3お姉様が変です
結婚式の申し込みをして数日が過ぎた。
アンリエッタに腹を立てていたが数日も過ぎるとそんな気持ちも晴れていた。
お姉様もあの教会で結婚式挙げたいって言ってたんだもの。
それに抽選だからどちらが選ばれたとしても公平って事なんだし。
どうなるかはもう祈るしかないんだし。
だからとエルディは仕事に励んでいた。
「エルディ。そろそろ結婚式の準備をしなくてはいけないんじゃないのか?」
レオルカからいきなりそんな話をされるが。
「ええ、でもどうなるかもわからないし…」
「でも、もし決まったらどうする?ドレスはどうする?」
「ええ、ドレスはアンリエッタお姉様と一緒に頼んであるから大丈夫よ。知らせは年内には知らせが届くはずだから、もし決まれば少し忙しくなるわね。決まればの話よ…」
「そうだな、決まってからでいいか」
(もう、レオルカの気持ちは有難いわよ。でも、もし外れたら?ショックで結婚式なんかできないかもしれないわよ)
エルディは期待して外れるのが恐くてまだ何も考えないように努めているというのに…
(もう、男の人ってほんと。無神経なんだから…)
「そうか、エルディがそう言うならいいんだ。それにしてもエルディ、君って10歳までおねしょしてたんだって?」
いつもは表情を崩さないレオルカが楽しそうに口角を上げている。
「はっ?そんな事どこで?」
エルディは真っ赤になって尋ねる。
(おねしょの話は誰にも知られたくない事だったのに…)
「えっ?アンリエッタが言ってたぞ。それに泣き虫で夜恐くてトイレに行けなかったんだろう?」
今度は交じりにしわまで寄せた。
エルディは流石に恥ずかしくて声を上げた。
「だって!子供だからじゃない!ひどいわ。そんな事笑って話すなんて」
エルディは恥ずかしくてたまらずおまけに涙まで出て来て走って廊下に出た。
(ひどい。アンリエッタったらそんなことレオルカのに話さなくてもいいじゃない。でもどうしてそんな事を今になって?もしかして…意地悪?ううん。アンリエッタお姉様はそんな人じゃないわよ)
必死でアンリエッタを信じようとした。
その夜夕食にはアンリエッタお姉様の婚約者のエリクが夕食に訪れた。
エルディももちろん夕食を一緒に取っておるのでダイニングルームにはアンリエッタの母のマリアンヌ、アンリエッタ、エリク、エルディが一緒だった。
「エリク様。このスープ、カタツムリが入ってるのよ。とっても美容に良いのよ」
アンリエッタがそのスープを美味しそうに飲む。
エルディの顔色は真っ青になった。
エルディは虫が大の苦手。カタツムリと聞いただけでもゾゾッと鳥肌が立ちそうなのに、それをスープに入れたと聞いてうっぷと吐き気がする。
「私…気分が、失礼します」
「まあ、これは料理よエルディ。そんな事で結婚なんて出来るのかしら?まだまだお子様なんだから…結婚式は先に伸ばした方がいいんじゃない?」
「ひどい!お姉様がそんなひどい人だって思わなかったわ!」
エルディは今度は怒りで赤くなった。
そこに叔母様が割って入った。
「もう、アンリエッタ、エルディが虫が嫌いな事は知ってるじゃない。いいわよエルディ部屋に戻っても、後で軽食でも届けるから」
「叔母様すみません」
「エルディは可愛いよな。アンリエッタと1歳違いとは見えないね」
「あら,エリク。エルディが可愛いって?」
「おい、勘違いするなよ。変な意味じゃない。あくまで従姉妹としてだ。俺がアンリエッタにメロメロだってわかってるだろう?美人で洗練されていて俺はそんなアンリエッタに惚れてるんだからな。さあ、食事しようか」
エリク様に堂々とそんな事を言われてアンリエッタお姉様は顔をほころばせていた。
エリク様とアンリエッタは同級生で学園に通っている頃からエリクはアンリエッタが好きだったらしい。
伯爵家の嫡男で卒業する前にエリクは婚約を申し込んでいた。
何しろ父親同士が騎士団の団長と副団長と言う間で婚約の話はあっという間にまとまったと言う。
エルディが出て行く時にはふたりはすっかり仲良く食事を再開している。
エルディは白けたような気分になってダイニングを後にした。
(ふん!どうせ、私は子供じみてますよ。アンリエッタお姉様みたいにスマートで魅力的な美貌も持ってませんし、ナイスな肉体も持ってませんからね…)
それからというもの、何かとアンリエッタはエルディを目の敵にした。
そしてついにルーズベリー教会から返事が来た。
「やったわ。もうダメかと思ってたけど神様は私を見捨てたりしなかったんだわ」
そうなのだ。エルディの所に来年3月10日の結婚式の予約が出来たと通知が届いたのだった。
それを知ったアンリエッタの態度は冷たかった。
「エルディ、あなたいい気にならないでよ。私だってルーズベリー教会で結婚式を挙げたかったのに…」
エルディは感じた事もないショックを覚えた。
アンリエッタお姉様どうして?
お姉様は落ちだって優しかった。
そんな人だと思わなかった。
せっかくのエルディの幸せな気分は針でつかれた風船のようにしぼんだ。




