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9.到着











グレイトウルフは獣臭かった。まぁ、野生の生き物だしな。


普通に首を折ったりしたが、これは向こうで護身術を習ったからである。護身術に首を折る技があるのはおかしいと思うよな? 俺がそれがおかしいと気づいたのは中学の時だ。


小学校に入学してから習い始めた。近所にあった小さな道場で、正しく達人と言えるお爺さんが一人でやっていたのだが、習うのが俺一人であったことと、爺さんがほぼ趣味でやっていたからなのか、タダで習えた。それはいいのだが、爺さんが教えていたのは殺人拳法だったのだ。


いやね、小学生の時に気づくべきだった。武術なのに、すれ違い様に相手の腕を折る技とか、簡単に相手の首をへし折る技とかさ、まぁ、気づいた時には殆ど覚えちゃってたんだけど……


この爺さんが教えた技の凄いところは、なんと四足歩行の動物なんかにも通用するところだ。あの爺さん、何を考えていたのか、未だに理解できない。



「グルァァァァァ!!」



ボスが倒されたから逃げるかと思ったら、襲いかかってきた。とりあえず、飛びかかってきたグレイウルフの真横に移動し、腹に膝を叩き込み、さらに同時に両肘を叩き込む。


グキッという音がして、グレイウルフは動かなくなった。



「グルァァァァァ!!」



懲りない性格のようで、さらに一匹噛みついてこようとしたので、下顎を蹴り上げて無理矢理口を閉じさせ、蹴り上げた足で頭に踵落としを叩き込む。この時、身体を落とすようにして地面に叩きつけることで、確実に仕留める。


ゴキリという音がした。踵に骨の折れる感触が伝わってきた。どうやら、頭蓋骨が砕けたようだ。


これ以上向かって来られても困るので、鋭く残った群れを睨み付けると、三々五々に散っていった。



「よし。片付いたな」



さてと、色々と聞きたいのだが………冒険者風な三人と、馬車の持ち主らしき男に他二人は、ぽかんとした表情でピクリとも動かない。


とりあえず、一番前にいたくたびれた感じの男の前で、ヒラヒラと手を振ってみるが、反応がない。これはもしかして……



「死んでやがる」


「死んでねぇよ!」



あ、やっぱ生きてたか。俺の言葉に、男がツッコミをいれた。



「それで、あそこの死体どうするんだ?」


「切り替え早すぎだろ!」



一人死んでしまっているが、間に合わなかったかものは仕方ない。次はこういうことがないように気を付けるだけだ。


再びツッコんできた男は放っておいて、死体に近づく。


うわぁ………頭噛み砕かれてるよ、グロいなぁ



「で? どうすりゃいいの?」


「その前にお前誰だよ!」



このままだと男がツッコミマシーンになりそうなので、簡単に自己紹介を済ませた。さっきからツッコミっぱなしの、ロングソードを持った男はラインという名前で、後二人の冒険者風の二人……少年のような容姿をした小人族のリックと、赤茶色の髪をし勝ち気な目をした少女のアリサと、パーティーを組んでいて、そこのリーダーらしい。


馬車の持ち主は、三人に護衛を依頼した商人のエバンスさん。そして、エバンスさんの使用人のロメルさんに、御者のミールさん。


死んでいた男は、ライン達と一時的に組んで今回の依頼を受けていたもう一人の冒険者らしい。



「それで、この死体どうするんだ?」


「流れの男だったから家族はいない。となると、埋めてやるか……リック、アリサ、準備しろ」


「ほーい」


「任せて」



リックとラインが道の端で穴を堀り始めたので、俺も手伝う。能力は使わない。変に目立ちたくはないからな。


堀り終わると、そこに死体を入れる。よし、埋めようと思ったら、アリサが杖を構えていた。



「『我、ここに万物を焼き尽くす炎を望む』」



お、詠唱だ。


以前、魔法について調べた時に、魔法発動前には各属性ごとに一つある詠唱を唱えなければ、魔法は発動しないとのっていた。ただし、魔法について深い理解を持った者や、何度も同じ魔法を使ったりしている者は、無詠唱というものが出来るようになる、と、まぁ、俺の場合は強いイメージのお陰で無詠唱で発動できるけどね。


とにかく、アリサが唱えたのは火属性の詠唱だ。



「“火炎の柱(フレイム・ピラー)”」



炎の柱が立ち上ぼり、穴に入れた死体を焼き尽くす。なぜこんなことをするのか聞いてみると、アンデット化するのを防ぐためらしい。成る程。


骨になった男に、ラインが何かの粉をかけていく。



「なんだそれ?」


「聖石の粉だ。教会で格安で売ってんだよ、焚き火に入れれば、モンスター避けにも使えるし、こうすることでアンデット化も防ぐことができる。冒険者には必須のアイテムだよ」


「へぇー」


「………お前、相当な田舎から来たんだな」



何故かラインに呆れ顔で見られてしまった。


埋葬も終わった所で、改めてライン達に礼を言われた、曰く、俺が来なかったら全員死んでいたかもしれないと……


あの狼の群れって、そんなに強いんだな。



「助けて頂きありがとうございます。是非、お礼をしたいのです」


「俺達も礼をしたいが、今かつかつだしなぁ」


「別に今欲しいものは特にないからいいけど、エバンスさん、この服買い取ってもらうことって、出来ますか?」


「え? えぇ、ですが、かなり上等な服なのに、宜しいのですか?」


「その代わり、普通の服を何枚か頂きたい。このままだと、町に入ったら目立ちそうですから」


「成る程。分かりました」



とりあえず、質素なシャツとズボン、それに靴を貰って着る。もう少し欲しいのだが、今はこれしか無いそうなので、後はエバンスさんのお店に行ってからということになった。


倒したグレイウルフとグレイトウルフから、魔石や爪、牙、皮などを剥ぎ取り準備を終わらせ、最終確認をしてから出発した。


王都アルマに着くまでに、隣を歩くラインから、冒険者について聞くことにした。



「お前、本当に田舎から来たんだな」



また呆れられたが、普通に教えてくれた。


まず、冒険者ギルドの登録料に銅貨五枚かかる。


冒険者のランクはモンスターと同じでF級~A級で、さらに上にS級がある。ランクが高いほど強いらしい。F級の場合は、1ヶ月に一度は依頼を受け達成しなければならず、ランクが上がるとその期間が伸びる。C級から上は、色々と特権が増えるらしいが、ギルドからの強制呼び出しや、指名依頼を受けなければならなくなるらしい。


続いて、依頼の種類についてだが、基本的には採取依頼、討伐依頼、護衛依頼などがあるが、調査依頼や、国からのボランティア活動なんかも依頼になるらしい。


そして、冒険者ギルドは完全中立なため、所属し冒険者となった場合は、原則国家間の戦争には参加できないらしい。


他にも色々とあるらしいが、一先ずこれだけ覚えておけばいいとのこと。



「あ、魔石ってどこで売れる?」


「普通なら冒険者ギルドだが、魔術師ギルドや魔道具専門店でも売れるぞ」



成る程。別に冒険者ギルドに売らなくてもいいのか。



「まぁ、売るなら冒険者ギルドがオススメだ。必ず適正価格で買い取ってもらえるからな」


「そうか」



じゃ、やっぱり冒険者ギルドで売ったほうがいいのか。


その後も色々とラインから情報を仕入れていると、木々の間から壁のようなものが見え初め、さらに歩いていくと、森が開けて立派な城壁と門が見えるようになった。



「お、着いたぜ、王都アルマの城門だ」


「これが……」



高くそびえ立つ城壁を見上げながら、門の先に広がるであろう町並みに思いを馳せる。


さぁて、色々と買いに行きますか。





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