四人目の《プレミアム》 4
エキシビションが終了した後、ミスリルの控え室では治療を終えたグレイが他クラスの者達に囲まれながら口々に文句を言われていた。
「あんたねぇ! 一応ミスリル代表みたいなところあるんだからあんな無様な負け方されるとアタシ達の迷惑になるのよ!」
「何で魔法使わなかったのさ!? あれくらいいつもなら余裕で対処出来たはずなのに!」
「君という男は何でそういつも適当なんだ。それでも僕に勝った男なのかい!?」
「あぁ~、うるせえうるせえ。こっちにだって考えがあるんだっつの。しっしっ」
言い寄ってくるアスカ、メイラン、カインを手を振って追い払いながら控え室を出たグレイは今日のプログラムの確認をする。
エキシビションも終わった今、グレイは今日一日フリーだ。なのでこの後どうするかを考えていた。
この後の予定だと今いる第一競技場で『パワー・ブレイク』、第二競技場で『グラスパー・ヒール』が行われることになっている。
前者にはアシュラや《イフリート》の者が、後者には《セイレーン》の者達が参加することになっている。
「どっちに行くかな……」
正直ブリードの陣営がどれほどの実力を持っているかを知るために両方回りたいところではあるのだが、それは流石に無理がある。そのため取り合えずはミュウと合流してから考えようと観客席へと向かう。
その道中、すれ違う一般客が何やら小声で嘲笑しているのが聞こえてきたが、グレイは特に気にも留めず待ち合わせ場所へと辿り着く。するとそこにはミュウの他にもう一人、見知った人物が立っていた。
「あれ? バーバラさん」
「おや。お兄ちゃんが来たみたいだね」
「もしかしてミュウのこと見ててもらったんですか? すみません」
「いいんだよ。この子はわざわざ私に料理美味しかったです、って言ってくれるいい子だからね」
バーバラはとても嬉しそうにミュウの頭を撫でる。ミュウも嫌ではないのか、大人しく頭を撫でられている。
「そういや君、さっきすっごい魔法食らってたけど、もう動いて大丈夫なのかい?」
「ええ。回復魔法で治療してもらったんでもうバッチリです。それに今日は俺の出る競技はありませんし。バーバラさんはこれからアシュラの応援ですか?」
「応援っていうか、まあ。どれくらい成長したのかくらいは見てやろうかなって」
「そうですか。ところで、ヤグラさんはどうしたんです?」
「あの馬鹿亭主? 私が見てないとすぐに浮気しようとする人だからね。ガッチガチに拘束してホテルの部屋に転がしてきた」
「そ、そっすか……。だったら俺らと一緒にアシュラの競技見に行きません?」
「おや。こんな若い子からのデートのお誘いとあっちゃ断るわけにもいかないね。それじゃエスコートをお願いしようかな」
デートという単語に少し苦笑いするグレイだったが、バーバラはすぐに冗談だよと笑い飛ばす。こうしてグレイはミュウとバーバラと共にしばらく雑談しながら待っていると会場のアナウンスが鳴った。
「どうやら始まるみたいですよ。最初は一年生からなんで、アシュラも出てるはずです」
「そう。さぁ~て、あの馬鹿息子はどこかな?」
バーバラはニヤリと笑いながら目を凝らす。喧嘩の絶えない家族みたいだが、関係は非常に良好なのだということが伺い知れる。
第一競技場には今、小型の結界が張られたドームが二十個ほど設置されている。その中に選手が一人ずつ入ることになっており、そのうち十人はミスリル、もう十人はブリードの生徒が入る。ランキング戦はただでさえ人数が多いのでこうして何人か一斉に競技を行うのである。
この『パワー・ブレイク』は制限時間内にドームの中を飛び回るターゲットを如何に多く破壊するかを競うものだ。
グレイは何度か練習風景を見たが、ターゲットは並大抵の強度ではなく、しかも攻撃すればその威力の分だけ速度を増して飛び回っていたことを思い出す。力だけでなく冷静な判断力を必要とする競技なのである。
最初に見た時、アシュラはその飛び回るターゲットに悪戦苦闘していたが、少しはマシになっているのだろうか。
それと、このランキング戦にはアシュラの他にメイランとゴーギャンが出場している。見ると最初の十人の中にゴーギャンの姿を見つけた。だが他の二人はまだのようだ。
『それではただいまより『パワー・ブレイク』一年生の部、競技開始です!』
パァン! と開始の合図が鳴り、二十人が一斉にターゲットへと攻撃を仕掛け始める。
見上げると宙には魔道具で映し出された映像がいくつか浮かびあがった。どうやら特に得点の高い選手が映し出されているようで、その中にゴーギャンの姿もあった。
ゴーギャンは拳に炎を纏って一度に何発も攻撃を叩き込んで攻撃の反動で飛んでいく前に破壊する作戦のようだ。何度か破壊しきれず失敗することもあったが、割と成績は悪くなく、暫定一位となった。流石は序列四位の実力はあるようだった。
しかし次の二十人の競技の結果、ブリードの生徒にわずかな点差で負け、二位に落ちた。
すると次の二十人の中にメイランの姿があり、メイランは足でターゲットを蹴り飛ばしてドームにぶつかって跳ね返ってくるのを狙って二、三回の攻撃で確実に破壊していく作戦でドンドンターゲットを破壊していき、結果見事に一位に躍り出てメイランは嬉しそうに飛び跳ねていた。
だがランキングを見ると二位と三位がブリードに占領されており、ゴーギャンは四位になっていた。得点が付くのは十位までで、見たところ現状四:六でブリードの方が有利な状況だった。
ミスリルが不利な中、最後の二十人がそれぞれドームに入っていく。その中にようやくアシュラの姿を見つけた。
「出てきましたよ。バーバラさん」
「やっとかぁ~。って、あの子は遠くにいても一際目立つねぇ。周りの客共も一気に騒ぎ出したし」
「はは……」
確かにアシュラは肌の色からして目立つ。それに加えて先程のエキシビションで稀少な闇属性なんてものを披露したのだ。これで目立つな、という方が無理な話である。
「さ。見せてみなアシュラ。あんたの、本気ってやつをね」
バーバラは意味深なことを呟きながらアシュラに穏やかな笑みを向けた。
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「ファイトッスよ! アシュラ君!」
「せめて三位くらいには入ってねぇ~!」
「んなもん余裕だっつの!」
アシュラはゴーギャンとメイランから声援を受け、不適に笑って応える。
「つーかこの競技、攻略法さえわかりゃ楽勝だろ」
「「攻略法?」」
「まあ見てろ」
カウントが始まり、競技開始の合図が鳴る。それと同時にターゲットがランダムにドームの中を飛び回る。
だが次の瞬間、アシュラから放たれた無数の影がそのターゲットに絡み付き、動きを封じた。
「こうやって動きを止めてまとめて壊しゃいいんだよ!! おら! そのまま砕け《千影邪手》!」
アシュラは影の触手に膨大な魔力を注ぎ込み、分厚く膨れ上がった影はターゲットを握り潰していく。
これこそアシュラの言った攻略法だ。確かに最初にターゲットの動きを止めることが出来れば後はそのまま破壊するだけで事足りる。
だがこれはアシュラだからこそ出来る芸当だった。何せ火属性の魔法は拘束する力はさほど高くない。相手が生物であるなら火で拘束することにも効果はあるが、無機物であるターゲットは火に怯むことなどはないため簡単に振り払われてしまう。
逆に拘束に長けた土属性がこの競技に参加したとしてもターゲットを破壊するには時間が掛かって、やはりそう上手く得点を重ねることは難しいだろう。
しかしアシュラの影の魔法は、硬度を自在に変化させることができ、尚且つ火属性に匹敵するほどの攻撃力も併せ持っている。まさしく、この競技にうってつけの特性だ。
「その攻略法、アシュラ君専用じゃん……」
「攻略法っていうよりは裏技ッスよね……」
続けて排出された新たなターゲットも、次々と破壊していくアシュラを眺めながら、メイランとゴーギャンは羨みながら溜め息を吐いた。
そして、アシュラは『パワー・バースト』のランキングで歴代最高の得点数を稼いで一位の座をもぎ取った。
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「ほぉ~。やるもんだねぇあの子も」
「そうっすね。あの馬鹿力はもう一般の魔術師のそれを凌駕してると思いますよ」
それに今回はアークを使用していない。つまり全力ではない。頼もしいことこの上ないが、ライバルとしてはうかうかしていられないのも事実だった。
一年生の部が終わり、スタッフが二年生の部に移行する準備に取り掛かるとバーバラは大きく伸びをして立ち上がる。
「さって。見るものは見たし、私はこの辺で帰るよ」
「もう? アシュラに声は掛けていかないんすか?」
「あの子そういうの嫌がるからね」
たはは、と苦笑するバーバラ。流石はアシュラの母だけあってアシュラの性格は熟知しているようだ。
「それじゃ私は亭主のとこに戻るよ。たぶんもうそろそろ自力で拘束解いてホテルの可愛いスタッフの子とかに手ぇ出し始める頃だろうからね」
「そ、そうですか……」
ヤグラの女好きな点は確かにアシュラによく似て、血の繋がりを疑わせる。いや、血の繋がりなどなくとも、彼らは正真正銘の家族なのだろう。
グレイ達はそこでバーバラと別れ、どや顔のアシュラと悔しそうなメイラン達と合流した。
──その頃、第二競技場では第一競技場に負けず劣らずの盛り上がりを見せていた。




