終結の轟音 4
「《アクア・ゲイザー》!」
「《火山烈斬》!!」
折れた爪で尚も地中へ潜ろうとするリーグモールに、アルベローナがリーグモールの足元から水柱を上げ、その勢いに飛ばされたリーグモールを狙い撃ちするようにアスカが二本の太刀で斬りつけた。
再び地に落下したリーグモールに今度は光の雨が降り注ぐ。
「《ホーリー・レイ》。そして、《ストライク・サンダー》!」
リーグモールは光の雨を腕でガードするも、そこに一歩遅れて白雷が飛来する。何とか右腕で白雷を受け止めるが、エルシアの攻撃はまだ終わらない。
「まだまだぁ! 《フラッシュ・スプレッド》! 《スパーク・ブレッド》!」
今度は同時に魔法を放つ。右手の銃からは光の散弾。左手の銃からは電磁砲だ。
リーグモールは迎撃もままならずその全てを体で受ける。
「はあああっ!! 《サウザンド・ライトニング》!!」
そして、畳み掛けるように両の銃から千発もの光弾を撃ち放つ。
しかも、片方の銃から千発ずつだ。つまり合計二千発もの光弾がリーグモールに襲い掛かる。
その攻撃を回避することも叶わず、リーグモールはただひたすら防御を固める。
しかし、流石はBランクの土属性。これほどの連続攻撃を受けてもまだ絶命には至らない。それは単にリーグモールの耐久力が強いだけでなく、エルシアの魔力もそろそろ限界が近いことを現していた。
「はぁ……はぁ……。もうっ!」
肩で息をするエルシアに、リーグモールは《ロック・フォール》を放つ。
自分に向かって落ちてくる岩を見上げ、退避しようとするも足が着いてこなかった。
「やばっ──」
「はああっ!」
しかし寸でのところで、アスカが岩を真っ二つに斬り裂き、エルシアに直撃することはなかった。
「ほら、貴方の相手はこっちですの! 《アクア・スプラッシュ》!」
そしてアルベローナがリーグモールの注意を引く。エルシアは短くアスカに礼を言うと、状況の再確認を急いだ。
現在、土属性に強い風魔法を使える人物はここにはいない。例えいたとしても半端な実力しか持たない者ではかえって足手まといになる。
逆に土属性に弱い水属性のアルベローナはアスカやエルシア以上に消耗している。
今はこちらの回復のために囮として動いているが、早く作戦を考えないと危険である。
リーグモールのあの防御力をも貫くことが出来るほどの圧倒的な攻撃力が必要だった。そして攻撃力に特化している属性は火だ。
しかしアスカもかなりの魔力を消費している。そんな状況下で中途半端な攻撃はむしろ魔力を無駄に使うだけで、かえってこちらが危険になる。
なら、取れる作戦は一つしか思い浮かばなかった。
「アスカ」
アスカはもしかしたらエルシアに名を呼ばれたのは初めてだったかもしれない、と思いながら後ろにいたエルシアの言葉に耳を傾ける。
「どんな方法でも構わないから、あいつを私の頭上にまで飛ばして。確実に仕留めるから」
魔力の限界が近いくせに確実に仕留めてみせると言い切ったエルシアに、アスカは何を思ったかエルシアに向かって刀を向けた。
「何言ってんの? そんなフラッフラで何が出来るってのよ。ふざけてんなら──」
「お願い、信じて」
エルシアはアスカに刃を向けられているにも関わらず一切怯むことなくアスカを睨み返した。
それを見てアスカはふんっ、と鼻を鳴らした後、リーグモールへと飛び掛かった。
「わかったわよ! 絶対あんたの頭ん上までぶっ飛ばしてやるわ! でも、それでしくじったら後で絶対燃やすからねっ!」
「ええっ。わかったわ」
エルシアはアスカに微笑みかけ、両の銃に意識を集中させた。
その間にアスカはアルベローナの助太刀に入り、作戦を伝える。
「エルシアさんの頭の上に? 大丈夫なんですの?」
「本人がそう言ったのよ。どうせ打つ手なんかないんだから賭けてみてもいいんじゃない?」
「……ですわね。了解しましたわ!」
アルベローナは大きく頷き、魔法を紡ぐ。
「用は空へと飛ばせば良いのでしょう。なら、これでどうです! 《アクア・ゲイザー》!」
それは先程リーグモールを吹き飛ばした技だった。確かにそれなら、とアスカも思った。だが、リーグモールは既に地中に戻ることを諦めていたため、その攻撃をギリギリで躱した。
攻撃を躱されたことにわずかに驚く二人に、リーグモールは《アース・クエイク》を放つ。
地面が隆起し、アスカ達に襲い掛かる。
何とか二人とも横に跳んで攻撃を凌いだが、リーグモールがすかさずアルベローナに追撃を仕掛けた。欠けた爪とはいえ、直撃すればひとたまりもない。
「甘いですわ! 《リキッド・ダンス》!」
だがアルベローナは冷静だった。羽衣のアーク、《水仙》がリーグモールの腕に絡みつき、攻撃をまるで清流のように華麗に受け流し、振り回して、上空に投げ飛ばす。
「今ですの! アスカさん!」
「ナイスよアルベローナ! あとはアタシに任せなさい! 《ジェット・フレイム》!」
アスカは二本の太刀を逆手に持って炎を噴出させてリーグモールに向かって飛ぶ。
「はぁぁあ! 《火炎車》ァァァッ!」
アスカの炎の噴射を利用した回転斬りが炸裂し、リーグモールはエルシアの方へと飛んでいく。
「エルシアッ!」
「エルシアさんっ!」
アスカとアルベローナの声が飛び、エルシアはこちらに向かって来るリーグモールに狙いを定め、両の銃を構えた。
だがリーグモールも宙で体をひねり、エルシアに魔法を放とうとした、まさにその時。
どこからか、凶暴な魔力と凄まじい轟音が鳴り響き、リーグモールはその魔力に気をとられてしまった。
それはアスカとアルベローナも同様だった。しかし、エルシアだけは違っていた。
全くぶれることなく、集中力も乱れなかった。それは、嫌というほど知っている魔力だったからだ。
そしてエルシアは時間にするとほんの刹那の時だったが、この一週間のことを思い出した。
──エルシアは大会に向けて特訓していた際、アシュラの《月影》の力を見て、自分にも何か応用できないかを幾度も試してみた。最初は失敗の連続で、上手くいく気などしなかったが、グレイ達の協力を得てようやく《シャイニング・フェザー》の新たな力を目覚めさせたのである。
「創造の煌めきよ。陽光の翼に集い宿りて、光り輝け。《クリエイト・ライト》」
すると純白の銃から、白く輝く光が溢れだし、エルシアの腕を優しく包み込む。
そして、《シャイニング・フェザー》の新たな姿を創り出した。
「モード《バスター・ウィング》!」
エルシアの両腕は純白の翼のレリーフが付いた銃身に包まれており、銃口は小型の大砲のようになっていた。
「これで最後よ。天を穿て! 《シャイニング・バスター》!!」
終末の光を連想させるエルシアの二つの砲撃は螺旋に絡み合い、リーグモールを雲を突き抜けるほどまで高く撃ち上げた。
その圧倒的な光と轟音にアスカやアルベローナは目を閉じ耳を塞いだ。
やがて、リーグモールは塵も残さず消滅したのを確認し、エルシアは仰向けに倒れた。
「やっと、倒したぁ……。もう腕上がんないわ……」
長く息を吐き出し、アークを消すエルシア。両腕は今の衝撃で痺れ、まともに動かなかった。
エルシアに続くようにアスカとアルベローナもその場にへたりこんだ。
「あぁ~、疲れた……」
「もうへとへとですの……」
二人もアークを消し、倒れているエルシアを見る。
そして、アスカが最初に口を開いた。
「……悪かったわね。エルシア」
「え?」
「変な言いがかりで突っ掛かったりして……」
アスカはそっぽ向きながらも、素直に謝罪した。
アスカ自身も重々承知していた。自分がただの言いがかりで、逆恨みに似た感情で《プレミアム》に敵対心を持っていたことを。
しかし、それはシエナのあの言葉を聞いた時に自分がどれだけ小さい人間なのかを思い知らされた。ただ偉そうにふんぞり返るだけの貴族達と同じなのだと思い知らされた。
そのシエナの言葉によってアスカの中で考えが少し変わった。しかし、一度灯った感情の火はそう簡単に消えてはくれなかった。心の奥底で燻り続けた。
アスカはその火を全て吐き出し、消し去るために《プレミアム》と戦いたかったのだ。
そしてエルシアはそのアスカの感情に気付いていた。それは以前、自分も似た感情に陥ったことがあったからであった。
だからこそ、エルシアはアスカの決闘に応じたのだ。
「別に……。気にしてないわよ」
「そう……。あと、あんたにも謝っとくわ。あの時は、気が立ってたのよ」
「あっ、それは私もだわ。ごめんなさいね、アルベローナ」
「ふ、ふんっ。別に構いませんわよ……。ルール上は問題なかったとはいえ、邪魔をしたのはわたくしの方ですし……」
アルベローナは自分の髪を触りながら自身も反省した。
確かに彼女は反則行為は何もしていない。だが、貴族である彼女には、貴族の決闘がどれだけ神聖なものなのかをよく知っている。
今二人のやりとりを聞いていると、自分にはわからない何かが二人の間にあったのだろうことは容易に理解できる。それに割り込んだのだから、邪険に扱われるのはある意味、当然のことである。
エルシアは今の状況にデジャヴを覚えながら、こう呟いた。
「今回は邪魔が入ったけど、次は、絶対私が勝つわ」
その言葉に、アスカとアルベローナも負けじと反発した。
「何寝惚けてんのよ。次勝つのはアタシよ!」
「お二人とも冗談がお上手ですわね。勝つのはこのわたくしですのに」
この負けず嫌いの二人を見ると、エルシアは自分のクラスメイト二人を思い出した。
「なら、また今度の大会で決着をつけましょう」
「上等ッ」
「ええ。今度こそ正々堂々と戦いましょう」
「「「神聖なる魔術師の全霊を持って」」」
それは貴族が使う誓いの言葉。三人の幼き魔術師達による決闘の誓いだった。
そして、張り詰めていた緊張の糸が切れたかのように全員意識を失い、それぞれの陣地へと飛んでいった。
その数秒後、ヴィンデルの森全域に響き渡るほどの強烈で暴虐な威力の爆発が起こった。




