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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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夏期休暇の目的 3

「あぁ~、くそ! 次ぃ!」

「行くぞぉおお!」


 グレイは現在、カサルティオの《シリウス》支部内に設置されている訓練所で隊員達と模擬戦闘訓練を行っていた。


 ルールとして、魔法を使わず、道具を使わず、己の肉体のみで戦うこととしているため、純粋な格闘技術のみが勝敗を分ける。

 そのルールの中でなら、グレイは並の隊員相手なら負ける気はないと自信を持っていた。

 それとは逆に新人達はグレイのことをよく知らないため、油断していた。

 いくら魔法抜きとはいえ、《シリウス》に入ることが出来た自分達が子供相手に負けるわけがないと傲っていた。

 だがそれは五人の隊員が倒された頃にようやく間違いに気付く。グレイの実力は、およそ子供のそれとは全く違っていた。

 それから気を引き締める隊員達だったが、彼らは魔法抜きの戦闘経験などわずかしか積んでいなかった。しかしそれは仕方のないことである。

 この世は魔法至上主義の風潮が強く、魔術師は常に身体強化魔法や属性魔法を使い、アークや魔獣などを使って戦闘を行う。そのため、魔法の補助がない状態での戦闘に不馴れになってしまっているのだ。

 逆にグレイは魔法を使えない頃からずっと魔術師を相手に戦っていたことがある。そんなグレイを一朝一夕で倒せるわけもない。

 これで本当に子供なのか、と隊員達は戦慄を覚えるのだが、それはさておき。

 グレイは新しく向かってきた十八人目の隊員を返り討ちにして、次の隊員を呼ぶ。


「あぁ、面倒だ! 残り二人! 一気に来やがれ!」

「おい! 流石に舐めすぎだろ!」

「痛い目みても知らねえからな!」


 と、そんな負けフラグを立てた直後に迅速に回収されてしまい、その二人は床に倒れ伏した。その様子を眺めていたシエナは、小さく溜め息を吐いた。


「はぁ……。確かにれーくんは強いけど、あっさりと二十人抜きされてるなんて、私、情けなくて涙が出てきそうだよ。罰として全員外周五十周してきなさい」

「げぇ……。マジすか?」

「勘違いのないよう言っとくけど、支部の周りじゃないから。街の壁の外を走るんだよ~」

「「「………………」」」


 隊員らの顔から生気が抜けるも、シエナは涼しい顔で彼らの背中を蹴り飛ばし、訓練所を追い出す。


「あっ、あとさっきの訓練で最後にやった二人は罰として更にプラスで十周しといで。あと最下位から五人は更に十周延長させるから、そのつもりで」

「「「ぐおおああっ!!」」」


 隊員二十名。その全員がすごい形相をしながら訓練所を走り去っていった。


「…………鬼畜」

「ん? れーくん何か言った?」

「いいや、何も」


 触らぬシエナに祟り無し。グレイは適当に誤魔化し、タオルで汗を拭う。


「でも流石に厳しいんじゃねえの。この街どんだけでけえと思ってんだよ」

「甘やかしちゃ駄目駄目。最強の名を、《シリウス》の看板を背負ってるんだから、新人とはいえ厳しく指導しないと」

「その新人指導を何で部外者に委託するかね」

「れーくんが部外者なわけないでしょ。シリウス流無差別戦闘術免許皆伝のくせに」

「そんな大層なものになった覚えないんだが?」

「それくらいの資質はあるから、私がそう決めたの」


 シエナはシリウス流の師範の一人だ。確かに彼女が認めたというなら、グレイは免許皆伝なのだろう。


「おっ? 何だもう終わってんのか?」

「ダニエルか。お前、新人指導サボってたわけじゃねえだろうな。二十人もいて俺一人倒せねえようじゃ先が思いやられるぞ?」

「いやぁ、今年はシエナさんが師範じゃないから、調子出ない奴等が多いんだよなぁ……」

「なんか私が悪いみたいな言い方しないでよ!」

「ぐぶぅおおっ!?」


 ダニエルは鳩尾を的確に蹴り抜かれ、訓練所の床を転げ回る。


「でもシエナ先輩がいないから、とモチベーション上がらない奴等が多いのは、確かですがね」

「だったらお前も指導しろよユン!」

「お前が『任せてくださいシエナさん!』と言っていたと記憶しているんだが?」

「ぐっ……。それを言われると痛い」


 ダニエルとユンの喧嘩を傍目に見ながらグレイはやれやれと首を振る。

 脳筋のダニエルに、空気読めない嫌みったらしいユン。この二人の実力は確かだが、強い奴が指導することに長けているかと言われれば決してそうではない。

 特にこの二人は先陣を切るタイプで、後ろで指示を出すタイプではない。

 こういうことに向いているのはやはりシエナであり、そして──


「おい……。さっき新人共がえげつない顔して飛び出していったんだが?」

「隊長。新人達の教育怠けましたか?」

「人聞きの悪いこと言うな。しっかりやっとるわ。てか、何かあったのか?」


 訓練所にヴォルグまでやって来て、シエナは先程の訓練結果を報告した。二十人抜きには流石にヴォルグも苦い顔をしていたが、その原因に思い当たる。


「そりゃお前。グレイが強くなった、ってことじゃねえのか?」

「…………あっ、なるほど。あり得ますね」

「いやいや。《シリウス》に入るような奴等に勝てるまで強くなってるわけが──」

「何言ってんだ。お前はその《シリウス》の師範に教えを受けたんだろうが。ガキだろうと何だろうと、お前の方が長く《シリウス》の訓練を受けていた。そして学院に行って更に成長した。そういうことだろ?」


 そう言われてしまうと、そうなのかもしれないと納得しそうになる。グレイの経歴は同年代の者達に比べるとかなり異常だ。

 子供だとはいっても、余程普通の子供ではない。

 魔法戦はまだまだ未熟でも、こと格闘戦においては新人達と引けを取ることもない。

 対して新人達は相手が子供だと油断したところもあるだろう。魔法を使わずの格闘戦の訓練をグレイ以上に積んできた者も少ないはずだ。

 だから二十人抜きを達成することが出来たのかもしれない。


「とはいえ、二十人は多いな。やっぱ指導はシエナみたくもうちょい鬼畜仕様にした方が良さそうだな」

「隊長の人生も鬼畜モードにしてあげましょうか?」

「断固拒否する!」

「上司が部下に見本を見せるのも大切な仕事だと思いますけど?」

「ならお前がやってこいや!」

「新人がヘナチョコになってる原因はダニエル。そしてその上司である隊長にあるのでは? あぁ、私は学院に行ってましたので、無罪ですが」

「て、てめぇ……!」


 これが、南方支部の隊長と副隊長の会話かと思うと情けなくて仕方ないのだが、二人は鋭い目付きで睨み合っている。

 しかしこれが日常であるため、気にせずにグレイは未だ寝転がっているダニエルを見下ろす。


「おいダニエル。ついでだ。俺の練習に付き合え。新人じゃ相手にならん」

「おっ。いいねぇ~。……と、思ったんだがそりゃ無理なんだわ。ちょいと今から仕事でな。もしかしたら長引くかもしれねえからお前の顔だけ見に来たんだ」

「俺の顔だけ、ねえ……」


 グレイは半目でダニエルを見下ろし、その視線を横に移す。その先にはまだヴォルグと言い争うシエナがいる。


「俺の顔、だけ、ねえ……」

「だけ、ではありませんでしたぁっ! すんませんねぇぇっ!!」


 怒鳴り声で謝ったダニエルはそのまま訓練所を走り去っていった。


「あぁ~あ。練習台が……。じゃユン。代わりにやろうぜ」

「今練習台って言わなかったか? しかもそれの代わりって」

「細かいことは気にするな。で、ユンは今時間は大丈夫なのか?」

「……やれやれ。わかった。やってやる。感謝しろよ」

「はいはいさんきゅ」

「全く……」


 ユンは肩を竦めつつ、グレイから離れた位置に立つ。


「それで、ルールは?」

「無し。ようやく俺も魔法が使えるようになったんだから魔法もありだ。相棒を呼んでもらって構わないぜ」

「ほう。そういえば、グレイは無属性魔法、ってのを使うんだったな。それを直に体験出来るというわけか」


 グレイは無属性のことを報告書として《シリウス》に提出してはいたのだが、それを実際に見たことがあるのは今のところ《シリウス》では、講師としてミスリル魔法学院に来たシエナだけだ。


「えっ? なになに。二人で模擬戦? なら、私が審判してあげるよ」

「おぉ。こりゃ面白そうだ」


 先程まで喧嘩していたシエナとヴォルグも、二人が戦闘態勢に入っているのを見て、好奇の目を向ける。

 それどころか、準備をしている最中に、どこから聞き付けてきたのか、他の隊員達まで集まってきてしまう有り様だ。

 その中には女性隊員らに囲まれてもみくちゃにされているミュウの姿もあった。

 その両手にはアイスクリームがあり、どうやら買収されたようである。


 そのミュウの目がグレイを心配そうに見つめていたが、グレイは大丈夫だという意味を込めて頷いた。


「それじゃ、二人とも準備はいいね? では、始め!」

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