私と白金真冬
一応確認するけど、それって武山さんが聞かされてた方の儀式だよね?
「聞かされてたというと語弊があるかな。半分はオレが提案したようなもんだからね」
どういう事だってばよ?
「真夏Bが持ってきたのはあくまでも君と入れ替わってあっちの世界で暮らそうって話だった。けどそうなるとこっちの世界に来た君はどうなる? 見た目は同じだけどあらゆる事が自分の記憶と違う世界で、魔術もなく、兄も亡くして、そんな世界に突然放り出されて生きていけるか?」
う~ん、いや、生きていけなくはないと思うけど、突然そんな事になったら嫌だねぇ。
「うん。だから手を加えた。別の世界から白金の身体と魂を寄り集めて、新たに創造しようって」
な、なんか粘土をこねて動物を作りましょうってくらいお気軽に言うね。けどそれも結局兄の身体は戻れなくなるんだよね?
「ああ、それこそ好都合だったんだよ。ほら、オレはこっちじゃ女なわけだし。向こうじゃ男なわけだし」
あーあーあー、なるほどー、そういう事かー。つまりそれぞれの世界で性別が逆になればノーマルなお付き合いが出来るって事ねー。
理解したよ、このスケベ。
「大事な事だと思う。ともあれ自分の利益を優先しつつも誰も傷つかない方法を考えたつもりだったんだよ」
いや、でも待ってよ。お兄ちゃんがこっちに来てその身体に白金真冬の魂を創造するんだとしたら、その後お兄ちゃんの魂はどこへ行くの?
「オレを通して向こうの世界に帰って真夏Bの身体に入れる予定だったよ」
そうなると今度は真夏Bの魂はどこ行くんだって話にならない?
少し複雑で頭が混乱しそうだけど、要は身体が三つしかないのに白金真冬の魂を創造しちゃうとどうやっても一つ身体が足りない事になるのだ。
今は姉の身体に篠宮真冬と真夏Bの魂が入っているので身体は一つ余っているけれど、元々の予定ではそうではない。それぞれ別の身体に入っている予定だったのだ。
「ところが都合のいい事に一つの精神で二つの身体を持つ人物がいるんだ。どういうわけかその人は二つの身体を持て余しているらしくてね。どちらか一方だったら譲っても差し支えないんだそうだ」
にやりと笑って他人事のようにそういう武山さんの言葉を聞きながら、私はどんな顔をしていいのかわからなかった。
意味は、わかる。
武山君は昨日、別の世界に一つずつ、二つの身体を持っていると言った。そしてその体質について『仕方がない』と言っていた。仕方がないから魔術を学んだのだと。
つまり一つの身体に収まれるのなら収まりたいという気持ちがあるのだろう。それもわかる。
けれどそれは自分がこれまで築いてきた人生の半分を他人に売り渡すようなものではないのだろうか。
それが正しい事なのかどうか、私には判断がつかなかった。
武山さんはそれでいいの?
「いいんだよ。まなっちゃんの言いたい事もわかるけどね。正直こっちのオレの人生は白金を看取ったあの時に終わったんだ。魂を復活させようが創造しようが関係ない。オレの記憶の中にあの光景が残っている限り白金は蘇らないし、生まれ変わりもしない。抜け殻のように生きるくらいだったらあいつに……真夏Bに使ってもらえる方が何万倍も有意義だと思うよ」
そ…………っか。
それは私にはわからない、彼女の経験してきた二つの人生が導き出した答えなんだろう。その答えに口を出せるほど私はまだ大人じゃなかった。
微妙な空気になってしまったのを改めるべく、私は強く首を振って頭のもやもやを振り払い改めて儀式について尋ねる事にした。
整理すると当初武山さんの立てた予定では、真夏Bがあちらの世界に行く代わりにお兄ちゃんがこっちの世界に来るはずだったんだよね。どちらも身体と魂は一致したままで。
「うん、そう。それから篠宮の魂は元に戻して別の世界から白金の魂を降ろした後、身体をあれやこれやしてデータから精神を復元するって感じ」
あれやこれやの辺りが気になるけど、まあ伏せたのはエロイ事ではなくグロイ事のような気がするので聞くのはやめとこう。
ひとつ不思議なんだけど、お兄ちゃんの魂をそのまま使うんじゃダメなの?
「あー、うん。それはオレの一存でなしにした」
なんで?
「……………………白金と篠宮があまりにもかけ離れてるから」
ああ…………うん。そうだね。
確か真夏Bも似たような事を言っていた。白金真冬はカッコイイ系だけど兄は可愛いと。
魂が同じなら記憶や習慣をBCIで共有する事で修正されるのかもしれないけれど、はっきり言ってそんな兄は想像がつかない。それは武山さんも同じだろう。彼女は万が一を考えてより近しい世界の白金真冬から魂を複製した方が良いと判断したのである。間違いない、英断だ。
私は武山さんの冷静な判断力に関心すると共に我が兄の情けなさに涙するのだった。
「ま、まあ、篠宮もあれはあれでいい奴だからいいんだよ」
今更ながらフォローしてくれる武山さん。いや別に兄がどう言われようが私は構わないんだけどね。フォローされると余計に悲しいというかなんというか。
あまりの情けなさについつい話を中断してうな垂れる私だったが、そんな私とは裏腹に武山さんは妙に真剣な声で続けた。
「ただ、これが案外キモだったんだよね」
その意味がわからず、うな垂れた首を捻って彼女の横顔を見上げると、そこにはこちらを熱っぽい視線で見つめる武山さんの顔があった。
夏の長い日も落ちてそろそろ夜の帳が下りてこようかという暗がりの中、白い肌に浮かび上がる紅潮も艶かしく彼女は微笑んでいた。
な、なんの事でせう?
私は嫌な予感が背筋を駆け巡っているのを無視して素知らぬフリで聞き返す。
武山さんはゆっくりと焦らすようにこちらに顔を近づけて私が危機感を覚えるほど近距離まで唇を寄せると、急にふいっとその軌道を逸らせて私の耳元で囁いた。
「本当の真冬は、君だよ」
書き直しが多すぎて時間がなくなったので今回短め。
読み直しも出来てないのでちょこちょこ直すと思います。
ご覧いただきありがとうございました!




