私と結果報告
それから真夏Bは武山さんから別の世界について聞き計画を立てた。
武山さんの思っていた通り彼女には武山さんに語った以外の計画があり、それは私では考えつかないような愚かな計画だった。
そして七月十三日、祭壇と化した武山さんの家で儀式は執り行われ、同時に私の意識は遠のいていった。
気付くと私はよくわからない機械類に囲まれたちょっと硬いベッドの上に横たわってぼんやりと白い天井を見上げていた。
…………………………ああ、戻ってきたのか。
無心でしばらく天井を見つめた後、ふと我を取り戻してそう思った。
現実味を帯びたリアルな夢から目覚めた直後の夢現の区別がつかない状態と同じような感じだ。真夏Bの記憶の中で同じ経験をしてなかったらもっと取り乱していたかもしれない。
ようやく自分の身体に戻ってきたのだ。いや自分のじゃないんだっけか。
私は確かめるように自分の股間をまさぐり、ふにゃふにゃとした中にぷりっとした感触を返すあの物体を確かめる。ある。やはり兄の身体のようだ。
その感触を楽しむようにいじいじしながら私は今の今まで見ていた真夏Bの記憶について考えていた。
記憶の中では理路整然と理解出来ていた儀式内容や世界の概念などは戻ってみればあやふやな聞きかじりの知識程度になってしまったようで、結局何をどうして世界を移動できたのかはよくわからなかった。ともかく儀式が成功して真夏Bの身体がこの世界を離れたと同時にデータは途切れてしまったのだろう。
当初の計画では入れ替わりにこちらの世界に来た私の身体に向こうの世界から兄の魂を移し、それを武山さんを依り代に分霊した後、白金真冬の記憶を追体験する予定だった。後は兄の魂をあちらに戻し、私と真夏Bの魂を入れ替えれば元通りの生活に戻れるというわけである。当然私と真夏Bの身体は入れ替わったままになるが、姿形には大差ないので影響もないはずだった。要するに入れ替わったのが兄の身体だった時点で計画は破綻していたのだ。
ただしこれは武山さんに話した方の計画の話。真夏Bの計画については身体より魂が重要なのでまだ実行可能なのかもしれない。
う~ん、どうなんだろ……………………んぉ?
ふと気付くと考えながらいじいじしていたふにゃふにゃがちょっと硬くなって微妙に位置が上がってきていた。
別に意識してやっていたわけではなく、元女の私としてはどうしても違和感があって気になるのでいじっていただけである。口の中の口内炎をついつい舌でいじり続けてしまうのと同じだ。しかし…………
ほぉ~、これってなんで勃つのか不思議だったけど、根元が上向きに生えてるから硬くなるとその方向に起き上がるって感じなんだ。でもぶら下がってるもんなのになんで上向きに生えてるのかしら。
「そりゃあ下向きだと挿入し辛いからに決まってるでしょ」
ああ、なるほど~…………って、うおぁっ!?
誰もいないと思ってぶつぶつ呟いていた言葉に後ろから返事があって心臓が飛び出そうなほど驚く。
振り向くと肩のところから武山さんの顔が覗きこんでいた。
びっくりした。なにしてんのさ?
「何してんのはこっちの台詞だろ。そろそろ終わる頃だからって博士に言われて様子を見に来たんだよ」
ああ、そうか。体感的に一週間以上経ってるから忘れてたけどまだあの病院にいるんだった。
武山さんからしたらちょっと様子見に来たという程度なんだろう。
っていうか今何時?
「そろそろ日付が変わった頃だよ。記憶が新しい分ちょっと時間かかったみたいだね」
もろもろ準備に時間がかかっていたので正確にはわからないけれど私が寝ていた時間は大体二十分くらいか。
あの濃密な時間がたった二十分…………やばい。マジで試験勉強に使わせてもらえないかな。いやでも自分の意思で動けないから意味ないのか。いやいや、だったら別の誰かにあらかじめ勉強してもらってその期間だけ追体験すれば…………
「なんかつまんない事考えてるでしょ? そういう輩がいるから狙われるんだってわかってる?」
むぅ。そういわれるとその通りなので何も言い返せない。
むしろこんな便利なものなら世の中に普及させた方がいいんじゃないかとすら思えてくるが、それが引き起こした事件とその結果を考えるとこれも言えなかった。
「で、どうだった?」
ん? どうって別に。ただ男の子の生理現象って不思議だなぁと?
「じゃなくて! 追体験の方だよ。何かわかったかい?」
ぉぉぅ。そうかそうか。いじいじした感想じゃなくてそっちか~。
なんか自滅してしまった。恥ずかしい。
頭に血が登って顔が赤くなるのを自覚しつつ、思い出しながら私は追体験でわかった事を武山さんに話した。
大体の事は武山さんも知っているので話したのは主に真夏Bが武山さんに隠していた計画についてである。
白金真冬に対応する魂が私だった事でどれだけ彼女の計画に狂いが生じたかはわからないが、彼女の基本的な考え方は変わっていないはず。そして計画を強行しようとしているのだから、その計画はまだ破綻していないという事だ。
記憶の中で彼女は自分自身を白金真冬にしようとしていた。けれどその試みは失敗し、白金真冬の人格は彼女の中で泡のように消えてしまった。白金真冬自身がそうだったのか、それとも彼女の中の白金真冬のイメージがそうさせたのかわからないが、彼は自分の為に誰かが犠牲になるのを望まなかったのだ。
悩んだ末に彼女が辿りついたのはあまりにも愚かな選択だった。
あの子の本当の計画というか目的は、身体を白金真冬に明け渡して自分が消滅する事だよ。
ご覧いただきありがとうございました!
次週はお休みしまして次の投稿は再来週となります。よろしくお願い致します。




