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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
五章 ティターニア・ファミリア
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ミスリル最強の男 1

第39話

「あの……カーティス先生。一つ聞いていいっすか?」

「何でしょう?」

「俺、場所間違えましたかね?」

「いえ。間違えてはいませんよ」

「…………マジですか?」

「えぇ。例年通りです」


 毎年こうなのか、と苦笑を浮かべることしか出来ないグレイに同じく苦笑で返したのは《プレミアム》副担任となった初老の講師、カーティス=ハイヤーだ。


 後期二日目の今日。生徒全員は魔競祭で行われる八種類の競技の中で興味のある競技のルール説明を聞くため、資料に書かれていた各集合場所へと散らばっていた。


 そんな中、グレイはエルシア達と分かれて一人で『プライム・ファイト』の説明を聞きに、中央塔二ある一室を訪れた──のだが。


「まさか参加希望者が俺一人だけとは思ってもみませんでしたよ」


 その部屋は決して広いわけではないが、流石に二人しかいないと寂しく感じてくる。あまりにも人が来ないため自分が間違っているのかと勘違いしてしまうほどである。


「去年も初日にここに来たのは三人ほどでしたよ。今年は君が一番最初です」

「何とも嬉しくない一番っすね……」


 カーティスに更に詳しく話を聞くと、魔競祭が始まった当初は魔法を苦手とする生徒も多く、武術や剣術を主として鍛えている者が多かったらしい。

 だが次第に魔法技術は発達し、また教育も行き届くようになってきたため、今ではあまり人気のない競技となってしまったのである。


「まあ、魔術師が魔法を使わない競技を見て何が面白いんだとは思いますけどね」

「……確かにそういう方は多いです。ですが、この競技も他の競技と同様に得点が付くので手を抜くことのないように。それに君ならよく知っているでしょうが、魔術師は魔法を使えるだけでそれ以外は普通の人と大して変わりません。魔力を使えば体力も消費します。日頃の体力強化を怠ればすぐにバテてしまうでしょう。それに、魔法だけで勝てるほど、世界も甘くはありません。そして何より、この競技は武術や剣術だけでなく、人間誰しも持っておくべき基礎の基礎である、日々の努力を見るための競技なのです。現に某魔術師団はこの競技の出場者を優先して勧誘したという話も聞きます。もし本当にこの競技に出場しようと考えているのなら、魔術師としての誇りを持って挑むように」


 カーティスの高説を静かに聞いていたグレイはその言葉の重みを感じていた。そもそもカーティスは魔術師ではない。魔力を持たぬ者、《コモン》だ。そして彼は特別講師として雇われている騎士でもあった。

 魔術師とは違い、魔力強化も出来ない彼は、きっと及びもしないほどの努力を積み重ねてきたはずだ。故に魔術師よりも努力の大切さを知っている。


「了解っす先生。どうせやるからには勝ちにいきますよ」

「そうですか。期待しておきます。では競技のルール説明をしましょうかね」


 カーティスは持っていた一枚の紙を読み上げた。


「『プライム・ファイト』のルールは至ってシンプル、魔法を使わない一対一の決闘でトーナメント形式で行われます。武器は大会側が用意した物を一種類だけ使用できます。勝利のためには相手を戦闘不能にする、リングアウト、相手選手のギブアップ宣言の三種です。それ以外のルールは特にありません」

「…………」


 あまりにも。あまりにもシンプル過ぎるルールを聞き、グレイは言葉が出てこず、人気がないのも仕方ないなと納得せざるを得なかった。


「何か質問はありますか?」

「いえ……何も」


 先程の高説がどこか安っぽく感じてしまったが、何とか表情には出さずに話題を変える。


「それで練習は……って。相手がいないんじゃどうしようもないっすね」

「よければ私が相手をしますが?」

「あ、いや。遠慮しときます。勝てる気しないんで。それじゃ俺、他の競技の見学でもしてきます」


 そう言うとグレイはそそくさと部屋を後にする。一人残されたカーティスは椅子に腰を下ろして、開かない扉を眺めるだけの作業に戻っていった。


~~~


「流石に先生と二人きりとかキツいだろ……」


 グレイは廊下を歩きながら資料に目を通す。予想よりも早くルール説明が終わってしまったため、まだまだ時間は有り余っている。次は『フォーチュン・レース』の説明を聞きに行こうと思い立ち、場所をもう一度確認する。

 場所は同じ塔内にある部屋だったのですぐに到着した。扉を開くと何人かの視線がグレイに突き刺さったが、すぐに講師の説明を聞く体勢に戻り、講師も話を止めることなく説明を続けた。

 幸い、ボードに書きながらの説明だったようで途中からでもルールを理解することが出来た。


 『フォーチュン・レース』は、簡単に言えば三人の走者がバトンを回し、コースを一周するだけの競技だ。

 しかし三人の走者はそれぞれ共通ルートと個別ルートを走らなければならない。共通ルートは文字通り選手全員が走るルートで妨害などは主にここで行われることになる。

 一方、個別ルートでは人数分用意されている洞窟の内部を走ることとなる。この個別ルートを無視して迂回、または空を飛んでそのまま次の走者にバトンを渡すといった行為は反則。

 そしてどの洞窟に入るかは先に着いたものが好きに選択出来るのだが、ルートによっては最短ルートであったり最長ルートであったりする。しかも入り口ではどれがどのルートなのかは判別出来ないため速さだけでなく運も必要となってくる。

 その洞窟を抜けると再び共通ルートに戻り、次の走者にバトンを渡す。これを繰り返し、第三走者がゴールすれば順位が決定する。といった具合だ。


 メンバーは三人とも別の属性であることが条件であり、使用魔法の制限はなく、相手選手の妨害もありだ。ちなみにコースは毎年変わるため対策などは取れないらしく、様々なトラップも仕掛けられているため、途中でリタイアする可能性もあると説明された。実質ぶっつけ本番なこの競技では、臨機応変な対応能力と運の良し悪しを計るのである。


 そのためか競技出場希望が多い場合、チーム代表者によるくじ引きの一発勝負で決めることになっているそうだ。

 説明会後、練習用の簡易的コースがあるという話もあったが、一緒に出るメンバーも揃っていないため、とりあえずグレイは冷やかしついでに他の競技がどんなものなのかの見学しに行くことにした。


 中央塔を出てまず向かったのはエルシアが向かった《ハーピィ》校舎。ここでは『クイック・ヒッター』の説明が行われている。見ると屋外に生徒達が集まっていた。その中に一際目立つ白い髪を見付けた。


「よっ、エルシア」

「……何? と言うより、どうしてここにいるのよ」

「ただの冷やかし」

「あんたねぇ……」

「まあそう目くじら立てんなって。で、今は何してんだ?」

「これから『クイック・ヒッター』の練習よ。今先生達がその道具を取りに──って、言ってる間に帰ってきたわね」


 エルシアの指した方向を見ると、講師と数人の生徒が大量の荷物を風魔法で運びながらこちらに向かってきていた。

 便利そうな魔法だな、と思いながらその様子を見ていると、その中に見知った顔を見かけた。

 グレイと同じ一年生で《ハーピィ》序列一位のカイン=スプリングである。いかにも優等生然とした顔付きをしており、そのためか女子人気も高く、カインを見て小さな声でキャーキャー言っている女子達の声が聞こえる。


「荷物運びしてるだけだっつーのに、何でこうも騒がしいかね」

「全くもって同意見だな」


 グレイの一人言に返事をしたのは、カインに続いて序列二位のソーマ=シュヴァインフルトだった。ソーマは面白くなさそうな目でカインを睨んでいた。


「イケメンは何しててもイケメンってことなんでしょ。あなた達二人ではこうはならないでしょうね」

「ちょい辛辣すぎんだろエルシアさん……。つかおれは別にモテたいとか思ったことねえし」

「嘘だな」

「嘘ね」

「嘘でござるな」

「嘘じゃねえよっ! てかシャルル!? おめえどっから現れたっ!?」


 何時の間にかソーマの背後には、長いマフラーをした少女、シャルル=オリンピアが立っていた。


「どこから、と尋ねられても答えようがないでござるな。あえてはっきりと言えることがあるとすれば、拙者の母の腹の中からとしか……」

「誰がてめえが誕生した時のことを聞いたよ?!」


 声を荒げるソーマとそれをどこ吹く風と受け流すシャルル。そこにおさげ髪の少女もやってきた。


「シャルちゃん。やっと見付けた……って、エルシアさんにグレイくんも? 二人ともこの競技に出るの?」

「おいコノハ。さらっとおれだけハブるのマジでやめてくんね? なに? おれの姿見えてねえの?」


 ソーマの存在自体をスルーしたコノハ=フォーリッジはごめんごめんと軽く謝ってからエルシアと向き合った。


「エルシアさんが出てくれるなら頼もしいかな。わたしはあんまり役に立てそうにないし」

「何弱気なこと言ってるのよ。しっかりしなさい」

「エルシア殿の言う通りでござる。コノハは魔力操作の正確さでは群を抜いて優秀なのでござるからな」

「それは練習だからで、本番だと緊張しちゃうよ……」


 エルシアとシャルルから励まされるも、まだどこか不安げなコノハを見て、グレイはやれやれと溜め息を吐きながら口を開く。


「コノハ」

「はっ、はい!?」


 突然グレイに名前を呼ばれ、条件反射で背筋が伸びる。


「そんなビクビクするなって。ほら、合宿の時のことを思い出してみろ。あの時と比べりゃこの大会なんてお遊びみたいなもんだ。固くなる必要はない。それに、お前も歴とした序列上位者の一人なんだ。その自信と誇りを忘れるな」

「う、うん……。わかったよグレイくん。わたし、頑張ってみるっ」


 コノハは少しだけだが、グレイから勇気を貰えたような気がした。両手をぐっと握ってグレイに礼を言うコノハの姿を、面白くなさそうに見ていたエルシアに、シャルルがつんつんと指をつついて小声でこう言った。


「大丈夫でござるぞエルシア殿。コノハの目はカイン殿しか見ておらぬ故、グレイ殿との『ふらぐ』はたたんでござる」

「なっ!?」

「ん? どうしたエルシア?」

「なな、何でもないわよっ! あんたはさっさと他のとこ行きなさいよっ!!」

「お、おいっ!? 何でちょっと怒ってんだよっ!? 俺別に何もしてねえんだけどっ!? ちょ、押すなって。それに俺、まだ『クイック・ヒッター』がどんな競技かすら知らねえんだけど!?」

「そんなのどうでもいいでしょ。ほらさっさと行くっ!」


 理不尽な罵倒を浴びせられたグレイは顔を真っ赤にしたエルシアに追いやられるようにして《ハーピィ》校舎を後にした。

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