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問題児達の稀少魔術《プレミアム・レア》  作者: いけがみいるか
四章 プレシャス・バケーション
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前期修業式 2

「うわ……マジかよ。ほんの少し期待してた数分前の俺をぶん殴りてえ」

「むしろあのくそババア殴りに行こうぜ?」

「そんなことしたら即刻退学でしょうね。もっと別方向から仕掛けるべきよ」


 前期終業式後、旧校舎へと戻ってきた問題児三人、グレイ=ノーヴァス、アシュラ=ドルトローゼ、エルシア=セレナイトはつい先程まで心のどこかでリールリッドの言っていた宿題の量を三倍にするうんぬんの話は嘘なのではないかと儚い幻想を抱いていた。

 しかし、担任のキャサリン=ラバーが、馬鹿げた量の宿題を持って帰ってきて、それぞれの机の上に山のように積み上げられたプリントを見て、その淡く儚い幻想は脆くも崩れ去り、現在、学院長襲撃作戦を考案していた。


「やっぱグレイが適任だろ。あの魔法使えば不意打ちし放題じゃねえか。ほれ行ってこい」

「無理だな。それだと確実に俺が犯人だってバレる。遠距離からエルシアが狙い撃ちしたらいいだろ」

「バカ。それだと私が犯人だって確定されちゃうじゃない! 最初に言い出したあんたがやりなさいよアシュラ」

「おいおい。自分の手は汚したくねえ、だから俺がやれ、ってか。かぁ~っ! これだからお嬢様ってやつは」

「いやいやいやいや! そもそも学院長を襲撃すること事態ダメですからっ!!」


 物騒な相談をする三人を、慌てて止めようとするキャサリン。彼らなら、何の冗談もなく、本気でやりそうだから余計に心配になるのだ。そして、万が一にもその作戦が実行されるようなことがあれば、キャサリンの首は宙を舞うことになるだろう。(講師としてのキャサリンの首、という意味だが)


「全く。どうせ学院長には奇襲なんて不可能ですよ。なんせ学院長は《聖域の魔女》なんですから。諦めてください」

「……ふむ。なるほど。確かにそうですね」


 ようやく諦めてくれたか、とキャサリンはひっそりと安堵の息を吐く。


「奇襲は無理だから特攻あるのみだ。学院長を倒して平穏な夏休みを勝ち取るしかない。そういうことですね、キャシーちゃん!」

「全然違うのですよ!?」


 曲解だ、と言わんばかりに首と両手をぶんぶん振り、全力で否定する。しかしエルシアとアシュラも「なるほど……」などと呟いている。


「それじゃあ早速、キャシーちゃん考案、学院長室突撃作戦を開始する」

「おう!」

「了解」

「開始しないでくださいぃぃっ!! ていうか何ですか! わたし考案って!? 完全にわたしに罪擦り付ける気じゃないですかぁぁあ!!」


 不敵に笑う問題児三人に、半泣きの講師。そのたった四人しかいないはずの旧校舎は、しかしとても喧しかった。


~~~


「しっかし。この量は殺人的だな」

「ま、私にしてみれば一週間、いや。五日あれば終わらせられる量だけど」

「マジかよ……。エリーはいつの間に人間辞めてたんだ?」

「辞めてないわよ! 失礼な」


 取り合えず、襲撃することは保留することにした三人は、一度彼らの寮へと戻り、目下一番の問題である宿題の山をどうするか考えていた。


「サボろうにも、やってこなけりゃ今までの苦労が水の泡って言うんだから質が悪いぜ……」

「あんた、大した苦労してないんだから問題ないんじゃない?」

「ん? それもそうな気もしてきたな……」

「認めちまうのかよ……」


 しかしアシュラはわかっているのだろうか。前期分の単位が全てなくなるということは、進級すら難しくなり、加えてそもそもの成績すらあまり良くないということに。実技だけならトップクラスではあるが、座学はボロボロだ。当然後期にも座学はある。つまり、彼には余裕がないのだ。


「こらこらこら! 何言ってるんですか! 宿題やってこなかったらわたしのお給料が減っちゃうじゃないですかっ!」

「あ、なんか宿題やらなくても全然平気な気がしてきたぜ」


 しかしながらアシュラがそんなことを言うものだから、キャサリンの目が、本気の目になった。アシュラを落第させないため、ではなく。


「そんなこと、させないのですよ……」

「「「ん?」」」


 先程と雰囲気が変わったキャサリンに気付き、三人は恐る恐るキャサリンの顔を覗き込む。


「決めたのです! 皆さんは宿題を終わらせるまで、寮からは一歩たりとも出さないのですよ!」


 全ては自分の給料を守るために。


「「「えぇええええぇぇえええ!?」」」


 《プレミアム》寮は生徒三人の悲鳴に包まれ、早速その日から宿題地獄へと身を投じることになった。


~~~


「何故またあのようにわざわざ怒りを買うような言い方をしたのです?」


 初老の講師、カーティス=ハイヤーは溜め息混じりにリールリッドへと詰め寄っていた。

 だがリールリッドは悪びれる様子もなく言った。


「なら、ありのままを話せと? 君達の学力が下降傾向にある。そのため課題の量を三倍にする、と」

「そう言えば少なくとも穏便に済んだはずですが」

「しかし、生徒達のモチベーションはだださがりだろうな。ただでさえ勉強嫌いな生徒が多いというのに」

「だからわざと焚き付けた、と?」

「絶望に浸るよりはマシだと思ってな」


 つまり、怒りを原動力に勉強をさせよう。ということらしい。

 一応、生徒のことを思ってのことだったらしいが、それが果たして本当に生徒達のためになっているのかどうかは甚だ不安ではある。


「それよりも、だ。アレはどうなっていたんだったかな?」

「アレ……? あぁ、一年生達の合同合宿の件ですか? 確か、今年は海に決めたと、学院長が仰っていたと思いますが?」

「ん? 言ったかなそんなこと」

「えぇ。確かあれは、定期テスト作りをお願いしていた時に、そのようなことを言っていたと記憶しておりますが」

「ふむ……。あ、そう言えばそんなことを言ったような、言ってないような」

「まあ、あの時の学院長はどこか現実逃避気味でしたからな。戯言程度のことだとは思っていましたが」

「いや、しかし悪くないだろう。昨年は山だったのだし、海は私も行きたいし」

「いえ。学院長は今回参加は出来ませんよ? 仕事がそれこそ山のようにありますから」

「………………は?」


 カーティスから発せられた言葉を聞き、リールリッドの思考は一度停止した。


「…………いやいや。待て待てカーティス。あれはいつも学院長たる私も同行することになっていたではないか」

「ええ。昨年まではそうでしたな。しかし今年に限ってはそうはいかない事情があったではないですか」

「……いや、確かにそうだが、え? それほどまでに余裕がないのか?」

「そうですな。先日のあの件を除いたとしても、前期分の資料整理、成績管理、近隣の町に対しての情報整理、生徒達の親御様方への説明会や、ミーティアの魔術師団との会議、国への近況報告、来月のイベントの打ち合わせに、事務や雑務諸々、他にも細々とした仕事が──」


 長々とカーティスが予定を並び立てて説明をしていたが、途中からリールリッドは完全に聞いていなかった。


「ふ、ふふ、ふふふふふふふ……。ふざけるなぁあ! 何でそんなに忙しいんだぁぁあ!? くそぅ! こんなことだったら三倍じゃなく十倍にしておけば良かったぁぁ!」

「……そんなことをすれば今度こそ確実に暴動が起きたと思いますが」


 特に、カーティスが新しく副担任となったクラスに在籍するあの三人辺りが、と思いながらもそれは口にはしない。

 むしろ三倍の今ですら暴動ギリギリなのではないかと不安になっているのだ。十倍なんて言った日には──


「はぁ……」


 想像するだけで骨が折れそうだった。


「あぁ……駄目だ。全てにおいてやる気をなくした……」

「しっかりしてください。夏はまだ始まったばかりです」

「いや。私の夏は、もう死んでいるよ……はは……」


 いつもの無駄元気はどこへやら。虚ろで悲しげな目は、空を見つめたまま動かない。


「……それで、合同合宿の件。海、で良かったのですか?」

「……ふっ。どこだっていいさ。私には関係ないみたいだからな……」


 自暴自棄になっているのか、学院の長とは思えないいい加減な返事。大きな問題児を前に、頭が痛むのを我慢し、打開策を考える。

 このままだとこの夏にやらねばならないことが出来なくなる恐れがある。それは不味い。特別講師としてミスリル魔法学院に長年勤めている彼にとって、彼女との付き合いは長かった。だから、やる気にさせるための案を考え出した。


「では、こうしましょう」

「…………なんだ?」

「学院長の一日一日のスケジュールに色々なことを無理矢理詰め込み、何とか一日空けましょう。その一日を、合同合宿に合わせれば、学院長も海に行くことは可能です」


 その提案を受け、リールリッドは口に手を当て考える。


「………………それだっ!!」


 どうやら、お気に召したようだった。


「ならばグズグズしていられないな! カーティス! 私のスケジュールはどうなっている!?」


 何とかやる気を取り戻したリールリッド。その無邪気な表情はまるで少女のようで、カーティスは苦笑しながらリールリッドのスケジュールを整理し始めた。

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