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《天神衆》の宣教師 1

第20話

 前期総集戦。それが今月に行われる大会の名称である。

 前期の授業で得た知識や力を試す定期テストで総合点の高い三十名のみが出場することができ、その大会は特別にミーティアのコロシアムで開催される。

 ミーティアで行われる理由としては魔術師と町の者達との交流、様々な魔術師団に対するアピールなどがある。

 そして大会で優秀な成績を出した者には二つ名が与えられる。

 そのため、別名「二つ名決定戦」とも呼ばれている。二つ名とは魔術師にとって誉れであり、誇りである。なので生徒達は何としてでもこの大会に出場しようと、定期テストで高得点を出すために全力で努力してくるので、その中で選ばれた三十人は知識、能力共にとても質の高い魔術師が揃っていることになる。


 しかし、今回に限って知識、能力共に十分高い生徒がいたのだが、まさかの結果に終わってしまった者が一人いた。


 その者の名は──。


~~~


「三十一位とか、あり得なくね? ここまで来ると何かしらの陰謀すら感じるんだけど……」

「あ、あはは……。ど、どんまい……」


 チェルシーはどう返せばいいかわからずに、そう曖昧な返事をすることしか出来なかった。


 前期総集戦に出場出来るのはきっかり上位三十人のみ。例えテストの点差がたった一点差だろうとも、点数が上の者の方が選ばれる。魔術師は実力主義の世界で生きているため、とてもシビアなのである。

 しかし彼──グレイは今回、実力ではなく運がとことん無かったのであった。

 グレイの定期テストの総合順位は三十一位。三十位との点差はたったの一点差だったのである。


 グレイは筆記テストで学年十五位だった。これは中々に優秀な点数ではあるのだが、今回のテスト範囲はそこまで広くはなく、基礎的な問題が多かったため、あまり点数に差が出なかった。

 そして実技テスト。これが問題だった。二日目の実戦テストは普通に合格点を取れてはいたのだが、一日目の測定テストが思いっきり足を引っ張り、散々な結果に終わってしまったのである。

 リールリッドの提案により、全生徒の平均点と同じ点数を与えられることとなったのだが、各クラスの実力者はその平均点を大きく上回っていたため、大会出場ラインにギリギリ届かなかったのだ。

 しかしそれは無属性魔法の特性が原因であり、グレイに実力が無かったというわけではないのだが、今回はテストの点数のみで判断されるため、残念ながら大会の出場権を得られなかったのであった。


 ちなみに、エルシアは筆記三位、実技五位、総合四位という好成績だった。

 そしてアシュラは筆記一七二位、実技一位、総合三十位だった。


「くっそ。まさかアシュラに一点差で負けるとか……。あいつに勉強教えたの俺達なのに、その俺が落ちてりゃ世話ねえよな……」

「う、う~ん。で、でもそのおかげでアシュラは大会出れるんだから、やっぱりグレイはすごいってことじゃないか?」

「つっても筆記テストは十五位だからな……。そこまですごいわけでもねえよ。それに俺だけが教えたわけでもねえしよ……」

「マスター。元気出してください……」

「そうそう。ミュウの言う通りだって。ほらっ、これサービスのケーキ。これ食べて元気出してっ」

「悪いな二人とも……。でもまあ、もう少しだけこうさせといてくれ」


 テーブルに突っ伏すグレイを気遣うミュウとチェルシーだったが、残念ながらまだ気持ちは立ち直れなさそうであった。


~~~


「まさか、グレイが落ちてあんたが受かるとはね」

「やはり俺には幸運の女神がついてるんだろうな」

「だとしたら、そりゃとんだ物好き女神ね。感性を疑うわ。もしくは罰ゲームか何かかしら。可哀想に」

「何で俺が合格したってだけでそんな言われ方されにゃならんのだ!?」


 放課後、大会出場者達は学院の中央塔にある多目的教室に集まっていた。

 その中でアシュラとエルシアは間に三つほど席を空けて座り、大会の説明会が始まるのを待っていた。

 エルシア達は教室の一番後ろに座っているため、前の席に座る各クラスの成績上位者を見渡すことができた。


 まず各クラスの序列上位者達は全員合格していることは確認出来た。その他にも数はバラバラだがそれぞれのクラスの実力者達がクラスごとに固まって座っている。


 人数はそれぞれ、《イフリート》九人。《セイレーン》八人。《ハーピィ》六人。《ドワーフ》五人。そして《プレミアム》二人である。


「にしても意外だな。まさか学年一位がいる《ドワーフ》が一番人数が少ないとはよ」

「別に学年一位がいるからといって他の生徒も優秀とは限らないでしょ。それに噂で聞いた話だと《ドワーフ》の生徒は実戦能力は高くても勉強の方は苦手な人多いらしいわよ」

「筆記テストが足を引っ張ったってわけか。それでも流石は序列上位者様か。全員合格してきてやがるな。……グレイ以外」

「それ、もう言うのやめなさい。今回はテストの内容がグレイに合わなかったのよ。それにあんたもどれだけ世話になったか。それがなけりゃ落ちてたのはあんただったはずよ」

「わあってるよそれくらい。だからあいつの分まで暴れてやるつもりだぜ」


 そう言って二人は空いた席を見る。普段ならそこにいるはずのグレイが今はいない。

 成績発表の後、落ち込みながらも無理をして笑っていたグレイ。説明会のため、授業が終わった後に別れたのだが、その時町の方にでも出掛けてくると言っていたので、恐らくハイドアウトにでも行っているのだろう。

 エルシアは説明会が終われば自分もハイドアウトに行こうかどうか悩んでいた。

 するとそこにようやく講師が教室に入ってきた。


「やぁ、ごめんね遅れちゃって。色々と打ち合わせやら会議やらで忙しくって」


 教室に入ってすぐ謝罪したのは《イフリート》の代表講師、シエナ=ソレイユだ。彼女はつい先月、新しい代表講師としてリールリッドが呼び寄せられたのだ。そしてシエナはこの国で最強と謂われている魔術師団、《シリウス》の南方支部副隊長でもある。


 そのため、属性が別の他クラスの生徒からも尊敬されており、加えてとても親しげな性格をしているため、赴任してまだ一月足らずだというのにかなりの人気者となっていた。


「はいはい。じゃ騒がず席に座ってね~。…………ん?」


 シエナはそう言って教室を見渡す。するとその視線がエルシアとアシュラの間で止まる。


「あ、あれ? ねえ、エルシアさん。れーく、いやいや違った。こほん。で、えと、グレイ君は?」


 エルシアはもしかしてグレイの順位を知らないのか、と首を傾げつつ、「来てませんよ? だって落ちましたから」と言った。


 するとシエナだけでなく、他の生徒達も騒ぎだした。


「えっ? うそっ!? 説明会をさぼってどこかで寝てるっていうわけじゃなくて?!」

「え、ええ。そうですけど……。知らなかったんですか?」

「あ、う、うん……。クラスのテストの採点とか平均点とか出すのに忙しかったから……」


 実はシエナとグレイは師弟関係にあり、シエナはグレイのことを「れーくん」と呼び溺愛している。そのグレイがまさか大会に出場することすら出来なかったと知ったシエナはとても残念そうな顔をした。


「そっか。落ちちゃったのか。……はっ! てことは、今れーくんはめちゃくちゃ落ち込んでるってことだよね。ならこのお姉さんが励ましてあげないとっ!! そうすればあのツンツンれーくんもデレるはずっ!! そうとなったら──」

「何を言ってるんですかシエナ先生。それよりも早く今大会の説明をしてください」

「あっ、はい……。申し訳ありませんです……」


 シエナは後から入ってきた《ハーピィ》の代表講師、ホーク=スフィンクスに叱られて肩を落としながら教壇に立った。


「こうなったら、一瞬で説明会を終わらせるっ! そしてれーくんの元へゴー!!」

「そういう問題じゃないでしょうが!」


 シエナの暴走と、それを諌めるホークを交互に見ながら教室にいる生徒達は小さな溜め息を吐くのであった。

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