港町 アプカルコ 5
「俺は別に正直な感想しか述べてねえよ。ただ、そのベビーフェイスとツンデレ貧乳キャラは《プレミアム・レア》と同じくらい稀少価値があるんだぜ、って言っただけだ」
「あんた、デリカシーって言葉知ってる? いや、ごめん知ってるわけないわよね」
「馬鹿にすんな! それくらい知ってるっつーの!」
「知っててそれかよ……。ある意味尊敬するわ」
アシュラのデリカシーに欠けた説明でやっと状況が飲み込めた二人。あとはこの発言にアスカがぶちギレてメイランがそれを宥めようとしてくれた、というところなのだろう。
今ではアスカも落ち着いたようで、遠くでメイラン達と海辺で遊んでいる。他の生徒らもそれぞれで海を堪能しているようだ。
一人、ウォーロックだけが延々と遠泳を続けているが、それはさておき。
「う~ん。やっぱり、皆さん同じクラスの人達と遊んでいるのが多いですね」
キャサリンが苦笑しながらそう言った。そのキャサリンは青と白のビキニに身を包み、その幼さを残す顔とは不釣り合いなほど大きく実った胸はもはや凶器と呼べる代物だ。
そこに加えて、先程海から帰ってきたばかりだからか、水に濡れた髪から水滴が胸に滴り落ち、自然とそこに視線が引き寄せられ──
「ふんっ!」
「「あだっ!?」」
そこに急にエルシアがアシュラとグレイの二人の後頭部をひっぱたく。
「何すんだゴラァ!」
「さぁミュウちゃん。こんな変態二人はほっといて二人で遊びましょ」
「シカトしてんじゃねえよ! 待てやおい!」
白地にカラフルな水玉を散りばめたワンピース型の水着を着るミュウの背を押して、まるで避難させるかのように移動しようとするエルシアをアシュラは追いかける。
グレイも一つ息を吐き、後頭部をさすりながら三人の後を追おうとすると、キャサリンに声をかけられた。
「ちょっと待ってくださいグレイ君」
「はい? 何ですか」
「これをグレイ君に贈呈します。有効的に使ってくださいね」
「……はあ」
そう言って手渡されたのは、既に膨らませられたビーチボール。まさかこんな小道具まで持ってきていたとは用意周到な人だと思った。だがグレイはすぐにキャサリンの真意に気付いた。
「……やれやれ。何で俺なんですかね」
「グレイ君はそういうところが長けていると思ったので」
「そんなことないと思いますけど……。こんなの俺のキャラじゃないと思いませんか?」
「苦手を克服するのも合宿の醍醐味なのですよ。ではわたしは今からもうひと泳ぎしてこようかと思うので後はお願いしますね」
そう言ってキャサリンはそのまま再び海へと走り去っていった。
面倒事をいいように押し付けられただけな気がしないでもないが、キャサリンの頼みを無下にするわけにもいかず、再度深く息を吐き、砂浜に向かって大きな声で言った。
「おお~い。誰かビーチバレーやらねえか?」
そんな突然の提案に、誰もがきょとんとした反応を見せる。
まさか、あのグレイがそんなことを言うとは誰も思ってもみなかったのだろう。本人すらそう感じていたのだから無理もない話だが、流石に誰一人返事すらしてくれないのは精神的にきついものがあった。
特にエルシアとアシュラの「何言ってんだお前」と言いたげな目が一番堪えた。
そんな複雑な心の内の感情を一切表情に出さず、代わりに不敵な笑みを浮かべてみせた。
「なんだ? 誰もいないのかよ? ……あぁ、そうか。負けるのが怖いのか。そりゃそうだよな。貴族のお坊っちゃまやお嬢様にはプライド(笑)ってもんがあるもんな。いや、気にしないでくれ。俺も弱いものいじめは好きじゃねえから」
「その言葉、聞き捨てなりませんわっ!!」
そのグレイのわかりやすい挑発にまんまと乗っかったのは、アルベローナだった。
「海はわたくし達にとってホームグラウンドも同然。なのに貴方のような方にでかい顔をされては《セイレーン》の名折れですわ!」
「アル……。地味に私達まで、いえ、私まで巻き込まないでください」
一人盛り上がるアルベローナにラピスが小言を挟む。だが、アルベローナは止まらない。
「ラピス、クロード、エコー。貴方達も参加なさいな! わたくし達の力を見せ付けてやるのですわ!」
「……はぁ。やれやれ。何故僕がこんなことを」
「エコーはいいけどねぇ~。面白そうだし」
「巻き込まないでくださいと言ったのは聞こえていないのですか、そうですか」
どうやら《セイレーン》の四人は全員参加するらしかった。あと。
「誰が弱いですって!? あんたなんか余裕で倒せるわよ!」
「楽しそうだからボクもやる~」
「オイラもやるッス! レオンもやるッスよね?」
「ん? あぁ、いいよ。やろうか」
勝負事が好きな《イフリート》の四人も参加が決まり、他を見渡す。
「なら、僕も参加しようかな」
「わ、わたしは見学してるよ……。が、頑張ってねカイン君」
「コノハと同じく拙者も見学してるでござるよ」
「おい。ちょい待てお前ら。せめておれを解放してからにしやがれ!」
《ハーピィ》からは一人。カインだけが参加するようで、コノハとシャルルは見学するようだ。ちなみにもう一人の男、ソーマは向こうで砂浜に埋められていた。何やら喚いていたが、何だか触れてはいけない空気、というよりかはそのまま放置した方が面白そうだったので無視してメンバーの数を数えていると。
「おっ。何かやるのかい? ならアタイも混ぜちゃくれないかい?」
海から上がってきたカナリアが参加を表明する。ちなみに残りの《ドワーフ》勢を見ると、マルコシウスは、ビニールシートの上でバテており、クリムは海を、正確には海をひたすら泳ぎ回るウォーロックをずっと見つめていた。あの様子ではこちらに来ることはないだろう。
「おい俺も混ぜろグレイ」
「あぁ、アシュラ。別にいいけど、そういやエルシア達は?」
「向こうでミュウちゃんと遊んでるとさ。こっちには微塵も興味ないそうだ」
微塵も、と言われると提案したグレイの立つ瀬がないのだが、これでちょうど十二人揃ったことになる。
「よし。これなら三人チームが四つ作れるな。チームは……そうだな。言い出しっぺの俺と、あとはアルベローナ、レオン、カインの四人でじゃんけんして勝った奴から好きな奴を指名することにすっか」
「えっ?! クラス対抗ではありませんのっ!?」
「んなこと俺一言も言ってなかったろ。それにクラス対抗とかそもそも無理だろ。全員参加じゃないんだから」
アルベローナは予想外な展開に困惑しているようだった。先程、《セイレーン》の誇りが何たらと言っていた時から勘違いしてるんじゃないかと思っていたが、まさかのその通りだったようだ。
だがグレイがわざわざビーチバレーを提案したのは、クラス別になっている皆を一ヶ所に集めて混合チームを作ることにあったのだ。それがグレイが読み取ったキャサリンの真意である。
それにこれは遊びとはいえ、連携の練習にもなる。そもそも彼らは今までクラス間で協力することなどなかったのだ。合同訓練が始まる前の軽い予行演習にしてはもってこいだ。
そのグレイの言葉の真の意味を悟ったレオンとカインはその提案を了承し、アルベローナも渋々といった風ではあったが了承した。
「なら早速。じゃんけん──」
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「海、冷たくて気持ちいいです」
「そうね~」
初めての海に、無表情ながらも楽しんでいるようにも見えるミュウの言葉を、あのエルシアが上の空で聞き流していた。今エルシアの意識は別の場所に向けられていたからだ。
そのエルシアの視線の先にはグレイと、他のクラスの者達が、全員ではないにしろ、結構数が集まっている。
どうにもビーチバレーというものをやるらしい。
「……エルシアさん? どうか、しましたか?」
「へっ? あぁいや別に何でもないわよ?!」
ミュウに顔を覗き込まれ、思わず転びそうになるのを何とか堪え、返答する。だが、誰から見てもバレバレなほど動揺していた。
ミュウは先程までエルシアが見つめていた方角を見る。
「エルシアさんは、ビーチバレー、やらないのですか?」
「あぁ……。えっと……」
痛いところを突かれた、と言わんばかりに言葉を濁し、視線を逸らす。が、やがて諦めたように息を吐いて告げた。
「ミュウちゃんにだけ言うけど、私、ビーチバレーのルール知らないのよ……。ごめんね、ミュウちゃんもビーチバレーやりたかった?」
気まずそうな、申し訳なさそうな顔をするエルシア。だがミュウは小さく首を横に振る。
「気にしないで、ください。海、はじめてなので、これも楽しいです。ビーチバレーは、また今度、一緒にマスターに教えてもらいましょう」
「ミュウちゃん……」
さっきまで沈んでいた様子はどこへやら、エルシアはぱぁっ、と明るい表情を見せ、ミュウを撫でる。
「やっぱり優しくて可愛いわミュウちゃん。本当私の妹になってほしいくらいだわ」
そう言いながらミュウを愛でるエルシアだった。だがその言葉は聞く者によれば中々の大胆発言だったということを彼女自身は気付いていない。
だが幸か不幸か、そのエルシアの発言を聞いていたのはミュウだけだった。しかし、もしこの場にアシュラがいれば冷やかすような口調でこう言っただろう。
──実妹としては無理でも義妹ならいけるんじゃね? と。




