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29結婚式


 翌日は真っ青い空が広がるすがすがしいほどの晴天だった。

 エルディとアンリエッタは朝早くから身支度に追われている。

 それぞれの侍女たちが声を掛け合い入浴から始まり肌の手入れだの髪型はアップにしていや、緩やかな髪になどと忙しい。

 そしてやっと整ったドレス姿。

 エルディとアンリエッタが屋敷の入り口に侍女に付き添われて出て来た。

 「おめでとうございます。アンリエッタお嬢様。エルディお嬢様」

 執事のトーマスを始め次女長のメープル、使用人一同が玄関前で祝いの言葉を贈られる。

 エルディのドレスは小さな真珠をちりばめた美しいドレス。首には母の形見の真珠のネックレスが輝く。

 アンリエッタのドレスはクチュールレースをふんだんに使った幾重にもドレープが重なった見事なドレス。

 エルディは艶やかな髪を美しく結い上げられ真珠をちりばめ小さな薄紫色の花をあしらっている。

 アンリエッタは編み込んだ金色の髪を緩めのシニヨンにしてサファイアのティアラを付けている。

 「「おめでとう。アンリエッタ。エルディ。「とってもきれいだわ」」

 叔父様と叔母様がため息を落とす。

 「ありがとうお父様」アンリエッタが叔父様に抱きつく。

 「アンリエッタきれいだ。本当におめでとう」

 「お母様本当にありがとう」今度は叔母様に抱きつく。

 「おめでとうアンリエッタ。エリク様なら安心だわ。あなたは絶対に幸せになれるわ」

 アンリエッタお姉様は滅多な事では泣かない。

 そのアンリエッタお姉様の瞳から美しい真珠のような涙が零れ落ちた。

 「もう、アンリエッタったら…お化粧が崩れるわよ」

 その涙をそっと拭う叔母様の目もうるうるしているけど気づかないふりをする。

 だってこれは幸せの涙だから。

 アンリエッタが落ち着いて叔母様から離れた。

 

 今度はエルディが一歩前に出て挨拶をする。

 「叔父様叔母様…いえ、お義理父様。お義理母さま。今日は本当にありがとうございます。アンリエッタお姉様と一緒に結婚式が出来るなんてまるで夢のようです。養女にまでして頂いて…私……」

 エルディは胸がいっぱいで喉が詰まった。込み上げる涙は瞳の中でうるうる揺れて…

 アンリエッタがそっとその肩を抱く。

 「エルディ。ほら、あなたもお化粧が…」

 ふたりは顔を見合わせてまた微笑んだ。

 ふたりの頬には光る涙が伝う。

 「お姉様。ほんとにありがとう。お義理父様。お義理母様こんなにして頂いてほんとうにありがとうございます」

 エルディは心からのカテーシーを取る。


 「エルディ、あなたは私達の娘よ。これからもずっと家族よ。いいわね。それにしてもすごくきれいだわ~」

 「ああ、エルディ。レオルカはいい奴だ。私もあいつなら安心してエルディを任せられる。幸せになるんだぞ」

 「はい」

 いつもはしかめっ面ばかりの騎士団長の叔父様だが、今日ばかりはずっとほおが緩みっぱなしで何だか可愛いとさえ思ってしまう。

 


 馬車で聖メディウス教会に向かう。

 エルディは歓声を上げた。

 絵で見た通りの美しい景観が目の前に広がる。レンガ造りの教会は蔦に絡まれて何とも言えない雰囲気を醸し出す。タイミングよく鐘楼から聞こえた鐘の音がさらに気分を上げてくれて幸せ気分は最大にまで膨れ上がった。

 胸の奥で描いていた教会は想像をはるかに超えていた。

 (なんてすばらしいの。こんな教会で結婚式が挙げれるなんてほんとに夢のようだわ)

 「お姉様…こんな教会で結婚式が出来るなんて夢みたい」

 「ええ、すごくいい雰囲気があるでしょう?でも、エルディ夢のような時間はこれからよ。結婚式が終わるまでしっかりしてよ」

 「そうでした。レオルカ様と結婚なんて…ああ…幸せ過ぎる~」

 ドミール様が迎えに出てくれて結婚式の流れを再度確認すると、興奮気味のエルディを自重させながらアンリエッタとエルディはそれぞれの控室に入った。

 エリク様と親族、レオルカ様と親族がそれぞれ到着して準備が整う。


 いよいよ結婚式の始まり。

 アンリエッタは父親に付き添われてエルディはアンリエッタの兄のザラファンに付き添われて会場の外扉の前に立つ。

 音楽が始まり扉が開かれた。

 アンリエッタが父親と一緒にバージンロードを進む。前を進む子供たちが床にばらの花びらを巻いて行く。

 両サイドの椅子にはそれぞれの親族が立ち入って来る花嫁に拍手を送る。祭壇や椅子のサイドには色とりどりの花やレースやリボンが飾り付けられている。

 花は白色がメインでアンリエッタの金色と碧色やエルディの茶色と薄紫色が中に散りばめてある。

 アンリエッタがエリク様の前に行き父親からエリク様の手にアンリエッタの手が乗せられた。


 エルディの番が来た。

 真っ直ぐ前を見ると真っ白い生地に豪華な銀糸と薄紫色の刺しゅうの施されたウエストコートとトラウザーズ姿の何時にもまして半端ない魅力のレオルカ様が目の中に飛び込んで来た。

 レオルカ様は眩しいほどの笑顔でエルディを見た。

 途端にドキドキがヒートアップする。

 手のひらにじっとりと汗がにじんで心臓はドクドク脈打つ。

 見目麗しい愛しの人が見たこともないような満面の微笑みをエルディに向けてくる。

 少しめまいがして足元がふらつく。そんなエルディをザラファン様が支える。

 「大丈夫かエルディ?」

 「き、緊張して…」

 「ああ、だろうな。さあ、深呼吸して…さあ、エルディいいか?行くぞ!」

 まるで戦いにでも行くような掛け声をかけられる。

 それはそうだ。ザラファン様はクワイエス領の騎士隊で毎日厳しい訓練をしていると聞いている。

 逞しい身体はまとった服の上からもはっきりとわかる。

 エルディは一度大きく深呼吸すると覚悟を決め「…はい」と返事をした。

 ザラファンはエルディの腕を取るとゆっくり歩き始めた。

 バージンロードを少し俯き加減に歩みを進める。

 これ以上レオルカ様の顔を見ては倒れてしまうからだ。

 心臓はこれでもかと言うくらいバクバクしているが一歩一歩前に歩みを進める。

 レオルカ様のそばに。この人とこれからずっと一緒に歩んでいきたい。そんな思いを込めて歩いて行く。


 レオルカ様の前に来るとザラファン様がエルディの手をレオルカの手の上に乗せた。

 その手をふわりと握られ反対の手は腰に回され彼のリードで緊張が極限に達して身体でぎくしゃくしながら決められた位置に着く。

 アンリエッタお姉様サイドに叔父様叔母様がエルディ側にザラファン様シルビア様が並ぶ。

 神官のドミール様が式を執り行うと宣言。

 最初にエリク様とアンリエッタお姉様が祭壇の前に立つ。

 「エリク・シャルトル子爵とアンリエッタ・クワイエス侯爵令嬢おふたりの結婚式を執り行います。誓いの言葉を…」

 エリク様とアンリエッタお姉様が誓いの言葉を述べる。

 「ここにふたりを夫婦として認めます。神の祝福があらんことを…では、指輪の交換を」

 そして結婚指輪の交換。誓いのキスと続いた。

 アンリエッタの幸せそうな顔にエルディはたまらなく喜びが込み上げた。

 「おめでとうアンリエッタお姉様。エリク様」思わず声をかけた。

 「ありがとうエルディ」

 ふたりが祭壇の前からよける。


 そしていよいよエルディ達が祭壇の前に立つ。

 ドミール神官が言葉を。

 「続いてレオルカ・トリスティス子爵令息とエルディ・クワイエス侯爵令嬢の結婚を執り行います。誓いの言葉を…」

 エルディは正式にクワイエス侯爵家の養女となっていた。

 真っ直ぐにエルディを見つめ少し緊張気味のレオルカの声が響く。

 「レオルカ・トリスティスは生涯をかけてエルディ・クワイエスを命のある限り愛し敬い共に生きていくことを誓います」

 エルディは頬を染めた。それでも目はしっかりとレオルカを見つめたまま言葉を紡ぐ。

 「私。エルディ・クワイエスは命のある限りレオルカ・トリスティスを夫とし愛し敬い共に生きて行く事を誓います」

 「ここにふたりを夫婦と認めます。神の祝福があらんことを。では指輪の交換を」

 ドミール神官があの指輪を取り出した。

 レオルカはエルディの左手の薬指に。

 エルディはレオルカの左手の薬指に。

 レオルカがふたりの指輪をよせて手を掲げそのまま誓いのキスをした。

 真近の席にいた客がハートが形作られた指輪に気づき拍手が起こり結婚式はさらに盛り上がった。


 そこにいきなりキャサリンが現れた。彼女は中央の通路を祭壇に向かって突き進んで来る。

 「何であんたたちばかりが幸せになってるのよ!許さないから」そう叫びながらキャサリンの手には小型のナイフが握られていた。



 




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