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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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前期修業式 3

「し、死ぬ……」

「確かに大変ではあるけど、これくらいじゃ人は死なないわよ」

「駄目だ。俺はもう無理みたいだ……。先に、逝く……」

「ふざけてないでさっさと料理作りなさいよアシュラ」

「鬼かっ!? だったらエリーが作れよ! ごめん! やっぱやめてくれ! マジで逝くことになるから!」

「なっ!? 馬鹿にして! 待ってなさい。今作ってきてやるわよ」

「エルシア。俺からも頼む。やめてくれ」

「何切実に懇願してくれてんのよ!」


 男子二人に土下座され、どこにぶつければいいのかわからない怒りを、取り合えず持っていたペンをへし折ることで解消させたエルシアは、しかしすぐに後悔した。


「あっ……お、お気に入りのペンだったのにぃ……。あ、あんた達のせいでぇええ!」

「「えぇっ!? それはあまりにも理不尽だろ!!」」


 いつ、どこにいても騒がしい三人をよそに、ソファに座って本を読んでいた少女が、くぅ~、とお腹を鳴らしながらグレイの方へと歩いてきた。


「マスター。お腹、空きました……」

「あ、あぁミュウ。そろそろ夕飯の時間だもんな。ちょっと待っててくれ。エルシアの怒りが収まらんことにはどうにもならん」


 ミュウ、と呼ばれたその少女は、グレイととてもよく似ていた。同じ灰色の髪とどこか眠たげな灰色の瞳。何も知らぬ者から見れば、グレイの妹か何かと勘違いをすることだろう。

 しかし、実際のところは違っている。ミュウは、グレイが生み出した魔法武器エレメンタル・アークなのである。

 だがエレメンタル・アークとはそのほとんどが武器の形をしており、たまに特殊な形のアークが生まれることはあれど、人型のアークというものは世界のどこにも確認されていなかった。


 それほどまでに珍しい存在である彼女。よからぬ輩にその存在を知られれば、彼女に危険が及ぶと考えたグレイは、エルシア、アシュラ、キャサリン以外の者に対してミュウのことを妹だと紹介していた。

 あと、学院長は薄々ミュウの正体に気付いているようではあるが、どこにもそのことを他言していないようで、ひとまずこの事実を知る者はミュウ本人を含めて六人だけということだ。


 そんなミュウは自分の力を使って顕現することが出来るのだが、その場合魔力を消費するため、お腹が減るらしい。

 それならグレイの魔力中枢エレメンタル・コアに戻ればいいだけの話なのだが、ミュウは食事が好きらしく、美味しいものを食べるのが好きなのだ。


「あ、それならミュウ。お前からエルシアにお願いしてみてくれないか?」

「……? わかりました。……エルシア、さん。お腹、空きました」

「そうよね~私もよ。ほら、二人ともさっさと料理作りなさいよ。ミュウちゃんがお腹空かせてるじゃない!」


 すると先程まで怒り狂っていたエルシアが一転、猫なで声でミュウに抱きつき、頭を撫でる。実は、エルシアは無類の可愛いもの好きで、ミュウのことを溺愛している。ミュウの頼みなら基本何でも聞いてくれるのだ。

 それをなんとも白けたような目で見るグレイとアシュラだが、これ以上余計なことを口出しするのは不毛だとして、大人しく料理を作ることにした。

 その料理が出来た頃に、キャサリンが教員会議から戻ってきたので、五人揃っての夕食となった。


~~~


「ところで。皆さんは夏期休暇の予定は決まってるんですか?」


 そう尋ねてきたのはキャサリンだった。既に皆ほとんど夕食を食べ終わっており、唯一ミュウだけおかわりをしていた。


「予定っすか。……特にないっすね」

「私は一応、色々と予定がありますけど」

「ナンパ」

「アシュラ……。あんた夏を無駄にする気なの?」

「うっせえ! 夏ってもんは人間を解放的にさせるもんなんだよ!」

「いくら解放的になっても、理性までは失わないはずよ?」

「どういう意味だゴラァ!?」

「言ったままの意味だけど?」

「こらこら。喧嘩しないでください。その体力は宿題のために残しておいてください」


 宿題、というワードに、アシュラの表情が険しくなる。ナンパどころの騒ぎじゃなかったことを思い出したようだ。ちなみに、彼はまだ大量にある宿題のうち、プリント二枚分しか終わっていない。


「んで、それがどうかしたんすか?」


 喧嘩を始める二人をよそに、グレイはキャサリンに尋ねる。するとキャサリンは「あぁ、そうでした」と本来の話に戻る。


「実は、皆さんにはぜひ合同合宿に参加して貰いたいと思いまして」

「「「合同合宿?」」」



 聞き覚えのない言葉に、三人は思わず聞き返す。キャサリンは聞き返されることを予想していたので、こほん、と一度咳払いしてから説明を始めた。


「はい。合同合宿とは各クラスの成績上位者だけが参加することが出来る合宿のことです。内容は主に、各クラスとの交友関係を向上させたり、各クラスの相互理解することにあります」

「ふぅ~ん。それって、ようは皆で仲良くしましょう、みたいなあれなんですか?」

「まあ、それもありますが、重要なのは各クラス同士の連携プレーの向上にあります」

「ん? ちょっと待てよ。連携っつってもよ。俺らは基本、クラス同士で争ってるじゃねえかよ。今更協力ってのも変じゃねえか」

「いや、変じゃねえよ。これはいずれ必要になることだ」

「あん? どういうことだ?」

「お前も知ってるだろ? 魔術師は属性によって得手不得手な相手がいる。火は水に弱い。つまり火属性の魔術師は本能的に水属性の魔術師を苦手としてる」

「いくらなんでもそれくらい知っとるわ。で、それが何だってんだよ?」

「考えてもみろ。俺達はいずれ学院を卒業して、ほとんどの場合はどこぞの魔術師団に入ることになる。入った魔術師団によっては同じ属性同士だけで部隊を編成することもあるだろうが、有事の際は属性混合型の部隊で動く場合だって出てくる。むしろその方が色んな相手や場面に対応出来るから、最初から属性混合型の部隊になるはずだ。でもその時になって、水の魔術師が苦手だから連携なんて出来ない、なんてことになってみろ。一瞬でその部隊は全滅だ」

「なるほど。だからこの合宿はそのための予行演習、ということね」

「はい。そういうことです…………。わたしの言いたいこと、全部言われました」


 何故かキャサリンがしょんぼりしていたが、グレイは気にせず話を続ける。


「それこそ、《シリウス》ほどの魔術師団ともなれば同属性編成でも大抵の場面も対処可能だが、各属性との連携もしっかりと取れる奴等ばかりだ。それに、俺達は《プレミアム・レア》だ。どうやったところで属性混合型の部隊にしかならない」

「まぁ、そうだな。……ん? じゃ俺らは別に合宿行かなくていいんじゃね? なんせ俺ら常に属性混合型じゃねえか」

「アホ。他の四属性の奴等との連携を学ばなくてどうすんだ」

「そうですね。視野を広げ、経験を積み、交友を深める。それがその合宿の本分ですから」


 キャサリンが何故かどや顔で説明を加える。だが確かにその通りだ。魔術師はありとあらゆる場面を想定し、訓練する必要がある。


「まあ、それはわかりましたけど、それなら何で参加者は序列上位者のみなんですか?」

「………………お金の、問題です」

「「「あ、はい」」」


 切実な問題だった。最近金に関するワードはキャサリンの禁句となりつつあった。


「それと、効率の問題でもあります。一気に大勢に教えられるほど、わたし達講師も有能ではありません。だからまず、皆を引っ張っていってくれる存在、つまり序列上位者の皆さんに集中して指導をして、夏期休暇明けに、講師と上位者皆さんで指導していく、ということになるのですよ」

「げっ。めんどくせ」

「随分とアシュラ君は否定的ですね。こういうの、一番好きそうなのに」


 それはグレイとエルシアも思っていた。アシュラは合宿みたいな馬鹿騒ぎ出来るイベントなどが好きなのだと思っていたのだが、どうやら違うのかもしれない。


「だってよ。こんなくそ暑い時期に、そんなめんどくせえこと、やってられねえじゃねえかよ。そんなことやってる暇がありゃ、可愛い女の子ナンパしてた方がよほど有意義だぜ」

「……ツッコんだら敗けなのかしら」

「どうだろうな。無駄に本気の目してるしな」


 アシュラは、どこまでも欲望に忠実な目をしていた。


「そうですか。残念ですが、アシュラ君は欠席、ということですね。これは強制ではありませんし」

「あれ? そうだったんですか?」

「はい。だから聞いたじゃないですか。予定はあるのか? って」


 どうやら、その合同合宿は強制ではないらしかった。


「じゃ、俺はパスで」

「そうですか。わかりました。そう伝えておきます。グレイ君達はどうですか?」

「俺は行ってもいいっすよ。暇ですし」

「キャシー先生。ちなみにそれって、いつなんですか?」

「今日からちょうど二十日後で、期間は四日間です。勿論ちゃんと自由時間もありますから。名目上、合宿となってますが、序列上位になった皆さんへのご褒美、という意味もありますから」

「へえ。あっ、そう言えば聞いてなかったですけど、その合宿ってどこでやるんすか?」

「あれ? 言ってませんでしたっけ? 今回の合宿先は海なのですよ」

「すんません!! 俺も参加でお願いしゃっす!!」


 キャサリンの言葉を聞き、先程まで毛ほども興味無かったはずの男が、本日二度目の土下座をしている姿がそこにはあった。


 アシュラ=ドルトローゼ。彼はどこまでも欲望に忠実な男だった。海、自由時間。その二つのワードから連想される光景を思い浮かべ、彼は合宿の参加を決意した。

 グレイとエルシアが白い目で土下座するアシュラを見下ろす。キャサリンは少し困ったような表情をしていた。


「え、えと……。どうしたんです急に? さっきまで行かないって」

「すんませんっしたぁぁ!! 是非、是非に同行させてもらえませんでしょうかぁぁああ!?」

「必死すぎてキモいんだけど……」

「言ってやるな。譲れないところなんだろうよ。あいつにとってはな」


 何故アシュラがそこまで必死になっているのか、何となくわかる、わかってしまうグレイとエルシアは何だか複雑な気持ちになる。


「ま、まぁ、参加してくれるということならこちらとしては大歓迎なのですが」

「いいんですか先生。こんな変態を合宿に参加させて。確実に問題が起きますよ」

「給料減らされますよ~」

「えっ!? ぐ、ぐぬぬ……」

「おいこらぁぁあっ!! 何言ってんだ馬鹿野郎!! いじめとかカッコ悪いぞ!」

「いじめってお前……」


 アシュラはとても真剣で、とても純粋な目をしていた。とても純粋で、不純な目をしていた。


「まあ、いいでしょう。問題を起こさないことは大前提ではありますが、一人だけ行かない、なんてのも可哀想ですし」

「さっすがキャシーちゃん!! よっ! 講師の鏡!!」

「えっ? そ、そうですかね。えへへ……」

「キャシー先生ちょっと単純過ぎません?」

「まあまあ。どうせ俺らが言ったところでどうにもならないだろうよ」


 どうやら結局、《プレミアム》の三人全員で合宿に参加することが決定したようである。


「あっ、ちなみに言っておきますが、この合宿。宿題が出来ていない人は参加出来ないみたいなので、頑張って終わらせてくださいね」


 その瞬間、アシュラの目が死んだ。

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