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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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麗しき狂人 1

第36話

 ──死の恐怖を感じた。


 今までも恐怖を感じたことはあったが、これほどまでに強烈に感じたのは、あの日(・ ・ ・)以来初めてだった。


 エルシアは思い出してしまった。泣く自分の手を引く姉の姿を、自分を庇って傷を負う姉の姿を。過去の辛く忌まわしい記憶が蘇り、体がまるで動かなくなってしまった。


 あの時、魔術師団の者達が駆け付けてくれなければ、自分はそのまま呆気なく殺されていたかもしれない。その事実が更なる恐怖を呼び、身をすくませる。


 何とか逃げ出せた今でも、体の震えは止まらない。アスカやメイランが心配して声を掛けてきてくれるが返事すらまともに出来ない。


 そんな惨めな自分とは違い、グレイとアシュラは戦場に向かっていった。ずっと対等だと思っていた二人が、自分を置いて。

 時には自分の方が優秀であると感じた時もあったが、それは全くの間違いだった。なんて無知で馬鹿なのだろうか。思い上がりも甚だしい。今のこの様は何だ。膝を抱えて震えているだけではないか。


 魔術師は実戦主義だ。そんなこと、当の昔から知っている。その実戦に、こんな有り様でよくも自分の方が優れているだなどと言えるものだ。グレイも言っていたではないか。試合と殺しあいは別物だと。

 自分は試合に強かっただけだ。あの場では、常にグレイやアシュラのサポートを受けてから動いていた。


 自分なりにしっかりやれていたとは思う。でもあの二人に比べればサポートしてくれる仲間もいたし、指揮を取ることが一番の仕事だったから、戦闘も遠くから敵を狙撃するだけしかしていない。


 対してグレイとアシュラは、共に協力してジョージとザギラに立ち向かっていた。

 それに今だってあの二人は戦っているのだろうし、キャサリンだってその二人の元へと向かって行った。


 弱い。折角師匠に鍛えてもらって、強くなったと思っていたのに。それは大きな勘違いだったと思い知らされた。


 《プレミアム》の中で、自分が一番弱くて役立たずなのだ。その事実がとても悔しくて悲しくてどうにかなってしまいそうだった。


 恐らくグレイは見抜いていたのだ。自分にはまだ、ジョージと戦えるほどの強さはないと。


 それが悔しくて悔しくて悔しくて。涙が出てきそうだった。

 強くなりたい。もっと強く──



 ──強くなって、どうなりたいのですか?


~~~


「はい?」


 それは師匠──テスタロッサが修行の合間の休憩中に、エルシアにふと尋ねた言葉だった。


「どう、って……。師匠は私の目的知ってるじゃないですか」

「えぇ。知っていますよ。あなたの夢も。その先にある悲願も」

「だったら──」

「でも。その悲願を叶えるのでしたら、何も強さばかりを求める必要はありません。他にも色々と方法はあります。違いますか?」


 それは、確かにその通りだ。エルシアは悲願を達成するために功績を積み上げたい。そのためだけに強さを求めてきた。理由は単純に、その方がわかりやすいからだ。誰の目から見ても明らかで、もっとも認められやすいからだ。

 でも、功績を積み上げるだけが目的なら何も強さでなくても構わない。魔道具研究に新魔法開発、他にも探せばいくらでもあるだろう。

 加えてエルシアは光属性の《プレミアム・レア》だ。この力を研究、分析、それを利用した新たな魔道具開発などを行い、それらを成せばこれは立派な功績となり、誰の目から見てもわかりやすい実績となるだろう。

 だから、強さにこだわる必要はないのである。

 それでも尚、強さを求める理由。それを考えて、最初に思い浮かんだのは──


「……負けたくないから」

「はい?」

「あの二人に、負けたくないんです」

「……そうですか。切磋琢磨する相手がいる。それはとても素晴らしいことです。大切にしなさい」

「……別に、大切じゃないですけどね」

「照れなくてもいいですよ。今は二人しかいないのですから」

「照れてませんッ!」


 そう言うエルシアの顔は赤くなっている。その表情を見て、全てを理解した。


 エルシアはグレイやアシュラに負けたくないと思いながら、同時に自分のことを認めてもらいたかったのだ。

 そしてその二人と肩を並べられるように。対等でいられるように。背中を預けられるように。助けてやれるように。守ってあげられるようになりたいのだ。


 当の本人はまだそのことに気付いていないようではあったが、いずれ自分で気付くだろうと、テスタロッサはあえて何も言わず、優しげな微笑を向けた。


~~~


 ──あの時の師匠の言葉を思い出す。そしてエルシアはようやく自分の本心をはっきりと自覚する。


 二人と対等でいたかった。二人と共に戦い、助け合い、そしてあの二人より強くなりたい。そう願ったから強さを求めたのだ。


 だとしたら、ここで塞ぎ込んでいては一生二人に追い付けない。それどころか自分の夢も悲願も叶えられない。


 負けるわけにはいかない。二人にも。そして《水賊艦隊》などという、たかが差別主義団体なんぞに負けてやるわけにはいかない。二人が《水賊艦隊》に殺されるようなことがあればもう自分は夢に向かって進めない。


 気付けば震えは止まっていた。正直に言えばまだ恐怖はあった。だが、ここであの二人を、そしてキャサリンを失う恐怖に比べれば何てことはない。ここで何もせずに全てが終わってしまうことの方が何より恐い。


「……行くわ」

「へ? い、今何て?」


 膝を抱えたままだったエルシアを心配していたメイランが、エルシアのぼそりと呟いた言葉を聞き、慌てて聞き返す。


「行ってくる。あの馬鹿二人を助けに」

「え、えぇっ!?」

「何言ってるのよ! さっきまでビクビク震えてたあんたがっ!」

「ありがと二人共。心配してくれて。でももう大丈夫よ」


 そう言ってエルシアは立ち上がり、自分を見上げるアスカとメイラン、そして他の者達の顔を見て笑いかける。


「皆はここで休んでて。私は皆が頑張って戦ってくれてたおかげで体力はまだ残ってるから」

「でも危険よ! 魔術師団の人達ですらパニックになってるのよ!?」

「そうですわ! あの二人だって、キャサリン先生がすぐに連れ戻してきてくれますわ!」


 皆がエルシアの身を案じて呼び止める。だが、言って聞かないのが彼女も問題児だと呼ばれている由縁。もはや誰が止めても聞かないだろう。


「あの二人がそんな聞き分けがいいはずないじゃない。絶対無茶するに決まってる。キャシー先生だってさっきあれだけ無茶したんだから心配じゃない。だから、私がしっかりサポートしてやらないと」


 あくまで強気で話すエルシア。それを見てアスカは溜め息を吐きながらも気丈に振る舞い、エルシアの背中を押す。


「……だったら、約束しなさい。……絶対、死ぬんじゃないわよ」

「当然じゃない。こんな所で死んでられないわよ。それじゃ……行ってくる」


 そしてエルシアも、悪友の問題児二人と同じように走り出した。

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