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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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全ては母のために 3

 エルシアは、今にもグレイとアシュラをぐちゃぐちゃに刻まんとする暴虐の渦を見て、すぐに助けなければと思う思考とは裏腹に、体がまるで動かず、ただその光景を見ていることしか出来なかった。


 自分の光速移動なら、瞬時に二人救えると頭で理解していながらも、少しでも失敗すれば死ぬという、先程までも感じていたはずの恐怖が、急によりリアルに感じてしまい、無意識に体が脳からの命令を拒否してしまっていたのだ。


 その一瞬は彼らにとって、ひいては自分達にとっても致命的な一瞬となった。


 ──もしグレイに、新たな力が生まれていなければ。


~~~


「死ねぇぇぇえええええええええっっ!」

「《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》第三項──」


 グレイは右腕を大きく振り抜き、死を呼ぶ巨大な渦潮に対して、あろうことかそれを真正面からぶん殴った。

 すると、キィン、という何かが弾ける音がした。かと思うと、巨大な渦潮は勢いそのままにジョージのいる方へと跳ね返る。


「なにぃッ!?」


 自分の放った最大の魔法が一転、自分に襲い掛かる最悪の脅威へと変貌した。


 ジョージはすぐに魔法を中断キャンセルしようとするも、まるで受け付けず、放った時の勢いそのままジョージに向かって飛んでくる。それを全力で右に避けて回避し、後方に落下し、砂浜を削り抉ったザギラを見る。


 自分の最大の攻撃を弾き返すほどの攻撃を受けたのだ。一体どれほどのダメージを受けたのかを確認するための行動だったのだが、見たところザギラにはまるでダメージを受けている様子はなかった。


「どういうことだ? こりゃ……?」


 次にジョージはこの不可思議な力を使ったであろうグレイを睨む。そのグレイは拳を振り抜いた状態のままだった。


「んだよ、今の力……?」


 グレイの側で座り込んでいるアシュラも、呆けた顔でグレイを見やる。だがすぐに気付く。今のは、グレイの新しい魔法なのだと。


 グレイのアーク、《空虚なる魔導書エンプティ・グリモワール》は《リバース・ゼロ》で魔法を無色の魔素へと変換し、それを吸収する。そしてその魔力を使い、新たな魔法やアークを生み出すことが出来るのである。


「糞が……。こりゃどういう仕組みだガキ!?」

「奇術師がわざわざ手品の種を教えるわけねえだろ。ば~か」

「死にてえようだなガキ……ッ!」

「ハハッ。さっきから死ねだの殺すだの言いまくってるけど、未だに一人も殺せてねえじゃねえか。殺し屋が聞いて呆れるぜ」


 ボロボロになって尚、グレイはジョージを挑発する。もはや怒りのメーターが振りきれたのではないかと思わせるほどのとてつもない形相を浮かべるジョージは、直接自分の手でグレイを殺そうと前に出る。

 その一歩を踏み出した時、いきなりガクッと膝が折れ、そのまま砂浜に手を突いた。起き上がろうにも体に力が入らない。


 ついにグレイが待ち望んでいた時がきた。つまり《進化》の効果が切れたのだ。

 見るとザギラの姿も元の大きさに戻っており、魔力は通常時よりもかなり消耗している。

 《進化》の反動が出ているのである。あれほどの身体強化の反動だ。ジョージは深刻で致命的な疲労を感じ、脂汗を流す。


「ぐ、ぞぉぉお……! ただの、ガキなんぞに……ッ!」


 血がにじむほどに拳を握りしめ、歯を食い縛り、何とか起き上がろうとするジョージだが、やはり体は言うことをきかない。


「あんたの敗因はただ一つ──」


 するといきなり頭上から、グレイの哀れむような声が聞こえた。いつの間に、と思うジョージを余所に、グレイはただただ純然たる事実だけを小さな声で告げた。


「──俺達を、ただのガキと思って油断したことだ」


 ──人間、相手が自分より小さな存在である場合、そのほとんどの場合で相手が自分より弱い存在だと勝手に判断する。


 人間から見て、小さな虫けらでしかないその虫が、人間よりも大きな生物をも殺せるほどの毒を持っていたとしても、知識がなければまるでその事実に気付かない。


 そしてジョージは、鮫の魔獣の主であるにも関わらず、獲物で遊んだのだ。相手を自分よりも弱い存在だと思い込んで、溜まった鬱憤を晴らすためだけにちょっかいをかけ、虫けらと思い込んでいた相手にコケにされ、怒りに身を任せるという、もっとも愚かな行動を取った。


 相手はただの子供であると思ったからこその油断。そして、自分が子供であるということを『武器』として扱えるグレイがいたことが、ジョージにとっての最大の敗因だった──


 グレイはそれだけ言い終えると、ジョージの後頭部に全力で踵落としを決める。

 その一撃で完全にジョージは気を失い、ザギラの姿は虚空に消えた。


~~~


 ただの(・ ・ ・)子供であるグレイがジョージを倒した。その事実に《水賊艦隊》の者達に動揺が走り、逆にレオン達は一気に奮い立つ。


 しかし次の瞬間。彼らは皮肉なことに、先程ジョージが吐いた言葉を思い出す。


 ──絶望とは、畳み掛けてくるものだと。


 突如海上に巨大な水柱が上がったかと思うと、その水柱から現れたのは全長二十メートルはあるであろう、巨大な魔獣だった。


 その姿を目を丸くして見つめるグレイ。本当に、夢なら早く覚めてくれと願わずにはいられない。

 その魔獣は、リュウグウノツカイの姿をしていた。だが大きさは桁違いで、威圧感も半端なものではなかった。

 形勢は更に逆転し、《水賊艦隊》の士気が上がる。ただでさえ数の多い彼らの雄叫びは、子供達に脅威と恐怖を与え、体を萎縮させる。


 リュウグウノツカイの口がゆっくりと開き、まるで光線のように超圧縮された水を、砂浜に向かって横一閃に吐き出した。


「うわぁぁぁああああっ!?」


 敵味方問わないその絶望的な破壊力を持った一撃、何匹もの同胞を一瞬で蹴散らした。

 だが本当に幸運なことに、グレイ達は誰一人その攻撃に巻き込まれることは無かった。しかしその圧倒的な攻撃を目の当たりにした全員が自らの生を諦めた。


 ──その刹那。


「イルミナ!! 道!!」


 イルミナは、そのたった一言を、聞き慣れた相棒の声を聞いてすぐに回復の片手間に別の魔法を紡ぐ。


「《ウォーター・ロード》!」


 イルミナの水晶から水流が迸り、そのままリュウグウノツカイに絡み付き、即席の水の道を作り出す。


 そして颯爽と現れたリボンの少女が、その道の上に立つ。その瞬間、水の道は完全に凍り付き、リュウグウノツカイの動きを止めた。


「《フィンブル》!」


 絶体絶命の危機に現れた氷河の鬼は、自身のアークである巨大な槍を顕現させて、氷の道を駆け上がる。


「い、行かせるな! 何としてでも奴を止めろぉぉおおっ!!」


 《水賊艦隊》の魔術師の一人が叫び、それに応じて魔術師が、魔獣が、一斉にその氷の道を往く鬼へ攻撃を仕掛ける。


「させるかぁぁあ!!」

「邪魔すんじゃねええええ!!」


 だがその攻撃はグレイとアシュラによって打ち落とされ、防がれ、消し飛ばされる。

 即座に他の者もグレイ達に加勢し、とうとう一発の直撃も受けずに道を昇りきった。


「「「行っ、けぇぇえええええええっ!!」」」


 生徒達の雄叫びを聞き、彼女は小さく微笑み、すぐに気を引き締めて、眼前の敵を見定める。

 自分の可愛い生徒達を、自分の同僚達を危険に晒した、 度し難い魔獣に対して、情けを掛けて容赦してやるなどという感情は、ついぞ沸いてこなかった。

 こいつを今見逃せば、再び自分の大切な者達を危険に晒すことになる。だからこそ、命を賭けてでも今ここで仕止めなければならない。


「頼むぜ、先生・ ・


 グレイは肩越しに見える自分達の小さな担任講師に向かって、祈るように言葉を紡いだ。


「はぁぁああああっ!! 《コキュートス》!!」


 そしてキャサリンは巨大な槍に全魔力を乗せて構え、リュウグウノツカイの頭に向かって突進し、容赦なくその頭を貫いた。

 するとリュウグウノツカイの体は全て氷漬けとなり、次の瞬間には氷の粉末となって荒れ狂う海に降り注いだ。

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