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第60話 名前も知らない最弱(8)

 トロイトは、無断で家を出た。

 荷物が多いとすぐにバレてしまう。

 だから、最低限のものだけを持ち出した。

 まあ、駆け出しの冒険者を装うために、道中でカバンが膨れ上がるほどの買い物をしたが。

 それでも、通信手段となるものは家から持ち出さなかった。

 どうせ、すぐに帰ってこいと口うるさく言ってくる奴がいるからだ。

 ここから家に帰るのはさすがに骨だ。

 移動手段は色々とある。

 スキルや、馬車、それからここトロイトには列車がある。

 列車が最も疲れない移動手段だろう。

 だが、列車があるとはいえ、降りてからの移動も遠い。

 険しい道を行かなければならない。

 だから、迎えに来てもらうことにした。

「よし」

 火をおこす。

 周りには誰もいないことを確認してだ。

 特に、勇者がいれば面倒なことになる。

 こんなところで戦争なんかやるつもりはない。

 トロイトと勇者は初対面だ。

 だが、所属している組織と勇者は敵対していたことがある。

 ここから迎えに来る連中を見れば、流石に勇者もトロイトの所属先に勘付くだろう。

 それだけは、あってはならない。

 町から離れた草原で、火を起こして煙を上げる。

 狼煙だ。

 原始的だが、屋外ならどこででも自分の居場所を教えることができる。

 待っている間暇なので、ダンジョンで手に入れた肉を調理して待つ。

 数時間経つと、お迎えが来た。

 他に人はいない。

 目を瞑る。

 頭の中で切り替える。

 もう演技する必要はない。

 泣き虫で、Fランク冒険者のトロイトはもういない。

 元の自分に戻る。

「早かったね……」

 振り返ると、三人の男たちがいた。

 もう少し大人数でくるかと身構えてはいたけれど、どうやら速度重視で来たようだった。

 何かしらのスキルでここまで来てくれたのだろう。

「も、申し訳ありません」

 嫌味を言ったわけじゃないのに、全身汗びっしょりの男は頭を上げない。その後ろについている二人の部下も同様だった。

 そこまで怖がらなくていいのに。

 そうトロイトは思ったが、立場が違うからしかたないか……とすぐに思い直した。

「失礼なのは承知で申し上げます。いい加減お立場をお考え下さい――」

 何故なら、彼らはトロイトの部下。

 そしてトロイトは、彼らの生殺与奪の権を持っているのだから。


「トロイト将軍!!」


 声が震えている。

 別に理由なく殺すつもりなんてない。

 だけど、どうやらそう思われていないようだ。

 トロイトのパーソナルスキルも関係するのだろうが。

 意を決して発言したみたいだが、こちらも負けず劣らずの覚悟で家出をしたのだ。

 簡単に反省なんてできない。

「たまには抜け出して羽を伸ばさないとしんどいじゃない。それに、一目でいいから会っておきたかったからね」

 演技がバレれば、即座に滅ばされる可能性だってあった。

 それでも実際に会って確かたかったのだ。

 勇者の中に『私の一番大切な人』がいるのか、どうか。

 別にトロイトはダンジョンに行くために、ラビリンスへ行ったのではない。

 ラビリンスダンジョンに現れるであろう勇者を待ち伏せしていのだ。

 確かな情報をもらっていたが、半信半疑だった。

 だが、勇者は現れた。

 まあ、もう一人、ビブリアがいたのは想定外だったが。

 危険だと分かっていながらも、接触した。

 ビブリアには、トロイトの正体は看破されていたのかもしれない。

 だが、ビブリアは暴露しないと確信していた。

 事態が面白くなればそれで満足する人間なのだから。

 そして、それはうまくいった。

 邪魔されずに、勇者と交流することができた。

 その甲斐あって、疑念は確信へと変わった。

 勇者の中には確実に『彼女』がいる。

 それが分かっただけでも収穫だ。

 私の一番大切な人は、勇者の中に生き続けている。

 本当ならば今すぐ、殺してでも引きずり出したい。

 だが、今のトロイトでは力不足だ。

 今の、だが。

 この世界では、スキルレベルという、強さに制限がつく。

 だが、トロイトにはその制限がない。

 もっともっと強くなりたい。

 勇者よりもさらに強く。

 そうすれば、彼女を蘇らせることができるのだ。

 死んでしまった彼女に再び会いたいのだ。

 勇者と出会うことができてよかった。

 トロイトは自分の夢を再確認することができた。

 勇者を殺す。

 何故なら、あいつは――

「私の一番大切な人を殺した人間にね」


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