私と残念美人
※一部お食事中には向かない表現があります。
ズキュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
はうあっ!?
身体の中をジュクジュクと落ちた何かが下腹部を過ぎてその先へと集まった次の瞬間、私の知ってる私の身体の外側でマッサージ器でも当てられたように何かが震えたかと思うとむくむくと起き上がったそれは湿ったパンツに引っかかって間接を極められた時のような痛みを私に伝えた。
痛みに耐えかねた私は慌てて股間に手を伸ばし、張り付いたパンツを引き剥がして隙間を作りそれを開放してやる。
消えた痛みに安堵の息を吐いて顔を上げた時、美しい顔をこの上なく愉快そうに歪めてこちらを見下ろす美人さんと目が合った。
「あるぇ? どぉしたのかなぁ~、そんなに慌てちゃってぇ~?」
彼女の表情は余りある悪意に満ちていた。
そんな邪悪な表情もお美しいです。
いや、別になんでもありませんです。
もちろん何でもなくはないのだけど元凶を目の前にして言えるような事じゃないのでゴマ化す。男の子って思ってたより大変なのかもしれない。
ってかコレちゃんと治まるんだろうな…………引っかかってなくても痛いくらい膨らんでるんですけど。後学の為にも後でじっくり調べてみなきゃ。
私は気を取り直して未だ目の前で私を悩殺してくる美人さんと相対した。
と、とりあえず色々と教えてほしいのですが。
「ふむ。この状態で言われると背徳的だね」
セクハラ親父か。ああ、いや、この状況でセクハラってどうなんだろ。男の子が使う言葉ではないような気もする。
ここは素直に喜べばいいのかしら。貴方なら大歓迎ですよー。
「アハハハ。聞いてた通り女の子相手だと変態なんだね、まなっちゃん」
ハッハッハ。誰に聞いたのか知らないけど根も葉もないデマを信じてはいけませんよ。
それよりその呼び方止めてくれませんかね。仕事に疲れたサラリーマンが安酒に酔って吐き出したゲロに塗れたゴキブリのような変質者という名の武山なんとか君を思い出してしまう。
「いくらなんでも言いすぎだろ。あと、オレの名前は雪希だよ。タケヤマセツキ」
うん……………………うん? あれ、もしかして私、地雷踏み抜いた?
考えてみれば武山君は兄の身体は自分が保護していると言っていた。てことは彼女が武山君の身内の方という可能性は考えてしかるべきだったのだ。
ご、ごめんなさい。今言ったのは武山君個人の性格の話でして遺伝子情報だけは腹が立つくらい優秀だと思ってるんですよ?
「まなっちゃん、それもしかしてフォローのつもりで言ってる? 余計へこむよ?」
ええぇ…………だって性格は褒めようがないんだもの。
まあ確かにあの性格を育んだ身内にも責任があるといえばあるのかもしれないけど、武山君のあれはそんなレベルを超えてるよね。どんな親だって子供を犯罪者に育てようとはしないはずなのに犯罪に走る人はいなくならないもの。
だから決してあの犯罪者から受けた精神的苦痛の責任をとれなんて言いませ…………あれ?
慌てて言い訳を捲くし立て、これでどうだと彼女の目を見返そうとした私はベッドの上で膝を抱えてうずくまるかわゆい背中を見た。
あ、あれ? またフォロー失敗した?
「やっぱり君はもっと思いやりのある会話を学んだ方がいいよ」
身じろぎもせず背中越しに呻くような声で聞いたような台詞が返って来た。
ってか「やっぱり君は」ってどういう事?
「はぁ…………本当に君は鈍いな。昨日学校で話したろ。こっちじゃちょっと性別が違うんだよ」
は………………………………………………?
思考停止。
2分経過。
再起動。
確かに改めて見ると整った顔立ちからアクセント程度にうっすらと施されたメイクを引くと限りなく武山君に似たイケメン女子になりそうだ。
えーと、つまり目の前で膝を抱えて丸まってるかわゆらしい生物が夜中の公園で私に猥褻行為を働こうとしたあの武山君のベータバージョンって事?
「そうだけど…………猥褻行為じゃないもん。愛だもん」
くっ、ムカつく。何がムカつくってこんなわざとらしいいじけ方にちょっと萌えてる自分の残念な感性に腹が立つ。
ってか武山君、白金真冬が女の子の時に惚れたとか言ってなかった?
細部は覚えてないけど、確か白金真冬が男の子だと気付いた時にはもう好きになっていたと言っていたはずだ。武山君が女の子なんだったらこの順序ではおかしいじゃないか。
我ながら冴えたこの問いに彼女はかたつむりをひっくり返すみたいにコロンと転がって私の方に向き直ると手をついて上半身を起こした。その姿は岩礁の上で王子様に想いを馳せる人魚姫を連想させる。
人魚姫は白一色の無機質な空を見上げると、こちらまで切なくなるような物憂げな表情を浮かべてこう言った。
「想像してほしい。あっちとこっち、両方の世界で同じ意識を共有しながらも違う性別を持つというのがどういう事なのか」
お前に想像できるかと。彼女の横顔はそう言っているような気がした。
そう、わかるはずもない。たとえ二つの世界を行き来しようとも、例えその移動が自分の意思で自由に出来ようとも、その二つの世界を同時に認識する一心双体の気持ちなどわかりようがないのだから。
どう答えて良いかわからず、沈黙する私。
やがて彼女はその宝石のような瞳にうっすらと雫を浮かべながら叫ぶように、吐き出すように、壊すように、言葉を続けた。
「どちらの世界のオレもオレなら……………………両刀になるしか……ないじゃないかっ!!」
ホントだ。武山君だった。
その時私はようやく心の底から理解した。悲しいかな、目の前の生物が私の大好きな萌えっ娘ではなく、忌避すべき真性の変態である事を。
短めですが今回はここまでで。
ご覧いただきありがとうございました_(._.)_




