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32キャサリン、クワイエス領に向かう


 キャサリンは20日ほどかけてクワイエス領に着いた。

 その間に平民が着る服になり大きな町では数日滞在してあちこち店を見て歩いたりもした。

 すぐにクワイエス領に向かっていたらもうとっくについていたはずだった。

 北の街なのに思っていたより賑やかだった。

 キャサリンはすっかり旅慣れてすぐに賑わう繁華街にある宿屋に宿を取った。

 「お客さんはひとりですか?」宿の使用人が尋ねた。

 「はい、親戚を訪ねて来たんです。連れがいたんですが途中で具合を悪くして私は先にこちらに来た次第で、すぐに親戚に聯絡をつけて連れを迎えに行ってもらうつもりなんです」

 「まあ、それはお気の毒に…それでこちらにはどのくらい?」

 「ええ、親戚の家は狭いのでこちらにしばらく滞在するかもしれません」

 「そうですか。何か御用があればいつでも遠慮せずに仰ってください」

 「ええ、ありがとう。風呂はいつ頃入れます?もう、何日も入っていなくて」

 本当は一昨日も入った。だが、風呂は毎日でも入りたかった。平民ならば何日も入らないこともしばしばあることではあるのに。キャサリンはどこまで行っても贅沢な貴族の生活が忘れられなかった。

 「わかりました。すぐにご用意します。風呂付のお部屋があって良かったですね」

 キャサリンはゆっくり風呂に入り、それから街を散策し始めた。

 夕食は1階にある食堂で食事をするらしくキャサリンは宿の食堂で夕食を取った。

 そこには泊りではなく食事だけも出来るようで色々な旅人や泊り客ごった返していた。


 ふたりの男が大声で話をしている。何しろ大声なので周りに聞こえている。

 「おい、知ってるか。御領主さまのお嬢さんがこっちで結婚式を挙げるらしい」

 「ああ、めでたい事だ。どうやら婿さんはこっちのクワイエス領の元子爵様の領地を頂いてこっちに骨を埋めるつもりらいいぞ」

 「それじゃ御領主は喜んでるな」

 「そりゃそうだろう。おまけに姪っ子も養女にしてその子もお嬢さんと一緒に結婚式をするって話だ。結婚式にはこの辺りに酒もふるまわれるって話だ。今からみんな楽しみにしてるって聞いたぞ」

 「そりゃいつだ?酒が飲めるとなりゃ人が集まるぞ」

 「ああ、俺達の商売も儲かるってもんだ」

 どうやらそのふたりは屋台で商売をしているらしい。


 キャサリンはその話を聞いて慌てて男たちに聞いた。

 「おふたりさん。その御領主様のお嬢さんの結婚式って言うのはいつなんです?」

 「ああ、よく聞いてくれたお嬢さん。明後日だ」

 「それで、場所は?」

 「聖メディウス教会だ。この辺りじゃ一番古い教会だ。やっぱり御領主様の所の結婚式だよ。あんな立派な教会で結婚式なんてな」

 「それはどこです?」

 「表に出て見な。通りの向こうに高い塔が見える。あれが聖メディウス教会だよ。すぐにわかる」

 「ありがとう」

 「あんたのお祝いに行くのか?」

 「そんなにみんなお祝いに行くんですか?」

 「そりゃ、滅多に見れないだろう。貴族様の結婚式なんて」

 「まあ、見れるとしても馬車から下りてくるときにちらりと見えればいいが、教会には入れないだろうな」

 「そんなに警備が?」

 キャサリンは顔をしかめた。

 「当たり前だろう。クワイエス騎士隊が警備に着くに決まってるだろう」

 「ああ、親族以外は無理だな」

 もう一人の男がつぶやいた。

 「おい、あんたどうだい?俺達と飲まないか?」

 男はキャサリンに声をかける。

 「いいな。こっちに来いよ」

 「悪いわね。私、連れがいるんです。じゃ!」

 キャサリンはそう言って其の場をやり過ごした。


 (いいことを聞いたわ。お嬢さんってアンリエッタの事だわ。もうひとりはエルディね。ルーズベリー教会で結婚式出来なかったわよね。ケネトったら案外いい仕事したって事ね。これは恨みを晴らすチャンスかも。明日早速下見に行ってみよう。明後日が楽しみだわ。)

 キャサリンはその夜、計画を練ることに興奮してなかなか寝付けなかった。





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