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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
二章 エレメンタル・トレジャーウォーズ
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南方支部の副隊長 3

 シエナは持っていたマイクの電源を切った。


 静まり返る闘技場。何百人もいるにも関わらず、誰も何も発しない。そんな中、二ヶ所から同時に拍手が鳴った。


 片方はリールリッドから。

 もう片方はグレイからだった。


 そして次第にそれに続くように拍手が鳴り響く。


 シエナは少しだけ照れながらリールリッドにマイクを返す。


「ごめんなさい。勝手なことして」

「いやいや。そんなことはない。君はとても良いことを我々に教えてくれた。心から感謝しているよ。本当、この学院に来てくれたのが君で良かったと思っているよ。シエナ先生」


 リールリッドは本心からそう告げ、シエナから受け取ったマイクを使って生徒達に解散するよう言った。

 だが、その後も拍手は中々鳴り止まなかった。


「なかなか様になってるじゃんか。シエナ。いや、シエナ先生、か」


 そんな中、グレイは笑いながら小さく呟いた。その声は拍手で紛れて誰にも聞こえることはなかった。


 グレイは今回の決闘の主旨を概ね理解していた。しかし、それはシエナの性格をよく知る彼であったからこそ出来た予想である。


 シエナは《シリウス》南方支部の副隊長を任せられるくらいの実力者である。そんな彼女は別の属性を持つ部下達からも絶対の信頼を置かれていた。

 と、言うのも彼女は属性差別をする者が一番嫌いだからだ。

 故に彼女は、一人の例外を除き、どんな者とも仲良くなれる才能を持っていた。

 そんな彼女が今学院に蔓延っている偏見の噂に何も感じないはずはないと思っていた。


 その噂が《イフリート》の悪の巣窟説。それともう一つが、グレイがメイランと行った決闘の件であった。


 ここ最近、学院では《プレミアム》はやはり落ちこぼれのクラスであるという話が囁かれていた。

 それはグレイが一方的にメイランにやられたからである。が、実際は色々な思惑があってあえてそうしたのだが、他人の目にはそうは写らなかったのだ。

 それは勿論計算通りにわざとボコボコになったわけではあるのだが、まさかこういう噂が再び浮上してくるとは思わなかった。


 グレイはエルシアとアシュラに詫びたが、二人とも特に気にしてはいなかった。曰く「評価が少し前のに戻っただけ」と言っていた。しかし、申し訳ない気持ちもあったグレイは何とかしないとと考えていた。


 しかし、それはシエナとアシュラによって解決されてしまった。


 今の話を聞いた者のほとんどはもうそんなくだらない噂をするようなことはなくなるだろう。シエナには感謝せねばならない。


 そして、アシュラにもだ。グレイは人の心情を見抜く才能に恵まれている。何故か恋愛感情に関するものは見抜けないが、それはさておき。

 アシュラは今回の決闘を受けたのは、最初は自分の欲望のためだけだっただろうが、途中からグレイとエルシアのためでもあった。

 七割くらいは自分のためだったとは思われるが、残りの三割ではこう考えていた。


 自分が、《シリウス》の副隊長に一矢報いることが出来たなら、《プレミアム》の落ちた評判もまた盛り上がるかもしれない。と。


 だが、めんどくさい性格をしているアシュラは自分の欲望を織り混ぜてわざと馬鹿馬鹿しい条件を出して真実を誤魔化し、決闘を承認したのだ。


 シエナもそれに途中で気付き、だからこそ最後は全霊でアシュラと対峙したのだ。


「行くか」

「そうね」


 グレイはそう言って立ち上がり、エルシアもそれに続いて立ち上がる。アシュラは担架で運ばれていったので、グレイ達は観客席の出入り口に向かって歩き始めた。


~~~


「くそぅ……ッ! 勝てたらあのおっぱいを揉みしだくことが出来たっていうのに……ッ!! 一生の不覚だ……!」


 その発言を聞いたグレイは、前言を撤回し、アシュラには感謝の言葉は必要ないなと判断した。


 そのアシュラは顔中に包帯を巻かれ、その包帯を血涙で赤く染めていた。本気で悔しそうにしていたが、どうにも同情してやる気にはなれなかった。


「最っ低ね。もっと容赦なくボコボコにされれば良かったのに」

「何酷いこと言ってんだよエリー! 俺の心と体はもうボロッボロだわ!」

「心? あんたみたいなただの畜生に?」

「畜生に謝れ! つーか、あんな美人の胸を揉みしだけるチャンスなんて滅多に来ねえんだぞっ! わかってんのかっ!?」

「滅多に、っていうか、たぶんあんたには一生来ないわよ」

「やめろよそんなこと言うの!! 来るよ! いつか絶対来るよ!!」


 泣き叫ぶかのようなアシュラの言葉を無視しながらキャサリンはアシュラに掛けていた回復魔法を止めた。


「もう元気そうですし、あとは自然回復を待ってください」

「お、おぉ……。キャシーちゃん目がこわぁ~い……。まだちょっと痛むから回復を……」

「えっちぃ生徒さんに使う魔力はもうありません」

「見捨てないでキャシーちゃん! エルシアのささやかすぎる胸はともかく、キャシーちゃんの胸は大層立派なもんだ──」


 アシュラの台詞は最後まで紡がれることはなく、キャサリンの水飛沫とエルシアの電撃を浴びて、意識を刈り取られた。


「馬鹿だろお前……」


 グレイは呆れながらも意識のないアシュラに向かって手を合わせるくらいのことはやってやることにした。


~~~


 シエナはようやく一人になり、静かになった治療室で一息ついていた。

 ついさっきまでは生徒が大勢詰めかけ、「感動した」「格好良かった」「目が覚めたみたいです」「結婚してください」などと言われていた。

 それを綺麗に対処し、告白は断りながら捌ききり、椅子に深く座り込む。


 シエナは校内見学の時に聞かされたグレイの決闘の話を聞き、すぐにグレイが何を考えて負けたのかを理解した。

 だからその名誉を回復させるためになにか出来ることはないかと考えた。

 それで思い付いたのが、《プレミアム》の誰かとの決闘だった。

 流石にグレイ自身と戦うとまたややこしくなるので、代わりにエルシアかアシュラと戦おうと思い、まずエルシアに話し掛けた。

 だが、グレイの普段の学校生活のことを聞いていると目的を忘れて話し込んでしまっていた。

 そこにアシュラが乱入してきたので、ようやく目的を思いだし、アシュラに話を持ち掛けたのだ。


 最初は魔法を二、三発くらい耐えられたら御の字だと思っていた。その後に自分が《プレミアム》を称賛すれば評価も改められるだろうと。


 だが、予想以上にアシュラは強く、十分に戦えたので、誰が見ても文句無いくらいの強さだったはずだ。

 にも関わらずにあの発言だ。だからシエナは思わず切れてしまったのだった。


 アークまで使ったのはやり過ぎたとは思ったが、その後の話で何とか生徒達に理解してもらえたようで良かった。


 正直、らしくないとも思ったのだが、結果的に良い方向に導けたと満足していた。


 客席に座る生徒達を見渡した時、懐かしい記憶を思い出した。

 楽しく嬉しい記憶と、辛く悲しい記憶が同時に甦り、複雑になった。


 だが、客席に座っていたグレイの顔を見たら少し安心した。


「……さて。そろそろ校舎に戻るかな」


 そう思い立ち、治療室を出ようとすると、ちょうど扉がノックされた。


「はい? どうぞ」


 シエナの返答を聞き、部屋に入ってきた少女に、シエナは見覚えがなかった。


「あ~、ええっと~」

「どうも。ソレイユ先生。ボク、メイラン=アプリコットって言います」


 だが、その名前を聞いてハッと思い出した。


「れーくんと決闘した子……?」

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