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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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灰色の少女と虹色の少女 5

 ──数時間前。シュエットに耳打ちで伝えられた情報の真偽を見極めるべく、グレイは一人で指定された裏通りの店へとやってきた。


 というのも、グレイはすぐにその情報の真偽について問い正したが、彼女は頑なに口を開こうとしなかったのだ。

 無理矢理にでも吐かせようかとも考えたが、恐らくそんなことでは口を割ることはないだろうと思いとどまった。まだこれが自分を貶めるための罠だという可能性もあったからだ。つまり、試合以外での暴力行為による反則、出場停止を狙っているのかもしれないのである。


 何をたくらんでいるのかはわからないが、自他共に認めるほどの情報収集能力を持つシュエットが提示してきた情報を思い返し冷静になって考える。


 ──エルシア=セレナイト。シエナ=ソレイユ。この二人がとある誰かに狙われているという情報があります。それと、フェイト=アーヴィングについても有益な情報がありますよ。


 シュエットが出した三人の名前。そのどれもがグレイと深く関わりのある者達で、このまま聞き流すことは出来なかった。


 その情報がもし偽物なら馬鹿正直にこちらの魔法を見せるわけにもいかず、このままシュエットにお前は信用出来ないと切り捨てるのは簡単だが、万一にもその情報が正しいものだとすれば、と考えずにはいられない。


「あはは〜。詳しい内容が気になって仕方ないけれど、私のことがまるで信用出来ないからどうすべきかわからない、って顔してますね〜。でも、そんな悠長に悩んでて良いんですか? 情報は鮮度が命なんですから手遅れになる前に取引に応じた方がいいかと思いますよ~」


 そんなグレイの葛藤を知ってか知らずか、シュエットはからかいながら急かしてくる。普段のグレイならこうも容易く他人に心を読まれることはなかっただろうが、フェイトの名を出され動揺していたのだった。もしシュエットの目的がグレイの思考を混乱させることにあるなら、既に成功しているだろう。

 だがそれならフェイトの名を出すだけでも十分のはず。それでも尚、他二人の情報を賭け皿に乗せてきたということは、それなりの信憑性がある話なのだろうかと予測する。

 それにわざわざ『鮮度』という単語を使ってくるくらいだ。つまりこれらの情報には何かしらの期限があるということ。それも恐らく、この数日中に期限が切れるのだろう。


 と、そこまで考えながらも頭の片隅ではこれはあくまでただの憶測で、グレイの性格から変に深読みするだろうと見越し、ダミーとして関わりの深い二人の名を出し、更に焦らせようとしているだけかもしれない。


 考えれば考えるほど思考はこんがらがり、額にはわずかに嫌な汗が浮かんでくる。静かに焦るグレイを見て、シュエットは呆れたように、しかしどこか楽しそうに微笑する。


「強情ですねぇ〜。仕方ありません。最後の手段を使って貴方の背中を押してあげますよ」

「…………どういうことだ?」


 まだ何かあるのか、と勘繰るグレイにシュエットはピンと指を立てて提案する。


「とりあえず街に戻ってお昼を食べませんか? そこで見せたいものがあります」


~~~


 そういった経緯でこの店にやってきたわけだが、大通りの店はどこも大会中ということで大いに賑わっているというのに、店内に客の姿はなく、店員が一人カウンターに立っているだけだった。これだけで何か訳ありの店だとすぐにわかる。


「あっ、来ましたね。こっちですこっち」


 見ると、店の一番奥の席にシュエットが座っており、グレイは警戒しつつ同じ席に着く。


「随分と廃れた店だな」

「密会をするにはうってつけのお店でしょう?」


 わざとらしく艶かしい声を出すシュエットを軽く無視し、グレイは罠がないか辺りを見渡していると、店員がメニューを取ってもいないのに二人分のサンドイッチとコーヒー、そして一つの魔道具をテーブルに置いた。

 すぐにその店員の顔を確認すると、弁えているかのように目を固く閉ざしており、そのままカウンター裏へと消えた。金で雇われただけの人間か、シュエットの仲間なのかはわからないが、こちらの会話に参加する様子はない。

 テーブルに置かれたサンドイッチに視線を戻すと、シュエットがその一つを手に取ってもそもそと食べ始める。


「…………」

「あれ? どうかしました? …………あぁなるほど。別に毒とか入れてないので気兼ねなくどうぞ」


 完全にシュエットの手のひらの上にいることを感じつつコーヒーを飲む。確かに中に何か混ぜられているわけではなく、むしろ意外と悪くない味だったが、ゆっくりと食事を楽しむためにここに来たわけでない。

 サンドイッチの隣に置かれた魔道具。見たところ映像を保存するタイプのものだとわかる。


 グレイの視線に気付いたシュエットが微笑を浮かべながら魔道具を起動させる。映し出された映像は随分と荒く、ノイズも激しいものだったが、グレイにはハッキリとその存在に気が付いた。忘れもしない灰色のタキシードとシルクハットを被った男──。


「フェイト…………」


 ──フェイト=アーヴィング。グレイの義兄弟であり、かつて共に夢に向かって歩み、共にその全てを失い、生き別れ、そして絶望の底に沈んでいたグレイが《シリウス》にて新たに得た夢を、無情にも奪い去った男。


 グレイはシュエットからフェイトの名を聞いた時は正直、心底驚愕した。それと同時に心の底にまだ燻っていた復讐の炎が再燃し始めたこともはっきりと自覚した。


「この映像こそが、私が持つ情報の信憑性を保証するものです。さて、では今一度問います。どうしますか?」

「………………確かにあいつに間違いない。この映像をどこで手に入れたのか非常に興味はある」

「なら──」

「だが、これじゃエルシアとシエナの情報が正しいという証明にはならない」


 頑として言い放ち、真っ直ぐに見返してくるグレイを見てシュエットは不意を突かれたかのようにキョトンとする。


「おっと……まさか先にそっちに食い付くとは。そうですか、う〜ん。だったら──『プライム・ファイト』で優勝してみせてください」

「…………はあ?」

「特別サービスですよ~。『プライム・ファイト』で優勝すれば三つのうち一つだけ情報をお渡ししましょう。そして得た情報が正しいかどうかはご自分で判断してもらうことにして、それ以降も取引をしたいなら魔法一つで情報一つということで。どうです? 優勝するだけで魔法を見せる必要はないので損はなく、情報が偽物だと思ったならもう取引しなければいいだけです。悪くはないと思いますが」

「…………わかった」


 あまりに意味不明な代替案に、今度はグレイが困惑する番だった。敵であるはずのシュエットがグレイにわざと負けろと言うならわかる。だが優勝しろとはどういうことか。他にも謎は残るがシュエットの目的が一番の謎だった。

 しかしながらグレイはこれで妥協し、その提案を受けることに決めた。


〜〜〜


 ──今思えばシュエットは魔法の代わりにグレイの身体能力がどれほどなのかを調査するためにこの提案をしたのだろうと考えている。正直なところ、苦渋の選択だったと言わざるを得ない。


 二回戦も相手を終始翻弄して、最後はリング外へと投げ飛ばし勝利した。これでもうグレイのことを雑魚プレと呼ぶ者は減るだろう。本来なら喜ばしいことなのだが、相手の油断、隙を突くことを得意とするグレイからすれば戦術の幅が狭まってしまうことになる。


「これでもし偽情報掴まされたら、久し振りに本気でキレるかもしれんな」

「偽情報って何のことよ?」

「何ってそれは…………?! エ、エルシア? い、いやぁ、まぁ、その……ってか何でここに?!」


 顔を上げると控え室の扉の前にエルシアが腕を組んだ状態で仁王立ちしていた。彼女の表情は驚くほど穏やかで、それが逆に恐怖を誘う。背後にはアシュラの姿も見られた。


「エリー。一応そいつ、このあとも試合あんだから半殺しくらいで勘弁してやれよ〜」

「そこは普通に助けてもらえませんかね?!」

「そりゃ無理な相談だな。何せエリーときたら、レースで一位勝ち取ったことを褒めてもらいたくて昼も食わずにあちこちお前のこと探しまわっ──どぅわぁあっ!?」


 こめかみを狙った鋭い回し蹴りを体を反らしてギリギリ躱すも、そのまま後ろ向きに倒れ込むアシュラ。殺人級の蹴りを放ったエルシアは無表情のままアシュラを見下ろし、口を開くなとジェスチャーする。

 ぶんぶんと激しく首肯し、両手で自分の口を塞ぐアピールをするアシュラを尻目にグレイへと向き直るエルシアの顔は既に怒りで染まっていた。


「さぁグレイ。いったいどこへ行ってたか、何をしていたか、納得のいく説明をしてもらうわよ?」

「ま、まずは落ち着けエルシア。うん。すまんかった。一位すごい。頑張った。尊敬する。だから落ち着いてくださいエルシアさんっ!!」


 その後、次の試合の順番が回ってくるまでグレイはエルシアの猛攻から逃げ回り続けることになったのだった。

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