四人目の《プレミアム》 5
同じ頃、第二会場では一年生の『グラスパー・ヒール』が行われていた。
『パワー・バースト』同様、それぞれ個別の小型リング内で競技を行っている。そのリングの中には競技を行っている選手の他に、ちょうどチェスのポーンみたいな形をした黒と白の駒が十機ずつ動き回っている。
『グラスパー・ヒール』は、自チームのカラーをした駒全てのヒットポイントゲージを全回復させる速さを競う、タイムアタック形式の競技だ。
これは戦場で敵味方入り乱れた状態で如何に素早く的確に味方の援護が出来るかを訓練する過程から生まれた競技で、そのため敵の駒はランダムで攻撃を仕掛けてくる。その中でどう上手く立ち回れるかが勝負の鍵となる。
戦術の一つとして、先に敵の駒を破壊するというものもあるが、あくまで目的は味方の駒の回復であるため、あまり使われていない戦術だ。現に暫定一位のエコーも、敵からの攻撃をのらりくらりと躱しながら味方の駒を回復させていく戦術を取った。
そしてクロードもエコーと同じ戦術を取ったが惜しくも四位という結果に終わり、エコーに煽られまくることになったのだが、次に出てきた選手を見て口を閉ざした。
「あれって……」
「ティアラ=レインフォードか。まさかここで出てくるとはな」
先程のエキシビションでアシュラ、エルシアの二人と激闘を繰り広げたティアラの登場に会場が一気に沸き立ち、目立ちたがり屋のエコーはどこか面白くなさそうに頬を膨らませた。
そして競技開始の合図が鳴ると同時にティアラは右手に火と土の融合魔法、左手に水と風の融合魔法を纏う。
「右手に宿るは破壊の権化。《第二魔楽章》熱く燃えし熔岩よ、深き大地より噴き出でよ! 《ボルカニック・アース》!」
ティアラが右手を振り下ろしリングが割けたかと思うと、とてつもない熱量を持った熔岩が噴き荒れて白の駒を呑み込んでいく。
「左手に宿るは癒しの化身。《第二魔楽章》清く流れし聖水よ、豊穣の風と共に舞え。《クリア・ブレス》!」
続けて左手を翳すと癒しのそよ風が吹いて黒の駒のヒットポイントゲージをみるみる回復させていき──。
「これで、終わり!」
二種類の融合魔法をわざと互いを打ち消しあわせて弾けさせる。その魔力がキラキラと輝きながらドーム内に降り注ぎ、ドーム内には無駄に格好良くポーズを決めたティアラと完全回復した黒の駒だけが残されており、白の駒は一つ残らず破壊し尽くされていた。
そのあまりにも圧倒的な光景を見て、誰もが息を呑んだが更に驚いたのは記録だ。今大会だけでなく、歴代の最速記録を大幅に更新していたのだ。しかも、普通ならしなくてもいい敵の駒を全て破壊した上で、である。
もしこれが実戦であったなら、と想像すると身震いがする。味方なら心強いことこの上ないが、もし敵として戦うことになったなら──。
姉達をアシュラから少しでも遠ざけようと第二競技場に来ていたエルシアは、 同じ《プレミアム》を持つ者として、何か思うところがあるのか真剣な表情をしていた。
「あの子はさっきエルシアと戦っていた子ね。まさか四つの属性魔法を使えるなんて」
「えぇ、あれには驚きました。虹属性、というのでしたか。先程も見ましたが属性を融合させることも出来るだなんて」
ナタリアとセフィリアも驚きを隠せないでいる中、先程から無言のエルシアを気にかけたのか、ナタリアが声を掛けた。
「そういえばさっきあの子にやられた男の子。名前は確か、グレイ君だったかしら? 彼は大丈夫なの?」
「え……? あ、あぁ、はい。あれは意外とタフですし、その上に性格まで最悪ですから、今ごろ平然としながらどこかで観戦でもしてると思います」
気を張り詰めている様子のエルシアだったが、ナタリアから話し掛けられたことでいくらか軟化し、受け答えをする。そしてその返答にセフィリアが苦笑する。
「性格最悪って……。彼のお陰で昨日は同じホテルに泊めてもらえたのだからちゃんと感謝しないといけませんよ」
「それは……確かに感謝してますけど、普段のあいつはあんなのじゃないですから」
「そうなの? 随分親しくしているのね」
「な、何でそういう話になるんですか!?」
「だってそうでしょう? そうやって素を見せあっていて、それを言い合えるだけの仲なのだから。あともう一人の男の子とも今朝仲良さそうにしていたし」
「アシュラのことですかっ!? ちょっ、姉様! 冗談はやめてください! あれは仲が良いとは言いません! あの二人はただのクラスメイトですからっ!」
何故か急に慌て出すエルシアを見て、何かを悟ったナタリアが問い掛ける。
「ふぅん……。ところで一つ気になっていたことがあるのだけど」
「な、なんですか?」
「あなたが好きなのは、どっちの男の子なの?」
「どっちも違いますッ!!」
即答された。だが、その慌てようは嘘を吐く時のそれと同じだった。伊達にエルシアの姉だけあって、彼女の癖は見抜かれていた。
「アシュラ君かしら? ほら、喧嘩するほどとも言いますし」
「やめてください、鳥肌が立ったじゃないですか」
「じゃあグレイ君の方ね。優しいものね、彼」
「だ、だから違いますっ! 姉様達の勘違いです!」
アシュラの名が出た時は本気で嫌そうな顔をしたエルシアがグレイの名が出た瞬間、わずかながらどもったのを聞き逃さなかった姉二人は、可愛いエルシアに少しイタズラしたくなった。
「それなら、私がグレイ君を貰ってもいいかしら」
「え……?」
「彼には昨日のことやエルシアのことなんかで色々と恩もあるし。それに、彼からは何か光る物を感じるのよ。今はまだ学生だからすぐに連れていくことは出来ないけれど」
八割冗談、二割本気でそんなことを考えていたナタリアだったが、エルシアの表情がみるみる暗くなっていくのを見て、チクリと罪悪感がした。だがエルシアは気丈にも言った。
「あまり、オススメ出来ないですけど……。姉様が、そう、言うのなら……」
確かに好きな人の話をするのは気恥ずかしくはあるだろうがここまで強情な子だったろうか、と首を傾げるセフィリアだが、ナタリアはようやくエルシアが何を考えているのかを理解した。
「全く……。貴方もなのね、エルシア」
「……?」
溜め息混じりにそうこぼすナタリアの言葉に理解が追い付いていないエルシア。しかしその一言でセフィリアもようやく気付く。
「そういうこと……。もう、エルちゃん。そんなこと考えてたのね」
「それを言うのセフィリア」
「それはそれ、これはこれですわ」
「えっと……一体何のことですか?」
「とりあえず、エルシアが誰が好きかは置いておくとして。貴方にも言っておかなければならないことがあります」
途端に真剣な面持ちで見つめてくるナタリアを見て、エルシアはごくりと喉を鳴らす。ナタリアはそんなエルシアの頭を優しく撫でながら言った。
「私達は確かにセレナイト家の再興を望んでいます。でも、そのことに貴方が人生を犠牲にする必要はない、ということです。昨日も言いましたね。私達に遠慮する必要は無いと。貴方には学校の皆と仲良く平和な学院生活を送って欲しいと。貴方はまだ学生なのです。だから今は楽しい学院生活を送るだけを考えなさい。たくさん勉強をして、たくさん修行をして、友達と目一杯遊んで、そして素敵な恋をしなさい。それが、今私達が貴方に望むことです。家のことはその後からでも十分よ」
「姉様……」
そう言ってナタリアもまた反省する。確かにあの頃に比べてエルシアは大きく、強くなった。だがまだまだ小さな子供なのである。
そんな彼女の背に、セレナイト家の再興などという重い荷を背負わせていたこと、そしてそのことに今の今まで気付けなかったことに責任を感じずにはいられなかった。
ナタリアはエルシアの目の端に溜まった雫を拭い、セフィリアはエルシアが落ち着くまでその背を優しく撫で続けた。




