私と豆の木
変態と偏愛は同じものだと私は思う。どちらも何かしら固執するものがあり、どちらもその対象を思いやる事が出来ていない。
彼、もとい彼女がどちらなのかと考えると、もしかしたら後者なのかもしれない。私にはその区別はつかない。
けれど絶望的に彼女に足りていないものはわかる。私に対する思いやりだ。
というわけで気持ち悪いので離してくれませんか。
いつぞやの公園を思い出す覆いかぶさるような抱擁の中、私は努めて冷静な声で彼女に伝えた。
身体は再びベッドの上に仰向けに転がり、どういうわけか両手両足をベッドの支柱に縛られている。
お腹の上には絶世の美女が馬乗りになり、こんな時でも幸せな柔らかさを私に与えてくる。
「本当に君ははっきり物を言うよね。普段は無駄に気を遣ってるくせに」
気遣いは日本人の美徳だからね。
ちなみに武山君は私の中で日本人の範疇に含まれていない。カテゴリ:変態である。この後に及んで反論も出来まい。
「なるほど。美徳を尊守する為に気を遣っているというわけか。けどオレから忠告してあげると、今後は自分の立場も加味した方が良いよ」
言い終わる前に彼女の手が動き、直後に喉のところでグリっという骨の感触がして息が詰まる。
かはっと息を漏らす変な音が自分の口から出たのだと気付いた時、私はようやく自分が首を絞められているのだと理解した。
漏れた分の空気を取り戻そうと息を吸い込むけれど、思い通りに入って来ない。
血が登っている時のような感じでこめかみの辺りにどくどくと流れる血脈を感じながら彼女に対しいやいやと首を振ってみせる。けれど彼女の手が緩む事はなく、代わりにその顔が近づいてきて唇の先にやわらかな感触を覚えた。
「んたっ!」
ちゅーされた。とか、そんな事にショックを受けるよりも生存本能の勝った私は、すぐさま彼女の唇に噛み付き、驚いた彼女が変な声と共に身体を仰け反らせた。同時に締め付ける手から開放され、私は喉の痛みにごほごほと咳き込む。
あ、コレ女同士だからノーカンね。
互いにしばらくのた打ち回った後、荒い呼吸を整えて再び相対すると、彼女の唇からは少量の血が滲んでいた。彼女の舌が唇に浮かんだ赤い玉を艶かしく舐め取る。
「嫌いじゃないよ、こういうの」
恍惚の表情を浮かべ、マウントポジションから見下ろす体勢でふざけた事を言う。
そりゃやってる側は楽しいでしょうよ。
しかし困った。先ほど縛られた時にも思ったのだが、まだ兄の身体に慣れてないせいか、どうにも上手く力が入らない。今だってロデオの要領で暴れれば彼女の身体くらい振り落とせそうなものなのにお腹を持ち上げる事も出来ず、このままでは彼女の成すがままだ。どうにかしなければ。
あのさ、武山君。さん? 私としても綺麗なお姉さんに組み敷かれるのはやぶさかではないんだけど、一般的に無理強いってのは良くないと思うよ?
まずは下手に出て相手の様子を探ってみる。けして本心が漏れたわけではない。
暗に冷静になって話し合おうという願いを込めた私の言葉に、けれど彼女は予想外の反応を返す。
「き、きき、綺麗とか言うな。これでも君と同い年なんだからな」
そう言って彼女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
え、なにこれツンデレ? かわいいんだけど。
今明かされる驚愕の事実。私ツンデレ萌えです。どうでもいいですね、はい。
しかしコレが本当にあの武山君なんだろうか。もはや完全に別人である。それともこれが彼の言っていた感情がコントロール出来ない状態という事なんだろうか。
あれ? でもお姉ちゃんと話すのは平気だったよね?
「ああ、いや、それはその…………」
何かを言いかけ、武山君が口ごもる。なんだろうか。もじもじしながらこちらをチラ見してくるのだが。
ややあって私が手持ち無沙汰になり、武山君にバレないようにこちらに視線を向けていない間だけ変顔をするという変則だるまさんが転んだで遊び始めた頃、意を決するように深く息を吸い込む音がしたかと思うとこちらに向き直った武山君が私の襟首をがっしりと掴んだ。
うおっ?
と声を上げる間もなく、ぶつかるように彼女の顔が近づいたかと思うと再び唇に感じる柔らかな感触。
驚きに目を見開いた私とは対照的に逆向きの不等号を二つ並べた顔文字のように強くギュッと閉じられた彼女の目が斜め下に見える。その必死さに私は一瞬、噛み付くのを躊躇した。すると次の瞬間、唇を割るように何かが侵入してきたかと思うと、真っ直ぐ伸びたところで止まった。
こ、これはもしやしてもしやすると……舌…………なのでは。
ゆっくりとその感触が頭に浸透してじわじわ意識を奪ってゆく。
友達にはキス魔で知られる私ではあるが。まあ、唇同士のちゅーもした事なくはないのだが。男の子(兄)ともした経験がある事はあるのだががが。
で……でででで、でぇぷきっすやとぉ?
「ん…………」
動揺した私が顔を引こうとすると、つかまれた襟に阻まれて首だけが上向く。その拍子に私の舌が彼女の突き出した舌に触れて、彼女がなんとも言えない色っぽい声を漏らした。
ぬぁーっ! エ・ロ・いぃぃぃひぃぃやぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
彼女の必死な目を見る度、唇に彼女の舌が擦れる度、体勢が崩れて舌が触れる度、そのすべてに余すところなく反応して、私の身体の一部が異常な反応を見せる。
彼女は今、私の襟首を掴んで持ち上げた状態で私にいわゆる大人のちゅーをしているのである。つまり彼女はマウントポジションのまま自分の体は一切浮かせていない。私のお腹の上には彼女のお尻が鎮座したままで、それは下腹部と言っても差し支えないくらいの絶妙な位置だ。
そして成り立て男子である私がどうして勃ち上がるのか理由もわからないソレは、彼女の仕草ひとつひとつに反応してはムクムクとその体積を拡大させるのである。
知識としてそれが堅くなったり伸び縮みするのは知っているものの、実際にいきり立っているところを見た事のない私にとって、それがまさか彼女のお尻に到達する程伸びるものだとは思えなかった。だってお尻の感触はおヘソの辺りで途切れているのだから。
けれどそれは私の楽観的な予想などあざ笑うかのようにあっという間に成長して彼女のお尻に到達せんばかりに膨れ上がって来たのである。
これが触れたら言い逃れのしようがない。
甘美な感触と絶望感に挟まれながらも何とか彼奴の進撃を留めんと下腹部に力を込めてみたりもするが、新参成り立て男子の私にコントロールなど出来るはずもなく、ソレはジャックの豆の木もかくやという速度で彼女のお尻に迫っていた。
あと三センチ、二センチ、一センチ、あと五ミリ…………
そして私が覚悟を決めたその時、それはやって来た。
遅くなってしまいました_(._.)_
しかも見直し出来てないので後でいじるかもしれません。ご容赦ください。
ご覧いただきありがとうございました。




