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ミスリル・オムニバス 3

 試合開始直後、真っ先に動いたのは《イフリート》の二人だった。


「うおおっ!! 先手必勝ッス!」

「はああっ!!」


 ゴーギャンとカルメンは同時に走りだす。狙いは──


「ほう、真っ向勝負かい?! いいねぇ! そういう展開は大好物だよ!」

「油断しないでカナちゃん。目の前だけに集中し過ぎちゃ駄目だからね!」


 《ドワーフ》のカナリアとマルコシウスは向かい来る二人を迎撃する。


「来な! 返り討ちにしてやるよ!」

「負けないよ!」

「先月付けられなかった決着を付けるッス!」

「やけくそだこんにゃろおおおっ!」


 四人はそれぞれ己のアークを振りかざす。

 カナリアの斧とカルメンのモーニングスターが激しくぶつかりあい、マルコシウスの盾がゴーギャンのグローブを填めた拳を受け止める。


「まだまだァ!! 《バーニング・ラッシュ》!!」

「《フレア・ボール》!」


 ゴーギャンは休むことなく炎を纏った拳を放ち続け、カルメンも負けじと鉄球を振り回す。

 カナリアとマルコシウスは防戦一方になっている中、その両者の様子を見て、即座にロンサールが飛び出した。


「今なら厄介な《ドワーフ》を《イフリート》ごとブッ倒せるじゃねえか! ここは行くしかないぜ!」


 ロンサールは船の碇のような形をしたアークを突き出しながら突進する。

 しかし、瞬時に不穏な空気を感じ取ったラピスが叫ぶ。


「止まりなさいロンサール! 狙われています!」

「なっ──!? ぐおおあっ!?」


 突如、ロンサールの頭上から鋭利な風を纏った矢が降り注ぐ。

 弾かれるように矢が飛んできた方向を見ると、宙に浮かんだまま次の矢をつがえるコノハの姿があった。


「このッ……! 《アクア・ブラスト》!」

「《ハンドレット・アロー》!」


 ラピスはライフルから凄まじい勢いの水砲を放ち、コノハの放った矢は無数に分裂し、水砲と激突する。

 両者の攻撃は、ラピスに軍配が上がりコノハは風を操り更に上空へと逃れる。


「ず、ずるいっ! 空を自由に飛び回る相手にどう戦えばいいの!?」

「落ち着いてくださいキーラさん。戦い方はいくらでもあります。ですが冷静さを欠けば勝てるものも勝てなくなりますよ。それよりロンサールは回復を、キーラさんは周囲警戒」


 《ハーピィ》の、風属性の最大の利点。それは常に制空権を取れることにある。ライフルのアークを持つラピスのような遠距離攻撃を得意とする者でない限り、非常に戦いにくい相手なのだ。

 そのため、《セイレーン》が《ハーピィ》と渡り合うためにはラピスの存在が必要不可欠だ。そう判断したキーラとロンサールはラピスの指示通りに動く。


 代わって、コノハは宙に逃れてすぐに再び矢をつがえる。しかし次にどう動くべきか迷っていた。


 そのたった一瞬の隙を突くかのように、真下で何かが光る。


「えっ……!?」


 見るとこちらに飛来する閃光があり、コノハは回避も間に合わず咄嗟に防御を固める。

 だが、その閃光はコノハに当たる前に高速回転する槍に弾かれた。


「大丈夫かいコノハ?」

「カ、カインくん!」


 コノハを狙った閃光を弾いたカインは、コノハの無事を確認した後、地上を見つめる。


「空を飛んでるからと言って気を抜かないようにね。なんせ、君以外にも遠距離攻撃を得意とする人物が二人いるから」


 カインの視線の先を追うと、こちらに銃口を向けている純白の少女の姿があった。


「エルシア、さん……」

「彼女も彼と同じ《プレミアム》だ。だからこそ、決して油断なんてしちゃいけない」


 カインは風を操り、槍を宙へと浮かべる。そうすることによって槍を自由自在にに扱うことが出来る。そしてその発想は奇しくもエルシアと同じ《プレミアム》に所属するグレイのアークを見て思い付いた戦法だった。


「僕がエルシアさんを倒す。そのために全神経を集中させないといけない。コノハのことを援護出来るほど余裕はないかもしれないから十分気を付けて」

「う、うん。わたしのことは気にしないで。あとカインくんも気を付けてっ」

「ありがとう。行ってくる!」


 カインは超スピードでエルシアに向かって急降下する。


「穿て《フラッシュ・スプレッド》」

「吹き回れ《風車かざぐるま》!」


 エルシアの光の散弾とカインの回転する槍が甲高い音を生じる。カインは攻撃の斜線上から逃れ、尚もエルシアに向かってくる。


「こっちはあんた一人に構ってる暇ないのよ。さっさと落ちなさい! 《ホーリー・レイ》!」


 エルシアはカインの上空に光弾を撃つ。その光弾は次の瞬間に破裂し、雨のように降り注ぐ。

 カインは冷静に自分の周囲を風で覆い、攻撃を防ぐ。その間にエルシアは《イフリート》と《ドワーフ》の両陣営へと銃口を向ける。


「貫け《ストライク・サンダー》!」

「うわっ!?」

「危ない!」


 一直線に迸る稲妻は両陣営の間を走り抜け、戦闘を強引に中断させた。


「このっ! あたいに喧嘩売るたぁ上等だよ!」

「邪魔すんじゃねえよ《プレミアム》!」


 真っ向勝負に介入された苛立ちからか、カナリアとカルメンが吼える。

 そしてエルシアはちょうどリングの中央に立つ。しかしそこは全方位から狙われる最悪の立ち位置だ。

 前方には《セイレーン》、後方にはカイン、上空にはコノハ、右手側には《イフリート》と《ドワーフ》。必然、全員の視線がエルシアへと注がれる。

 だが、それこそがエルシアの狙いだった。エルシアはニヤリと微笑み魔法を紡ぐ。


「瞬き眩め《フラッシュ・ボム》!」


 エルシアの放った強烈な光の爆弾はリングの選手だけでなく、会場にいる観客の視界をも真っ白に塗り潰す。


「ぐおぉっ!? 目がぁ!?」

「しまった! これじゃ──」


 完全に視界を奪われた選手らは全力で防御を固める。直後、いくつもの雷鳴が轟き、悲鳴があちこちから上がる。


 全員、防御を固めつつ、攻撃を凌ぎ続ける。しかし、見えない攻撃に対処する方法はなく、どこからどの部分を狙われるかも定かではないので、全身に魔力を巡らせる必要があり、その分余計な魔力まで消費してしまう。

 その中でカインのみ、空を裂く音を頼りに的確に攻撃を捌くも、周囲の様子までは把握出来ずにいた。


 そして、ようやく目を開くことが出来るようになった彼らの目に映ったのは、再度爆発する無慈悲な光だった。

 エルシアは視界が回復するだろうタイミングを見計らって再度《フラッシュ・ボム》を炸裂させたのである。


「ちょっ!? ふざけ──ぐああっ!?」

「きゃああっ!!」


 そして再び雷鳴が轟く。だが今度は悲鳴の数が減っていた。


「ふぅ……。意外としぶといわね。この作戦で全滅させるくらいの気でいたのに」


 やがて雷鳴は止み、エルシアの呟く声が聞こえる。カインは警戒しながらゆっくりと目を開き、リングを見下ろす。


「これは……」


 最初は見間違いかと思い周囲を見渡したが、やはり間違いはなかった。


「うぅ……ん……」

「かはっ……はぁ、はぁ……」

「げほっ! ぐぅっ……」


 リングの中央にはエルシアが両手に持つ銃をそれぞれ空中にいるカインと、膝立ちでライフルを構えているラピスに向けており、その他でリングに残っているのは、カナリアとゴーギャンだけだった。

 しかしゴーギャンはリング上で大の字で倒れており、そのすぐ後にゴーギャンは結界の外へと転移された。

 この結界は戦闘不能になった選手を自動で外部へと吐き出すようになっているのである。

 エルシアを警戒しつつリングの外へと視線を移すと、マルコシウスやコノハらの他の選手がリングアウトになっており、正真正銘残り四人となった。


 この場で唯一無傷なままのエルシアが爽やかな笑顔でこう言った。


「さあ。次、行くわよ」


~~~


「うわぁ、えげつねぇ……」


 グレイは思わずそう呟いていた。とは言え、あの戦法を考えたのはグレイ本人なので、その言葉はそのままグレイへと返ってくるのだが、そう呟かずにはいられなかった。それくらいまでエルシアは周囲を圧倒していた。


 それに、集団戦の経験が乏しいエルシアにわずかな助言をしたのは確かにグレイだったが、それも基本的なことまでで、グレイがエルシアに与えた作戦は注意を自分に向けさせてからの《フラッシュ・ボム》、というところまで。


 貴族というものは、良くも悪くも正々堂々の正攻法で向かってくる。なので、不意打ちや目眩ましなどは面白いくらいに嵌まってくれる。現に効果は覿面だった。

 しかしタイミングを見計らっての再度目眩ましという鬼畜戦法はエルシア自身が考えたものだ。


 だが流石のエルシアといえど全身を防御魔法で固めている者をこうも簡単に倒すことなど不可能に近いはずだ。

 にも関わらず、リングにいた半数以上の選手を倒したのは間違いなくエルシアである。そのからくりはエルシアの指に填まっている指輪にあった。


「そうか。そういう使い方も出来るんだな」


 エルシアの持つ指輪は先月の月別大会で手に入れた物だ。その指輪の名はサテライト・リング。魔力を流し込むことにより視界を広めたり、暗闇や光明の中でも相手を決して見失うことがない。


 そして、相手の魔力の流れをより把握することも出来るのだろうとグレイは推測した。

 いくら全身を魔力で固めても、確実にどこかでムラ(・ ・)が出来るものだ。そこを的確に撃ち抜き、リングの外へと押し出したのだろう。


 そんな効果があるとは聞いてないな、と思ったが、よくよく考えると今回はクラスメイトすらライバルになり得るのだ。だから手の内は隠していたのだろう。


「だいぶしたたかになってきたな、あいつも」


 手強い相手が増えたな、と複雑にもなりつつも素直にエルシアの成長を喜んでいると、つい先程まで不気味なほど静かだった会場が一気に沸いた。


『なな、ななななななんだぁああああっ!? エルシア選手、今の一瞬に六人もの選手を倒してしまったああああっ! こ、これがあの伝説の《プレミアム・レア》の力なのかああああっ!!?』


 エミーシャは興奮しながら大声で叫ぶ。それに呼応するように観客も騒ぎ出す。

 無理もない。光属性など、その目にすることはおろか、存在すら知らぬまま一生を終えることの方が圧倒的に多いのだ。それをこんな場所で、全く前情報のない状態で、嫌というほど見せつけられればこうなるに決まっている。


『あっははは。最初から飛ばしてくれるなぁ』


 興奮するエミーシャの隣に座るリールリッドは朗らかに笑いながら評する。


『さて、今見てもらった通り、彼女は光属性を宿す《プレミアム・レア》だ。名はエルシア=セレナイト。我が校が誇る問題児の一人だよ』


 その紹介はエルシアが怒りそうだな、 と思いながらグレイはリングを見る。どうやらリングに張られた結界の中は外部の音声が届いていないようだ。

 歓声によって集中力を乱したり、結界の外にいるクラスメイトらの声も届かないようにするための配慮なのだろう。

 その配慮は必然だったろう。なんせ今会場は大地が揺れていると錯覚してしまいそうなほどの大歓声に包まれているのだから。


~~~


「不意討ちからの目眩ましたぁ舐めた真似してくれるねぇあんた……ッ!」

「あら? 今更何を言ってるのよ。魔術師は実戦主義なのよ? それに学院長も言ってたじゃない。反則行為以外なら何を(・ ・)やっても(・ ・ ・ ・)構わない(・ ・ ・ ・)、と」


 静かに怒りのボルテージを上げていくカナリアを更に煽るかのような口調で話すエルシア。そんな二人の様子を冷静に分析するラピスとカイン。

 先程までの怒濤の勢いとは打って変わって、四人による睨み合いが続いている。


 誰が最初に動くか。それによって展開ががらりと変わる。そのため四人はどのタイミングでどう動くべきか考えていた。


 わずかな硬直の後、最初に動いたのはカナリアだった。カナリアは唯一エルシアから銃口を向けられていなかったため、最初に行動を起こすことに他二人より躊躇いが少なかったのだ。

 しかし、それもまたエルシアの作戦のうちだった。


「単純で助かるわ。うちの二人はひねくれ過ぎててこんな作戦、そうそう上手くいかないのよ。《レイジング・ライカ》!」


 エルシアは即座にカナリアの背後へ光速移動し、二丁の銃をカナリアへと向ける。


「固い相手は外に押し出す! 《ライトニング・ボルテッカー》!!」

「なっ──!?」


 一筋の黎明の光がカナリアに向かって放たれ、カナリアは咄嗟に持っていた斧をリングに突き立てた。


「うらぁ! 《ロック・ウォール》!」


 斧を突き立てた床から分厚い岩の壁が出現し、黎明の光を受け止める。防御力の高い土属性の魔法を撃ち破ることはいくら《プレミアム》でも容易ではなく、岩壁はエルシアの魔法を受けきった。


「よっし!」

「甘いわよ」

「は──?」


 カナリアはエルシアの攻撃を受けきったことにより、ほんのわずかではあるが油断した。だが、彼女は気付くべきだった。エルシアの放った黎明の光が一発だけだったことを。そしてエルシアのアークは二丁拳銃(・ ・ ・ ・)だということに。


 カナリアの発生させた岩壁は確かにカナリアを守ったが、同時にカナリアの視界からエルシアを消したことになる。それを逆手に取り、エルシアは再度カナリアの背後を取ったのだ。


 それにカナリアが気付いた時、自分の体は黎明の光に飲みこまれ、結界の外に押し出されてしまっていた。


「さて。あと二人」


 エルシアはそう呟き、不敵な笑みを携えたまま二本指を立てて見せた。


 その行動は意図してやったことではないのだが、カインにとってそれは挑発とも取れる行動だった。

 カインは今エルシアの発した言葉を、行動を、別の場所で、別の人物から似た場面でされたことがあったのだ。

 その時のことがフラッシュバックするように脳裏に甦り、彼に冷静さを失わせた。


「うおおおっ!! 《タービュランス・アロー》!!」


 カインは吹き荒れる暴風を纏わせた槍を矢に見立て、エルシアへと投げ付ける。

 流石にその一撃を受ければエルシアもただでは済まない。そう判断したエルシアは回避に徹するべく魔力を高める。

 ──その時。


「ぐぁっ……!?」


 突如、カインの側頭部に水の弾丸が着弾した。


「私を、忘れないで貰えますか?」


 それは冷静に状況を観察し続けていたラピスによる、カインの死角から放たれた一撃だった。

 その一撃は完全にカインの不意を突いており、そのままカインは意識を失い、アークも消失した。


 この瞬間、Aブロックの勝者が決まった。


「空飛んでるからといって油断してんじゃないわよ。これは、集団によるバトルロイヤルなんだから」


 エルシアは一人言のように呟いてからラピスの元へと近付く。


「ありがとね。助かったわ」

「別に助けたつもりはありません。一つのブロックで勝ち残れるのは二人。そして彼は貴女の方ばかりに集中していて、私のことは眼中に無かった。なので、私が勝ち上がるためだけに、より倒せる確率の高い彼を狙ったまでです」


 淡々と事実のみを語るラピスを見て、エルシアは苦笑する。エルシアは知らないことだが、彼女はクラスの一部から冷淡眼鏡と裏で呼ばれている。もしそのことをエルシアが知っていれば、彼女にぴったりのあだ名だと思ったことだろう。


 ──Aブロック勝者

 《セイレーン》ラピス=ラズリ

 《プレミアム》エルシア=セレナイト

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