことしか出来なかった。先程とは違う種類の涙を大量に流しながらどこへともなく走り去るキャサリンの姿は、頭の上で揺れるリボンも相まって、本当にただの子供のようだった。


「ええっ!? ちょっ、どこ行くんスかキャシーちゃん?!」

「待ってくださいキャシー先生! 何があったんですか?!」

「何なんだよっ!? まさかスパイス効きすぎだったか?!」


 自分達の担任が突然謎の行動に出て、慌てふためく問題児三人は走り去るキャサリンを追い掛けていく。

 そして一人残ったミュウは、未だに目をキラキラさせながら黙々と料理を食べ続けていた。


 ──こうして、《プレミアム》の三人が初めて参加した月別大会は、慎ましやかには終われなかった。

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