お宝争奪戦 5
ヴィンデルの森、南西部。南西には《セイレーン》の陣地が存在している。
その近くでは《セイレーン》の制服を着た少女がモンキーヒーターを一掃していた。
「ふう……。これで終わりですわね。全く、他愛ありませんわ」
「まあ、貴女ほどの力があればそこらの魔獣に遅れを取ることはないでしょうが……」
「そうですわよね。やはり他のクラスの人達を蹴散らした方が早く宝の在処を探せそうですわ」
口に手を当てながら思考を巡らせてる縦ロールの髪をした少女は《セイレーン》の序列一位、アルベローナ=アラベスクである。
そして、その隣には眼鏡を掛けた少女、《セイレーン》序列二位のラピス=ラズリだ。その彼女は指で眼鏡を上げながらアルベローナに説教を始めた。
「ですが、アル。今私達は仲間達と分断してしまっています。主に貴女のせいで、です」
「ぐっ……。し、仕方ないではないですの。逃げる魔獣を夢中で追い掛けていたらいつの間にかこんなところまで来てしまっていたんですものっ」
「はぁ……。もっと他の仲間のことを考えてください。私以外誰も着いて来れていないではないですか。貴女はチームのリーダーなんですからしっかりしてください」
「うぅ……申し訳ありませんですわ……」
「やれやれ。それで、どうしましょうか。彼らがあの場所に残っていてくれればいいのですが…………ッ!?」
ラピスに叱られ、肩を落とすアルベローナ。まるで姉妹のようなやりとりをしていた二人だが、近くで大きな魔力の衝突を感じて即座に意識を切り替える。
「……なんですの。この魔力……?」
「魔獣、ではないですね。この森にはDランク以上の魔獣はいません。恐らく、序列上位者同士が戦っているのかと」
木々の陰に身を隠しながら進む二人。まずは様子見をし、その後の行動を決めようと考えたのだ。
次第にその戦いで生じているであろう音が大きさを増していく。その場所に近付いている証拠だった。そして、ついにその視界に二人の少女が戦っている姿が写し出された。
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「《レイジング・ライカ》!」
「《ジェット・フレイム》!」
光速で移動するエルシアにアスカも足から炎を勢いよく噴出させて何とかその速度に食らいつく。
「貫け! 《ストライク・サンダー》!」
「切り裂け! 《フレイム・スラッシュ》!」
エルシアの《サンライト・フェザー》から放たれた二発の白雷を、アスカの《篝火》が火花を散らしながら切り裂いた。
「ちっ! ならこれでどう!? 《サウザンド・ライトニング》」
エルシアは次に千発もの光弾を撃ち出した。
通常なら捌ききれるはずのない攻撃。誰もが慌てる場面だが、アスカは慌てず冷静に対処した。
「《千火ノ太刀》!」
アスカの振るう二本の太刀は、彼女に向かってくる全ての光弾を残さず焼き斬った。
「うわっ、やるわね。今の攻撃、グレイやアシュラでさえ全弾落とせないのに」
「当然よっ。これがアタシの実力なんだからね! そういうあんたこそ速すぎよ。何なのそのスピード!?」
二人は武器を構えながら互いの実力を確認し合う。
攻撃に優れたアスカ。速度に優れたエルシア。彼女ら二人は未だにお互い決定打を当てられずにいた。
「……やりますねあの二人。《イフリート》の二位と《プレミアム》の一人ですね」
「ええ。そうですわね」
その二人を遠くから眺めるアルベローナとラピス。ラピスは即座にこの場から離脱すべきだと考え、隣にいるアルベローナの肩を叩こうとした。が、その手はスカッと空振りした。
えっ、と思いアルベローナの方を見ると既にそこには彼女の姿は無かった。
「アル? どこに──ッ!?」
ラピスは思わず息を飲んだ。アルベローナは何故か、堂々とその二人の元へと歩いていたのだ。
「……誰ッ!?」
アスカがその気配に気付き、アルベローナに向かって火球を飛ばした。
「《バブル・ポンプ》」
だが、その火球は水泡に激突し、瞬く間に消火した。
「まあ、いきなり野蛮ですわね。まずは名乗りを上げ、口上を述べるのが貴族としての作法でしょう? ねえ、アスカ=バレンシアさん?」
「あんたは確か……アルベローナ=アラベスク、だったわね。《セイレーン》の序列一位が何の用かしら?」
アスカがアルベローナを睨み付ける。そのアルベローナは口元に手を当てながら答える。
「用とはまた異なことを。わたくし達は今、何をしているのかしら? 今こうして姿を現したのはわたくしのプライドのためですが、本来なら不意打ちしても良かったのですわよ?」
「ああ、なるほど。つまりは私達の邪魔しに来たってわけね」
エルシアは勝手に、簡潔に結論をまとめた。
「何よ。邪魔しにきただけなのね。なら悪いけどどっか行ってくれる? 今アタシ達忙しいのよ」
アスカはしっしっ、と追い払うように手を振り、アルベローナを無視して戦闘を再開した。
「あ、貴女達……ッ! ……ふっ。ですが、別に貴女達の言うことを聞かないといけないなんてルールも存在しないのですわ! 食らいなさい! 《アクア・スパイラル》!!」
一人取り残されたアルベローナは怒りに震えたが、すぐに切り換えて二人に向かって巨大な渦潮を放つ。
エルシアとアスカは同時に飛び上がり、その渦潮を回避する。その二人を狙い打つようにアルベローナは追撃する。
「《ウェイブ・ランス》!」
水で出来た二本の槍をエルシア、アスカにそれぞれ投げ付ける。
「落ちろ! 《ホーリー・ランス》!」
「燃え上がれ! 《噴炎》!」
それをエルシアは上空から飛来した光の槍で打ち落とし、アスカは火柱で蒸発させた。
「何すんのよ! このチョココロネ!」
「邪魔すんなって言ったでしょ! このクロワッサン!!」
戦いに文字通り横やりを入れられた二人は怒りのままにアルベローナの髪型を貶す。それはただ単にその特徴的な髪型を見た彼女らの感想だった。
しかし、最悪なことにそれはアルベローナにとって一番の逆鱗だった。
ブチッ! という音が聞こえてきそうなほど、アルベローナの表情は今までとは違って優雅さも何も感じられなくなり、怒りの形相を露にした。
「ち、チョココロネですって……? クロワッサンですってぇ……ッ!? そちらこそ、お子ちゃまみたいなツインテと、雑に結んだポニテのくせに、わたくしの美しい髪を侮辱しましたわね!! 絶対許しませんの! 馳せ参じなさい! 《水仙》!」
アルベローナは自身のアークの名を叫び顕現させた。するとアルベローナの肩から両手にかけて纏うように現れたのは透き通るような美しい羽衣だった。
羽衣を纏う彼女はまるで天女のようだった。その怒りにまみれた表情を除いては。
「わたくしを本気にさせたこと、骨の髄まで後悔させてやりますわ。《セイレーン》序列一位。アルベローナ=アラベスク。参りますっ!」
エルシア、アルベローナ、アスカによる、恐ろしい女の戦いが始まった。
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「アル……。何簡単に頭に血をのぼらせてるんですか……」
ラピスはアルベローナ達から離れた場所で頭を抱えながら成り行きを見守っていた。
「全く、貴女の作戦は理解しましたが、一応私に相談してからにしてください。私だから気付けましたが、他の方なら……いえ、良いです。今更ですし。では、来てください《リキュール》」
ラピスは愚痴をこぼしながら自身のアーク、《リキュール》を呼び出した。彼女のアークはスナイパーライフルの形をしていた。
ラピスは倒れている木にライフルを固定し、レンズを覗き込む。
先に狙いを定めたのはエルシアの方だ。理由は二つあった。
まずエルシアの方がスピードが速いからだ。もし、先にアスカを狙い撃てば自分の存在を知られ、最悪居場所まで特定される。エルシアの速度があれば今ある距離など、わずか数秒で詰められる。近距離戦に持ち込まれればラピスに勝ち目はない。
そしてもう一つの理由はアスカは火属性であるということだ。先にエルシアを倒せれば水属性の序列一位と二位を同時に相手をしなければならなくなり、アスカがいかに強かろうと、どうにもならないだろう。
ラピスは冷静に狙いを定め続け、ついにエルシアにわずかな、しかし致命的な隙が生まれた。
その隙を確実に撃ち抜くために引き金を引く、まさにその瞬間。ラピスは全身に電流が走ったかのような感覚に襲われ、何も考えずに地面に転がった。
次の瞬間、今まさにラピスがいた場所が激しく燃え上がった。
ラピスは三度地面を転がり、すかさず木の陰に身を隠した。
「おおっ。外しちゃった。気配はなるべく殺してたのに。良い勘してるね」
「……どちら様ですか?」
「名乗らないとダメかな?」
「いえ。結構です。それに、貴女が誰か思い出しましたから」
「ありゃ。バレてたの? ならいいや」
そんなお気楽な声が先程ラピスのいた場所から聞こえてくる。
目を凝らして見るとそこには《イフリート》序列三位、メイラン=アプリコットの姿があった。彼女も自身のアーク、《フレイムテイル》を既に呼び出していた。
「いやぁ、ごめんね。不意打ちしたみたいな形になっちゃって。でもま、お互い様だよね。あなたも狙撃しようとしてたわけだし」
メイランは一応謝罪はしたが、内心全く反省なんてしていなかった。しかし、今ばかりは当然のことであり、悪いことではない。
それを重々承知しているため、ラピスも余計な言葉を発しなかった。そこにメイランは更に話を続ける。
「それでさ、出来ればアスカの邪魔はしないであげてくれない? あの子は一度全力で戦った方が良いと思うんだ。あ、あの人はもういいや。始まっちゃってるしね」
あの人、とはアルベローナのことだとすぐに理解する。ラピスは背を木に預けながら打開策を考える。
属性的にも序列的にもラピスの方が上ではある。しかし、メイランは近接戦闘を主とする魔術師だということが問題だった。
だが、引くわけにも行かなかった。
「そうですか。わかりました。では、私はこれで立ち去ります……と、言うとでも思ってたんですか?」
「ん~。そうして貰えると助かるなぁ、とは思ったけど。やっぱそうはいかないか」
参ったな、と頭を掻くメイランだが、その顔は全然困っているようには見えなかった。
「なら仕方ない。代わりに暇なボクが君の相手をすることにするよ。それじゃ、行くよっ!」
メイランは燃えるような瞳を爛々と輝かせ、ラピスはとにかくメイランから距離を取るべく走り出した。




