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第50話 Fランク冒険者トロイトのダンジョン探索(11)

 身のこなしからして、ダンジョン初心者。

 おそらく、今回の探索が初めて。

 スキルレベルは自分の半分以下。

 初心者中の初心者。

 その格下相手に、丁寧に攻撃を重ねた。

 溶かした岩石を落として生き埋めにした後も、たっぷりといたぶるつもりだった。それなのに……攻撃が全く当たらない。

「不可能。こいつ、いったい……」

 トロイトは、落石すべてを躱した。

 あれだけの落石を迎撃するまでもなく、単純に回避したのだ。

 身体能力を強化し、大げさに飛びのいたのならまだ説明がつく。

 だが、スキル『ミスト』によって視覚を塞がれているにも関わらず、最小限の動きで当たらない場所に避難した。

 そんなこと、できるはずがない。

 まるで背中にも目があるみたいだった。

 ただの幸運かどうか、試してみるしかない。

「『アシッ――」

「もう、いいですよね」

 標的の足が止まったと認識したと同時に、高速で何かが通り過ぎた。

 視認することもできずに、腹部に激痛が走る。

 服と、それから自分の腹部の肉が溶けていた。

「アアアアアアアアアッ!!」

「……なんだ。ちゃんと悲鳴出るんですね。やっぱり、距離をとってよかったです。これで思う存分、溜まっていたストレスを解消できます」

「ギ……疑問……。お前、いったい?」

 さっきまで怯えていたとは思えない。

 瞳の色がない。

 まるで、這っている虫けらを見下すような目つきをしている。

「鈍いですね。私があなたごときから逃げたと思いましたか? 違いますよ。アイツがここにいたら、あなたを殺そうとする私を必死で止めようとするハズです。そんなの耐えられないから、ここまで距離を取っただけのことですよ」

「……こ、殺す?」

「ええ。アイツと一緒にいるのがここまで苦痛だとは思わなかったです。あーあ。一緒にいるのが耐えきれなくなって寝込みを襲ったんですけど、腐っても勇者ってところですか。殺しきれなくて残念です」

「……?」

 会話がつながっていない。

 視点が定まっていない。

 まともに相手をしているだけ時間の無駄だ。

 遊びは終わりだ。

 先刻の攻撃はスキルではない。

 武術スキルしか持っていないのだ。

 おそらく、肌を溶かす薬品を投擲したか何かだろう。

 ダンジョンアイテムに頼っている時点で、自ら弱いと白状しているようなもの。

 普通に戦えばこちらが勝つのだ。

 今のは不意打ちをもらっただけのこと。

 今度はこっちが直接肌を溶かしてやる。

「笑止。殺す? 私を? 多少動揺したが、スキルレベルの差を埋めることはイレギュラーがなければ不可能。普通に戦闘すれば、お前が絶命する」

 反撃された動揺によって『ミスト』を解除してしまったが、そんなのもうどうでもいい。視界が回復しようが、これは避けられない。

「『アシッドシャワー!!』」

 広範囲に吹き付けるのは、岩肌さえも溶かす液体。

 低レベルの武術スキルでどうにかできる代物じゃない。

 だが、当たる瞬間、トロイトの肩から、ボコッと新たな腕が生える。

 いや、腕じゃない。

 植物だ。

 無数の植物が肩から生えてきた。

 急成長した蔓は頭よりも太くなり、巨大な盾になった。

 ジュゥウウ、と『アシッドシャワー』は蔓の表面を溶かすに留まった。

「なっ――」

「だから感謝しているんですよ。あなたたちが現れてくれて。あなたを殺せば、少しはスッキリするでしょうから」

「化け物。に、人間のスキルじゃない……」

「そうですよ。私の使えるスキルは、人間のスキルだけじゃないんですから」

「…………っ」

 言動がおかしい。

 やはり狂っているらしい。

 だが、この力は異常だ。

 初見の時、武術スキルしか鍛えていないのはスキル『アナライズ』で確認済み。

 だが、今のスキルは間違いなく武術スキルなんかではない。

 ダンジョンアイテムを使ったわけでもない。

 トロイト自身のスキルだ。

「全部わざとだったんですよ。勇者に近づくために待ち伏せしていた。逃げられた時には弱いふりをして助けを求めれば、あの勇者が私を見捨てるはずがないのは知ってましたしね。それに、私物をダンジョンにぶちまけてモンスターの生態系を」

 訳のわからぬことを言っている今が絶好のチャンス。

 再び『アナライズ』を使ってスキルレベルを確認する。

 すると、思わぬ数値に呼吸が止まる。

「殺したいほど憎すぎて、まともに名前すら言えなかった……。だから適当に師匠って呼んだんですよ。それでも私が同行したのは情報収集のためもあるけど、単純に興味もあった。私と同じような『パーソナルスキル』を持っている奴がどんなスキルを使うのか……。まあ、私の前じゃ警戒してあまりスキルを使ってくれなかったんですけどね」

 スキルレベルの数値がさきほどと変わっている。

 増えるならまだしも、減っている。

 しかも、武術スキルレベルは0になっている。

「普通はあり得ない『パーソナルスキル』を複数持っている存在。私が知る限りで、世界に三人いる。一人は異世界召喚された勇者。二人目は行方知らずの予知者。そして――」

 ブワッ、と体外から発せられたオーラによって、髪が上がる。

 雑魚なんてとんでもない。

 目の前にいる女は、人の形をした化け物だ。


「三人目は私」


 武術スキルレベル0

 魔術スキルレベル67

 錬金術スキルレベル0


 総合スキルレベル67――いや、違う。

 魔術スキルレベルは確定していない。

 まだ上昇している。

「愕然。スキルレベルが増減している……まさか――」

 さっきまでずっと『ミスト』で眼を覆っていた。

 見えるはずがないと思っていた。

 何かしらのスキルで透視でもしているのかとも思った。

 だが違っていた。

 見えていなかったのだ。

 最初から何も見ていなかった。

 真っ暗なダンジョンにおいて目を使わずに移動できるスキルは存在する。

 モンスターのマスバットの『超音波』というスキルがある。

 あれで察知していたのだ。

 あらゆる攻撃を、見ずに回避していたのだ。

 さっきの蔓もアシッドレシアのスキルだ。

「私のパーソナルスキル名は『アンリミテッド』。肉を食べれば食べただけ強くなることができるスキル。肉を食べたモンスターのスキルや特性、レベルさえも自分自身の物として扱うことができるんですよ、私は」

「無制限。――無限に成長するスキル!?」

「そういうことです。さて。さっき言っていましたよね? スキルレベルの差は埋まるものじゃないって。私もまったく同感です。レベルの差は覆らない。弱者は強者に食われる。食物連鎖という世の理は絶対なんだって」

 そして。

 トロイトの魔術スキルレベルは100に到達した。


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