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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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湯上がり乙女達のお約束 3

「先生の学生時代はどんな感じだったんですか」

「どんな、ですか……。あの頃は金稼──こほん。えっ、と……。つ、強くなることばっかり考えてましたかね。あはは……」

「へぇ。何というか、意外ですね」


 今の穏やかでちょろいキャサリンを見た限り、まるでそんな風には思えない。

 だが彼女の二つ名、《氷河鬼ダイアモンド・オーガ》は今尚《セイレーン》で語り継がれる伝説のひとつでもあるのは事実だった。

 何か不穏な引っ掛かりを覚えたりもしたが、聞かない方がいいのだろう、と全員遠慮した。


「当時好きな人とかいなかったんですか?」

「う~ん。勿論格好良い人とかはいましたけど、興味ありませんでしたし……。そういう色恋沙汰ならわたしよりイルミナの方が凄かったですよ」

「そうなんですの? 興味ありますわ」


 担任の昔話に興味を示したアルベローナが前のめりになってキャサリンの話に耳を傾ける。


「あの頃のイルミナはそりゃもうモテまくりでしたね。クラスメイトは当然ながら先輩や後輩、他クラスの生徒からも告白されてましたし、属性的に苦手なはずの《イフリート》の人からも好意を持たれていたはずです。あと、一部では女の子達から『お姉様』と呼ばれてたりもしましたね」


 そして今では聖女と呼ばれていますね、と笑いながら語るキャサリンはとても楽しげだ。


「加えてクラス序列は常に一位でした。全体的なステータスは意外と並で、純粋な力比べではわたしの方が上なんですが、戦い方がすごく上手くて。しかも回復魔法に関しては歴代最高峰とまで言われてますし。集団戦闘では回復支援に徹してました。たぶんその献身的な姿がイルミナがモテてた一番の理由でしょうね」

「すご……」

「流石はイルミナ先生です」

「でもそういえば誰かと付き合ったりとかはしてませんでしたね」

「えぇ~!? 何で?」

「さぁ。流石にそこまでは」


 キャサリンもイルミナも学生時代の色恋は無かったという話に落胆を隠せないメイランだったが、すぐに話題を切り替える。


「それじゃ今はどうなんですか?」

「え? 今、と言われましても。まず出会いがないですし」

「講師同士で恋愛とかないんですか?」

「無いです。というかわたし、まだ新任ですよ?」


 言われてようやく思い出す。確かにキャサリンは今年講師になったばかりの新人だ。一目惚れでもない限り、恋愛にまで発展するための時間が足りない。


「じゃあじゃあイルミナ先生は?」

「それも無いはずですよ? あっ、でも……」


 キャサリンは何かを思い出したように言葉を中断させる。


「でも、何ですか?」

「ん~。まぁ、別に大丈夫なはず。いえ、生徒から何回か告白されたことはあったはずだと思っただけで」

「それ知ってますわ。うちのクラスの者ですの。見事に玉砕してましたわ」


 プライバシーなどを考えたキャサリンの気遣いを無にするアルベローナの暴露。だが名前までは出してないのでセーフだ。セーフのはずだ、と思いたかった。


「あっ。それで思い出したけど、確かシエナ先生も生徒に告白されたらしいよ。確かボクらの先輩の……」

「あぁ~。シエナ先生も負けず劣らずの高嶺の花だからねぇ。モテてもおかしくはないね」


 全員納得している頃、キャサリンは明後日の方を向きながら「わたし、今まで一度も告白されたことありませんねぇ……」と呟いていたが、全員全力で聞こえないフリをした。


「でもやっぱりイルミナ先生はモテるだろうねぇ。女のアタイから見ても嫉妬しちまうよ」

「う、うん……そうだよね。スタイルも完璧だし」

「強さだけでなく、優しさも兼ね備えてますし」

「非の打ち所がない完璧な淑女ですわ。憧れますわね~」


 一同、腕を組んでうんうんと頷く。あらゆる方面で勝てる気がしない。それが同年代にいたらと思うと気が気で無くなるだろう。いや、今も講師としているので大人の魅力が増しているので余計に厄介かもしれない。


 そんなことを考えていると、いきなり戸が勢い良く開かれて、バンッという音に驚いたキャサリンの背筋がピンと伸び、正座のまま軽く跳び上がった。

 恐る恐る背後を振り向くとそこには、わずかに頬を赤くしたイルミナがプルプルと震えながらキャサリンを見下ろしていた。


「遅いと思って来てみれば……生徒を寝かしつけに行ったはずの貴女がおしゃべりに参加してる、ってどういうことかしら? ミイラ取りがミイラになってたら世話がないのだけれど?」


 あくまで笑顔のイルミナだが口の端が少し歪んでいる。だらだらと冷や汗が流れ落ちる。


「ち、違うのですよ。ほんの少し。ほんの少し話をしたら全員大人しく寝るからと言ったからであってわたしがミイラになったわけでは──」


 キャサリンは生徒達に助けを求めようと背後を振り返ると、全員既に布団に入っており、誰一人としてこちらを見ていなかった。


「うえぇぇぇっ!? 何ですかその団結力!? 息ぴったり過ぎませんか?! もはや今回の合宿必要ないくらいの団結力じゃないですかっ!? 待ってくださいイルミナ! わたしだけが悪いんじゃないんです!」

「えぇ。その話は部屋に帰ってから説教を交えながら聞きますので、早く戻りますよ」

「そんなっ!?」


 イルミナはキャサリンの首根っこを掴み、部屋から出る。そして最後にイルミナが静まり返った部屋に向かって一言──。


「次また騒いだら、わかりますね?」


 誰も、何も言わなかった。イルミナはその沈黙に満足したのか、キャサリンを引きずりながらその場を去っていった。

 そして難を逃れた女子一同、布団の中でキャサリンに対して静かに合掌した。

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