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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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灰色の少女と虹色の少女 2

「…………ふっ。やはり妾は愚かだな。そんな簡単にこの性格が治るわけなどないと妾自身がよく知っていたはずだというのに。それに、何故こんな物言いしか出来んのだろうな、この口は……。これでは友など出来るはずもなかった。いや、そもそも妾みたいな半端者には友を持つ権利すら無いのかもしれん」


 ティアラは何もかも諦めたように言って、左目を覆う眼帯にそっと触れた。その成り行きをずっと無言で傍観していたミュウは変な口調に戻ってしまったティアラの寂しそうな背中を見つめながら思い出す。


 自分のマスターであるグレイがあまりにもあんまりな評価しかされていなかったために忘れかけていたが、《プレミアム・レア》とは本来は羨望の対象であるのと同時に嫉妬や嫌悪の対象でもあるのだ。

 現在のミスリルではそういった差別的な扱いは無くなりつつあるが、それでも中にはまだ色々と考えたりする者も少なくない。


 そしてティアラもブリードで似た経験をしてきたのだろう。いや、グレイ達とは違ってティアラは校内でたった一人だけの《プレミアム》だ。他者から向けられる様々な感情の全てが彼女にぶつけられたのだろう。それも恐らく、負の感情の方が多かったはずだ。


 何せティアラは四つの属性を持ち、四体の魔獣と契約したのだ。普通の魔術師としても、《調練魔術師ロード・ウィザード》としても、これほどまでに羨ましい才能はない。

 加えてその虹属性と呼称されるそれは、エルシアの光、アシュラの闇以上に発見数が少ない稀少な存在だ。


 一方、無属性は歴史上初めて発見されたのだが、グレイはあまりに目立たないため今はそういった羨望の対象にはなっていなかった。

 しかしティアラはそうもいかなかった。学園長のマドルドはティアラの存在が外部に知られないよう、かなり厳重な情報規制を行った。学園の外に出るための手続きは一層厳しくなり、一般生徒だけでなく、講師までもが気軽に外出も出来ないようになった。仮に外出を許可されたとしても監視が付けられることもあり、とても窮屈な生活を送るはめになってしまっていた。


 そして話はそれだけにとどまらず、講師達はティアラを特別視し、あるいは神聖視して様々な特権を与えたのである。

 ティアラにはそれに見合う実力があったし、実戦主義を掲げる学園で実力者が優遇されるのはおかしな話ではないのだが、限度というものがある。他の生徒達の不満が溜まっていくのはある種当然のことだった。


 そういった経緯を重ね、いつしか生徒達はティアラのことを疎ましく、また妬ましく思い始め、どこのファミリアもティアラの加入を断るようになっていった。

 そして極めつけとなったのが、学年ランキング戦だった。今年度のブリードの学年ランキング戦は情報規制のため、ミスリルのように公開試合ではなく学園内のみで行われたのだが、そのランキング戦でティアラは《王道十二宮ゾディアック》の座を持つ家柄出身である二人の生徒を下して序列一位となった。

 この時ティアラは「これで皆に自分を認めてもらえるはずだ」と喜んだ。


 だがそれは逆効果だった。ティアラは《プレミアム》という肩書きはあれど貴族ではない。そんな人物が《王道十二宮》を差し置いて序列一位となった。そのこと事態が問題だったのだ。

 幸い公開試合ではなかったため、世間にその話題が広まることはなかったが、学園内ではそうはいかない。

 ここで《王道十二宮》をも倒す程の実力者だと認められていれば話は違っていたのかもしれないが、今までのこともあって、誰もティアラのことを認めようとはしなかったのだ。


「眷獣四体なんて卑怯よ。勝てるわけないじゃない!」

「《プレミアム》は俺らとは違う生物なんだ」

「先生達から贔屓されてるからだろ」

「四つの属性を持ってるんじゃねえ。あんなのはただの半端者って言うんだよ」

「精霊にも講師にも媚を売る尻軽な問題児ってか」


 そんな悪意に満ちた周囲の声に、ティアラは心を閉ざし、自分を偽り、騙し、欺くようになり、元来持っていた恥ずかしがり屋も災いして今のような性格となってしまった。そうしてティアラは与えられていた特例を利用して、たった一人だけのファミリア《ティターニア・ファミリア》を結成したのだった──。


 そんなティアラの過去を、それどころかまだティアラという人物のことすら何も知らないミュウは、しかし何かを決心したかのように口を開く。


「なら──わたしが、お友達になります」


 ミュウの発した言葉をティアラは十分に時間を掛けてようやく理解した。


「………………とも、だち? 妾と、か?」

「はい」

「な、何故だ?! 妾とお主は今日初めて会っただけの、ただの他人だぞ?」

「……どんなお友達も、初めはただの他人なのでは?」

「そ、それは、そうかもしれんが……。しかし自分で言うのもあれだが、妾は酷く面倒な女だぞ!? この性格だってそう簡単には治らぬし」

「なら、わたしが、治すの手伝います」


 ミュウはティアラの言葉を遮るように宣言する。その眠たげな瞳には、しかし強い意志が宿っていた。

 ティアラは何故ミュウが自分のためにそこまでしようとするのかわからなかった。

 そしてミュウも、何故そのようなことを思い立ったのかハッキリとした理由はわかっていなかった。ただ、一つだけ言えることがあった。それは──


「わたしは、ティアラさんと、お友達になりたいです。ご迷惑、ですか?」


 そのミュウの慈愛に満ちた言葉にティアラは無意識のうちに一筋の涙を流していた。


 心から信頼出来るのは自分の眷獣達だけで、他者からは奇異の目で見られ、侮蔑の念しか与えられてこなかったティアラは、初めて会った自分より幼そうに見える少女に初めて暖かい言葉を与えられ、その上こんな自分と友達になりたいと言ってくれた。


「よ、よろしく、お願いします……ミュウ、ちゃん」


 初めて、友達が出来た。ティアラにとってこれ以上に嬉しいことはなかった。


「はい。よろしくお願いします。ティアラさん」


 目に一杯の涙を溜めたティアラは、相変わらず無表情ながらもどこか微笑んでいるようにも見えるミュウの手を優しく握り、ようやく笑顔を見せた。


〜〜〜


 それから二人は会場の外に立ち並ぶ出店を回り、まず最初は店員に対して素の口調で話せるよう特訓を繰り返した。特訓の方はあまり上手くいかなかったが、初めて友人と遊び回るのはとても楽しかった。

 そうこうしているうちに日が暮れて、明日の待ち合わせの約束をしてからそれぞれのホテルへと帰った。

 その道中、ようやくグレイと再会したミュウは、ティアラから自分が泣いたことは絶対秘密にして欲しい、とお願いされたので、グレイにどこへ行っていたのかと問われても頑なに口を閉ざし、ティアラの名すら出すことはなかった。


 ──そして現在、昨日は訪れなかった場所を重点的に回りながら、人に慣れる特訓をしていたのだが。


「難しい、ですね」

「……す、すまぬ。お主と二人きりなら平気なのだが」


 と、ティアラはキョロキョロと辺りを見渡す。

 人、人、人。そこは見渡す限り人の海。《プレミアム》が参加するとあって、例年以上に注目度の高い今大会の集客率は異常なほど高い。

 重度の人見知りであるティアラにとって最悪な状況である。


「ぐぬぬ……。しかしいつまでもこうしているわけにもいかぬ。わざわざミュウに付き合ってもらっておるのだ。少しは克服しなければ申し訳が立たん」

「……あまり無理をする必要は、ないと思いますけど」

「いいや! 少し位は無理をせぬと克服など到底出来ん!」

「…………でしたら、そろそろ口調を──」

「では次はこの店に入るとするか……。すぅ〜はぁ〜。…………た、たのもおおおおおッ!!」


 人の話を聞かないのも友達が出来ない原因の一つなのではないだろうか、とミュウがやや呆れていると、どこからかクスクスと笑う声がする。

 見るとちょうどティアラが入ろうとしていた店のテラス席に、どこかのご令嬢なのか、気品溢れるドレスを着たワインレッドの髪の女性がこちらを見て笑っていた。

 やや小柄の体型も手伝ってか、その笑顔はどこか幼く感じられた。


「フフッ、ごめんなさい。昨日あれほど大立ち回りをしていた貴女が、ただの喫茶店の前で緊張した声を張り上げている姿が少し可笑しくてね」


 その女性は愉快そうに笑いながら手に持っていたティーカップをそっとテーブルに戻す。

 余程可笑しかったのかまだ笑い続けるので、ティアラはすごく気恥ずかしそうに顔を背け、ミュウを連れてその場を立ち去ろうとする。だが、それをその女性が言葉で制する。


「あぁ、少し待って。笑ってしまったお詫びに好きなだけご馳走するわ。ここのお茶は中々美味しいわよ」

「……好きな、だけ?」


 その魅力的過ぎる言葉を聞き、つい足を止めるミュウ。それに引っ張られてティアラは転びそうになり、その様子を見てまた笑い出しそうになるのを女性は必死に我慢していた。


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