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8.窮地に登場

途中から三人称視点です。











次の日になった、朝食を食べてさっさと準備を終わらせる。もうね、焼いただけの魚と果物には飽きてしまったのだ。



「留守の間は僕がここを守るよ」


「とりあえず、三日ほど滞在してくるから」


「あぁ」


「よろしく頼む」


「任せておきたまえッ!」



若干不安だが、任せるしかないのでさっさと出発しよう。


アーサーから王都の方向は聞いたので、マップを視界の邪魔にならないような大きさで、左手にくっつくような感じで表示しておく。これなら、真っ直ぐ進める。


ちらちらとマップを確認しながら、森をずんずん進んでいく。



「ん? 100メートル先にモンスター三体か」



このマップくっそ便利です。進んでいくと、モンスターが見えて来た。そこにいたのは、三体のゴブリンだった。ゴブリンが此方に気づく前に、さくっと仕留めようと思います。



「“闇の矢(ダークアロー)”」



黒紫色の矢が3つ飛んで行き、ゴブリンの頭を貫通して消えた。魔法の当たったゴブリンは、即死だったようでその場に倒れた。


さてと、魔石を回収しよう。アーサー曰く、モンスターは身体のどこかに魔石というものがあって、魔道具に使えるらしい。魔道具というのは、地球の電化製品を魔法などによって再現したみたいな感じだ。まぁ、向こうより大分エコだと思うけどね。



「とりあえず、この魔石を売れば稼げるらしいし、モンスターは見つけ次第倒して魔石に変えよう」



ちなみに、前に倒したモンスターの魔石も取り出したが、下級竜(レッサー・ドラゴン)や“名持ち”のオーク・キングの魔石は出すと騒ぎになるそうなので、ハイ・オークの魔石一つと、ゴブリンやグレイウルフなんかの、弱いモンスターの魔石を幾つか売る予定だ。


道中見つけた、薬草や珍しい花なんかも採取しながら、進んでいく。


のんびり歩いていると、何か遠くから声のようなものが聞こえて来た。



「ん? なんだ?」



なんだか、戦闘音のようにも聞こえる。マップで先を確認してみると、グレイウルフの群れに何かが襲われているようだった。


マップだと、道のようになっている所のようだ。もしかしたら、人かもしれない。



「これは、急いだほうが良さそうだな」



マップで正確な位置をちゃんと確認して、そちらに向けて駆け出した。





















太陽の国アウルムの王都アルマの手前、門まで後一キロほどの地点で、馬車が一つ止まっていた。


馬車の周りでは、B級のモンスターであるグレイトウルフが率いる、グレイウルフの群れと、複数の人間が戦っていた。



「くそっ! 数が多すぎる」


「でもさ、リーダー。とても逃げられそうにないよ」


「これで10体は倒したハズよ!? いくらなんでも多すぎるでしょ!」



馬車の持ち主であり、王都アルマに店を持つ商人の男で、今回の護衛の依頼人であるエバンスと、その使用人一人と御者の男を守りながら、冒険者の三人はグレイウルフ相手に必死に応戦していた。


一人は、軽鎧にロングソードを持つ、20代後半のくたびれた感じの人族で、リーダーの男ライン。


もう一人は、湾曲した刃を持つ、いわゆるショテルのような短剣を持った、少年のような容姿をした小人族の男リック。


もう一人は、ローブを着て杖を持った魔術師で、赤茶の髪に、勝ち気な目をした人族の少女アリサ。



「おい! こっちも手伝ってくれ!」



馬車の後ろで戦うもう一人の冒険者が、三人に声をかける。だが、三人もいっぱいいっぱいなため、無理だと返答する。


男は舌打ちすると、近くにいたグレイウルフを切り捨てると、王都アルマに向けて駆け出した。



「おい! どこ行く気だ!」


「うるせぇ! こんなとこで死んでたまるかよ!」



ラインが男に向かって叫ぶが、男はライン達を見捨てて逃げ出そうとする。しかし、それを許すほどモンスターは甘くはなかった。


今まで傍観していた群れのリーダーであるグレイトウルフが、逃げ出そうとした男に襲いかかる。



「グルァァァァァ!!」


「うわぁぁぁぁ!? た、助け━━」


「うげっ」



巨大な口で男の頭を噛み砕くグレイトウルフ。それを見たラインは顔をしかめたが、直ぐに表情を引き締めて、目の前のグレイウルフの群れに意識を戻した。


本当ならば、ラインだって今すぐ逃げ出したいが、冒険者としてのプライドが、依頼を投げ出せないと言っているし、ここでエバンスを見捨てたることもできなかった。


しかし、状況は絶望的だ。D級の自分達では、グレイウルフは倒せても、グレイトウルフ相手では時間稼ぎぐらいしか出来ないからだ。



「お前ら、俺が合図したらエバンスさん連れて逃げろ」


「はぁ!?」


「………リーダー悪いけど言うこと聞く気はないよ。死ぬ時は一緒さ」


「っ! 私だって!」


「てめぇら………」



ラインは少々嬉しく思いながらも、なんとか二人は逃がしたいと思っていた。パーティーを組んで五年になる。酸いも甘いも一緒に味わってきた仲間を、ここで死なせたくはなかった。だが、最早ライン一人の力ではどうにもできない。



(ここまでか……)



ラインが諦めかけたその時。



「キャインっ!?」



森の中からグレイウルフの悲鳴が聞こえたと思ったら、前足や後ろ足がおかしな方向に曲がったグレイウルフや、首や胴体が不自然に折れて絶命したグレイウルフ等が飛んできた。


仲間の無残な姿を見て、グレイウルフ達は戸惑いを見せていると、森の中から誰かが出てきた。



「なんだ?」



死んでいるのか、ピクリとも動かないグレイウルフを右手にぶら下げた、上等な布で出来ている服を着た、黒い髪に黒い目をした男が現れた。


鋭い目をしたその男は、手に持っていたグレイウルフを適当に投げると、辺りを見回して、冒険者の男の死体を視界におさめると、顔を歪めて「一人、間に合わなかったか」と、小さく呟いた。



「グルァァァァァ!!」


「危ない!」



突然現れた男に戸惑っていたグレイウルフ達。しかし、リーダーであるグレイトウルフは、いつの間にか背後に回っており、無防備な男の背中へと飛びかかった。


ラインは危険を知らせようと叫ぶが、時既に遅く、グレイトウルフは男の頭を噛み砕こうとして━━━



「あぶね」


「っ!?」



紙一重で避けた男に地面に叩きつけられ、さらに前足と後ろ足を封じられ、首を左脇で締め付けられた。


あまりの早業に、ライン達もグレイトウルフも何が起きたのか理解出来なかった。



「爪と牙を封じられちゃ、ただの犬以下だな」


「っ!?」



抵抗しようともがこうとしたグレイトウルフだったが、男は素早くグレイトウルフの向こう側に倒れこむようにして、グレイトウルフの首を曲がらない方向に曲げた。


ボキリという音がした後、グレイトウルフはビクンビクンと何度か痙攣して、その後は動かなくなった。



「うし。後は、子分どもだな」



手の骨をポキポキと鳴らしながら、男………レツは、グレイウルフの群れにゆっくり向かって行った。





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