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《アウトロー》 4

「ふぅ……。だいたい終わったかしらね……」


 今エルシアは《天神衆》の作戦の一つを未然に防ぐために町中を走り回っていた。

 その作戦とは、《天神衆》が甘怨香で操られた人々を使い、町中で暴動を起こす、というものだ。

 その暴動の目的は一つ。町中で混乱を起こして、魔術師団の目をそちらに向けさせること。そしてその隙を突いて本当の狙いを遂行させるためだ。


 だからそれを阻止すべくエルシアは町の、特に人が多く密集している場所に《ヒーリング・パージ》を放ち、暴動を起こす前に鎮圧させていたのだ。

 暴動は人数がいなければ成立しない。《天神衆》の一人や二人程度が暴れたところで魔術師団にすぐに取り押さえられておしまいだ。


 まだ完全に安心出来ないが、大多数の者は正常な思考を取り戻したはずなので、エルシアは少し休憩を取る。


 連続多重魔法使用によって疲労が溜まってきたが、まだ倒れるわけにはいかず、エルシアは最後の目的地を視認する。


「あとは、コロシアムだけね。あいつは上手くやってるんでしょうね」


 エルシアはコロシアムにいるであろうアシュラがきちんと目的を果たしているか心配になる。何せ、彼が失敗すれば暴動なんかよりももっと酷いことが起きるのだから。


~~~


「よしっ! 八個目! あとは二個だ!」


 アシュラは八個の爆弾を《泥闇》で処理し、次の爆弾が設置されているはずの場所へと走る。


 コロシアムに仕掛けられた爆弾は全部で十個。設置場所はそれぞれ貴族専用の特別観客席や魔力精製炉、コロシアム地下のシェルターなどだ。

 狙いは完全に魔術師なのだろうが、会場には《コモン》も多くいるはずだ。にも関わらず爆弾を仕掛けているということはつまり、魔術師に荷担する者として魔術師同様排除対象なのだろう。しかも魔力精製炉などを爆発させたりすれば多くの被害者が出ることは必至だ。

 そして、ここの爆弾が爆発すれば、それが合図となり町で暴動が起こる手筈になっている。そうなれば、避難場所として地下シェルターが使用される。

 しかし地下シェルターにも爆弾が仕掛けられていたということは、もはや大量殺戮も辞さない考えなのだろう。


「ちっ! 胸くそわりい話だぜ!」


 そしてそれすらも、本当の目的を隠すためのカモフラージュでしかないのだ。はらわたが煮えくり返りそうになるのを堪えて、九個目の爆弾を迅速に処理し、最後の爆弾が仕掛けられているはずの場所を見下ろした。


 リングではちょうどウォーロックがシャルルを倒し、リングの整備が行われているところだった。


「さて。どうすっかな」


 しばらく考えたが、どうにもこの状況でバレずに処理することは出来そうにない。なら──。


「だったら逆に、めちゃくちゃ派手にやってやるか」


~~~


 司会者席に座るエミーシャは、ウォーロックとシャルルの試合についてのコメントを語る。その隣ではリールリッドが険しい表情と鋭い目付きでコロシアム観客席を見渡していた。


 爆弾を仕掛けた、というなら何故すぐに爆発させないのか。理由は恐らく、何か別の目的があるのだ。それが何なのか、そもそも爆弾が本当に仕掛けられているのか。これはあくまでリールリッドを縛り付けるための方便ではないのか。


 犯人側の思考を読み取り、可能性をいくつも考えるが、どれが正解なのかを判断するためには証拠や情報が圧倒的に足りていない。


 そしてとうとう大会は、実質上メインイベントになっている《プレミアム》同士の対決の時間となっていた。


 そう言えば大会前、《プレミアム》の二人が控え室にすら来ていなかったことを、現実逃避気味に思い出す。


「……いや、待て」


 だが、妙な引っ掛かりを覚えたリールリッドは深く考え込む。


 今回の脅迫犯の正体。それがここ最近騒ぎになった《天神衆》だと仮定したとしたら、どのタイミングで爆弾を爆発させるのか。

 魔術師の中でも超稀少と言われる存在、《プレミアム・レア》は彼らの目には一体どのように映るのか。それこそ、同族である魔術師からすらも妬まれる存在だ。彼らにとって、最大級の対象ではないだろうか。


『では、とうとう皆さんお待ちかね!! この世で最も稀少な二人、《プレミアム・レア》を持つエルシア選手とアシュラ選手の試合です! さあ、両選手に登場してもらいましょう!』

「待てエミーシャ!! 彼らを呼んではいけない!」


 リールリッドが制止を呼び掛けるも、エミーシャは首を振りながら、それを拒否する。恐らく“通常通りに進行しないと爆発する”という言葉のまま突き動かされているのだろう。


 だが、もし今リールリッドが導きだしたものが真実だとしたら、むしろそれが爆弾を起動するための動作となる。


 思わずリールリッドは椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、リングを見下ろす。


 だが──


「「「……………………?」」」


 会場全体がざわつき始める。当然だ。呼ばれたはずの二人がいつまで経ってもリングへと姿を現さないのだから。


『え、嘘っ!? 何でっ?! エルシア選手?! アシュラ選手?! 出番ですよ? いないんですかっ!?』


 これまで以上にテンパるエミーシャは、マイクを持つ手をガタガタと震わせる。次第に会場ではヤジや罵倒が飛び交い、早く出せと怒鳴る声が響いている。


 まさにその時。リング中央に不気味な影が差した。見上げるとそこには超巨大な黒剣が急降下してきていた。


「うおおらああああっ!! 《奈落ノ月影》ぇぇええ!!」


 アシュラのアーク、《月影》が超巨大剣となり、リングに深く突き刺さる。その衝撃は凄まじく、会場全体が揺れ動く。先程まで飛び交っていた罵倒は悲鳴に変わる。


 その光景をポカンと口を開けて見つめていたリールリッドだったが、リングを注意深く見てみるとアシュラの謎の行動の意味を理解した。


「そう、か。そこ(・ ・)にあったのか」


 ほんのわずかな時間ではあったが、アシュラの影が、爆弾のようなものを呑み込んでいくのが見えた。


「あの問題児め」


 そう呟くリールリッドだが、その表情はどこか勝機を見いだしているようだった。


『あ、アシュラ選手!! 何やってるんですっ!? リング壊しちゃったら──し、試合がっ!』

「おっと。わりいわりい。ド派手な演出が必要かと思ってよ」


 マイクを使って大声で叫ぶエミーシャだが、アシュラはまるで悪びれた様子もない。アークを消すと、そのままリングを立ち去ろうとすらし始めたので、エミーシャが制止を呼び掛けようとすると、次は強烈な雷鳴が轟き、リングに白い雷が落ちた。

 かと思えば、観客席のあちこちで光の爆弾が炸裂し、再度会場に悲鳴が上がる。


 ようやく視界が開けると、リングにもう一人の問題児が降り立っていた。


~~~


「おう、エリー。町の方は終わったのか?」

「当然よ。町中駆けずり回ってもうクタクタ。そっちこそ、ちゃんと全部片付けたんでしょうね?」

「当たり前だっての。俺を誰だと思ってんだよ」

「変態」

「……ぶれねえな、この野郎」

「それよりミュウちゃんはどうしたのよ変態?」

「おい待て。最後に変態をつけるな。それだと俺がミュウちゃんに手ぇ出したみたいに聞こえるだろが!」

「はぁっ!? 手ぇ出したの!?」

「出してねえよ!! 人の話をちゃんと聞けや!!」


 派手、という言葉では片付けられないほど強烈な登場をした二人は、そんなことお構い無しに口喧嘩を始める。


 誰もが言葉をなくしている中、ようやくエミーシャの声が会場に流れる。


『……えぇ~。と、取り合えず、選手も揃ったことですし、試合を始めても大丈夫でしょうか?』


 エミーシャは確認を取るように問い掛けてくる。リールリッドは中止を呼び掛けていたが会場がそれを許さず、早く始めろとヤジが飛ぶ。


『で、では《プレミアム》同士の試合を始めます! 試合開始!』

「「棄権します」」


 会場にいる観客の圧力に負けたのか、もしくは命令通りに進行しなければという危機感からか、リールリッドの言葉を無視してまで開始された《プレミアム》の試合は、わずか一秒で終了した。


「「「「………………はぁあああああああっ!!?」」」」


 会場全体が一斉に驚愕の声を上げる。


 そんな中で一人、観客以上に驚き、顔を青くする人物がいたのを、リールリッドだけが見付けていた。


「ほら、行くわよ! たぶん向こうはもう始まってる!」

「わあってるっての! それで、どっちに行く!?」

「ミュウちゃんにはキャシー先生が付いてるのよね? なら、もう決まってるわ!」

「だな」


 エルシアとアシュラはそんな会場を一欠片も気にかけず、来た時と同じように、混乱だけを残してコロシアムを去っていった。

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