ミスリル最強の男 4
それから更に三日が過ぎ、全員の出場競技が決定した。
《プレミアム》の三人は希望通り、『プライム・ファイト』、『パワー・ブレイク』、『クイック・ヒッター』にそれぞれが出場し、三人で『フォーチュン・レース』に参加することとなった。
余談だが、『フォーチュン・レース』の出場券を得るためのくじ引きを代表としてエルシアがくじを引くこととなったのだが、ものすごい念を込めて引いていたとか。当たりくじを引いた瞬間、とても嬉しそうな顔をしたのをくじ引きを取り仕切っていたイルミナだけが確認した。
そして本日。全校生徒は大聖堂に集まっていた。今日は魔競祭最大の目玉である『シミュレーション・ストラテジー』のための決起集会だ。そのため今日壇上に上がっているのは学院長ではなく、四人の生徒だった。
──現在、ミスリルには所謂生徒会のようなものはない。各クラスの各学年ごとに代表者がいて、大体のことは彼らが決めている。そしてその代表は大抵、序列一位の者が担当することになっている。
しかし今回の『シミュレーション・ストラテジー』は学年全員が一同に集まって行われる競技だ。当然、作戦の浸透、チームワークが必要不可欠となってくる。となれば、上に立つリーダーも必要となってくる。
そのリーダーとして一番適任なのが、三年生であり各クラスの序列一位の四人であり、その中でも学年一位である事実上のミスリル最強とも呼ぶべき一人の凛々しい顔立ちの少年が一歩前に出て、第一声を放った。
「とりあえず、僕以外の男子は全員退場っ!」
「「「ふざけんなぁっ!!」」」
声を上げたのは三年の《イフリート》の生徒達。恐らく、彼がそういう風にふざけた発言をすることは日常茶飯事なのだろう。間髪いれずにツッコミが入った。しかし他の者達、特に一年生達からすれば「何だ……これ?」状態だ。
学年最強のはずの男は頭を掻きながら続ける。
「やれやれ。これくらいの冗談も通じないとは、なんて頭の固い連中なんだろうね、僕のクラスメイト達は。っと、ごめんごめん。自己紹介がまだだったかな。僕はアーノルド=レイダー。この赤い制服を見てもわかるように《イフリート》の三年だ。で、他三人は僕の愉快な仲間達さ」
「「「おい」」」
雑な紹介にアーノルドと共に壇上に立つ三人が声を合わせて抗議する。
「こほん。私は《ハーピィ》三年、リンス=シグナリエ。屈辱的なことだがこの馬鹿に属性の相性で負けて学年二位だ」
「同じく学年三位、《セイレーン》のメイル=シュプリールです。よろしくお願いします」
「で、俺は《ドワーフ》一位兼学年四位のラチェット=メッカだ。よろしく~」
三年の全員が自己紹介を終え、グレイはもう一度その四人をよく観察する。この四人こそがミスリルで最強の生徒達。隣に立つアシュラはまるで獲物を見るかのような目で彼らを値踏みしているようだった。
「わかってるとは思うけど、あの先輩達は仲間なんだから間違っても喧嘩売るようなことしないでよね」
「へっ。わあってるっての。今だけは最強の名はくれておいてやるぜ」
「どこまで上から目線なんだよお前は……」
アシュラの相変わらずの無鉄砲さに呆れるグレイはふと、壇上にいるアーノルドと視線が合った、ような気がした。
アーノルドはうっすらと笑みを浮かべ、全校生徒へと語り始める。
「さて。そろそろ本題に入ろうかな。皆も知っての通り、今日は来たる総合魔術競技祭のための決起会だ。その最後の競技、『シミュレーション・ストラテジー』はここにいる全員が一丸となって戦う競技。僕ら全員一致団結し、協力しあうことが必要不可欠となる」
先程自分以外の男子を退場させようとしたことはもう忘れているらしいが、確かにアーノルドの言う通り、集団戦闘においての連携や協力は欠かすことのできない重要なファクターとなる。それが五百近くいる軍団ともなれば尚更だ。
団結なくして協力はなく、協力なくして勝利はない。魔術師は、特に彼ら《製錬魔術師》はなまじ戦闘能力が高いため、基本一人で戦うスタイルを取る者が多い。
だが相手は《調練魔術師》だ。眷獣を使役する彼らは常に一人で戦うということはない。一人に一体の眷獣が必ず使えている。つまり頭数で常にこちらが劣っているのである。
だからこそ今回の決起会だ。今から士気を上げ、互いとコミュニケーションを取る場を設け、勝利に導く。それがこの決起会の目的だ。
「特に今年は二連覇もかかった大事な年だ。一年生は初めての、そして僕ら三年は最後の魔競祭だ。悔いの残らないように全力で頑張ろう。そして僕らミスリルの、《製錬魔術師》の誇りのために。今年も優勝を目指そうじゃないかっ!」
「「「おぉぉおおおおおっ!!」」」
アーノルドの言葉に一気に盛り上がる生徒達。アーノルドはそんな生徒達を満足げに見回し、最後にこちらを見上げる灰色の目を見下ろした。
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「…………やっぱ、見られているよな」
グレイは二度もアーノルドと視線が合い、先程感じた視線は勘違いではないことを確信した。どういう意図があってこちらを見ていたのかは知らないが、少し気にはなった。
とは言え、わざわざこちらから話し掛けにいくわけにもいかない。それに何と声をかければいいかもわからない。まさか「何でさっきからチラチラ見てくるのか」とストレートに聞くわけにもいかない。それだと意識し過ぎだと言われるだけだ。
今のところ特に害意は感じられないので気にしないことにしてそのまま決起会は終了した。明日からは本格的な練習や作戦会議が始まる。そのためこの後は食堂で小さなパーティーが催されることとなっている。
生徒一同はそのまま食堂へと向かう。その道中。グレイは見知った女性がこちらに向かって小走りで近付いて来るのが見えた。
「おーい。れーく~ん」
「……うわ」
グレイはあからさまに嫌そうな顔をして後ずさる。このまま人の波に紛れて姿を眩ませようかとも考えたが、今逃げ切れたとしてどうせ後で捕まるだけなので時間の問題だと思い逃走は早々に諦めた。
「随分な重役出勤だな、シエナ」
「文句なら隊長に言ってよ。私はすぐにでもこっちに戻ってきたかったんだから」
グレイに親しげに話し掛けてきたのは、《イフリート》代表講師にして《シリウス》南方支部副隊長、シエナ=ソレイユだった。
二人は《シリウス》にいた頃からの知り合いで、シエナはグレイのことを溺愛している。グレイはそれを煩わしく感じているのだが、シエナはまるで遠慮をしないので、大抵グレイが先に折れる。
「あっ、シエナ先生。お帰りなさい」
「エルシアさんにアシュラ君。久し振り。合宿では大変だったね。大丈夫なの?」
「おうよ。何なら俺がどれだけ強くなったか見せてやるぜ?」
「あははっ。それは頼もしいね。でもまた今度ね」
と、アシュラの誘いをやんわりと断り、キャサリンに向かって頭を下げる。
「すみませんでしたキャサリン先生。私の留守中、皆のこと見て貰ってたそうで」
「いいえ。気にしないでください。わたしにとっても良い経験、勉強になりましたし。何より皆さんとてもいい子で全然手が掛からなかったです。むしろ──」
キャサリンが一度会話を切り、横目でグレイ達を見る。それに合わせるように三人はすぐさまそっぽを向いた。
「こちらの方こそ、皆さんに迷惑ばかりかけたと思います……。皆さんに謝っておいてくださるとありがたいです……」
「あ、あはは……」
キャサリンのくたびれた表情から全て悟ったのか、シエナは乾いた笑い声を上げた。
するとそこに先程まで壇上に立っていたアーノルドがやってきた。
「シエナ先生、帰ってきていたんですね。どうです? 魔競祭について色々とご相談したいこともありますので、この後のパーティーをご一緒しませんか?」
「えっ? う、う~ん……」
アーノルドは早口に捲し立てさりげなくシエナをエスコートする。シエナは正直、久し振りに会ったグレイともう少し話したかったのだが、生徒から相談を持ち掛けられれば講師たるもの断るわけにもいかない。なのでシエナはキャサリンにもう一度礼を言ってからアーノルドと共に先に食堂へと向かっていった。
その二人の後ろ姿をエルシアはボーッと見つめていた。
「どうかしたのか?」
「へっ? い、いや! 何でもないわよ!?」
「何だ何だ? 怪しいなおい。いいから素直にゲロっちまえよ。楽になるぜ。なっ?」
「だから、何もないって言ってるでしょ。じゃ私、ミュウちゃん迎えに行ってくるから。まだ図書室にいるんでしょ?」
「あぁ、そのはずだけど」
と言うが早いか、エルシアはさっさと行ってしまった。
「なんだありゃ?」
「さあな。んじゃ、俺らは先に食堂行っとくか」
「だな。二年や三年の美少女が俺との出会いを今か今かと待ちわびてるだろうしな」
「……よくもまあ、そんな都合のいい妄想を抱けるよな。逞しすぎてもはや哀れだわ」
「うるっせえんだよ! 哀れむんじゃねえ! ブッ飛ばすぞ!」
「はいはい。喧嘩しないでキビキビ歩くのですよ」
キャサリンは今にも噛みつかんとするアシュラの背を押し、グレイもその後に続いた。




