表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/78

第44話 Fランク冒険者トロイトのダンジョン探索(5)

 ラビリンスの本の貯蔵は世界一。

 世界的に貴重な本も多くあり、その貯蔵はダンジョンにある。

 ラビリンスダンジョンは、ダンジョンと同時に図書館でもあるのだ。

「すごいですね……この本の量……」

「まあね。そのほとんどが他の国じゃ読めない貴重な本らしいけど、俺にはさっぱりだね」

 小難しい内容なので、読むだけで眠くなる。

 ここにある本一冊のためだけに、何ヶ月もかけてラビリンスに訪れる人だっている。

 学者や講師など、頭脳に秀でた人も本を読みたいと懇願する人がたくさんいる。だが、頭は鍛えても、肉体までは鍛えらておらず、冒険者を雇うのが常識だ。

 そう言った人達は金に糸目をつけない。

 だから、優れた腕前の冒険者がこぞってこのラビリンスに集結するのだ。

「でも、どうしてダンジョンなんかに本が?」

「ダンジョンにあるのが一番安全だからって言う考えらしいよ。ここなら本を盗もうと思っても、そう簡単には盗めない。ダンジョンを踏破できるだけのスキルレベルが必要だし、何より本一冊ごとにセキュリティがあるからね。本の持ち出しをした人間が、今どこにいるかをリアルタイムで調べることもできるらしい。一週間から二週間の貸し出し期間を過ぎても本を持っていたら、それなりのペナルティが課せられる。弁償とか、冒険者資格の剥奪とかね」

「でも、ダンジョンにあったら、モンスターが本を壊すんじゃ……」

「それは心配いらない」

 俺は本に向かって『フライムボール』を撃ち込む。

 だが、その火球は反射して俺に向かってきた。

 同じ速度と同じ威力を伴って。

 もう一度『フレイムボール』を撃ち込んで、威力を相殺させる。

「こんな風に、跳ね返るから」

「す、すごい……」

 スキルの力だけじゃない。

 何かしらの攻撃全てを跳ね返す。

 それがモンスターだろうと人間だろうと同じ。

 ……だけど、そんなことも知らないのか。

 有名なはずだし、ここに来る前に冒険者ギルドの人から説明があったと思うんだけどな。危険だから本棚には攻撃しないで下さい的な、忠告が。

 ここに来て探し物があるって言っていたから、てっきり本だと思っていたんだけど、また別の物を求めてきたのかな?

 それか、ギルド職員の話を聴いていないか、だな。

 まあ、他人の忠告を素直に聴くタイプじゃないからな、こいつは。

「国には、モンスターが入り込まないようにスキルで結界が張っているけど、その強化版ってところかな。複数のスキル保持者によって何重にもスキルがかけられている。そのおかげで、ここの本は無傷なんだ」

「どんな攻撃でも防げるんですか?」

「いいや、流石に強力な攻撃は防げないな。スキルレベルでいうと、49以下の攻撃は全て無効化できるぐらいじゃないか?」

 俺も本気を出せば本を傷つけることができる。

 だが、一冊だけでも貴重な本を傷つけて、弁償などしたくない。金を払うだけじゃなく、手続きが必要だったり、故意だった場合にはペナルティが生じたりするのだ。

「じゃあ、みんなここに潜って本を?」

「誰かに依頼することはあるけど、ほとんどはそうだね。命を懸けて読みたい本なんて、持ち出し禁止の本だろうから。第一層の本はそこまで価値がないだろうけど、潜れば潜るほど貴重な本がでてくる。ダンジョン深部にあるのは全部持ち出し禁止だろうからね」

 たまに学者本人がダンジョンを潜りたいって言い出して、ちょっとした騒ぎになることがあるらしい。足手まといがいない方がいいのだが、直に見たいと言い出す輩がいるのだ。 

 しかもダンジョン深部の本を。

 そういう命知らずの世間知らずがいるからこそ、ここのギルドが他国に比べて強い冒険者が育つのだが、可愛そうだな。

「持ち出し禁止って……。それじゃあ、貴重な本を持ち出すためにここに来ても意味ないんじゃないんですか?」

「そうでもないよ。営利目的ではなく研究のためだったら、手で書き写したり、もしくはスキルで写したりすることは禁止されていないからね。そういうことができる人を一人連れてきて、パーティーを組めばいい。だからラビリンスダンジョンは単独で挑む人はかなり稀だよ。出てくるモンスターのスキルレベルは大したことないけど、それ以上に厄介な敵もいるしね……」

「それって?」

「人だよ」

 ここにいる冒険者は強い。

 依頼がひっきりなしにあるので、ダンジョン探索の経験値が他国の冒険者よりも高い。

 だが、モンスター相手が百戦錬磨であっても、同じ人間同士だと戦うのを躊躇う人だっている。

「ただでさえ、ダンジョンっていうのは極限状態に陥りやすい。水や食糧が尽きたり、重傷を負ったりすれば、同じ冒険者から荷物を奪おうと考えるのは当然だ。だから、気をつなきゃいけないのは、次の層に至る階段付近は気を付けた方がいい」

「階段付近ですか?」

「どんな冒険者でも絶対にそこを通るからな。そこで待ち伏せしている奴が多いんだ」

 有名な例として挙げられるカルネアデスの板。

 緊急避難というやつだ。

 もしも自分の命の危機を感じたら、他人を殺したとしても罪に問われない。

 それが現代社会でも成立するのだから、異世界なら尚更だ。

 死にかけている人間は歯止めが効かない。

 どんな手段を使っても助かるために策を弄する。

 階段近くに身を潜めたり、人間が人間を殺すための罠が仕掛けられていたりする。

「師匠って本当にダンジョン詳しいんですね?」

「まあね。このダンジョンは昔来たことあるからっていうのもあるけど、他のダンジョンも何個か行ったよ。どこもかしこもキツかったなあ……」

 それぞれのダンジョンがそれぞれの特色を持っているせいで、慣れなかったな。

 適応力と順応力は嫌でもついたしいい経験にはなったが、用事もなくダンジョンには潜ろうとは思わない。

「師匠、軽装ですけど大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。俺は特注のアイテムポケットがあるから」

「アイテムポケット!? 初めて聴きましたけど、もしかして『メイドインバベルミラージュ』ですか?」

「まあ、そんなところかな……」

 本当はバベルミラージュ製品を、錬金術スキルで改造したものなんだけどな。

 アイテムポーチを使えば物質をそのままの状態で、たくさん持ち運びできる。

 それはスキルの使える異世界特有の技術。

 だが、俺はより利便性を追求し、アイテムポーチの効果を、自分のズボンのポケットに使った。ポケットの中には旅の荷物や金銭がたんまりと入っている。

 自ら新たな発想をするよりかは、元ある物を改良してオリジナルの物を作る。

 カレーやラーメンが国民食と言われる日本に住んでいた自分ならではなの改造かもしれない。

 情報量を持ち歩けるスマホとは真逆の進化を辿っている異世界だが、未だにモンスターの蔓延るこの世界においては装備品をいかに持ち歩けるかが重要視されるのは当然の帰結なのだろう。

 俺も日本にいた時にプレイしていたダンジョン探索のゲームでは、持ち物制限があって腹が立ったものだ。

 ああ、懐かしいな。

 あの、風来坊な主人公良かったよな。

 昔のゲームって主人公が無口なのが多かったんだけど、そっちの方が感情移入しやすいから、あれはあれで好きだったんだよなあ。現代風のフルボイスも、それはそれでいいんだけどね。

 今思い出すと、俺、結構あのゲームやっていたんだよな。

 俺が何千時間以上プレイしていたダンジョンのゲームは、特徴があった。モンスターにやられるならまだしも、腹ペコになってゲームオーバーがあるシステムが採用されていた。

 そのせいで何度も何度もやり直したし、なんでそこだけリアリティあるんだって思った。

 だが、ダンジョンに潜っていて少し納得したのだ。

 装備品は重要だ。

 食べ物がなくなりと眼が回って、何もできなくなる。何でもしたくなる。

 人は余裕があるから理性を保っていられるのだと。

 だから、アイテムポケットの開発には注力した。

 そのおかげで、こうしていきなり旅に出ることになっても、そこまで慌てずに準備できた。

 あのゲームと、俺のダンジョン探索経験は大切なことを教えてくれた。

 ただ、あのゲームで納得できなかったことが一つ。

 なんで、モンスターの肉を喰えるようにしてくれなかったのか。

 確かに喰えるダンジョンも存在する。

 だけど、包丁すぐ壊れるんだよなあ、あのゲーム。

 もう少し丈夫な包丁があって、それから出てくるモンスターを片っ端から食料にできればなおのこといいんだけどなあ。

「ひっ!」

 トロイトの悲鳴は、マスバットを見つけたから。

 おっと。

 いい、タイミングだ。

 食糧を持ってきてはいるが、全て日持ちするもの。生ものは現地調達するつもりだったから、モンスターが来てくれたのはありがたい。

 さっきは手加減し忘れていて焦げてしまったので、今回はより手加減して肉をゲットするつもりだ。

 俺一人なら一瞬で終わるが、これから先、もっと強いモンスターが現れる。そんな時、ただ的になっているだけであるか、それともモンスターを打倒できないにしろ、攻撃してモンスターの動きを制限してくれる前衛を引き受けてくれるのか。

 その二つには大きな差がある。

 こうなった以上、足手まといよりか、パートナーになってもらいたい。

「また出てきたな……。どうする? トロイト。武術スキルしかないんだったら、必然的に前衛しかない。もしも怖いって言うんだったら、後ろに下がっていていい。俺が全部相手するから」

「いいえ、私も戦います! だから、サポートをお願いします!」

「ああ!」

 よく言ってくれた。

 俺は後ろに下がる。

 前衛後衛どちらもできるが、今はトロイトに合わせよう。

 トロイトは正拳突きの構えをする。

「『気合突き!!』」

 マスバット一匹を一撃で倒す。

 衝撃が躰を突き抜けるような拳の威力。

 やっぱり、レベルの差は歴然だ。

 戦い方がまだ素人なだけで、経験を積めばまだまだ伸びそうだ。

「『フレイムショット』」

 小さい炎の玉を複数個同時に出す。

 より威力を弱めながら、トロイトの死角から攻撃を仕掛けるマスバットだけを狙って撃ち落とす。

「こっちの勘も取り戻さないとな」

 刀を取り出す。

 強敵相手だと使えないが、今のモンスターのスキルレベルなら問題ない。

 近くにきたマスバットを斬る。

 キレ味は良く、刀は軽い。

「いいな」

 切断面が綺麗だ。

 鍛冶屋はいい仕事をしてくれたみたいだ。

「ありがとな、マサムネ。これで今日の飯にありつける」

 刀で斬るならば、微妙な力加減はいらない。

 これならいける!

 きっと、マサムネ本人が見たらそんなことのために剣を上げたわけじゃないと、憤慨しそうだけどな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ