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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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初めての連続 4

 ティアラの宿泊している部屋のバルコニーに侵入したエルシアは、どうやって部屋の中へ入ろうかと考えているとカーテンが開かれて警戒心丸出しのティアラと目があった。


「何の用だ貴様? ここは敵陣の中で今は大会中だぞ。こんな陽の高いうちから闇討ちか?」

「別にそんなつもりはないわよ。正面から入ってもどうせ門前払いされるだけだと思ったから失礼を承知でバルコニーに上がらせてもらっただけ」

「…………だとして、だ。何故妾がここにいるとわかった? 部屋は他にもあるだろう」

「私、感知能力を向上させる魔道具を持ってるからね。これで貴女の魔力を探ったの。綺麗な虹色の魔力だったからすぐにわかったわ」


 エルシアはそう言って指に填めている指輪を見せる。ティアラは興味無さそうに鼻を鳴らすと冷たく突っぱねる。


「どういう目的があるかは知らぬが、これはれっきとした不法侵入だ。今すぐ帰るなら見逃してやる。さっさと──」

「ミュウちゃんのことで話があるのよ」

「──ッ!?」


 だがエルシアからミュウの名を出され、ティアラは金縛りにでもあったかのように体が硬直し、頭が真っ白になる。


「だから、少しだけでいいから話を聞いてくれないかしら?」


~~~


「いつつ……。ったくあの過保護お節介女め」


 アシュラはエルシアの右ストレートを受けた顔面をさすりながら、街の中を適当にふらついていた。


「てか、マジで一人であのティアラって奴のとこ乗り込んだのかね? もし他の奴にバレたらめんどくせえことになりそうだが」


 今まさにエルシアがティアラの部屋のバルコニーに忍び込んでいることにアシュラが気付くはずもなく、言葉にし難い焦燥感だけが心中に渦巻いていた。

 が、アシュラはその焦燥感を振り払い気を引き締める。


「よし! 今日こそは!!」


 今日も今日とてナンパに繰り出そうと周囲に可愛い女子がいないか見渡していると、ふと二人の女性を発見した。


「お、おぉっ!? あれはまさしくエリーのお姉様方じゃねえかッ!? エリー自身もどこに行ったかわからねえって言ってたのに、こうして偶然発見出来るとは、これはまさに運命の出会いってやつだろ!」


 ナタリアとセフィリアの姿を捉え、人混みを掻き分けて二人に近付く。その二人が大通りから逸れ、裏通りに続く角を曲がったのでアシュラも続いてその角を曲がる。しかし──


「あん? ど、どこ行った?」


 曲がり角を曲がったアシュラの視界に映ったのは人通りの全くないただの静かな裏通りで、確かにここの道に入っていったはずの二人の姿がどこにも見当たらなかった。


「消えた……? いやいや。グレイじゃねえんだし、んなこと出来るわけが……。つか、確かエリーの姉さんって──ッ!?」


 ナタリア達の行方を探していたアシュラは急に背後から殺気を感じ、咄嗟に裏通りの奥へと身を投げ出す。


「くっ……。逃がしたか……。だがそう遠くへは行っていないはずだ。この周囲をくまなく捜索しろ!」


 アシュラは恐らく殺気を放ったであろう男を睨み付ける。だが、どうやらその殺気はアシュラに向けられたものではないようで、警戒レベルを一つ下げる。


「誰だオッサン? こんな街中で物騒な殺気放ってんじゃねえぞ」

「…………」

「おい、何か言ったらどうなんだよ?」

「……黙れ小僧。こちらは任務中だ。それに今貴様のせいで目標をロストしたのだ。本来なら相応の責任を……」

「あ? 何のことだかさっぱりだが、その目標とやらに逃げられたのはてめえの怠慢が原因だろ。それを棚に上げて小僧おれに責任を押し付けてんじゃねえよ」


 ナタリア達を見失い、八つ当たりも込めて全力で煽るアシュラに、男も青筋を立てるが、アシュラを顔をよく見てから舌打ちをうつ。


「貴様、あの《プレミアム》とかいう珍妙な魔術師か……。であるならとっとと失せろ。私はあの魔女と一戦交えるつもりなどない」

「珍妙だぁ?! 言ってくれるじゃねえか! なんならその珍妙な力でねじ伏せてやろうか?!」

「言っただろう。失せろ。貴様などに構ってやる時間も惜しい」

「大丈夫だ安心しろ。一瞬で地面にめり込ませてや──」

「《バブル・シュート》!」

「──ごぼぶっ?!」


 今まさに飛び掛かろうとしていたアシュラは、突如飛来してきた水泡に全身を覆われる。アシュラは思わずデジャヴという名の走馬灯が頭に過り、水泡が飛んできた方を向く。

 そこには息を切らしながら怒っているキャサリンの姿があった。


「はぁ~、何とか間に合いました……。ていうか、アシュラ君は何でそう喧嘩っ早いんですか!」


 パンッと手を叩くと水泡が割れ、アシュラは地面に落下し盛大に咳き込む。


「頭は冷えましたか?」

「げほ、ごほっ……。く、頭どころか全身冷えきったっての……」


 まだ多少のイライラは残っていたが、キャサリンの介入で冷静さを取り戻す。


「すみませんでしたうちの生徒がご迷惑を。彼、普段はとても良い子…………なので、今回は見逃してもらえませんか?」

「ちょい待てキャシーちゃん。何だったんだよ今の間は?!」

「胸に手を当ててよく考えてください」


 キャサリンは男に頭を下げ、アシュラは言われた通りに胸に手を当てる。

 男はふん、と鼻を鳴らしそのまま何も言わずに立ち去った。


「ふぅ、良かった……。もう、アシュラ君。こんな街中で魔法をぶっぱなすつもりだったんですか!?」

「…………キャシーちゃんだって魔法使って──」

「なにか?」

「いえ! なんもねえッス! すんませんでしたぁっ!!」


 キャサリンのマジキレトーンにビビったアシュラは速やかに土下座した。キャサリンはやれやれと肩を竦めたがその表情はどこか優しげだった。


「まあでも、今回は特別に良しとしましょう。思わぬファインプレーだったみたいですし」

「ファインプレー?」

「あぁいえ、それは気にしなくていいです。ですがもうあの人には近付かない方がいいですよ」

「あん? あいつキャシーちゃんの知り合いだったのか?」

「面識はないですよ。というか、やっぱり知らなかったんですね。彼は《王道十二宮ゾディアック》の一角、《人馬宮サジタリウス》のケイロン=ゼラニウムですよ」

「は? あれが、《王道十二宮ゾディアック》……? はぁぁあっ!?」


 アシュラは驚きのあまり、ケイロンが去った方角を二度見する。勿論既にケイロンの姿は無く、人混みしか見えなかった。


「そういえば、ブリード魔法学園に息子さんがいるみたいですね」

「え? あぁ、何かそんな話をどっかで聞いた気がする……。でもあんなクソジジイが《王道十二宮ゾディアック》とはねぇ……」

「クソは流石に言い過ぎなのですよ。彼はただ任務に忠実過ぎなのです。融通が利かないと言いますか」

「ほほぅ……。やけに詳しいじゃねえかキャシーちゃん。もしかしてあのオッサンに惚れてんのか?」

「彼の忠義心の高さは有名なのですよ。むしろそれを知らないアシュラ君がお馬鹿なのです。大会が終わったら勉強の時間を増やしますよ」

「うげぇっ!? そりゃないぜキャシーちゃん!」


 余計なことを言って自分の首を絞めるスタイルのアシュラを笑いつつ、キャサリンは誰もいない裏通りを見つめる。


「さて。早く何とかしないとですね」

「んん? キャシーちゃん何か言った?」

「いえ、何でもないのですよ。あとアシュラ君は目を離すとまたすぐに問題を起こしそうなのでホテルに戻っているように。先生命令です」

「ちょ!? それだけは勘弁してぇぇえ!!」


 キャサリンは道中泣きついてきたアシュラを完全無視し、ホテルまで強制送還した。

 アシュラの最初の目的であったナンパをする前に、彼の残りの一日は全てホテルで過ごすこととなってしまったのであった。


~~~


「──それで。妾にお主の言葉を信じろと?」

「そうよ。この喧嘩はあなたの勘違いで生じたの。ミュウちゃんは純粋にあなたと友達になりたいと思って──」

「敵方の話を鵜呑みにするほど、妾は愚かではない。出て行け。もう話すことはない」

「ちょ、待って! お願い。せめてミュウちゃんともう一度」

「ホルス! エポナ!」

「なっ!?」


 ティアラの命令でホルスとエポナが同時にエルシアに襲い掛かり、エルシアも咄嗟にバルコニーに飛び出す。


「これ以上ここに残れば今度は力ずくで追い出す。騒ぎになれば学校問題になるぞ。それが嫌なら疾く去れ!」

「くっ……」


 エルシアは苦々しく表情を歪め、悔しさに握った拳が震える。そしてそのまま、ティアラの言う通りその場から立ち去った。


 バルコニーから外の空気が部屋の中に入りこむ。見ると太陽はほぼ沈みかけで、今日の競技は既に終了している時間帯だった。気付けばかなりの時間エルシアと話していた。


「もう、明日が最終日なんだ……」


 ポソリ、とティアラは少し寂しげな声を漏らす。この時、ティアラは自分が寂しいと感じていることにすら気付いてもいなかった。

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