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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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魔術師の宝 4

 MVPの発表も終え、生徒達の興味は次のものに移った。それは勿論、苦労して獲得した宝箱の中身である。


 現在宝箱はそれぞれのクラスの前方に並べて置かれている。大小様々な宝箱が一同に整列している姿は心踊るものがあった。

 そんな中、一人の生徒が宝箱は開けてもいいのかと尋ねた。その宝箱には鍵がかかっており、大会中は何があっても開けられないように細工されていたので、誰一人として宝箱の中身を知らないのである。


「宝が何なのか気になるか? では最後にその話をしよう」


 お楽しみは後で。と言わんばかりの勿体振り方だが、生徒達は大人しく話を聞く。


「大会前。私は君達に問い掛けた。覚えているか?」


 と問われ、生徒達は長いようで短かったような気もする大会の、始まりの時のことを思い出す。

 その時リールリッドはこう言った。


「私は、君達はここに何をしに来たのかと問い掛けた。そして私は、君達はここに得難い宝を得に来たのだと言った。では、改めてもう一度問おう。君達はここに何をしに来たのかを。得難い宝とは、一体何のことを指し示していたのかを」


 荘厳なる面持ちで問い掛けるリールリッドを見て、生徒達はそれぞれの解答を心の中で思い浮かべる。


「正解だ」


 誰一人、一言も、何も言っていない。にも関わらず、リールリッドは迷うことなく正解だと言った。

 言葉の意味がわからない生徒達はざわざわと騒ぎ出したが、リールリッドが手を上げてそれを制して話を続ける。


「今、君達は心の中でそれぞれに答えを出したはずだ。それが君にとっての宝となり、宝となっていく。魔術師として、得難く大切な物になっていくのだよ。

しかし、それは一人一人違っているものだ。例えば──


この宝箱の中に入っているような魔道具こそ何よりも勝る宝だと思った者。正解だ。


隣に立ち、背中を預け、共に戦う仲間こそ宝だと思った者。正解だ。


向かい合い競い合う強敵、ライバルこそが宝だと思った者。正解だ。


魔獣との戦闘経験、様々な立地での戦闘経験こそ宝だと思った者。正解だ。


強い相手と戦い、勝利した時の経験や感覚、敗北した時の経験や恐怖こそが宝だと思った者。正解だ。


自分は戦闘には向かないただの役立たずだったと思った者。半分正解だ。


何も得られなかった。何も宝だと思えなかったと思った者。半分正解だ。


他にも色々と考えた者はいるだろうが、それらも概ね正解だ。

と、まあだいたいはこんなものだろう。そして、これらすべてが宝である。断言しよう。

最後の二つに関してもだ。半分、と言ったのは、それを糧にして生きていけるかどうかにかかっている。


戦闘に向かないということは、戦闘以外のことに秀でている可能性があるという発見になったはずだ。もしくは努力が足りなかったと奮い立つために必要な原動力となったはずだ。


何ものをも宝だと思えなかった者は、戦いの中に自分の求める物は無かったと知れたということが宝となったのだと気付きなさい。


君達はこれから先、死ぬまでずっと魔術師だ。そして君達はまだまだ若い。魔術師となって一年も経っていないのだから実感が沸かないかもしれないが、魔術師として生きる人生の方が圧倒的に長いんだ。


その人生の中で、今挙げたものの全てが魔術師きみたちの宝となるだろう。今胸に抱いた宝を忘れずに、君達まじゅつしの道を、勇ましく、堂々と突き進んでいってほしい。私は、強く、そう願っている」


 リールリッドの言葉に、生徒は深く感銘を受ける。リールリッドの美しい美貌も手伝って、まるで女神のようだった。

 その女神は、手を胸に当て、祈るように目をつぶる。


 そして、女神はゆっくりと目を開いた。

 しかしその目には、悪魔のような、いたずら好きの光が宿っていた。


「と、言うわけだから。宝箱の中には何も入ってないぞ」

「「「「「……………………はっ?」」」」」


 生徒全員が、驚くほどのタイミングのよさを発揮した。


「ん? 信じられんか? しかし私は確かにこう言ったはずだ。宝箱・ ・を集める競技だと。宝は君達の心の中に、もしくは宝箱の外にあるものだと。なんなら宝箱の中を見てみるといい。鍵はもう開けてある」


 言うが早いか、数人の生徒が宝箱に飛び付き蓋を開ける。が、確かに中には何も入っていなかった。


「嘘、だろ……!?」

「えっ?! じゃあ私達の頑張りって一体……?」

「おれなんか、囮になってボコられたってのに……?!」

「あの宝箱運ぶのどれだけ苦労したと……」


 生徒全員、疲労もあるためか語気は小さい。が、沸々と怒りのボルテージが上がっていくのが誰の目にも明らかだった。


「「「ふっ……ふっざけんなああああああっ!!?」」」


 口火を切ったのは、やはりというかなんというか、《プレミアム》の三人だった。

 学院の長に対しての発言とは到底思えないが、状況が状況である。他の生徒が不快に思うことはなく、むしろそれに助長した。

 講師陣もこればっかりは援護出来ない、と、ただただリールリッドを見つめる。


「何ちょっといい感じのこと言って逃げようとしてんだああ!! マジふざけんなよゴラァァァ!!」

「結構重かったんだぞあの宝箱ぉぉ~! 聞いてんのかこんちくしょおおお!」

「あの子の頑張りをそんなくだらない理由で無駄にする気ぃっ!!?」


 《プレミアム》三人の罵声の嵐に、他の生徒達も加勢する。それは、悲しいかな。全クラスの全生徒が初めて一致団結した姿だった。

 そしてリールリッドはこう思った。それすらも宝だと。


 さらに加えて、悪魔はただただ楽しそうに口角を吊り上げた。


「ん~? 君達何を勘違いしているのかね。宝はちゃんと用意してあるぞ」


 それを聞いた生徒達は、まるで打ち合わせしたかのようなピッタリのタイミングで静まり返る。


「ははっ。バカだな君達。言ったろ。『宝箱の中には何も入っていない』と。そもそも宝箱の中に宝を入れるわけないだろ。宝箱を運んでいる最中に戦闘になったりして中身が壊れたりしたらどうするんだ? めちゃくちゃ大きい宝はどう入れたらいいんだ?」

「えっ? でもあの宝箱、めちゃ重かったし……」

「それは宝箱自体の重さだ」

「宝が入ってるって言ってたはず……」

「そうか? 私は開けてからのお楽しみと言ったはずだがな。つまり、中には何も入っていない可能性もあるわけだ。それに絶対何か入っているとも言っていないぞ。もしかしたら担任が伝え間違えたのではないか?」


 屁理屈だらけのリールリッドだが、確かに、ムカつくことに、反論することが出来ない。なんせ、今は本当に嘘は吐いていないのだから。

 しかも、宝はちゃんと用意されているということなので、別に悪いことは、一つしかしていない。


 その一つとは言わずもがな、生徒達をからかったことである。


「ほれ。よく見てみろ。宝箱にはそれぞれに番号が書かれているはずだ。その番号は既にこちらで確認済みだ。当然、不正はしない。大会が終わってから君達のクラスに届くようにしてある。まさか、ここで宝を手渡しされるとでも思ったのかい? そんなの荷物になるだけじゃないか。あははははっ!」


 一人壇上で大笑いをするリールリッドを見上げながら、否。睨みながら、生徒達はどこにもぶつけられない怒りの矛先をどこに向けて放てばいいのかわからないまま、取り合えずリールリッドに向かって虚しく叫ぶことしか出来なかった。


「「「この、嘘吐き学院長があああああああああっ!!!!」」」

「ありがとう !! 最高の誉め言葉だ!! そして、最ッッ高の表情を見せてくれて、本当にありがとうっ!!!」


 今年度のトレジャーウォーズは、最後にリールリッドが少女のような眩しい笑顔と、《虚言の魔女》の真骨頂を見せつけて、慎ましやかには終われなかった。


~~~


「全く……。あの人の悪癖にはほとほと呆れますね……」

「あ、あはは……。確かにあれは流石に、って思いましたね……」


 キャサリンはシエナが運転する魔法四輪の補助席に座りながら、愚痴を漏らす。シエナはまだリールリッドのあの手の嘘に慣れておらず曖昧に頷き返す。


 そんな二人が会話してる後ろの座席にはエルシア、グレイ、アシュラの三人が並んで眠っていた。エルシアはグレイの肩に頭を預けており、アシュラは何度か窓に頭をぶつけていた。


 三人とも車に乗り込むまでは何とか起きていたのだが、走り出した瞬間に眠りこけてしまった。


 ちなみにキャサリンは魔力が一度(から)になった反動で、未だに体をうまく動かせないので、シエナに運転の代理を頼んだのである。


「にしても、すごいですね三人とも。まさか他のクラスの子達もいたとはいえ、Bランクを倒しちゃうだなんて」

「そうですね……。前にも一度そんなことがあったり、なかったりしましたけど……」

「えっ……!?」


 キャサリンは小声で呟いたのだが、どうやら聞こえてしまったらしい。咄嗟に口を押さえたが、まあ、シエナになら、と思って事情を話した。

 以前町に出没したBランク魔獣を三人が討伐したこと。そしてそれは自分が討伐したことになっていること。そして、そのことは黙っていてほしい、ということ。

 シエナは話を聞いたときは流石に驚いたが、今日の出来事があったので、すんなりと納得出来た。


「《プレミアム・レア》……ですか。本当、将来どうなるのか……」

「それを正しく導くのが、講師として、年長者としての仕事ですよ、シエナ先生……。まぁ、偉そうに言ってますが、これ、ただの受け売りなんですけどね」


 キャサリンは自分で言っておきながら少し照れる。だがシエナは確かにその通りだと思い、講師としてのキャサリンを尊敬し、Aランクを討伐した魔術師としてのキャサリンも尊敬していた。


 そんなキャサリンもウトウトとし始めたので、シエナは気にせずに眠るように促し、キャサリンはそれに甘えてゆっくりと眠りに落ちていった。


「…………なんか話、あるんじゃないの?」

「……気付いてたのかよ」

「当然。なんせ私だからね」


 嫌な説得力を感じながらグレイは閉じていた瞳を開いた。シエナは、グレイに事実を全て話すべきか少し悩んだが、どうせ黙っていても自分で調べ出すだろうことは知っているので観念したように口を開く。


「……あの魔獣のこと、だよね?」

「あぁ。どこの組織の奴等だ?」

「実行犯は『魔薬屋』の人間だった。でも、魔獣や爆弾をどこで入手したのかはわからなかった」

「おい……。逃がしたのかよ?」

「いや。捕縛してた十人。その全員が何者かに殺されてた。証拠や痕跡は何一つ残ってなかったよ」


 そのシエナの衝撃の告白に、グレイは、そうか、としか返せなかった。



 グレイはカイン達から《ステルス・ゼロ》を使ってその場を離脱した後、近くで発生した戦闘音を聞いて飛び去ったカイン達を、少しだけ魔力を回復させてから追い掛けた。

 あの時、言い表せない嫌な予感を感じたのは何もカインだけではなかったのだ。


 そして最低限、《蜃気楼の聖衣(ミラージュ・ローブ)》を顕現できるくらいまで回復した後、カイン達の飛び去った方角へと走った。


 やっと追い付いたと思った時、目の前にいたのは件のゴルロブスターだった。

 ゴルロブスターの動きを見て、すぐに調教されていることに気付き、二つの可能性が頭を過る。


 一つは学院側がイレギュラーとして混ぜた魔獣である可能性。

 もう一つが不測の事態が発生している可能性だ。


 グレイは最悪の状況、つまり後者であると仮定してカインの助太刀に入ったのだった。


 そして最後のあの魔法爆弾だ。外部からの敵襲であるのはほぼ確定的であり、更に加えてミュウが見せてくれた地図にはBランク魔獣を倒した分の地図更新がされていなかった。


 だからグレイはリールリッドの話が嘘であることに確信を持っていた。だからこそ、壇上で問いただそうとした。

 しかし、リールリッドは多くは語らなかった。リールリッドは何もなかった、とだけ答えた。だがグレイにはそれだけで十分だった。

 なんせ、本当に何もなかったのなら「何のことだ?」と返したはずだからだ。


「やれやれ。れーくんはほんと察しが良いよね」

「お前ほどじゃ、ないけどな……」


 師と弟子の、二人だけの会話はそれで終了し、グレイは再び眠りに就いた。


「おやすみ、れーくん」


 問題児達を乗せた車は、夕暮れの中、ゆっくりとミスリル魔法学院へ帰っていった。


~~~


「──と、いうことで、作戦は両方失敗。『魔薬屋』達は一人残らず抹殺しました。……以上です」

「そうか、やはりそう簡単に《火憐砲台イグナイテット・カノン》を殺せるはずもなかったな。魔獣爆弾も、まさか一発以外は不発に終わるとは。いや、ご苦労。下がってくれ」

「……いえ。申し訳ありません。もう一つご報告しなければならないことがありました」

「なんだ?」

「詳細は不明ですが、黒い魔力と白い魔力を目視で確認致しました」

「…………ほほう。そいつは興味深いな」


 黒い魔力と白い魔力。その話を聞き、わずかだが声が弾んだようだった。


「《プレミアム・レア》か。しかし、ミスリル魔法学院……。《聖域の魔女》リールリッド=ルーベンマリアの城の中にいるとなると簡単には手が出せないな」

「重ね重ね申し訳ありません。もっと詳しく調査すべきでした」

「いや、構わない。下手にあの魔女に目を付けられる方が色々と面倒だからな。まずはこちらの戦力を整えておけ」

「御意に」


 とある町にある裏の組織。その名を知らぬ者はいないとまで言われている組織のアジトで部下の報告を聞き終えた男は、一人になった部屋で思考に耽る。


「はは。そうか。ミスリルに、ねえ。やれやれ、面白くなりそうだ。そうは思わないか?」

「そうねぇ。確かに少しは気になるわね」


 男は音もなく忍び寄っていた女に話し掛け、女も適当に返事する。


「まあ、どれだけ稀少な魔力を持ってようとも私に勝てるわけないとは思うけれどね。なんなら、私がその《プレミアム・レア》を連れてきてあげましょうか?」

「いや大丈夫だ。今は力を蓄える時と言ったろう」


 男は女が先走らないよう釘を刺す。女は、はいはいと適当に返し、そのまま部屋を出ていった。



 この広い世界を持ってしても、わずか数人しか存在しないと謂われる稀少な存在、《プレミアム・レア》。

 その力や、その力を持つ者を狙う組織は多く、この組織もまた例外ではなかった。


 暗躍の手が、ミスリル魔法学院の《プレミアム》に伸び始めていた。

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