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奇術師と嘘つき 4

 ミーティアや、その周辺で騒ぎが起きている頃。リビュラは一人である場所への侵入を果たしていた。


 今リビュラが行っていることこそ今回の作戦の最重要案件である。むしろ彼の作戦以外はほとんど囮であり、ただのオマケでしかない。たった一つだけ、彼の作戦を達成するために必要不可欠な作戦があるが、それさえ成功していれば何も問題はない。

 なんせ、リビュラの作戦さえ成功すれば《天神衆》の勝利なのだ。つまりハイドアウトも、町で得た新しい《神徒》も、幹部達ですら捨て駒同然なのだ。


「ここ、でしょうか?」


 リビュラはとある扉の前に立つ。普段なら厳重に防護魔法が掛けられているが、今はそれもなくなっている。リビュラがその扉を開こうとゆっくりと押す。


 その時、背筋に悪寒のようなものが走り、後ろを振り返る。するとそこには一人の老人が立っていた。リビュラはモノクル越しでその人物を見る。魔力反応はない。《コモン》の老人、のはずである。


 はず、というのは魔力を見せないよう抑え込んでいるのかもしれないからだ。それにグレイのような異常者という存在も知ってしまい、今では簡単に判別出来なくなっているからだった。


「そこで何をしておるのですかな?」

「…………」


 そう尋ねられたリビュラはどう答えるべきか考えあぐねていた。どう答えたとして言い逃れが出来ないからだ。だがあえてふざけてみせて言う。


「すみません。少し見学をさせてもらっていたんですが、道に迷ってしまいまして」

「ほうほう。そうですか。なら、私が案内を致しましょう。さぁ、こちらです」


 しかしわざとなのか、その老人はリビュラの苦しい言い訳を信じ、優しくリビュラを手招きして歩き出す。だが、ここで素直に連れられて戻るわけにはいかない。

 幸い、ここなら誰一人として目撃者もいない。もし何かしらの証拠を残すようなヘマをしでかしたとして、扉の向こうにあるはずのブツさえ手に入れれば問題はない。リビュラは懐に手を忍ばせてナイフを握る。


「やめておきなさい」


 だが、彼の思考を見透かすかのように言葉を挟まれ、リビュラはピタリと動きを止める。


「あまり乱暴なことをしたくはないのです。私は見ての通り、もう歳ですから」


 老人は無防備に背中を見せているはずなのに、まるで隙がない。リビュラの額から冷や汗が流れ落ちる。


「いやはや、全く。歳は取りたくないですなぁ。若い頃なら貴方くらいの方なら余裕で、どころか、魔術師の方々をも倒してみせたのですが、今では若い頃のように動けませんで。それに、見知った人間だったとはいえ、最近不様に不覚を取ったことすらある始末で。お恥ずかしい限りです。ですので、何もせず、このまま出ていって貰いたいのです」


 魔術師をも倒す。その台詞を信じるならば彼が《コモン》であることは間違いない。なら、リビュラと対して変わらない存在だ。それに自ら衰えを自覚しているようで、リビュラには勝てないと悟って、あえて脅して勝負に持ち込ませないようにしているだけとも考えられる。


 何がどうあれ、ここは退けない。退くわけにはいかなかった。


「すみませんが、そういうわけにもいかないんですよ。今以上の好機はないんです。《聖域に眠りし秘宝》を貰い受けるためには」

「……やはり、それが狙いでしたか。まあ、その部屋の前に立っていた時点でそれ以外の目的があるとは思えませんでしたが」


 リビュラの言葉を聞き、老人──カーティスは再びリビュラを見る。


「して、その事を誰から?」

「関係ないでしょう。魔術師に魂を売った相手に、話すことはありません」


 リビュラは軽蔑の眼差しをカーティスに向ける。だが、カーティスは軽く受け流す。


「そうですか。まあ、だいたいの予想は出来ますから、そこまで知りたいわけでもありませんので問題はありません」

「……そうですか。では我々の目的を知った貴方には、ここで死んで貰わなければなりません。大人しく、死んでください!」


 リビュラは懐からナイフを抜き取り、一気に距離を詰める。ナイフを突き出し、一撃で仕止めようと首を狙う。その動きは素人のものとは比べ物にならない。素早く正確な一撃だった。


「遅いですね」


 しかし、カーティスはそれよりも速いスピードで伸縮性の警棒を振り、リビュラの手を弾いてナイフをはたき落とす。

 その鋭い痛みに一瞬表情を歪めたリビュラに、追撃として左足の脛を砕く。

 バランスを崩したリビュラの顔面に更に追撃の一撃を浴びせ、その拍子にリビュラの掛けていたモノクルが壊れて床に落ちる。最後にとどめの一撃として喉元を突き、リビュラは床に倒れ込んだ。

 その間、およそ数瞬。恐らくリビュラには何をされたのかもほとんど理解出来ていないまま意識を失っただろう。


「……やれやれ」


 カーティスは一人、鈍った自分の動きに落胆する。警棒を元の短い長さに戻して腰に差しなおし、気を失ったリビュラを見下ろす。


「せめて、地上には私が出しておきましょうか。ここが他の方に知られるのは、少々面倒ですからね」


 しかし年寄りには厳しいですね、と一人呟きながら、カーティスはリビュラを軽々と持ち上げた。


~~~


「はぁ……はぁ……。どこだ、リビュラの野郎……」


 グレイはリビュラの作戦を阻止すべく、学院まで戻ってきていた。

 ミュウが得た情報では、リビュラの作戦は学院にある何かを奪う、ということのみであり、それが何なのか、どこにあるのかはわからずじまいだった。


 だがここでやみくもに探し回っても埒が明かない。これならエルシアを連れてきた方が良かったと今更ながら悔やんでいた。

 エルシアなら、サテライト・リングですぐリビュラを見付けられたかもしれない。

 だが今悔やんでも仕方ないので、グレイはリビュラの行きそうな所を思い浮かべる。


 リビュラの目的が学院にある何かを盗み出すこと。わざわざここまで手の込んだ作戦を考えてまで奪わなければならない程のモノなら、かなり厳重に守られているはずだ。


 だとすればそれなりの施設に保管していると考えられる。学院の中で一番安全かつ厳重な場所。それは、学院長室のある中央塔において他にない。


「よし!」


 グレイはリビュラが中央塔にいることと断定し、すぐに中央塔へと駆けつけた。

 そして中央塔に着いたグレイの視界に映ったのは、拘束されて地面に倒れているリビュラと彼を取り囲む数人の講師達だった。


「………………あれ?」


 意気込んで来たというのに、まさかの結末にグレイは呆気に取られた。


「おや? グレイ君。どうかしたのですか。大会の方を観に行っていなかったのですか?」


 そう話し掛けてきたのはカーティスだった。ここで下手に『そこに転がっているリビュラという男をぶん殴りに来た』と言えばややこしいことになることは間違いなかった。


「えっと。あぁ……ちょっと忘れ物して……。それよりそいつは?」


 なので適当に誤魔化して、話を反らす。ついでに何故リビュラが既に捕まっているのかを尋ねた。


「あぁ、この人ですか。不法侵入者ですよ。手薄になった学院になら盗みに入れるとでも考えたのでしょうが」


 カーティスはリビュラを見下ろしながら呆れたような溜め息を漏らす。グレイはもう一度地に倒れているリビュラを見る。

 気付くと、あの魔力の色を視認出来るモノクルが無くなっており、代わりに何かに殴られたような痕が出来ていた。


「これ、もしかしてカーティス先生が捕まえたんですか?」

「ええ、まあ。運が良かっただけですが」


 いや、それは謙遜だろう、とグレイはすぐにわかった。

 リビュラは《天神衆》幹部の一人であり、一瞬だけだったが地下室で見た彼の動きは並のレベルではなかった。

 そして何より、彼の作戦が《天神衆》にとって一番重要な作戦だったということは、彼が一番の実力者だったはず。加えて作戦遂行を目前にして油断があったとも思えない。

 そんなリビュラを倒したカーティスは、見たところ反撃を受けたような様子もない。


「流石はベテランの特別講師ですね」

「いえいえ。そんな大層なものではないですよ。本当に」


 グレイの称賛にカーティスは朗らかな笑みと謙遜で答える。


 だが彼のおかげで《天神衆》の作戦を阻止できた。ハイドアウトもミーティアも無事だ。安堵の息を漏らすと、途端に眠気が襲ってくる。思い返せばグレイはまだ一睡もしてなかった。頭がぼ~っとしてくる。早く寝たいと瞼が落ちてくるのを必死で耐える。

 しかし、眠気が思考の妨げになってきたせいでグレイは完全に失念してしまっていた。

 今回の作戦において、もっとも重要となる人物のことを。

 そしてグレイはそのことに気付くことは出来なかった。

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