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私と交換日記

 動けないよう二人を縛りつけて部屋の入り口に転がした後、私は気になっていた事を武山さんに聞いてみた。


 なんで泣いてたの?


 少し無遠慮に過ぎるとは思ったのだけどさっきから彼女の瞳は赤く充血していたのだ。よくよく見ると目元の化粧も少し落ちている。

 多分だけど先ほど聞こえた小さな音は日記に落とした彼女の涙の音じゃないかと思う。

 組み敷かれてたハルネ先輩はともかく真っ向からにらみ合ったハクさんは気付いてるんじゃないかな。武山さんの指示に大人しく従ったのもその辺が関係ある気がする。あの人、女の涙に弱そうだし。

 いずれにせよ彼女が日記を読みながら泣いていたのは明白だった。その顔でゴマ化せるとでも思っていたんだろうか。


「泣いてないし。ちょっと意味わからないです」


 思っていたらしい。

 私から顔を背けようとしてハクさん達の方を向いてしまい慌てて俯く姿はちょっと可愛らしい。

 私がその姿に肩を竦めつつハクさんの方に視線を向けると、まるで聞こえていなかったかのように視線を逸らされた。いや、わざとらしいっす。

 その様子を見てさすがに観念したのか武山さんは深くため息を吐いて窓に近寄り、そこに置いていた日記を取って私に差し出す。


「これ読んで何も思わない君の方がどうかしてるよ」


 そう言って武山さんは私が渡した時と同じように最後のページを開く。一応全部に目を通したはずなので私が怪訝な目を向けると、そこから彼女は白紙になっている右側のページを一枚捲った。

 前のページに何も書かれていなかったので私はてっきりそこで終わっているものと思っていたのだけど、驚いた事に捲った次のページには再び白金真冬の筆跡で続きが書かれていたのである。




 七月三日(雨)


 こちらこそ、ごめんなさい。

 貴方は本来無関係に過ごせるはずだったのに巻き込んでしまいました。

 何があったか、僕達が何をされたかはとてもとても長い話になるので雪希に譲ります。

 機会があったら彼女に聞いてみてください。出来れば力になってあげてくれるととても嬉しいです。

 僕は貴方の体を借りる事になり、そのおかげで父の束縛から逃れて間違った考えを正す事が出来ました。

 感謝してもしきれません。

 本当にありがとうございました。

 願わくば僕の存在が貴方の重荷とならないよう切に願ってます。




 文章を読んで伝わって来たのはとても真摯で真っ直ぐな感謝の気持ち。そしてすべてが終わった後の万感の思いだった。

 奇妙な話である。

 真夏Bが書いた前日の日記の日付は七月二日。そしてこの日記の日付は七月三日。内容と筆跡から白金真冬が書いたものなのだろう。けれどそれはあり得ない事だ。詳しい日付までは聞いていないけど真夏Bが目覚めたのは白金真冬が亡くなった事件当日のはずだ。彼女が目覚めた後に白金真冬が書けるはずがない。


 これは、どういう事?


 武山さんに聞いてみたが彼女は何も応えず、とにかく先を読むように促された。

 今度の続きはちゃんとすぐ右側のページに書かれている。ただし筆跡は変わってこちらは真夏Bが書いたようだ。

 以降の日記は左のページに白金真冬、右のページに真夏Bが書き込む形で続いている。

 まるで交換日記のようなそれは、けれど決して甘い雰囲気漂うものではなかった。




 七月四日(曇)

 貴方は誰ですか? 白金くん?

 昨日の記憶がない。

 私の中にいるのですか? どうして…………


 七月五日(晴)白金

 混乱させてごめんなさい。

 貴方が考えている通り僕は白金真冬です。後で読み返してもわかるように日付の横に書くようにするね。

 僕があの後どうなったかはもう知っています。けれど、ごめんなさい。どうして再び君の中に戻ったのかは僕にもわからない。

 あの時…………君と触れ合ったあの時に自分の体に戻ったと思っていたけれど、もしかしたらそれを拒絶して貴方の中にずっと留まっているだけなのかもしれない。

 もしくは魂が抜けて近場にいた君の中に戻ってしまったのか。

 ごめんなさい、やっぱり本当のところはわからないです。

 わからないけれど僕はもう死んだ人間だ。それに恩人である貴方に迷惑をかけたくもないので何とかして必ず出て逝きます。

 どうかもう少しだけ僕に時間をください。




 言葉が出てこなかった。頭が酷く混乱している。

 これは何? どういう事? 亡くなったはずの白金真冬の魂が真夏Bの体の中に残っているというの?

 真夏Bの体という事はつまり姉の体という事だ。姉とは三日間過ごしているがそんな素振りは一度も見られなかった。

 あの体には今、真夏Bと篠宮真冬という二つの魂が共存している。

 普通の一戸建てに二世帯で住んでいるようなものだ。それだけでも狭いと思うのだが、さすがに三世帯となると人口過密に過ぎるのではなかろうか。

 そもそも白金真冬の魂が存在しているのであればBCIを介してデータから記憶や感情を復元するなんて出来るかどうかもわからない事にすがる必要はないはずだ。

 事件解決の一助になればと思って開いた日記だったのに余計に謎が増えてしまった。

 すでに頭はこんがらがって、一度整理したい思いに駆られているが、困った事に日記にはまだ続きがある。武山さんが先を読むよう促したという事は答えはきっとこの中にあるのだろう。

 答えがそこにあるのなら読まずに推測するのは無意味である。私は続けて先を読む事にした。




 七月六日(晴)篠宮

 違うの。そうじゃない。迷惑だなんて思ってない。

 最初は何が何だかわからなくて怖かったけど、貴方には一ヶ月近くも体を貸していたんだもの。逆に安心したくらいだよ。

 私も貴方と雪希ちゃんが関わってた事件の事を色々調べました。

 ちょっと信じられないような話だったけれど、二人のやった事はすごい事だと思います。それに私が少しでも役に立てたのならそれは嬉しい事です。

 ねえ、白金君。貴方は運命って信じますか?

 私は信じてませんでした。もしあるとしてもそれは努力で勝ち取るものだと思ってた。

 でも今私は運命を信じる気になりました。きっとこれが私の……私達の運命なんだと思う。

 だから出て逝くなんて言わないで。私なんかよりきっと貴方が生き残るべきだったんだから。

 もしも私に出来る事があったらこの日記に書いてください。私は貴方を助けたい。貴方の力になりたいのです。


 七月七日(曇)白金

 君は優しい人だね。

 僕も運命なんて信じてなかったけど、もしそれが本当にあるんだとしたら自分の使命は全う出来たと思っています。

 唯一心残りなのは武山雪希さんの事です。

 彼女は僕と深く関わりすぎた。当事者の一人でもあるし、精神的にも立場的にも心配だ。

 だからもし君が手伝ってくれるというなら彼女の力になってあげてください。

 勝手なお願いだけど、出来たらよろしくお願いします。




 と、ここまでは一日毎に二人が交互に書いていたのだが、この日からそのパターンに変化が見られた。

 白金真冬の書いた日記の下にそのまま真夏Bの筆跡が続いていたのだ。




 七月七日(夜)篠宮

 寝て起きたら入れ替わるんだと思ってたのに夜に出てきてしまいました。

 もしかしてお昼寝でもした?

 こちら折角の七夕なのに雲のせいで天の川は見えません。曇ってても織姫と彦星は会えるのかな。会えないのは寂しいよね。

 雪希ちゃんの事、了解しました。てか、私の友達でもあるんだから当然だよ。

 そういえば白金君は自炊できる人? 良ければ私作っておくよ。まだ初心者だけど三年間は一人暮らしだから修行したいしね。

 あれ? これって今夜私が眠ったら明日の朝はまた白金君の番なのかな?




 この日の右側のページはまたも空白になっていた。ページを捲ってみると翌日の日付で白金真冬の筆跡になっている。

 どうやら彼は日付に関係なく左のページに書くようにしたらしい。つまり翌朝表出していたのは白金真冬だったという事だ。

 この日を境に二人の日記は日ごとではなく、入れ替わったタイミングで書くというスタイルに変わり、そしてそれは徐々に期間を短くしていった。


文中に文章を挿し入れるのって難しいですね。

読みにくかったらすみません。


ご覧いただきありがとうございました!

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